No.11 湖沼の水質保全はどうなる

湖沼水質保全特別措置法の改正案が国会提出!

農地からの流出対策などを強化

●総務省の湖沼の水環境の保全に関する政策評価

 環境保全型農業レポートNo.3(2004年9月1日号)に記したように,1984年の湖沼水質保全特別措置法の公布から20年を経過したにもかかわらず,霞ヶ浦や琵琶湖などの全国で10の指定湖沼の水質は一向に改善されていない。このため,総務省は湖沼の水環境の保全に関する政策評価を行い,その結果を2004年8月に公表した。そして,農地や市街地などの非特定汚染源からの負荷についてほとんど対策が講じられてこなかったことを指摘し,今後,非特定汚染源からの負荷に対する有効な対策を検討し,着実に実施することなどを勧告した。

●中央環境審議会の「湖沼環境保全制度」答申

 環境大臣は総務省のこうした指摘を受けて,2004年10月14日付けで中央環境審議会に今後の湖沼環境保全制度のあり方を諮問した。中央環境審議会は2005年1月28日に「湖沼環境保全制度の在り方について」を環境大臣に答申した。その中で,湖沼の水質保全を図るために,次の対策の強化が必要なことを答申した。

(1)非特定汚染源対策の推進

 市街地では雨水の地下浸透や貯留の促進,農地では水田の代かき時の水管理の改善や,都道府県で策定している施肥基準等に基づいた適正施肥の実施等による流出負荷の低減を進めていくことが重要である。そのために,対策を推進する地区を指定し,汚濁負荷削減を誘導する施策を重点的,集中的に実施することや,流域における汚濁負荷を調査・モニタリングして施策効果を把握する体制を構築することなどが必要である。

(2)自然浄化機能の活用の推進

 アシなどの水生植物は窒素や燐を吸収する等の浄化機能を持っており,その機能を湖沼の水質浄化に活用することが重要である。このため,湖辺の植生を保全する必要がある地区を指定し,植生(本来その場に生育していた種が原則)を適正に維持管理する計画を策定し,それを損なうおそれのある行為を制限する措置を講ずることが必要である。

注:ホテイアオイなどの外来種は対象外。

(3)特定汚染源対策の推進

 生活排水対策については,下水道等への接続率の一層の向上,単独処理浄化槽から窒素・燐除去型合併処理浄化槽への転換,浄化槽の適切な管理の徹底等や地域住民への普及啓発が重要。さらに,下水道等における窒素・燐の高度処理を進めることも重要である。

 工場・事業場対策については,既設の特定事業場に対しても,負荷量の管理を徹底することによって汚濁負荷の削減を進めるために,負荷量の規制を行っていくことが必要である。また,未規制の小規模な事業場に対しても,可能な対策を求めていくことが必要である。

注:水質汚濁防止法などによって排水規制を受けている特定事業場の業種別の数が最も多いのは旅館業で,次いで畜産農業(畜舎)が多い。2003年度に改善命令を受けた特定事業場は37で,このうち2件が畜産農業であった(平成15年度水質汚濁防止法等の施行状況)。

(4)総合的な計画づくり

 流域全体を視野に入れ,水循環,生態系も含む多角的視点から,住民の参加も得て,長期的視野で計画を策定し,評価,見直しを行う必要がある。

(5)湖沼の水環境の適切な評価

 水環境について,汚濁負荷を適切に把握するモニタリングと汚濁メカニズムの解明を進め,地域住民にも分かりやすい補助指標を設けることが必要である。

●湖沼水質保全特別措置法の一部を改正する法律案

 中央環境審議会の答申を踏まえて,湖沼水質保全特別措置法の改正案が作られ,2005年3月8日に閣議決定されて,同日第162回通常国会に提出された。その主要点は下記のとおりである。

http://www.env.go.jp/press/file_view.php3?serial=6467&hou_id=5765

http://www.env.go.jp/press/file_view.php3?serial=6464&hou_id=5765

(1)農地・市街地からの流出水対策が必要な地域を,新たに「流出水対策地区」に指定し,「流出水対策計画」を策定の上,対策措置を進める

 第25条 都道府県知事は,湖沼水質保全基本方針に基づき,指定湖沼の水質の保全を図るために流出水(水質汚濁防止法第二条第二項に規定する特定施設及び指定施設から排出される水並びに同条第八項に規定する生活排水以外の水であって,指定地域内の土地から指定湖沼に流入するものをいう。以下同じ。)の水質の改善に資する対策(以下「流出水対策」という。)の実施を推進する必要があると認める地区を,流出水対策地区として当該指定湖沼に係る指定地域内に指定することができる。

 流出水対策地域を都道府県知事が指定するときには,関係市町村長の意見を聴いた上で指定し,流出水対策推進計画を策定する。同推進計画では,1)流出水対策の実施の推進に関する方針,2)流出水の水質を改善するための具体的方策,3)流出水対策に係る啓発,4)その他の必要な措置に関することを定めることが規定されている。そして,「都道府県知事は,流出水対策推進計画を実施するために特に必要があると認めるときは,流出水対策地区内の土地であって,流出水の汚濁の原因となる物が著しく発生していると認められるものの所有者,管理者又は占有者に対し,流出水対策を実施するよう必要な指導,助言及び勧告をすることができる。」ことが規定されている。

(2)湖沼水質の浄化機能確保のために保護が必要なアシ原などを「湖辺環境保護地区」に指定し,植物採取についての届出を義務づける。

 第29条 都道府県知事は,湖沼水質保全基本方針に基づき,指定湖沼の水質の保全を図るために,湖沼の水辺地及びこれに隣接する水域のうち,植物(湖沼の水質の改善に資するものとして環境省令で定めるものに限る。以下同じ。)が生育している地区の自然環境(以下「湖辺環境」という。)を保護する必要があると認めるときは,当該地区を湖辺環境保護地区として当該指定湖沼に係る指定地域内に指定することができる。

 湖辺環境保護地区内において,1)植物の採取または損傷,2)水面の埋立または干拓,3)鉱物の掘削または土砂の採取,4)その他の政令で定める行為をしようとする者は,都道府県知事に対し,行為の種類,場所並びに開始及び終了の時期を知事に届け出ることが義務づけられている。そして,知事は,必要な場合にはこれらの行為を禁止または制限することができる。

(3)新増設の工場・事業場にのみ実施していた負荷量規制を既設事業場に拡充する。

(4)湖沼計画の策定手続に,関係住民の意見聴取を位置づける。

 第162回通常国会は2005年1月21日〜6月19日までであり,郵政民営化法案の審議次第でもあるが,この国会で改正案が承認されることが予想される。