No.361 バイオダイナミック農業の家畜糞尿堆肥の製造方法の検証

●はじめに

 環境保全型農業レポート「No. 356 バイオダイナミック農業の誕生経過」に紹介したように,バイオダイナミック農業の創始者である人智学者のシュタイナーは,『眼に見える自然の背後には超自然の霊的世界が存在し,この世界は霊的エネルギーに満ちている。人類が霊的に成長し,完璧な直観力を獲得するのを助けるのが,霊的なフォースに富んだ食料である。そうしたフォースに富んだ食料の生産を妨害するのが,化学肥料や化学農薬のような人工資材である』という人智学的農業観を提唱し,彼の農業についての考え方を1924年に講演した。この講演で述べた内容の実験的裏付けはまだなされていなかった。シュタイナーは実験を重視する人物であり,講座はなによりもヒントと考えるべきで,実験のための基礎とみなすべきであると述べていた。

 上記レポートNo. 356は,今回のレポートの理解を深めるために,一読願いたい。

 さて,農業講座の直ぐ後に開催された農業者の会合で、シュタイナーの講演に関心を持つ農業者のサークルが作られ,人智学本部の自然科学部門の指導を受けながら,講座開催の1年後,1925年に,『シュタイナーの語った衝撃的刺激』を実験に移していった。このサークルはヨーロッパ,アジア,オセアニア,アメリカやアフリカに作られ,1924年から1930年までの6年間にわたって実験を行なった。その成果を取りこんで,1938年にプファイファがバイオダイナミック農業の技術的指導書(英語版:Pfeiffer, E. (1938) Bio-Dynamic Farming and Gardening: Soil Fertility Renewal and Preservation (F. Heckel, Translated.). New York: Anthroposophic Press.)を刊行した。その改訂版が1947年に刊行されたが,在庫がなくなって20年以上が経過したため,1983年に1947年の改訂版が再発行された。

Ehrenfried Pfeiffer (1947) Soil Fertility, Renewal and Preservation. Bio-dynamic Farming and Gardening (Reprinted in 1983 by Lanthorn Press in Great Britain)。199pp.

(執筆者注)人智学の本部はスイスにある。バイオダイナミック農業実践者は国際組織の「デメターインターナショナル」を結成し,54か国の5,000人が18万haで国際組織の認証を受けている。また,シュタイナーの考えに基づいたシュタイナー学校が,日本を含む主要な先進国に約780校存在する。

 この再発行版にはペーパーバックの廉価版があり,それを購入したので,その内容の一端を紹介する。

 なお,プファイファの著書は,古くから実践されてきた家畜導入と輪作によって土壌肥沃度を維持・向上させつつ,物質循環に基づいた自律的な農業経営が,1930年代に農業に化学肥料が導入されてから,化学資材の多用と専作化・単作化によって商品経済の流れに乗った農業に変貌してきたことを憂い,化学肥料を用いず,地域に適合した輪作を用いて,バイオダイナミック農業を行なえば,化学肥料を使用した場合に遜色ない収量と品質の農業を行なえるとして,その技術指導をおこなっている。

●プファイファの活動概要

 プファイファ(1899〜1961年)はドイツ人の土壌科学者で,1920年にシュタイナーの下で人智学の勉強をした。スイスにある人智学の本部の自然科学部門を介して人智学との協力を維持しつつも,バイオダイナミック農業を人智学から独立して発展させ,「バイオダイナミック農業」という独自のブランドで農業マーケットのなかで区別できるようにしたこととされている(環境保全型農業レポート No. 356 バイオダイナミック農業の誕生経過)。

 1925年のシュタイナーの死後,プファイファは,人智学本部に設けた個人用の研究室でバイオダイナミック農業の技術的確立を図っていたが,オランダのドンブルクにあった320 haのバイオダイナミック農場のマネージャー兼場長となった。ここで,バイオダイナミック農業の普及を図るために,農業技術の安定化と高度化を試みると同時に,シュタイナーの考えの検証を農業者のサークルとともに試みたようである。

 なお,プファイファは博学で,血液での塩化銅の結晶化を指標としてガンを検出する医学分析法を開発し,1937年にアメリカのペンシルベニア州のフィラデルフィアにあるハーネマン医学校に招聘された。医学校に勤務しながらも,バイオダイナミック農業についての相談に応じ,1938年のアメリカの「バイオダイナミック農業・園芸協会」の設立準備に協力した。

 この頃,ドイツではナチスが台頭していた。プファイファは,1940年にナチスがフランスに侵攻したのを契機に,スイスから家族とともにアメリカに移民し,ペンシルベニア州のフィラデルフィア近くのキンバートンに移住した。そこでバイオダイナミック農業に共鳴している農業者から,バイオダイナミックモデル農場の建設と研修プログラムの開始を依頼された。プファイファは,「バイオダイナミック農業・園芸協会」の設置と協会誌の発行を開始し,アメリカの有機農業の創始者として有名なロデールと懇意となり,アメリカにバイオダイナミック農業を広める機会をえた。

●プファイファの執筆姿勢

 ところで,プファイファがシュタイナーの弟子であった時代に話を戻すと,農業者がシュタイナーの考えに共鳴しても,シュタイナーの考えだけでは実際の農業を実践できたわけではない。環境保全型農業レポート 「No. 356 バイオダイナミック農業の誕生経過」に紹介したポール(John Paull)(現在,オーストラリアのタスマニア大学 農地・食料学部)の論文に,次のように書かれている。

 『シュタイナーの人智学に基づいた農業を実践する農業者は,地球,植物や動物の治療者になれるとしており,この活動によって,最終的には人間の治療者になることができると考えられていた。そして,合成窒素肥料などを用いた化学農業は,個々の農場を単なる『生産の機械的手段』に変え,経済生活全体を『ビジネス』に変えていると批判した。
 シュタイナーは,どの農場でも自給自足が理想であり,農業生産のために必要なものを農場自体の中に有するようにしなければならないとした。そして,農場は,その構成要素である作物,家畜,土壌,ふん尿,雑草などの全体のつながりを大切にし,特定要素だけで理解しようとしない,全体論的アプローチが重要なことを主張していた。』

 このシュタイナーの考えに賛同しても,具体的にどのような技術を用いて農業を行なったら良いのか。土壌学者のプファイファは,当時の農学に関する知識に基づいて,農業者サークルの農業者と実践しつつ,技術指導書の作成を試みた。バイオダイナミック農業というと直ぐに調合剤などが話題になるが,プファイファは調合剤などを問題にする前に,当時の農学の知見をベースにした技術を重視した。

 化学化が農業の堕落を起こしているとするなら,化学肥料を用いずに,化学肥料を用いた農業に敗けない収量と,もっと高い品質の農産物を生産する技術を確立して普及することが必要になる。そのために,プファイファが最も重視したのが,堆肥の製造と施用の方法である。プファイファの著書の第6章と第7章の記述を紹介しつつ,彼の記した堆肥の製造と施用の方法検証を試みる。

●プファイファの使用した堆肥関連用語の問題点

 プファイファは,バイオダイナミック農業方法を,シュタイナーのいう地球および宇宙のフォースに満ちた農産物を生産するために必要な調合剤とその使用法から技術を展開しているのではない。まず堆肥を当時の科学的知見に基づいて正しく製造し,その際,地球および宇宙のフォースを集めるための調合剤を堆肥の山に挿入して堆肥化することを解説している。このとき,1930年代から90年を経過した現在では,堆肥,土壌有機物などの概念に少なからず変化が生じている。そうした変化を知らずにプファイファの解説だけを読んでいると,大きな誤解をしてしまう問題が少なくない。そうした問題のいくつかをまず指摘しておく。

(1)「家畜糞尿」と「堆肥」

 著書のなかでプファイファは,永年放牧草地,採草地および畑に対して適切な割合のウシや他の家畜を飼養し,その糞尿を堆肥化して,養分を無駄にせずに適切に施用することが,収量向上と土壌肥沃度維持の基本であることを強調している。その際,家畜糞尿堆肥を単に「家畜糞尿」(manure)と呼び,家畜のいない場合には植物材料堆肥を製造して使用するが,それを単に「堆肥」(compost)と呼んでいる。これは誤解を避けるために,「家畜糞尿堆肥」と「植物堆肥」と記すべきであった。農業のバイオダイナミック方法として,プファイファは,牛なしの農場や,有機肥料を全く購入できない農場の存在を認めてはいるが,バイオダイナミック農業そのものは,牛の飼養を前提にデザインされたものであって,牛のいない農場は生物学的に偏したものであって,自然に反するものであると記している。

 なお,EUの「有機農業実施規則」には,きゅう肥,堆肥化した動物排泄物などの定義が記載されている(環境保全型農業レポート「No. 212 EUの有機農業における家畜飼養密度と家畜ふん尿施用量の上限」https://lib.ruralnet.or.jp/nisio/?p=2143参照)

(2)堆肥の意義における腐植/腐植物質の区別が曖昧

 プファイファの著書では,腐植と腐植物質の区別が曖昧な箇所が多い。腐植と腐植物質は,現在では次のように整理されている。

腐植と腐植物質

 土壌には,生きた微生物,動物,植物根やこれらの生物の新鮮な遺体に加えて,分解程度のさまざまな有機物や,微生物による分解過程で生じた中間産物が互いに反応しあって土壌中で新たに合成された難分解性有機物まで,多様な有機物が存在している。土壌に存在する有機物のうち,生きた生物体とその新鮮な遺体を除いたものを,土壌有機物または腐植と総称している(ただし,生きた生物体や新鮮遺体を含めて,土壌中に存在する全ての有機物を土壌有機物または腐植と総称する場合もある)。
 土壌有機物あるいは腐植には,もともと生物遺体を構成していた有機物(非腐植物質)と,土壌中で新たに合成された高分子の暗褐色ないし黒色の有機物(腐植物質)が存在する。腐植物質はさまざまな高分子物質から構成されており,非腐植物質よりは分解されにくいが,分解されないわけではなく,半減期は250〜2,500年とされている。
 腐植物質は,酸やアルカリへの溶解度の違いによって,腐植酸(アルカリに溶け,酸で沈殿),フルボ酸(アルカリにも酸にも溶解),ヒューミン(アルカリにも酸にも溶けない)に区別される。腐植酸やフルボ酸はマイナスやプラスの電荷を持っていて,鉄やアルミニウムなどの陽イオンを保持する陽イオン交換能や,粘土鉱物を結合させる能力に優れ,ミクロ団粒の形成に貢献している。
 西尾道徳(2007)「堆肥・有機質肥料の基礎知識」(農文協)より

 プファイファの記述では,腐植と腐植物質の区分が不鮮明である。例えば,『土壌は,溶存態や非溶存態の無機成分,水,生きた植物由来の有機物,根や植物体全体の分解に起因した有機や無機の物質を含んでいる。さらに土壌は,細菌,ミミズ,昆虫の幼虫や高等動物を含んでいる。・・・植物体や動物体の分解によってやがて腐植を生ずる。・・・腐植の質と量が土壌の肥沃度を決定している。土壌の全ての有機構成物が必ずしも腐植ではなく,腐植になる可能性があるわけではない。』ここでの「腐植」は「腐植物質」と記述すべきであった。

 また,次の『残念ながら畜舎の家畜糞尿が分解されて腐植になるにはかなりの長さの時間が必要である。』との記述でも,「腐植」を「腐植物質」とすべきであった。こうした箇所が非常に多い。

(3)シュタイナーの調合剤は堆肥化を加速?

 これに関連して,シュタイナーの調合剤の効果に関して驚くべき記述がある。

 『有機肥料の最も良い形態は腐植である。残念ながら畜舎の家畜糞尿が分解されて腐植になるにはかなりの長さの時間が必要である。』
『こうした調合剤(注:地球および宇宙のフォースを農産物に集めるのに役立つ補助剤)を少量,注意深く堆積した家畜糞尿の山に挿入すると,堆積物の発酵全体が腐植生成に向かって適切な方向が与えられる。短時間〜一般に2か月間〜の後に,糞が腐植物質に富んだ,黒褐色の塊に変換する。』

 この文章の「腐植」は「腐植物質」とすべきである。事実,この直ぐ後には『糞が腐植物質に富んだ,黒褐色の塊に変換する。』と記述されていることはそのことを裏付けている。

 新鮮な家畜糞尿の有機物にも,量的には少ないが,腐植物質と判定できる有機質画分が存在しているはずだが,糞が2か月で腐植物質に変換できると表現できるほど,多量の腐植物質が生成されるとするのは無理である。腐植物質の生成にはもっと時間を要するし,それが調合剤の添加で実現するとするのは無謀であろう。

(4)プファイファは好気性と嫌気性微生物の違いを認識していないようだ

 家畜糞尿や植物遺体には微生物の餌に容易になる有機化合物が多量に存在している。これらの易分解性有機物を堆肥化過程でかなりの程度分解しておかないと,堆肥を土壌に施用したとたんに,土壌微生物が爆発的に増加して,作物生育に様々な障害が生ずる。

 有機物の分解は酸素を利用した呼吸を行なう,好気性細菌やカビによって効率的に行なわれる。酸素を使わない発酵を行なう嫌気性細菌は,易分解性有機物を分解しても,二酸化炭素と水に完全分解せずに,中間産物を蓄積する。その上,植物体に多く含まれる多数のベンゼン環を含むリグニンなどの高分子の分解には,呼吸により体内に吸い込まれた分子状酸素をベンゼン環と結合させて,ベンゼン環を開裂させるオキシゲナーゼの関与が不可欠である。このオキシゲナーゼは好気性微生物に存在し,嫌気性微生物には存在しない。こうした理由から,嫌気的条件では,複雑な構造の高分子有機化合物の分解があまり行なえず,作物を安全に生産できる堆肥を生産できない。

 プファイファの著書には,好気的と嫌気的微生物の用語は全く使われていない。そのうえ,「第8章 如何に一般農場をバイオダイナミック農場に転換させるか」では,次の記述を行なっている。

 『まだ緑のうちに霜の前に緑肥の植物体を土壌に鋤き込むと,腐朽していない植物体の塊が土壌から酸化力を多量に奪い,従って,細菌の生活の可能性を低下させてしまう。』

 これは易分解性有機物を多量に含む植物遺体を土壌に施用すると,好気性微生物が酸素を多量に消費して呼吸によって植物遺体を分解し,土壌中の酸素分子が激減し,植物遺体の分解速度も低下するという意味である。プファイファが執筆した当時は,微生物学の知見がまだ土壌学に浸透しておらず,『腐朽していない植物体の塊が土壌から酸化力を多量に奪う』といった,物質の酸化・還元反応での土壌化学的表現になったと理解される。

●アメリカ農務省の堆肥化基準との照合

(1)堆肥化の定義

 プファイファは化学肥料の普及に対して,『農地の有機資源の回復と増強は,将来世代のために最重要な平和的任務』であるとの立場に立って,化学肥料を用いずに,家畜糞尿や植物材料の堆肥の適正な製造と施用の方法を,当時の最先端の知見を踏まえて解説している。

 ただし,プファイファは堆肥化を明確に定義することはしていない。彼は家畜糞尿堆肥に力点を置いて解説しているので,著書から家畜糞尿の堆肥化に関係する部分をピックアップすると,次のように記述できる。

 堆肥として最も良い形態の有機物は腐植物質である。原料有機物が腐植物質に変換するにはかなりの長さの時間が必要である。その間に養分物質がロスにさらされている。野外堆積の場合には,養分物質の50%以上がロスされているケースも存在する。このため,養分物質のロスをできるだけ少なくしつつ,有機物を腐植物質に変えるとともに,雑草種子を殺し,悪臭が生じないようにして,土壌肥沃度と作物生産を維持向上させるのに貢献する堆肥を生産することが堆肥化であると表現できる。

 ところで,アメリカ農務省のNRCS(自然資源保全局)は,堆肥化について次の2つの基準書を発行している。

(1) NRCS (2010) Part 637. Environmental Engineering National Engineering Handbook. Chapter 2 Composting. 97pp.
(2) NRCS Conservation Practice Standard. Composting Facility. Code 317. (2016) 5pp.

 (1)は,NRCSが堆肥化の技術的問題を詳細に解説した基準書で,(2)は(1)を踏まえて,堆肥化施設での堆肥化に際しての要点をまとめたものである。

 (1)のハンドブックは,堆肥化を次のように定義している。

 『堆肥化は,安定した腐植様物質の土壌改良材を生ずる,有機物の微生物による制御した好気的分解のことである。堆肥化に使用されているプロセスは自然でも生じているが,そのプロセスを強化したり加速したりするようにシステムを強化することができる。堆肥化の副産物には,微生物の死菌や生菌のバイオマス,未分解の原料物質,安定した分解産物などがある。堆肥は有機の土壌改良材で,不快な臭いを最少ないし除去,生きた病原菌や雑草種子を大幅に低減ないし除去して,昆虫や媒介生物をおびき寄せることなく,貯蔵やハンドリングを容易にできるようにして,生育期間を通じて利用可能な養分を植物に供給できる。

 堆肥化は,有機物の易分解性部分を二酸化炭素と水に変換して有機物を安定化させる。完全な安定化は,堆肥に土壌形成能を与える全ての分解の遅い有機物を全て破壊してしまうので,実用的でも望ましくもない。堆肥に望まれる安定化や病原菌の死滅の程度は,堆肥化の目的や堆肥副産物を使用する意図によって異なる。』

(2)プファイファの堆肥つくりとの相違点

 このNRCSの堆肥化の定義をプファイファのものと比較すると,特に際立った違いとして次の点が注目される。

(a) NRCSは腐植物質を問題にせず: プファイファが『堆肥として最も良い形態の有機物は腐植物質である』としているのに対して,NRCSは『堆肥化は,安定した腐植様物質の土壌改良材を生ずる』として,単に腐植物質に似た黒色や暗褐色の物質が作られるとして,腐植物質の生成を問題にしていない。
(b) プファイファは好気的分解を問題にせず: NRCSが『有機物の微生物による制御した好気的分解のことである』と,堆肥化で最も重要な反応が有機物の好気的分解を明確に指摘しているのに対して,プファイファは好気的分解に全く論及していない。
(c) バイオダイナミック農業の堆肥化は嫌気的: 環境保全型農業レポート「No.329 バイオダイナミック農業の調合剤は効くのか」https://lib.ruralnet.or.jp/nisio/?p=3746に紹介したように,バイオダイナミック農業の堆肥化は,切り返しによる通気もろくに行なわない。そのうえ,堆肥サンプル中のリン脂質脂肪酸は,微生物のタイプによって生成されるリン脂質脂肪酸の種類が異なるが,リン脂質脂肪酸のタイプから,バイオダイナミック堆肥では嫌気性細菌が優勢であり,対照堆肥では好気性細菌や糸状菌が優勢であることが示されている。

 因みに,プファイファの著書にある小規模な堆肥化の仕方は,底面の横幅を10〜13フィート(3〜4メートル),高さ2〜3フィート(0.6〜0.9メートル),上面の横幅を3〜10フィート(0.9〜3メート),長さは敷地に応じて数メートから10メートル超に,敷料と糞尿の混合物を堆積する。そして,堆積物の表面全体を中粒質の土壌を厚さ4インチ(10センチメートル)で被覆し,糞尿の山からの溶脱や乾燥を阻止するとするもので,切り返しによる酸素の供給は指示されていない。

 このように,バイオダイナミック農業の堆肥化は嫌気的であり,リグニンなどの高分子有機物を分解して,腐植物質を生成するには,好気的条件が不可欠である。このため,バイオダイナミック農業の堆肥化では腐植物質が容易に生成されるはずがない。

●参考:堆肥化過程のモニタリング指標

 良質な家畜糞尿堆肥を確実に生産するためには,堆肥化の進行過程をモニタリングすることが必要だが,プファイファの時代には指標となる値の計測手法が今日ほど容易でなかった。このため,プファイファの著書には,測定する指標が,わずかに,温度(華氏150度=摂氏65.6度)を超えるのは有害であり,その場合は,堆肥の山に十分注水するか,雨の日に切り返しを行なうと記されているだけである。好熱細菌についての知見もその後に進展し,危険な高い温度は今日ではもっと高い温度とされている。

 上出の資料の(2) NRCS Conservation Practice Standard. Composting Facilityにある堆肥化過程のモニタリング指標を,参考のため,下記にまとめておく。

  • 堆肥原料ミックス: 微生物による好気的分解を助長し,悪臭を回避する堆肥原料ミックスを構築する。原料を混合し,堆肥堆積物を作ったときに,堆肥化過程で均質な通気を行なえるように,孔隙を多数有するようにする原料を選定する。
  • 炭素-窒素比: 出発時の堆肥原料ミックスの推奨されるC/N比は,25と40の間である。これよりも低いC/N比の堆肥原料ミックスは,無機態窒素化や臭いが問題でないなら,用いることができる。C/N比が上記よりも高ければ,堆肥化プロセスが遅くなり,良質堆肥が完成するのに時間がかかる。
  • 炭素性素材: 必要な場合,窒素性原料と混合するために,高いC/N比の炭素性素材源を貯蔵しておく。十分な量の炭素性素材と窒素性原料(C/N比で)を混合して適切なC/N比に調製し,臭いやアンモニアの揮発を最少にする。
  • 膨軟化(バルキング)素材: 必要に応じて通気を高めるために,堆肥原料ミックスに添加する。膨軟化素材は,混合物に使用した炭素性素材,ないし,分解の遅い天然有機素材や,堆肥化期間の終わりにさらなる堆肥化サイクルで再利用するために回収する,非生物分解性ないし分解の遅い素材でも良い。堆肥化プロセスで使用した,非生物分解性ないし分解の遅い素材の回収については規定を策定する。
  • 水分レベル: 堆肥化過程を通して,堆肥原料ミックスの水分を40から60%(湿重ベース)の適正レベルに維持する。堆肥に溜まるほどの過剰な水分を防止する。このため,堆肥の山に,雨よけのための被覆を要することもある。
  • 堆肥ミックスの温度: 堆肥が目標とする必要な温度に到達させて、その温度を維持するように管理する。具体的には,雑草種子を殺すのに適切な華氏145°F(62.8℃)に堆肥が達するようにする。また,温度を注意深くモニターし,温度調整に気を配らなければならない。165°F(73.9℃)を超えると,好熱性細菌を殺して堆肥化プロセスを阻害する。温度が185°F(85℃)を超える温度に達したら,燃焼を防ぐために堆肥の山を冷却する行動を直ちにとる。
  • アメリカの有機基準に準拠した堆肥は,通常の農業で使用する堆肥よりも厳しい基準が要求されている。すなわち,静置の堆積堆肥や堆肥化装置での有機農業用堆肥は,131°F (55℃)と170°F(76.7℃)の間に3日間維持し,また,露地に横長に堆積したウィンドロウの堆肥は131°F (55℃)と170°F (76.7℃)の間に15日間保持し,少なくとも堆肥を5回切り返し,ウィンドロウが均質に混合して堆肥化することが要求されている。
  • ●おわりに

     バイオダイナミック農業の理念に共感する人は少なくないであろうが,その理念を実践するための技術指導書がプファイファの著書といえる。しかし,プファイファの著書には,今日の科学的知見からすると,誤った箇所が多々あることが認められた。