No.346 陸上生態系には岩石から予想以上に窒素が供給されている

・岩石にも窒素が含まれている

陸上の自然生態系では,大気中の窒素ガスが微生物によって固定された窒素や大気降下物の窒素を植物が利用し,土壌の母岩となっている岩石からの無機態窒素の供給は無視できるとされている。

しかし,1900年代後半以降,生物的窒素固定や大気降下物から予想されるよりも多量の窒素が森林生態系に蓄積している事例が,少なからず報告されてきている。

他方,岩石にも岩石の基となる堆積物に含まれていた有機物に由来する窒素が含まれている。岩石中の窒素含有率は,多量に含まれる元素に比べれば,微量にすぎないが,窒素(N)の量は,岩石のタイプによって大きく異なり,陸地表面の約75%を占める堆積岩や変堆積岩は岩石kg当たり約500から600 mgの濃度のNを含み,火成岩ではN含有率がはるかに低く岩石kg当たり100 mg未満である。

こうしたことから,生物的固定や大気降下による窒素に加えて,陸上生態系では土壌の下にある基岩(土壌層の下にある岩石の総称で,当該岩石がその上にある土壌のもとになる場合は母岩というが,基岩は母岩でない岩石も含んでいる)から供給される無機態窒素が陸上生態系にとって重要な働きをしていることが,下記論文で,3つのアプローチ手法によって証明された。その概要を紹介する。

Houlton, B.Z., S.L. Morford and R.A. Dahlgren (2018, 6 April) Convergent evidence for widespread rock nitrogen sources in Earth’s surface environment. Science 360: 58?62.

論文本体

補足資料

・N物質収支によるアプローチ

:地殻の岩石が隆起してやがて風化されて陸地表面にNを補給していると考えると,地球全体でのNの物質収支のバランスがとれる

 最近の地球化学の発展によって,地球全体でのNの物質収支が描けるようになってきた。その際,短期と長期の2つのNの物質収支モデルが描かれている。

短期モデルは,大気圏,生物圏および人間活動圏の間でのN変換に焦点を当てて,海底の堆積層を地球のNの最終シンクとして扱い,それから先の動態を考慮していない。そして,大気圏から生物的窒素固定や大気降下物で陸地や海洋にインプットされたNが,物理的および微生物的脱窒過程によって大気圏に戻されて,如何にバランスがとれているかを強調している。

これに対して,長期モデルは,大気圏,生物圏および人間活動圏に加えて,マントルまでも対象にしており,海底の堆積層のNの一部がマントルに入り,そこで貯留されたり,火山噴火によって大気に戻ったり,地殻隆起によって堆積物由来のNが地球の表面に押し上げられて,風化によって無機化されるまでも対象にしたN交換の長期モデルである。

最近の研究によって明らかにされた数値に基づいて地球全体でのNの物質収支を計算し,海洋の堆積層から地殻岩石に移行するN量が年間約15〜35 Tg(テラグラム=兆グラム=106トン)であり,地殻岩石の風化によって陸地表面に供給されるN量は,年間約14〜34×106トンと推計された。これによって短期モデルで生じたNの不足が解消されて,地球全体のNの物質収支のバランスがとれた。

・堆積岩の有機態N削剥(物理的プラス化学的風化)速度の推定

岩石の削剥(さくはく)作用(物理的プラス化学的な風化)によって,岩石からNが放出されているが,その削剥速度はこれまでグローバルスケールでは十分検討されていない。このため,その検討を行なった。

既往の研究によって,堆積岩中の化石化した有機態炭素(C)の削剥速度は,年間100〜143×106トンC/年の範囲にある。これを,堆積岩中の有機物の平均C:N比(重量で平均8.013)で除して,N削剥速度は年間約12〜18×106トンNとなる。

また,別の研究によって,総重量で年間23×109トンのケイ酸塩岩石が風化されて,陸地から,海洋および海洋と接触していない内湖盆地に供給されていると試算されている。地球の岩石の平均N濃度の337 mg N/kgをこのケイ酸塩岩石重量に適用すると,ケイ酸塩結合Nの削剥速度は,年間約9×106トンN となる。

しかし,岩石の削剥速度は岩石中の風化に対する抵抗性の高い石英などの含有率で大きく異なる。そうした点を考慮すると,グローバルなN削剥速度(有機態プラス無機態N)は,年間14〜40×106トンNと推定される。

この値は,上記のNの物質収支から推定された,地殻岩石の風化によって陸地表面に供給されるN量の年間約14〜34×106トンと合致する。

・岩石からのN風化速度の地理的分布図の作成

地形,気候,岩石の密度,岩石中のNとナトリウム(Na+)濃度などの要因を取り込み,地球のあちこちの106の大きな河川水中に存在する岩石から風化によって溶け出たNa+の溶出速度の測定値を校正に使って,岩石Nの風化速度を計算するモデル式を構築した。そして,1 km2メッシュに分割した地球全域における岩石Nの削剥速度と化学的風化速度の分布マップを作成した。

その結果,地球全体では,年間約19〜31×106トンのN/年が陸地表面から削剥され,年間11〜18×106トンのNが化学的風化で放出されていると推計された。これらの値を地球の総陸地面積14.724 x 109 haで割ると,地球の陸地の平均で,年間1.3〜2.1 kg/haのNが削剥で放出され,年間0.7〜1.2 kg/haのNが化学風化で放出されていると計算される。

化学的風化の分布マップ(削剥風化の分布マップは掲載されていない)によると,アフリカの大部分ではN含有率の低い岩盤となっており,起伏も比較的小さく,乾燥気候条件であり,これらによってN風化速度が大きく抑制され,岩石からの化学的風化によって供給されるN量が年間1 kg/haかそれ以下のところが多い。これに対して,ヒマラヤ,アンデス,ヨーロッパアルプス,ロッキー山脈などの山岳地帯は,N含量の高い岩石が浮彫のように削られた景観が広く分布し,降水量が適度に多く,岩石の風化が生じやすい。そして,年間に10 kg/haを超えるNが岩石の化学風化で供給されているところが多く,陸地表面への岩石風化によるNの巨大な供給源と推定される。

分布図をみると,EUの平地や北アメリカの平地の大部分では,岩石からの化学的風化によって年間2〜3 kg/haのNが供給されている。これに対して,日本では火山が多くN含量の少ない火成岩地帯が多いためか,EUや北アメリカよりも岩石の化学的風化によるN供給量が少ないようにみえる。

そして,陸地表面へのNの供給源は,生物的窒素固定と岩石の風化,ならびに大気からのN降下物だが,生物的窒素固定は,北極圏のような高緯度地帯や高標高の山岳地帯ではわずかしかしかないので,そうした場の自然生態系では岩石の風化によるNの供給が重要な役割を果たしていると推定される。

・おわりに

集約的農業では,年間ha当たり2〜3 kgのNの供給だけでは農産物収量の維持・増進にあまり効果はない。しかし,自然生態系では大きな意味を持っており,今後,岩石からのNの供給を重視する必要がある。