●見直しに至った経緯
「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」は前回2003年5月に改正されたが,有機農産物JAS規格の生産基準との整合性や,消費者に環境に配慮した技術体系により栽培された農産物である旨の情報提供を行う観点などから,農林水産省はガイドラインの部分改正案を作成し,2006年12月4日に2007年1月3日までパブリックコメントで意見を公募した。
●主要改正点
1.JAS有機農産物生産基準で認められた農薬と特定農薬は節減対象農薬から除外する
今回の改正案では,農薬取締法に規定された農薬から,天敵と特定農薬(農薬取締法に基づいて,原材料に照らし農作物等,人畜および水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかなものとして農林水産大臣と環境大臣が指定する農薬)を除外したものを農薬と定義し直す。そして,農薬のうち,JAS有機農産物生産基準で使用の認められている農薬(除虫菊乳剤,ピレトリン乳剤,なたね油乳剤,マシン油乳剤,硫黄粉剤,銅粉剤などや,天敵等生物農薬,生物農薬製剤,性フェロモン剤など)と特定農薬については,使用回数を5割以下に節減する対象の農薬から除外する。
これにともなって,農薬を使用していない特別栽培農産物の表示には2つのケースが存在することになる。一つは「農薬:栽培期間中不使用」で,天敵と特定農薬を除く農薬取締法の対象とする農薬を栽培期間中に一切使用していない特別栽培農産物。もう一つは「節減対象化学合成農薬:栽培期間中不使用」で,JAS有機農産物生産基準で認められた農薬であっても,農薬取締法の対象とする農薬を使用した特別栽培農産物。
ただし,栽培期間中に節減対象でない農薬を使用している場合であっても,当該農薬の使用記録を保管することは義務づけられるが,当該農薬を使用した旨の表示は任意とする。また,節減対象の農薬(化学合成農薬)を使用した場合には,「節減対象化学合成農薬:当地比○割減」または「節減対象化学合成農薬:○○地域比○割減」と表示し,使用した節減対象の化学合成農薬の名称,用途,使用回数を記載する。
2.化学肥料は窒素肥料に限定していることを一層明確にする
化学肥料は窒素肥料に限定していることを一層明確にするために,化学肥料を「肥料のうち,窒素成分が化学合成されたものをいう」と定義し直す。そして,化学肥料を使用していない特別栽培農産物には,「化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用」と記載する。また,化学合成窒素肥料を使用した場合には,「化学肥料(窒素成分):当地比○割減」または「化学肥料(窒素成分):○○地域比○割減」と記載し,現在記載を義務づけている使用化学肥料の名称,用途,窒素成分量の記載を不要とする。
3.コメはコメ全般を対象とする
現在のガイドラインでは,コメは搗精米だけを対象にしているが,玄米やブレンド米などコメ全般を対象にする。ただし,精米責任者や精米確認者は特別栽培米が他の米と混入されないようにしっかり確認することを要求する。
●今回の改正の範囲
今回の改正の主要点は,有機農産物JAS規格の生産基準や特定農薬との整合性を図った点と,コメを精米に限定せずにコメ全般に拡大した点にあり,窒素肥料については単に用語の修正だけである。
農林水産省は今回の改正のポイントとして,消費者に環境に配慮した技術体系により栽培された農産物である旨の情報提供を行うことも上げているが,この点は相変わらず曖昧のままである。特に,窒素肥料とリン酸肥料は問題で,仮に窒素肥料を節減しても有機質肥料や堆肥を過剰施用すれば,過剰な窒素が硝酸性窒素として環境に流出するし,リン酸についても過剰に蓄積した耕地土壌が増えていて,その過剰なリン酸が豪雨の際に土壌ごと耕地から水系に流出して,湖沼や河口などの富栄養化を起こしたりしている。これらの点についても歯止めをかけることが,環境に配慮した技術体系により栽培された特別栽培農産物を担保するのに必要である。そのためには,窒素に限らずリン酸も対象にして,化学肥料と有機質資材(有機質肥料と堆肥)を合わせた養分投入量を適正化する仕組みが必要である。しかし,この点についての取組の姿勢は今回も全くうかがえない。