No.010-3 施肥量の精密な制御が可能な施肥機

化学肥料などの肥料の量を正確に施用することは環境保全型農業の基本である。手で肥料を撒くにしても,畝全体に均一に施用することが意外に励行されていない。また,施肥機を使うにしても,現在の通常の施肥機は基本的には,肥料タンクからの肥料の落下量と走行速度とを制御することによって,施肥量を調節しているだけである。機械の調節をこまめにして,走行速度を一定に保たないと,施肥量がかなりずれてしまう。こうした問題を克服して正確な施肥量を可能にした最近の研究を紹介する。

●散布量が作業速度に連動する茶園用歩行型施肥機の開発

現在の茶園用歩行型(手押し式)施肥機は肥料をタンクから自由落下で排出させるため,作業者の歩行速度が変化すると,面積あたり散布量が大きくばらついてしまう。(独)農業・生物系特定産業技術研究機構の野菜茶業研究所の茶業研究部作業技術研究室と大阪市の農業機械メーカの(有)東製作所は,散布量を作業速度に連動させて調節できる歩行型の茶園用施肥機を開発した。
この施肥機は次の構成となっている。すなわち,猫車式の一輪車に容量32リットルの肥料タンク(化学肥料なら20kg積める)を取り付け,その下にロール式肥料繰出し機構を装備している。肥料繰出し機構は,一定容積の溝をつけたロールの回転数により肥料を正確に繰出しながら,土壌面に20〜30cmの幅で散布する。車輪とロールとを多段変速機を介してチェーンで接続しているため,車輪とロールの回転数が常に比例し,作業速度が速いと肥料繰出し量が多くなり,速度が遅いと繰出し量が少なくなる。肥料の落下量は,多段変速機を調節して車輪とロールの回転比を変えることと,肥料タンク底部の開口面積を調節して肥料繰出しロールの有効幅を調整することとによって調節できる。
茶園で用いられる多様な物性の肥料において,ロール回転数が80rpm以下なら,肥料繰出し量は,ロールの1回転あたり繰出し容積と回転数および肥料の比重(かさ密度)から算出できる理論値と一致することが確認できた。そして,硫安と菜種油粕を用い,作業速度が大きく変動する条件(硫安:0.57〜1.54m/sec,菜種油粕:0.45〜1.1m/sec)で施肥したところ,面積あたり肥料散布量の変動係数は,硫安で3.1%,菜種油粕で3.2%と非常に小さく,作業速度が大きく変動しても面積あたり肥料散布量は一定にできることが確認された。ただし,菜種油粕などの比重の小さい(0.6以下)肥料で設定散布量を80kg以上に設定すると,ロール回転数が80rpmを超えて,散布精度が悪くなることがあったため,市販モデルには,仕様の変更等を加え対応する。
施肥量の設定は,まず肥料繰出しロールの有効幅(肥料タンク底部の開口部面積)を調整(7段階)しておおまかに決めた後,車速連動機構の多段変速機の伝達比を調整(8段階)して微調整する。茶農家が使用する肥料は5種類程度なので,肥料の種類ごとに,これらロールの有効幅と多段変速機の伝達比の組み合わせ,および肥料のかさ密度から計算できる「面積あたり散布量の表」を事前に用意しておくことで最適な組み合わせを選択し,目標施用量を確保することができる。
メーカでは茶園用の歩行型施肥機を今年から市販する予定とのことである。また,汎用運搬台車を利用した野菜用の施肥機も考えている模様である。
本施肥機の概要は野菜茶業研究所のプレスリリースから入手できる。詳細を記した論文は現在準備中だが,概要は学会発表の講演要旨(茶業研究報告,98(別),34-35,2004)に記載されている。

 

茶園用歩行型施肥機
(野菜茶業研究所のプレスリリースから)

 

 

●設定が容易で作業中に任意に施肥量を変更できる走行型の施肥制御装置

(独)農業・生物系特定産業技術研究機構の生物系特定産業技術研究支援センターの生産システム研究部大規模機械化システム研究単位が施肥量を正確に,しかも作業中に任意に変更できる走行型施肥機用の施肥制御装置を開発した。
現在の走行型の施肥機は,一定容積の溝を持ったロールによって,ロールの回転ごとに一定量の肥料を繰り出している。しかし,肥料によって比重(かさ密度)が大きくことなる。開発者によると,100種類近い肥料の物性を測定したところ,かさ密度は0.7〜1.1(平均0.9)(kg/L)と大きく異なった。そこで,事前に,かさ密度と施肥量(現物kg/10a)を入力すると,それに応じたロール一回転当たりの肥料繰出質量を維持するようにコンピュータで制御するようにした。そして,走行速度の情報を加味して,走行速度に応じて繰り出し量を自動的に調節できるようにした。
すなわち,図1に示すように,表示部にある施肥量とかさ密度のメータ部分で両者の値を入力する。制御部が,この設定値によって予め用意された検量線をもとに繰出部の回転速度を算出する。そして,車速センサからの走行速度データによってロールの回転速度を補正し,その結果を機種に応じたロール回転数制御機構に伝えて,ロールの回転を制御する。一部の機種については,設定株間検出センサからのデータでさらにロールの回転数を補正する。そして,圃場の肥沃度にむらの大きい大区画の場合には,事前に圃場むらの状態を記憶している外部コンピュータと情報をやりとりしながら,圃場むらに応じた施肥を行うことも可能になっている。さらに,施肥作業中に表示部にある増減ボタンを操作することによって,任意または段階的に施肥量を変更することもできる。
現在,田植機に搭載されている側条施肥機の場合は,走行速度の情報を簡単に取得できるので,本施肥制御装置を田植機側条施肥機や水田ビークル用粒状物散布機に装着することで,設定施肥量に対して±5%の高い精度で施肥を行なえることが確認された。
この外,野菜や畑作用の機械でも,走行速度の情報を取れるようにすれば,本制御装置を取り付けることが可能になる。
現在,農業機械メーカと市販化の検討を行っており,追肥用については,早ければ2006年に乗用管理機に搭載できる散粒機が予定されており,これは水稲だけでなく,野菜,畑作でも利用できるとのことである。
本制御装置の概要は,生物系特定産業技術研究支援センター平成15年度研究所成果情報「設定が容易で作業中に任意に施肥量を変更できる施肥制御装置」から入手することができる。

 

施肥制御装置の概要(生物系特定産業技術研究支援センター平成15年度研究成果情報から)