No.002-1 一歩進んだ北海道の「北のクリーン農産物」施肥基準

●施肥ガイドラインの落とし穴

都道府県が農家指導のガイドラインとして施肥基準を作成している。通常の施肥基準は,堆肥施用量の少ない現状を踏まえ,地力維持に最低必要な堆肥施用を前提に,初作の作物が目標収量を上げるのに必要な化学肥料の施用量を記載している。土壌を長期的に適正管理するには,土壌分析を行って,土壌の天然養分供給量や残存養分量を勘案して施肥量を調整することが必要だ。また,堆肥等の有機物を増やす場合に化学肥料の量を減らすことが必要である。土壌診断が普及し始めたが,土壌診断せずに,毎回施肥基準に示された量を施肥して,土壌養分が過剰になり,環境汚染を起こしているケースが少なくない。
こうした問題を防止する点で,通常の施肥基準はまだ十分対応できていない。特別栽培農産物やエコファーマーの国の規定もこれらの問題への対応を義務化していない。このため,特別栽培やエコファーマーでも有機物の過剰施用で類似の問題が起きかねない。

●一歩進んだ北海道の施肥基準

北海道は,国の規定で求められていないが,生産の持続性や農産物と環境の安全性を確保するために,独自に「北のクリーン農産物表示要領」(2003 年 9 月改正)の中で,「肥料及び化学肥料の使用基準」を定めている(要領や基準は?http://www.marugoto.pref.hokkaido.jp/yesclean/index.html?から入手できる)。それが一歩進んでいるのは下記の点である。

 

1) 1〜3年ごとに土壌分析を行って,土壌の窒素肥沃度水準を求めることを義務化し,作物によって3〜5段階に分けた土壌窒素肥沃度水準ごとに施肥量を設定した。

2) 作物の種類ごとに土壌窒素肥沃度水準別の総窒素施用量の上限値を定め,化学肥料と堆肥等有機物の施用量を調整できるようにした。すなわち,有機物の種類ごとに重量当たりの化学肥料相当の窒素換算量を設定し(使用基準の「参考1」),有機物施用量を増やした場合の化学肥料窒素の削減量を計算できるようにした。

3) 土壌の健全性を確保するために,堆肥など有機物を施用することを義務化し,有機物の施用量下限値を設定し,その化学肥料相当窒素換算量と総窒素施用量上限値の差を化学肥料施用量上限値として設定した。そして,堆肥の過剰施用は環境汚染や土壌養分の不均衡をもたらすため,堆肥施用量上限値も設定した。

各県で施肥基準は出されているが,北海道のように土壌分析を義務化し,作物ごと・土壌窒素肥沃度水準ごとに窒素施用量の上限値を定めて有機物の窒素換算量を設定したこと,さらには,堆肥の過剰施用にも配慮して堆肥施用量の上限値をも設定しているなど,環境に配慮した「北のクリーン農産物」の施肥基準は他県に一歩先んじたものとなっている。

●窒素以外についても基準がほしい

しかし,まだまだ課題は残されている。ただし,「北のクリーン農産物」の「肥料及び化学肥料の使用基準」は窒素で規定され,リン酸やカリの規定を設けていないからである。これは特別栽培農産物が窒素施用量を規定しているのに呼応しており,消費者・実需者に分かりやすくするためである。生産者のためには,リン酸やカリを含めた 242 ページに及ぶ「北海道施肥ガイド」( http://www.agri.pref.hokkaido.jp/nouseibu/sehi_guide/index.html?から入手可能)が作られており,それを簡略化したのが「肥料及び化学肥料の使用基準」となっている。 また,堆肥やわらを連用した場合,連用にともなって化学肥料施用量を減らす必要があるが,この点は「北海道施肥ガイド」に記載されている。例えば,水稲では, 1 t/10a の稲わら堆肥と家畜ふん堆肥や 0.4 〜 0.6 t/10a の稲わらの連用年数に応じた化学肥料の窒素とカリの標準的な減肥量が示してある。しかし,実際に重要な連用にともなう化学肥料窒素の削減は「使用基準」には書かれていない。 「北のクリーン農産物」の生産者が「施肥ガイド」をどこまで踏まえるかは,要領では不明確である。また,土壌の持続的管理は窒素だけでは無理であり,クリーン農産物の基準として,土壌の窒素肥沃度以外の項目についても土壌診断を義務化することが望まれる。