2006年9月に欧州委員会によって「土壌保護枠組指令案」(「土壌保護戦略指令案」)が提案され(環境保全型農業レポート.No.60 EUが「土壌保護戦略指令案」を提案),各国で事前検討された後,2007年12月の欧州委員会環境総局に置かれた「環境諮問委員会」(Environment Council)に諮ったところ,一部の国から,土壌は加盟国が対処すべきもので,EUレベルでの統一行動は必要ないとか,法律施行にともなう経費負担が大きすぎるとして,強く反対されて,合意を得るに至らなかった(環境保全型農業レポート.No.97 EUで土壌保護戦略指令案が合意に至らず)。
欧州委員会は前進を図るために,「土壌保護枠組指令案」を2010年3月15日の「環境諮問委員会」に再度諮ったが,前回同様,合意を得ることはできなかった。反対意見は,土壌は個々の加盟国で対応可能であり,EUは加盟国だけでは対応できない問題に乗り出すべきであり,事務管理経費も大きく,費用対効果も低い,と従来からの意見をくり返しであった。本音は,土壌汚染の少ない国が,多い国の汚染対策に予算を供出する必要はないということであろう。多くの加盟国からは,新しいアプローチによってEUレベルでの土壌保護問題の議論を前進させるべきであるとの意見が出された(Council of the European union Press Release, Environment. 15 March 2010 )。反対しているのは,ドイツ,イギリス,フランス,オランダ,オーストリア,マルタである(EWA Newsletter No.15, 2010 )。
EUは,ギリシャの財政破綻やハンガリーなどのその危険性の高まりによって,EU経済が厳しくなっている。今回も合意が得られなかったのは、おそらく,そうした時期に, 加盟国の土壌保護や修復にEUが資金提供をするような新たな拠出金を増加させる法律を成立させるべきではない,土壌保護は加盟国が個別に対応すれば良い,土壌は国境を越えて移動するものではない・・・こうした考えで,拠出金の多いドイツ,イギリス,フランスなどが反対しているのが主因と想像される。