水生生物保全の観点からの排水規制答申
高濃度の亜鉛は生物に有害であり,EUは土壌中の亜鉛濃度や水中の亜鉛濃度の上限値を法律で定めている。我が国では,水道水法によって水道水の亜鉛濃度は1 mg/L以下と定められている。この濃度は亜鉛が多いと湯が白濁し,お茶の味を損なうために設定された。そして,法的拘束力はないが,農業用水基準では亜鉛による水稲被害を防止する観点から0.5 mg/L以下となっている。しかし,我が国の環境中の亜鉛濃度の規制は遅れている。
環境省は,水生生物保全の観点から,2003年に公共用水域(河川,湖沼,海域)の亜鉛濃度の水質環境基準を設定した。それによると,河川と湖沼では全亜鉛が0.03 mg/L以下,水生生物の生息する海域では0.02 mg/L以下とし,産卵場(繁殖場)または幼稚仔の生育場として特に保全が必要な水域では0.01 mg/L以下とされている。
この水質基準の設定を受けて,中央環境審議会水環境部会は,水生生物の保全の観点からの排水規制のあり方を検討してきた。2006年4月25日に報告がまとまり,中央環境審議会会長から環境大臣に対して「水生生物の保全に係る排水規制等の在り方について」が答申された。これに基づいて,環境省は1日当たりの平均的な排出水の量が 50 m3以上の特定事業場については,現行の5 mg/Lを2 mg/Lに引き下げる案(ただし,鉱山関連,メッキ・表面処理関連,無機化学関連企業については5年間に限って5 mg/Lの暫定排水基準を認める)をパブリックコメントにかけた。
農業でも亜鉛は,農薬,飼料添加物などとして使用されている。これらが水系に流出して汚染する心配はほとんどないが,亜鉛の環境規制が強化されると,土壌中の亜鉛濃度もEUのように規制されることが予想される。因みにEUは,亜鉛の上限値を,農地土壌で150〜300 mg/kg乾土,農業用汚泥中で2,500〜4,000 mg/kg乾土,農地に施用可能な汚泥中の量を年間30 kg/haと定めている(加盟国が規定された範囲内で設定する)。日本では飼料への過剰な亜鉛施用によって,家畜ふん堆肥施用土壌において亜鉛の集積が起きているケースが多い。規制がかけられてから減らすのではなく,今から削減の努力を始めるべきであろう。