No.006-2 1980年代以降の日本における食料供給システムにおける窒素の収支

食料・飼料の輸入量が増加する一方,国内の食料生産が低下して,食料の自給率が熱量ベースで40%に落ち込んでいる。これにともなって消費された食料・飼料から排出された養分が国土に蓄積している。この点を農業環境技術研究所が1960年と1982年を比較した後,5年ごとに各種統計を駆使して計算している。このたび1997年のデータを含めて,1982から5年ごとの窒素収支の一覧図が公表された。

織田健次郎(2004)わが国における1980年代以降の窒素収支の変遷.農環研ニュース.64:4-5

図から次の点が注目される。
(1)1982年と1997年を比較すると,輸入食飼料中の窒素量は,84.7万tから121.2万tに増加した一方,国内生産の食飼料中の窒素は63.3万tから51.0万tに減少した。国内生産の食飼料には水産物が含まれているので,農林産物に限定すると,減少率はさらに大きいと考えられる。
(2)食飼料は人間や家畜に消費されて環境に放出されるが,人間(食生活)から排出された窒素量は1992年をピークに若干減少したものの,1997年には64.3万tに達した。このうち,生ゴミで4.2万t,残りがシンクやトイレなどから排出されたと推定された。
(3)畜産業から排出された窒素量も1992年をピークに若干減少したが,1997年で80.2万tに達した。このうち,ふん尿として排出されたのが73.0万t,残りが屠畜廃棄物などと推定された。
(4)加工業からの廃棄物が1982年の13.0万tが過去最大の1997年に15.4万tに増加した。
(5)その他からの廃棄物を含め,環境(農地を含む)に排出された窒素の総量は,1992年をピークに若干減少したものの,1997年には167.5万tに達した。
(6)この他に,1997年で化学肥料窒素49.4万tと作物残さ20.9万tが環境(農地を含む)に追加された。
(7)こうした窒素収支は水質の悪化や耕地への養分集積の背景を物語っている。
(8)1997年の耕地面積は494.9万haであったので,化学肥料窒素や作物残さに全ての廃棄物窒素を加算した合計237.8万tの窒素が耕地に均一に還元されたとすると,ha当たり480kgの窒素投入となる。これは作物生産にとって明らかに過剰であり,循環型社会形成といって,廃棄物を堆肥にして農地に還元する仕方では事態を解決できない。
(9)環境保全の観点からも,食料自給率の向上,環境保全型農業や食生活を含めたライフサイクルの転換などが大切なことを図は示している。