●水資源としての表流水量を把握することの重要性
世界的に水資源への関心が高まっている。特に,開発途上国での人口増加に対処するための農地造成や灌漑面積の拡大,急増している都市人口に対するダム建設による水道水確保などで,水資源がひっ迫している。それに,気候変動による降水分布の変化が加わって,水資源への関心がより一層高まっているのである。
こうした状況下で,自国だけでなく,世界の水資源が現在どのような状態になっていて,最近どのような変化を示しているかを把握することは,開発途上国だけでなく先進国でも,さまざまな政策を立案する上で基盤情報となっている。
●地球表流水探査システム
インターネット関連の各種のサービスを提供しているグーグル社は,40年超にわたるランドサットによる衛星画像を蓄積し,例えば,森林破壊の検出,土地被覆および土地被覆変化の分類,森林バイオマスおよび炭素,世界の人跡未踏の地の地図作成など,過去および現在の地球の衛星画像データを分析するのに必要なツールと計算能力を,グーグル・アースで提供している。
EUの共同研究センター (Joint Research Centre) は,グーグル社と共同研究を行なって,グーグル・アースの300万超の衛星画像(1,823テラバイトのデータ)と地図ならびにその解析ツールに加えて,衛星画像のピクセル (30×30 m)ごとに表流水の有無を抽出し,表流水面積を計算するとともに,1984年から2015年の間に当該ピクセルの毎月と毎年の表流水の存在面積を計算してグラフ化するソフトを作成した。これを「地球表流水探査システム」Global Surface Water Explorer と称して,一般に公開した。
地球表流水探査システムには,誰でも自由にアクセスできる。アクセスすると,地名が日本語で記入された世界地図が現れる。地図を拡大・縮小しながら,地域を選択する。例えば,カザフスタンとウズベキスタン両国にまたがるアラル海をチェックしてみる。すると,図1のような,濃い青色と薄い青色の画像が現われる。濃い青は常時表流水部分,薄い青は一時的表流水部分である。
ご存知の方も多いと思うが,アラル海は,大規模灌漑による農業開発による「20世紀最悪の環境破壊」ともいわれる地帯である。かつてソビエト連邦時代,砂漠地帯にワタなどの作物を栽培するために,アラル海の水を灌漑に多量に使用したのである。図1から,アラル海の常時表流水が存在する濃い青い部分が,大きく縮小してしまったことがわかる。
場所によって異なるが,図1のアラル海の薄い青い部分を右クリックすると,例えば,図2のような「水履歴」のグラフが表示される。これは1984年から2015年までの毎年の表流水の存在履歴を示している。1年を通して表流水が存在する場合は,濃い青の「常時水(Permanent Water)」のバーで示されるが,図2では1984年から2001年までこの場所の表流水は薄い紫色の「季節水(Seasonal Water)」であることを示している。このグラフのある年次の棒をクリックすると,その年の何月に表流水が存在したかのバーが示される。濃い青の常時表流水のバーであれば,12か月間表流水が存在したことを示される。そして,図2は2002年から水が全くない「表流水なし(No Water)」となったことを意味している。
地球全体で見ると,ほかに次の変化が注目される。
1980年代初期(*)に較べて2015年には,常時表流水の面積が世界全体で52,070 km2増加したが,2015年の常時表流水面積が70%超減少した国は,カザフスタン,ウズベキスタン,イラン,アフガニスタンおよびイラクに集中している。また,オーストラリアでは2001から2009年に生じた「ミレニアム干ばつ」のために,2015年の常時水面の面積が1980年代初期に較べて,771 km2減少した。また,アメリカでは全体では常時表流水面積が増加しているものの,干ばつと引き続いた水需要の増加によって,アリゾナ,カリフォルニア,アイダホ,ネバダ,オレゴンおよびユタの各州を合わせて,表流水の33%が消失した。
*ランドサットデータが,1980年代初期には場所によって不揃いであった。そのせいで一律に同じ年次にできないため,「1980年初期」と表現されている。
この地球表流水探査システムの詳細と,それを使った世界各国の表流水面積の解析結果は下記に詳述されている。
なお,このシステムでは解像度の制約から30 m未満の表流水は把握できない。また,水田は湛水されていても,田面水はイネがまだ小さい時期までしか検出されないので,水田と認識できず,特に小面積の水田は把握されていない可能性が高いなどの問題がある。