No.228 有機栽培作物は害虫に食べられにくい

〜フェランらのミネラルバランス説〜

●有機農業者の信念

アルバート・ハワード著『農業聖典』(*)において,ハワードは「虫類や菌類は植物の病気の真の原因ではなく,不適切な品種や不完全に栽培された作物を侵害するだけだ」,「作物生産においてもっとも重要なことは,・・地力の維持が作物の健康の基礎である」と記している(保田監訳)。つまり,慣行農業は不適切な栽培管理を行なっており,有機農業で健全な土壌は作ることが健全な作物を生産する基本であると主張している。

*1940年原著出版。オーストラリアに所在するSoil and Health Library が,農業関係の重要古典を無料で提供しており,姓名とE-メールアドレスを登録すれば,原著のpdf版を送信してくれる。邦訳は保田茂監訳,日本有機農業研究会2003年発行。

アメリカのオハイオ州立大学のフェラン教授(P. Larry Phelan)は,有機農業者はこのことを信奉しているが,現象として正しいのか,正しいならどのようなメカニズムによるのかを一連の研究によって検証した。そのために,土壌管理の仕方の違いによって作物に対する植食性昆虫による食害が異なるか,その現象の検討をまず行なった。

●アワノメイガの食害が有機管理トウモロコシで減少

(1)アワノメイガ

アワノメイガの幼虫は,トウモロコシの茎に侵入して,髄の部分を食害する。髄が空洞化された茎は折れやすくなる。茎だけでなく,雄穂,雌花なども食害する。因みに,日本のアワノメイガはOstrinia furnacalis (Guen)だが,アメリカのアワノメイガは種の異なるOstrinia nubilalis (Hübner)である。

幼虫が茎の中に侵入してしまうと,外部から農薬を散布しても効かない。このため,アメリカでは,細菌のバチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)が生成する,鱗翅目害虫などに有毒な毒素蛋白質(Bt毒素)を生成する遺伝子を組み込んだ遺伝子組換えトウモロコシが広く利用されている。組換えトウモロコシでは基本的に作物の全ての部位でBt毒素が生成されているので,農薬散布よりもはるかに効率的にアワノメイガを防除できる。しかし,有機農業では遺伝子組換え作物の使用は認められていない。細菌が生成したBt毒素の濃縮物の使用は有機農業で認められているが,その散布の時期が難しい。

(2)有機管理土壌で栽培したトウモロコシに,アワノメイガ成虫の産卵は少ない

P. L. Phelan, J. F. Mason and B. R. Stinner (1995) Soil-fertility management and host preference by European corn borer, Ostrinia nubilalis (Hübner), on Zea mays L.: A comparison of organic and conventional chemical farming. Agriculture, Ecosystems and Environment 56: 1-8.

フェランらはまず,上記の論文で,3つ農場から有機管理と慣行管理のトウモロコシ圃場の土壌(表1参照)を採取して,その土壌をポットに充填し,スイートコーンを温室で栽培した。

両管理の土壌に,(1)硝酸アンモニウム(硝安),(2)新鮮な乳牛ふん尿,(3)乳牛ふん堆肥を,窒素(N)で164 kg/ha施用し,(5)無添加区も設けた。なお,(3)乳牛ふん堆肥区は,農場ペア2と3にだけ設けた。ポットでトウモロコシを育て,トウモロコシの草丈が30〜40 cmに達した後に,ポット当たり1個体に間引いた。トウモロコシが4〜5葉段階のときに,蛹から羽化して2〜5日目のアワノメイガの雌成虫を週2回,温室に放飼し,2〜3日ごとに作物体上のアワノメイガの卵の数や作物体上の位置を調べた。

その結果,土壌に与えた肥料の形態が産卵数に及ぼす影響をみると,慣行土壌で産卵数が最も多かった肥料は,農場ペア1の土壌では新鮮乳牛ふん尿,農場ペア2の土壌では無施肥,農場ペア3の土壌では硝安と乳牛ふん堆肥であった。このように,肥料の形態は,トウモロコシのアワノメイガに対する感受性に一貫した影響を与えなかった。

これに対して,有機管理と慣行管理という土壌管理履歴の違いは,アワノメイガの産卵数に一貫した影響を与えた。つまり,いずれの農場ペアでも,慣行管理土壌で育ったトウモロコシでは,施用した肥料の形態によって産卵数が増えたものや増えなかったものなど,処理間で産卵数に有意の差が存在した。しかし,有機管理土壌で育った作物体では,どの形態の肥料を施用しても,産卵数は慣行管理土壌でのものよりも肥料形態に関係なく均一で,少なかった。3つの農場ペアでの結果を全て集めてみると,産卵数の分散値は,慣行土壌の作物体では有機土壌での作物体よりも18倍も大きかった。また,産卵数はトウモロコシのバイオマス量(生育量)と関係していなかった。このように,土壌の管理履歴が害虫の作物感受性に影響することが示された。

(3)アワノメイガは,ミネラルバランスの悪いトウモロコシに多く産卵する

P. L. Phelan, K.H. Norris and J.F. Mason (1996) Soil-management history and host preference by Ostrinia rubilalis for plant mineral balance mediating insect-plant interactions. Environmental Entomo1ogy 25(6):1329-1336.

上記の論文で,前報での結果が何に原因するのかを解析した。

前報の農場ペア2(表1)の有機管理と慣行管理の農場から採取した土壌に,硝安と乳牛ふん堆肥を施用し,無施用のままのものとともにポットに充填して,スイートコーンを基本的には前報に準じて温室で栽培した。作物体が30〜40 cmになったときにポット当たり1個体に間引いた。そして,トウモロコシ作物体が4〜5葉期で最終草丈の約33%のときに,蛹から羽化した2〜5日目のアワノメイガの成虫を温室に週2回放飼し,2〜3日毎に作物体上の卵の数と位置を,トウモロコシが成熟するまで調べた。作物体の大部分が8葉齢に達したときに,最も若い完全に展開した葉を採取して,湿らせたペーパータオルできれいにして風乾し,粉砕してミネラル分析に供した。また,作物体が10〜12葉齢のときに,葉の純光合成速度,気孔伝導度,細胞内CO2濃度を測定した。

この実験と同時に,別の温室で,追加のスイートコーンを26×52×12 cmの薄い木箱で同じ土壌と施用物を用いて栽培した。作物体の展開した葉が80 cmになったときに,日の出後1〜2時間の間に,土壌から1 cm上の位置で作物体を切断し,幹と下位3葉を湿らせたタオルできれいにし,採取後1時間以内に,サンプルを-20℃のフリーザーに入れて凍結した後,凍結乾燥して粉砕した。そして,粉砕したものについて,2200〜2500 nmで近赤外線反射分析によって蛋白質量を分析した。

これらの実験で,有機管理土壌で育ったトウモロコシへのアワノメイガの産卵数が,肥料の施用形態にかかわらず,慣行管理土壌でのものよりも少ないという前報の結果が再確認された。

これに対して,今回の実験で調べたトウモロコシの茎葉重,光合成速度,気孔伝導度や近赤外線反射分析で測定した蛋白質量は,有機管理土壌でのトウモロコシのほうが慣行管理土壌でのものよりも,大きいかあるいは同程度の値を示した。そして,これらの値も,慣行管理土壌では施肥によって無施用よりも増加したが,有機管理土壌では施肥の有無にかかわらずほぼ同じ高い値を示した。

葉の13のミネラルを分析し,そのうちの1〜4つのミネラル組成を変数とした一次方程式と二次方程式で,産卵数に最も良く適合するモデル式を探した。その結果,3つのミネラルレベル(亜鉛,アルミニウム,窒素)を変数とする,アワノメイガの産卵の最適二次元モデル式がえられた。そして,近赤外線スペクトルで測定した蛋白質含量は,慣行管理土壌で育てたトウモロコシで低く,しかも,慣行管理土壌では無施用<乳牛ふん堆肥<硝安施用の順であったのに対して,産卵数は無施用≒乳牛ふん堆肥>硝安施用であった。つまり,葉の蛋白質含量が少ない土壌・施肥の組合せの作物体で,アワノメイガの産卵数が多くなったのである。

こうした結果から,フェランらは,トウモロコシのアワノメイガに対する感受性の違いが,少なくとも部分的には,作物体のミネラルバランス(ミネラルの絶対レベルと比率を含む)によって仲介されていると推定した。

そして,ポット栽培時に施用した肥料による生育促進がみられなかったように,有機管理土壌は慣行土壌よりも土壌肥沃度が高くて,トウモロコシの生育量も良好であった。このことからフェランは,慣行管理土壌では土壌肥沃度が低く,トウモロコシ生育によって窒素,亜鉛,アルミニウムなどのミネラルの不足が一段と進み,作物体の代謝が撹乱される。これに対して,有機管理土壌では土壌肥沃度が高く,ミネラルの可給態性のフレが少ないために,有機管理土壌では良好なミネラルバランスが保たれやすく,健全な作物が確保されて,アワノメイガの産卵が少ないと推定した。

●ダイズシャクトリムシとナミハダニの,ダイズ葉採食性に及ぼすミネラルバランスの影響

(1)実験で使用した害虫

ダイズシャクトリムシsoybean looper (Pseudoplusia includens)は,日本ではダイズの重要害虫になっていないが,アメリカでは重要害虫である。ダイズシャクガの幼虫で,莢も食害するが,その前に葉を食害し,葉の大方がなくなって甚大な被害が生ずることが多い。特に,殺虫剤散布後に天敵がいなくなったときに甚大な被害が生ずることが多く,殺虫剤で防除することは難しい。

ナミハダニtwo-spotted spider mite (Tetranychus urticae)は,アメリカでは100を超える作物種を含む180種を超える植物を吸汁し,葉に多数の吸汁斑点を生じ,やがて葉を黄色にし,ひどい場合は植物体を枯らしてしまう。特に,干ばつ時など乾燥した気候のときに大発生しやすい。

インゲンテントウMexican bean beetle (Epilachna varivestis)は,幼虫と成虫の双方が,ダイズ,サヤインゲン,ササゲなどの葉,茎,莢を食害する。

ヤガ科のvelvetbean caterpillar(直訳するとムクナイモムシ,和名はないが,以下ムクナイモムシと仮称)(Anticarsia gemmatalis)は,ダイズ,クズ,落花生,ハッショウマメ(ムクナ)の葉,茎や莢などを食害する。フロリダで越冬し,春に北上してアメリカの東南部で被害を起こす。

(2)ダイズ培養液の窒素−イオウ−リンの混合割合が,昆虫のダイズ葉食害に及ぼす影響

Johannes W. Busch and P. Larry Phelan (1999) Mixture models of soybean growth and herbivore performance in response to nitrogen – sulphur – phosphorous nutrient interactions. Ecological Entomology. 24: 132-145

フェランらは,昆虫の植食性に対する作物の感受性がミネラルバランスによって異なるという前報での推定を,土壌を使用せずにミネラル組成を明確に制御した砂耕法でさらに解析した。

その際,植食性がミネラルバランスと関係していることを指摘した実験が少なからずあったにもかかわらず,実験結果がまちまちで,昆虫の植食性とミネラルバランスの関係についての統一的理解がなされていないことを問題にした。そして,実験方法について次のように論究し,新たな考え方に基づいた方法で実験を組み立てている。

従来,他のミネラルは同じにして,1つのミネラルのレベルだけを変えて,そのレベルと植食性との一次関数的(線形)関係が成立するか否かを問題にしてきた。しかし,当該ミネラルのレベルを変えることは,同時に当該ミネラルの,他のミネラルに対する割合も変化していることが無視されてきた。そこで,フェランらは,上記の論文で,ミネラル条件を明確にするために,土壌を用いず,試薬を調合したミネラル培養液を用いて,窒素−イオウ−リンの混合割合が作物体の生育と昆虫の成長に及ぼす影響を,医薬品や食品などで複数の成分の最適混合割合を求める際に使用されている「混合計画法」を応用して調べた。

まず,石英砂を充填したポットにダイズを植え付け,窒素−イオウ−リンの混合割合を変えた無機塩で調製した培養液をポットに滴下して,ダイズを生育させた。別報で調べたダイズ生育に最適な培養液(標準培養液)は,窒素(硝酸イオンNO3)を12.2ミリ等量(62 mg/L),イオウ(硫酸イオンSO42-)を3.0ミリ等量(48 mg/L),リン(リン酸2水素イオンH2PO4)を1.3ミリ等量(97 mg/L)と,他のイオンを含有していた。フェランは,この標準培養液ベースに,3つのミネラルの割合を変えた10通りの培養液を使用した。

それぞれの培養液で育てたダイズの葉を4葉期のときに採取して,ペトリ皿に入れ,ダイズシャクトリムシとナミハダニを接種し,切断した葉を必要に応じて交換しつつ,虫を飼育した。そして,虫の成長やダイズ茎葉重に及ぼす窒素,イオウとリンの相互作用を多項式回帰式で解析した。

その結果,例えば,ダイズの茎葉重は,標準培養液のときに最も良かったが,窒素濃度を最大15.7ミリ等量から最低8.3ミリ等量として,最大値から引き下げてゆき,その代わりにリン濃度を0.4ミリ等量から7.8ミリ等量まで引き上げてゆくと,茎葉重が直線的に減少したのに対して,窒素濃度を引き下げてその代わりにイオウ濃度を0.4ミリ等量から1.7ミリ等量まで引き上げてゆくと,茎葉重は増加し,それを超え7.8ミリ等量まで引き上げてゆくと減少した。

これに対して,ダイズシャクトリムシの蛹重量は,標準培養液で育ったダイズの葉を給餌したときが最も低かったが,3つのミネラルの割合を変えると非常に複雑な結果を示した。全体的傾向として窒素濃度を減少させると,ダイズシャクトリムシの蛹重量は減少したが,窒素の代わりにリンを増やし,特にイオウ濃度に対してリン濃度を高くすると,蛹重量は大きく減少し,標準培養液とほぼ同じレベルには減少した。

また,ナミハダニ個体群の増加速度は標準培養液で育てたダイズ葉のときに最低になることはなく,むしろ高い値を示した。そして,リン濃度が高いほど増殖速度が低くなった。

このように,ミネラルのダイズや植食性昆虫の生育に対するミネラルの影響は線形の一次関数的な関係ではなく,非直線的な複雑な結果を示した。そして,ダイズシャクトリムシの蛹重のように,健全に生育した作物が高い耐虫性をもっていたが,そうした関係は昆虫の種類によって大きく異なった。

(3)ダイズ培養液のホウ素−亜鉛−鉄の混合割合が,昆虫のダイズ葉食害に及ぼす影響

Leann Beanland, P. Larry Phelan and Seppo Salminen (2003) Micronutrient interactions on soybean growth and the developmental performance of three insect herbivores. Environmental Entomology 32(3):641-651

前報と同様に,石英砂を充填したポットに植えたダイズに,無機塩を溶解した培養液を滴下してダイズを生育させた。今回は,微量要素のホウ素,鉄,亜鉛の濃度と,これらの割合を変えて栽培したダイズ葉が,3種の昆虫の植食性に及ぼす影響を上記の論文で検討した。

ホウ素(B)と鉄(Fe)は培養液中の濃度を0〜0.05 mM,亜鉛(Zn)は0〜0.01 mMの範囲で変えた13の培養液でダイズを栽培し,5〜6葉期に達したときに葉を採取し,ペトリ皿に入れ,孵化したばかりのダイズシャクトリムシ,ムクナイモムシ,インゲンテントウ6匹を各ペトリ皿に入れて,必要に応じて葉を交換しつつ,幼虫を育て,蛹(ムクナイモムシの場合はイモムシ)の重量を測定した。

ダイズの生育は,ホウ素:鉄:亜鉛が0.022 : 0.018 : 0.010 mMのときに最も良く,逆にホウ素がない,ホウ素:鉄:亜鉛が0.00 : 0.0444 : 0.0056 mMのときに最も悪かった。

他方,3つの種の昆虫の成長は3つの微量元素の濃度割合に対して複雑な関係をしめしたが,いずれもホウ素なしで,最適量を超える鉄を与えた培養液で栽培したダイズ葉で最も良かった。そして,ダイズ茎葉重を最低にした処理のときに3種の昆虫の成長が全て最高となった。換言すると,ダイズの生育が最も良いときには,昆虫による食害が最も少なかった。

昆虫が非常に良く食べたダイズ葉は,ホウ素欠乏を呈していた。ホウ素欠乏作物体の葉には水溶性糖やアミノ酸を蓄積して,植食性昆虫に栄養的に好まれると同時に,フェノールの合成活性が低下して,リグニンの合成や細胞壁の補強が低下して柔らかく食べやすくなることが知られている。ホウ素欠乏は糸状菌病原体に対する感受性を高めることが既往の研究によって示されているが,類似のメカニズムが働いていると推察された。

●おわりに

以前に農林水産省統計情報部が行なった“「有機農業」に取り組む農家等の事例”(農林統計協会,全127頁,1989年)で,無農薬・無化学肥料による栽培事例56のうち,生産のネックとして雑草害を指摘した事例は多いが,害虫や病気の害に関しては,虫害6,病虫害3,病害1だけで,病虫害をネックにだと指摘した事例は意外に少なかった。これは冒頭に紹介したハワードの記述に合うであろう。

では,なぜ有機農業で生産した作物は害虫の食害を受けにくいのか。2つのメカニズムが考えられる。1つは,有機農業で農薬を止めたことによる天敵の増加による害虫被害の減少である。これは、化学農薬の散布で天敵が死滅してしまい,農薬散布でかえって被害がひどくなる「リサージェンス」の反対の現象である。もう1つは,有機栽培によって作物の耐虫性が強化されて,作物が害虫に食べられにくくなることである。

フェランらは,有機栽培による作物の耐虫性強化のメカニズムについて,次のように推定している。すなわち,「ある植物養分のレベルが不足ないし過剰のいずれであっても,植物体のより複雑な化学物質の生産が遅くなり,遊離のアミノ酸や糖のような単純な合成素材を蓄積させ,植食性昆虫にとって濃厚な餌を提供することになり,産卵や採食を促進することになる。こうしてミネラルのアンバランスは害虫に対する作物の感受性を高めることになりうる。(既往の別の者の研究によって)アワノメイガの産卵は,果糖,プローリン,グルコース,ショ糖のような単純な化合物のレベルとプラスの関係を有しているのに対して,いろいろな遺伝子型のトウモロコシ中のリグニンレベルは,アワノメイガに対する感受性とマイナスの相関を有している(ことが示されている)。」(P. L. Phelana (1997) Soil-Management History and the Role of Plant Mineral Balance as a Determinant of Maize Susceptibility to the European Corn Borer. Biological Agriculture & Horticulture 15: 25-34)。

このことが事実だとすると,バランスのとれた養分が作物の必要量を超えない範囲で十分量にあって,必要な高分子物質が確保されてしっかりした作物体が作られて,体内に遊離の低分子物質が多量に存在していない作物体をつくる土壌管理が大切となる。

化学肥料を多投した慣行栽培では,肥料を基肥にまとめて施用することが多く,特に生育前半の作物生育が小さいうちは,作物要求に比して施用養分が過剰で,作物体内に遊離の低分子物質が集積しやすくなる。また,過剰な養分を化学肥料で毎作多投し続けていると,土壌中の養分レベルがアンバランスになって,例えば,カリウム過剰が生じて,カルシウムを初めいろいろなミネラル不足を引き起こし,作物体に生理障害が発生しやすくなる。こうなった作物体では高分子化合物や作物組織の合成が不完全となって,低分子物質が蓄積しやすく,組織ももろくなりやすい。こうしたことから,健全な作物体を作ることが害虫被害を少なくするというハワードの信念が説明できると解釈している。

しかし,フェランらの実験にあったように,こうしたことは5つの昆虫で示されたが,ナミハダニでは示されなかった。したがって,どのような害虫でこうした原則が成立するのかの確認も必要であろう。さらに,有機農業で管理した土壌が,ミネラルバランスの点で優れているとは限らないであろうし,有機農業で管理した土壌であっても,養分バランスが過剰かつアンバランスな土壌や,養分不足の土壌も有機栽培で少なくないであろう。そうしたことも考え合わせると,有機管理土壌だからといって,その全てでフェランらの推定が成立すると考えるのは危険であろう。