No.002-2 愛知県が「食と緑が支える県民の豊かな暮らしづくり条例」施行

愛知県は「食と緑が支える県民の豊かな暮らしづくり条例」を 2004 年4月に施行した(条文と関係資料は http://www.pref.aichi.jp/nourin/nousuibu/jyourei/index.htm から入手可能)。

国の大地が国土なら,県の大地は県土である。県土の生活環境は森林や農地の多面的機能によって守られ,その中で農林水産物が生産されて,県民の生活を支えている。愛知県が施行したこの条例は,都市と農山漁村の調和した発展を図り,食と緑の支える県民の豊かな暮らしづくりを,県,消費者と生産者の協力の下に推進することを目的にしている点で,全国に先駆けたものと言えよう。

県は,食と緑の支える県民の豊かな暮らしづくりのための基本計画を次のように定めている。

(1) 都市と農山漁村との間の交流の促進,県民に対する食料等の生産活動・多面的機能・食料の消費・利用に関する情報・知識の提供・普及

(2) これらに関する県民の自発的な活動の支援

(3) 安全・良質な食料等の持続的な生産に必要な技術の開発 ・普及,生産者の経営管理能力の向上,食料等生産基盤の整備,新規就農者に対する技術や経営方法の習得などの生産者に対する支援

(4) 県内産食料等の県内外における消費及び利用の促進や流通体制の整備

(5) 林地,農地や漁場の保全と多面的機能に配慮した整備

(6) 農山漁村における就業機会の増大,生活環境の整備や定住の促進

などに必要な施策を講ずることとしている。15 名の委員からなる「食と緑の基本計画検討委員会」が, 2005 年2月を目標に基本計画を検討している。

ちなみに,愛知県は, 2002 年度における農業産出額が 3,392 億円(全国の 3.8% )で,全国5位の農業県である。特に市町村別の農業産出額では豊橋市が全国1位,渥美町が3位である。ただし,名古屋という巨大都市があって,人口が多く,県の食料自給率は熱量ベースでは 14% に過ぎないが,金額ベースでは 38% となっている。

●環境保全型農業の定義からみると

ところで,全国農業協同組合中央会に事務局を置く全国環境保全型農業推進会議は,その環境保全型農業推進憲章(http://www.maff.go.jp/soshiki/nousan/nousan/kanpo/hozen-kensyo.htm)において,環境保全型農業を『環境に対する負荷を極力小さくし,さらには,環境に対する農業の公益的機能を高めるなど,環境と調和した持続的農業』と定義している。この概念に照らすと,愛知県の条例は,多面的機能の発揮を重視しているものの,さらにもう一歩踏み込んだ具体的な環境負荷の軽減について強調が弱いのではないかとの印象を与える。

条例では,上記の具体的施策内容である, (2) 県民の自発的な活動と, (5) 林地,農地や漁場の保全において,「海及び川の水質浄化」を記しているが,農業が及ぼすであろう環境への負荷や環境汚染の軽減について明記していない。この問題は当然,条例を施行する前提になっているのかもしれないが,環境保全型農業を推進するためには,具体的に明らかにして欲しかったところである。

●農林水産業に対する独自の県民世論調査

最近,農業に対して,国内農業の維持・食料自給率の向上,環境汚染防止,多面的機能発揮による国土・自然の保全,食品の安全・安心といった問題で関心が高まっている。これらの問題は密接不可分で,同時に達成する努力が必要である。愛知県の食と緑の基本計画の具体化過程で,これらを結合させる具体的計画が立案されることが期待される。

なお,愛知県は 2003 年に本条例にかかわる問題について,「農林水産業の持つ役割と県民との関わり,県産材の利用」と題する世論調査を行っている。下記に世論調査結果 の一例を示すが,環境保全型農業の観点を加えて,『安全で,環境負荷の 少ない県産農林水産物なら,多少高くても購入する』といった設問も欲しかったところではある。

注:上の表は,「私たちが安心した生活を過ごすためには、安全な食料の安定的な供給と、農林水産業の多面的機能の十分な発揮が必要です。真に豊かで住みよい地域社会の実現に向け、本県農林水産業を持続的に発展させるためには、あなたは県民が何をすべきだと思いますか。(回答は1つ)」という設問に対する回答をまとめたもの(その他の回答は、 http://www.pref.aichi.jp/koho/15chosa/15-1/kaito1.htm を参照のこと)。