No. 354 EUの非食用生物経済を支えている世界の農地面積

生物経済

生物経済(bioeconomy)とは,陸地や水系の作物,樹木,動物,魚介類,微生物などの再生可能な生物資源から,食料,原料,材料,エネルギーなどを生産・販売して行なう経済のことである。石油や石炭などの化石資源から各種物質やエネルギーを生産する工業が,地球全体を含めて様々な環境に大きな影響を与えるとともに,化石資源を枯渇に追いやっている。それに比べて環境影響が少なく,再生可能な資源を使う,生物経済が世界的に重視され,多くの国で強化されてきている。

農産物のなかには非食用生産物があり,ヤシ油やココナッツ油,ナタネやヒマワリといった油料作物からの植物油,ゴム,繊維作物,非食用アルコール,動物の毛皮などがそうである。植物油や油料作物は,非食用物資としては,バイオ燃料,洗剤,潤滑油やポリマーに加工されて消費されている。

有限で様々な環境影響を及ぼしている化石資源の使用を削減して,その代わりに再生可能な生物資源を用いて,人間の生活に必要な非食用物資やエネルギーを生産することが強化されてきている。しかし,EUなどが多量に輸入しているヤシ油,ゴムなどの非食用物資を生産するのに,熱帯林が伐採されて農地が造成されているとしたら,資源や環境の保全を図るという意図に逆行していることになる。

こうした問題を意識して,下記の論文がFAOの統計などには出ていない非食用物資の生産量や貿易量を推定した。これらの概要を紹介する。なお,非食用物資の生産量や貿易量は,その生産に要した農地のフットプリントの面積(特定の経済活動に必要とされる生産可能な土地面積)で表示している。

(1) M. Bruckner, T. H?yh?, S. Giljum, V. Maus, G. Fischer, S. Tramberend and J. B?rner. (2019a) Quantifying the global cropland footprint of the European Union’s non-food bioeconomy. Environmental Research Letters. 14 (2019) 045011. 12pp.

(2) M. Bruckner, T. H?yh?, S. Giljum, V. Maus, G. Fischer, S. Tramberend and J. B?rner. (2019b) Quantifying the global cropland footprint of the European Union’s non-food bioeconomy: Supplementary Material 9pp.

●各国の非食用生物物資量とそれを生産するのに要した農地面積の計算方法

FAOなどの農業統計には生産物,例えば作物の収穫量が記載されているが,その使用用途別の数量は記載されていない。それを本論文は計算したが,その内容は下記に記載されている。

Bruckner M., G. Fischer, S. Tramberend and S. Giljum1 (2015) Measuring telecouplings in the global land system: a review and comparative evaluation of land footprint accounting methods Ecological Economics. 114: 11-21.

非食用物資として,(1) 特殊な工芸作物からの非食用バイオマス品目(繊維作物の織物,タバコ葉からのシガレット,天然ゴムからのタイヤなど)に使用される工芸作物,(2) 食用・飼料用とともに非食用工業物資(砂糖や油料作物からのバイオ燃料,家畜からの皮革や羊毛)の生産に使用されている品目,(3) 林産物(材木からの家具など)に分け,これらに入る作物や家畜について,その製造された物資量とその輸入・輸出量を工業統計から収集した。そして,当該物資を製造するのに要する原材料の作物や家畜の量を,一定の係数をかけて計算した。ただし,材木生産のための所要林地は計算せず,作物と家畜の生産に必要な農地だけを計算した。そして,作物や家畜を生産するのに要する農地面積を計算した。詳しくは,上記のBruckner et al (2015)をお読みいただきたい。

●主要国の人口1人当たり消費した非食用物資の生産に要した農地面積

1995年と2010年における,自国で生産したものと,輸入したものを合わせた非食用物資の国民1人当たりの消費量の生産に要した農地面積を比較すると,国によって大きな差が存在する。表1に示すように,オーストラリアは1199m2なのに対して,インドはわずかに75 m2にすぎない。著者のBrucknerらはその原因を特には考察していないが,国民の生活水準,当該作物や家畜の農地の単位面積当たりの収量レベル(収量レベルが低いほど所要農地面積が大きくなる),生物経済の国の政策での重視程度などによって異なるであろう。

T-01

大部分の国では1995年と2010年の間に所要農地面積が増加し,特に中国では,1人当たり100 m2未満から200 m2超に倍化した(絶対量では1210万haから2770万haに増加)。他方,オーストラリアではこの期間に所要面積が大きく減少した。これについて,著者は何ら論及していないが,農業の集約化が進んで,原料の単収が大きく増加したことが要因の1つになっていよう。日本は先進国の中では最低レベルにある。

●EUで消費した非食用物資の生産に要した農地の所要面積

生物資源を利用する政策が最も先行しているのがEUだが,2010年において,そうした非食用物資を生産するのにEU28か国で994万haの農地を使用している。しかし,EUが使用した輸入を含めた非食用物資の総量は,2820万haの農地で生産されたと推定され,EUの非食用物資の自給率は35%にすぎない(表2)。残りは輸入していることになる。

輸入した物資の生産に要した農地の所要面積が大きいのは,中国,北アメリカ,インドネシア,アフリカ+中東,EU以外のヨーロッパ,インドなどだが,最も顕著なのはアジアに強く依存しているということだ。そして,非食用物資に対する需要は,EUだけでなく,グローバルにみても急速に増加している。このことから推測すると,EUを始めとする先進国に非食用物資を輸出するために,アジアでの熱帯林の伐採などの拡大が懸念される。

T-02

●おわりに

 一般に,化石資源の利用は地球環境の破壊・劣化を加速するのに対して,生物資源は再生可能資源であり,その利用は地球にやさしいとの考えが持たられている。しかしそれだけでは片手落ちで,非食用物資を他国から安易に輸入するのを減らし,自国内の生物資源から製造したり,これまで廃棄している生物資源を活用して製造したりすることの強化が必要であろう。