No.134 日本の輸入食品監視統計の概要

●日本の輸入食品の監視態勢

 港湾や空港に所在する検疫所(厚生労働省医薬食品局に所属)が,販売目的で日本に輸入しようとする食品の検査を行なっている。輸入しようとする者は所定書類(輸入届出書)を検疫所に提出する。まず食品衛生監視員が,(1)食品衛生法に規定される製造基準に適合しているか,(2)添加物の使用基準は適切であるか,(3)有毒有害物質が含まれていないか,(4)過去衛生上の問題があった製造者・所であるかを中心に書類審査を行なう(表1参照)。

 輸入農産食品と農産加工食品の検査についてもう少し詳しく述べると,次のような項目が検査対象となる。

 ▼抗生物質等(抗生物質,合成抗菌剤,ホルモン剤,飼料添加物等)

 ▼残留農薬(有機リン系,有機塩素系,カーバメイト系,ピレスロイド系等)

 ▼添加物(ソルビン酸,安息香酸,二酸化硫黄,着色料,ポリソルベート,サイクラミン酸,防黴剤等)

 ▼成分規格等(成分規格で定められている項目,細菌数,大腸菌群,腸炎ビブリオ等)
 ▼病原微生物(腸管出血性大腸菌O157,リステリア菌等)

 ▼貝毒(下痢性貝毒,麻痺性貝毒)

 ▼割り箸の防黴剤等

 ▼カビ毒(アフラトキシン,デオキシニバレノール,パツリン等)

 ▼遺伝子組換え食品(安全性未審査遺伝子組換え食品等)

 ▼放射線の使用
 
 書類審査によって検査(分析)が必要と判断されたものについては,検査を実施する。その際,過去に食品衛生法違反が多かった貨物や,輸入フグなどの違反の可能性の高い食品については,厚生労働大臣の命(検査命令制度)によって,輸入者自らが費用を負担し検査を実施し,適法と判断されるまで輸入手続きを進めることができない。その他の違反の可能性が通常と考えられるものは,検疫所がモニタリング検査を実施する。いずれの場合も,検査結果をもとに食品衛生法に適合しているか否かを確認する。

 厚生労働省は「輸入食品監視業務ホームページ」を開設し,検疫所の行なった食品輸入届出検査の結果などを提供している。そのなかの厚生労働省医薬食品局食品安全部「平成20年度輸入食品監視統計」(2009年8月) の概要を紹介する。

 なお,食品衛生法は,食品だけでなく,食品を製造・陳列などに使用する器具や食品の流通に使用する包装物,さらに乳幼児用のおもちゃなども対象にしていることを念頭に置いていただきたい。このため,以下の検疫所の統計値は,食品以外にもこれらを含んだ数値となっている。しかし,器具,包装容器や乳幼児用おもちゃは,違反の4.2%と全体のわずかで(表1),全体の統計値を食品だけの近似値と見なすことも可能である。

●輸入量と違反件数の多い品目群

 食料需給表によると,2008年度の日本の食料自給率は,供給エネルギーベースで41%,金額(生産額)ベースで65%にすぎないため,大量の食料を外国から輸入している。

 重量ベースで輸入量が最も多かった品目群は,小麦,うるち米(ミニマムアクセス),飼料用のトウモロコシや大麦,大豆や油糧用種子,野菜,果実など,未加工の農産物であった(表2)。そして,輸入重量全体の約20%を検査したが,違反件数の割合が最も高かったのも農産食品で,約37%を占めた。主な違反は,表1に略記してあるように,落花生,ハトムギ,とうもろこし,とうがらし,カカオ豆,ごまの種子,アーモンド等のアフラトキシンの付着,米,小麦等の輸送時における事故による腐敗・変敗・カビの発生,野菜の成分規格違反(農薬の残留基準違反)などであった。

 二番目に輸入重量が多かったのは,穀類,豆類,野菜,果実などの調整品や加工品,茶,デンプンなどの農産加工食品で,輸入重量全体の約10%を占めた。主な違反は,調整・加工食品の成分規格不適合(微生物汚染,農薬の残留基準違反),指定外添加物検出,アフラトキシン陽性などであった。

 三番目に輸入重量が多かったのは,その98%が生鮮肉類(内臓を含む)からなる畜産食品で,輸入量全体の約6%を占めた。この品目群の違反は0.7%と少なかった。ただし,BSEの危険から日本が20か月未満の牛に由来し,危険部位を混入していない牛肉に限定して輸入を認めているが,これに対する違反などがこの品目群での違反となっている。

 輸入重量は3.6%に過ぎないが,違反件数が三番目で19.2%を占めたのが,水産加工品(魚介類の肉・卵や海藻などの加工品)であった。主な違反は,有毒魚類の混入,下痢性・麻痺性貝毒の検出,シアン化合物の検出,成分規格違反(微生物汚染,動物用医薬品の残留基準違反),添加物の使用基準不適合(亜硝酸塩,二酸化硫黄など)となっている。

●輸入食品量の多い上位5か国

 (1)アメリカ

 表3に示すように,日本が重量で最も多くの食品を輸入している国はアメリカで,2008年に日本が輸入した食品全体の40%をアメリカから輸入している。そして,違反となった重量も最も多く,2008年における違反食品の総重量59,468トン(表2)の75%をアメリカが占めている。このアメリカの違反の97%はトウモロコシであり,そのほとんどがアフラトキシン汚染である。なお,表2で違反件数では農産食品が全体の37%を占めていたが,重量では95%であった。この大部分はアフラトキシン汚染のトウモロコシであり,検疫がアフラトキシン汚染トウモロコシの輸入のバリアーになっていることが理解できよう。

 (2)カナダ

 2008年度に輸入食品重量が二番目に多かった国はカナダである。カナダからの輸入量が最も多い食品は油糧用種子で,その大部分はナタネである。

 横道にそれるが,カナダのナタネについて少しコメントしておく。カナダのナタネは人体や家畜に有害な成分を含まないが,除草剤耐性の遺伝子組換え体である。種子から絞った油には遺伝子組換え遺伝子が混入するわけではなく,良質な食用油を生産することができる(カノーラ油)。しかし,輸入ナタネ種子が搬送途中でこぼれて道ばたなどで育ち,在来ナタネと交雑する危険性が以前から指摘されていた。そして,交雑ナタネが三重県松阪市の河川敷から採取した個体のなかに存在することが確認された(朝日新聞:2009年8月17日)。花粉の飛散によって交雑が生じて,野生のアブラナ科植物に除草剤耐性遺伝子が拡散すると,やがて広汎な雑草にも除草剤耐性遺伝子が拡散する危険がある。そうなると,除草のために除草剤を散布しても,その効き目が悪くなり,除草剤の使用量が増えたりすると,様々な環境影響が起きることが懸念される。

 (3)中国

 最近では食品輸入量が二番目に多いのは中国だが,2006年と2007年に残留農薬に汚染された野菜,メラミン混入ペットフード,動物医薬品の残留したウナギなど,中国産食品の安全性問題が起きた。このため,2007年度には約430万トンあった食品輸入量が2008年度には356万トンに減少し,中国は三番目の国になった。違反の内容は後述する。

 (4)オーストラリア

 食品輸入量が四番目に多いのはオーストラリアで,うどん用小麦や牛肉などの輸入量が多いが,違反が少ない点で際立っている。

 (5)タイ

 食品輸入量が五番目に多いのはタイだが,うるち米が輸入量と違反重量で一位となっている。これはミニマムアクセスのために輸入した米だが,籾殻のまま輸入せずに,玄米にして輸入したために,アフラトキシン産生のカビが繁殖するなどの違反が生じたと理解される。

●中国から輸入した食品

 貿易統計によると,2007年度に6兆408億1800万円の食料を輸入し,そのうち中国からは9213億300万円を輸入している。そして,食料需給表によると,2007年度において国内の食料供給量に占める輸入食料の割合は金額ベースで34%となる。つまり,金額ベースで輸入食料の15.3%を中国から輸入していて,中国からの輸入食料は国内食料供給量の5.2%を占めていることになる。他方,アメリカの国内食料供給量に占める中国からの輸入食料の割合はわずか0.4%だけなので,日本は金額ベースと国内食料供給量に占める割合のいずれでも,アメリカよりも多くの食料を中国から輸入している。

 ではどのような品目を中国から輸入しているのか。輸入食品監視統計は,国別にどのような品目を輸入しているかを整理した形で提供していなく,品目ごとに輸入重量の多い上位5か国からの輸入重量や違反重量などを提供している。そこで,2008年度について,輸入重量の多い上位5か国に中国が記されていて,かつ,違反のあった品目だけを集めたリストを作成した。したがって,上位5か国に中国が入っていない品目は分からず,対象外になっている点に留意する必要がある。

 こうした留意の上で,違反重量の多かった関連品目をまとめた品目グループでみると(表4),野菜類(せり科野菜,ゆり科野菜,その他の野菜)389トン,野菜の加工食品(乾燥野菜,野菜の漬け物,冷凍食品,容器包装詰加圧加熱殺菌食品)246トン,落花生とその加工製品227トン,加熱食肉製品(包装後加熱と加熱後包装)210トン,魚の加工食品(切り身・むき身の鮮魚類,魚の冷凍食品)79トン,貝の加工食品(切り身・むき身の鮮貝類,調理加工貝類,冷凍食品,容器包装詰加圧加熱殺菌食品)152トン,水産動物(エビ,カニ等)加工食品(切り身・むき身の鮮水産動物類,調理加工水産動物類,冷凍食品)159トンなどであった。

 中国からの輸入食品の違反理由は個々に記述されていない。全体としての違反理由は,上述の「輸入量と違反件数の多い品目群」を参照いただきたい。