No.32 JAS規格が一部改正

 2005年10月27日に「有機飼料の日本農林規格」と「有機畜産物の日本農林規格」が告示され,同年11月26日施行された(「環境保全型農業レポート」No.29。これと同時に,2000年1月に制定された「有機農産物の日本農林規格」「有機加工食品の日本農林規格」の改正も2005年10月27日に告示され,同年11月26日施行された。

●改正の概要

 今回の改正は,次の点を中心に行われたもので,大きな変更ではない。

  1. 「有機飼料の日本農林規格」で扱われている「牧草」に関する記載を整理したこと。
  2. 「有機農産物の日本農林規格」および「有機加工食品の日本農林規格」の第4条「生産の方法についての基準」について,解釈に混乱が生じないように整理したこと。
  3. 別表に掲げられている資材について,コーデックスガイドラインとの適合を図りつつ整理したこと。

●「有機農産物の日本農林規格」の主要改正点

(1)第3条 定義に追加

 (「  」内が規格に記載されている条文)

  1. 「有機農産物:次条の基準に従い生産された農産物(飲食料品に限る。をいう。」
    有機飼料の規格が作られたので,農産物のうち食用に供されるものの規格であることを明確にした。牧草等飼料作物は有機飼料の規格で扱われる。
  2. 「使用禁止資材:肥料及び土壌改良資材(別表1に掲げるものを除く。),農薬(別表2に掲げるものを除く。)及び土壌又は植物に施されるその他の資材(天然物質又は化学的処理を行っていない天然物質に由来するものを除く。)をいう。」
     化学物質は,肥料,土壌改良資材及び農薬以外の資材も不可であることを明確化するために,その他の資材も使用禁止資材に含めて規定した。

(2)第4条 生産方法の基準を改正

 (「  」内が規格に書かれている内容)

  1. 「一般管理:土壌又は植物に使用禁止資材を施さないこと。」
     有機農産物である以上,当然,肥料,土壌改良資材及び農薬以外の資材についても化学物質の投入はできないことを明確化するため,「一般管理」の項を新設した。
  2. 「ほ場における肥培管理:ただし,当該ほ場又はその周辺に生息又は生育する生物の機能を活用した方法のみによっては土壌の性質に由来する農地の生産力の維持増進を図ることができない場合にあっては,別表1の肥料及び土壌改良資材(製造工程において化学的に合成された物質が添加されていないものに限る。以下同じ。)に限り使用することができる。」
     これまで「別表1」の使用可能な肥料および土壌改良材に,多数の有機質肥料をリストアップし,「化学的に合成された物質を添加していないものであること」との基準が記載されていたが,第4条に「製造工程において化学的に合成された物質が添加されていないものに限る」と記載して,該当する有機質肥料を別表1から削除し,別表1を簡潔にするとともに追加もした。
  3. 「ほ場には種する種子又は植え付ける苗等:1の種子又は苗等の入手が困難な場合は,使用禁止資材を使用することなく生産されたものを,これらの種子又は苗等の入手が困難な場合は,種子繁殖する品種にあっては種子,栄養繁殖する品種にあっては入手可能な最も若齢な苗等を使用することができる(は種され,又は植え付けられた作期において食用新芽の生産を目的とする場合を除く。)。」
     これまでは,「ただし,通常の方法によってはその入手が困難な場合にはこの限りではない」として,どのような種苗も使えるかのような記載になっていたが,コーデックスガイドラインにしたがって代替方法を規定した。
  4. 「ほ場における有害動植物の防除: ただし,農産物に重大な損害が生ずる危険が急迫している場合であって,耕種的防除,物理的防除,生物的防除又はこれらを適切に組み合わせた方法のみによってはほ場における有害動植物を効果的に防除することができない場合にあっては,別表2の農薬(組換えDNA技術を用いて製造されたものを除く。以下同じ。)に限り使用することができる。」
     別表2に掲げる農薬について,組換えDNA技術の排除を明確化した。また,別表2の整理・追加も行った。

●「有機加工食品の日本農林規格」の主要改正点

(1)有機加工食品の分類を変更

  1. 有機加工食品:次条の基準に従い生産された加工食品であって,原材料(食塩,水及び加工助剤を除く。)の重量に占める農産物(有機農産物を除く。),畜産物(有機畜産物を除く。),水産物及びこれらの加工品の重量の割合が5%以下であるものをいう。
  2. 有機農産物加工食品:有機加工食品のうち,原材料(食塩,水及び加工助剤を除く。)の重量に占める農産物(有機農産物を除く。),畜産物,水産物及びこれらの加工品の重量の割合が5%以下であるものをいう。
  3. 有機畜産物加工食品:有機加工食品のうち,原材料(食塩,水及び加工助剤を除く。)の重量に占める農産物,畜産物(有機畜産物を除く。),水産物及びこれらの加工品の重量の割合が5%以下であるものをいう。
  4. 有機農畜産物加工食品:有機加工食品のうち,有機農産物加工食品及び有機畜産物加工食品以外のものをいう。

 上記の文章は難解で4つ概念を区別するのが難しい。まず,今回の改正で「原材料(食塩,水及び加工助剤を除く。)」の部分に加工助剤が追加された。そして,原材料となる有機の食材には有機農産物と有機畜産物しかなく,水産物に有機の名称を用いることができないが,放射線照射が行われてなく,組換えDNA技術を用いて生産されたものでない水産物を有機加工食品に混合することはできることを認識しておくことが必要である。その上で,上記の概念は次のように解釈できる。

  1. 有機加工食品:原材料に占める非有機食材が重量割合で5%以下の加工食品で,有機加工食品の総称。
  2. 有機農産物加工食品:有機加工食品のうち,有機農産物が重量割合で原材料の95%を超える食品。
  3. 有機畜産物加工食品:有機加工食品のうち,有機畜産物が重量割合で原材料の95%を超える食品。
  4. 有機農畜産物加工食品:有機加工食品のうち,有機農産物と有機畜産物が重量割合で原材料の95%を超える食品。

(2)有害動植物の防除に使用できる薬剤や食品添加物変更

 これまでは,製造,加工,包装,保管等の工程で有害動植物の防除に使用できるリストとして「別表2」というものがあったが,それらをすべて削除し,製造段階で使用できる資材をコーデックスガイドラインに準拠してリストアップした。また,食品添加物として使用できる資材をリストアップした「別表1」も一部追加・削除した。

●改正原案との比較

 今回の改正は,2004年12月の農林物資規格調査会部会(有機農産物等)での議論を経て行われている。そこに提出された農林水産省の作成した改正原案と比較すると,採択されなかった原案に気づく。

 「有機農産物の日本農林規格」の「収穫,輸送,選別,調製,洗浄,貯蔵,包装その他の収穫以後の工程に係る管理」の第4項に,「生産された農産物が農薬,洗浄剤,消毒剤その他の薬剤により汚染されないように管理されていること」とある。これに対して,農薬は汚染物質ではないため,「…により汚染されないように管理されていること」の代わりに「…と接触しないこと」と修正する原案が提案された。有機農業は農薬等の化学物質を汚染物質そのものとみており,農林水産省が農薬等は農業に必要な資材で適切に使用すれば安全な物質であるから汚染でないとしても,受け入れられるはずがない。この部分の原案は否定されたが,有機農業に対する農林水産省の姿勢が衣の下に見えた感じである。