No.204 バイオ素材をベースにしたプラスチックの持続可能性評価

●「バイオベースのプラスチック」とは

プラスチックといえば,これまで石油を原料として製造されたものがほとんどであった。しかし,近年,バイオプラスチックと呼ばれる,光合成などの生物学的プロセスをへて再生可能な二酸化炭素から合成された有機素材を原料としたプラスチックが注目を集めている。ただ,バイオプラスチックと呼ばれてはいても,現在は,前述のように光合成などの生物学的プロセスをへて再生可能な二酸化炭素から合成された有機素材だけを使って製造されたプラスチックとは限らず,実際には今日市場に出ている大部分のバイオプラスチックは,石油から合成された素材との混合物となっている。このため,バイオ素材だけから合成されたバイオプラスチックと,バイオ由来の素材と石油由来の素材との混合物から合成されたプラスチックとを包含して,「バイオベースのプラスチック」と呼んでいる。これに対して,石油由来の素材だけから合成されたプラスチックは「石油ベースのプラスチック」と呼ばれている。

●バイオベースのプラスチックが持続可能な製品とは限らない

プラスチックは現代社会に不可欠な素材であるが,主体となっている石油ベースのプラスチックは,次の大きな問題を抱えている。

(1) 化石資源の石油を原料にしているために,非再生可能資源の枯渇を促進し,その燃焼によって地球温暖化に寄与している。

(2) 微生物分解や堆肥化のできないものが多いために,使用済みプラスチックの埋め立てや焼却に広大な面積,労力やコストを要して,廃棄物処理を難しくしている。

これらの問題点を解決するものとして,バイオベースのプラスチックへの期待が高まっている。しかし,実際には今日市場に出ている大部分のバイオベースのプラスチックは,石油ベースのものとの混合物となっている。このため,バイオベースの素材を使った分だけ石油の使用量を減らしており,二酸化炭素排出だけに注目したライフサイクルアセスメントでは,多少は,地球温暖化に貢献するものと評価される(ライフサイクルアセスメントについては,環境保全型農業レポート.No.149 有機栽培水稲のLCAの試み参照)。しかし,バイオベースのプラスチックであっても,その大部分は,微生物によってたいして分解されるわけではない。そのため,微生物分解が可能な資材や,分解する能力の高い菌の事例が,数少ないが注目されている(環境保全型農業レポート.No.104 超強力な生分解性プラスチック分解菌参照)。

その上,第3の問題として,

(3) 製造時,使用時および廃棄時の人体や環境に対する安全性の視点からの,素材や添加物の毒性の問題がある。

例えば,塩化ビニールのような,塩素と芳香族化合物が含まれる廃棄物を焼却処分する際に,不完全燃焼になると,ダイオキシン類が発生するといった問題がある。また,バイオ素材の原料となるトウモロコシを栽培する際に,遺伝子組換えトウモロコシや化学農薬を多用して生態系に影響を及ぼす可能性もある。このため,バイオベースのプラスチックといっても,持続可能なプラスチックとは限らない。

こうした背景を踏まえて,下記の論文は,既往の文献を整理して,バイオベースのプラスチックの持続可能性を評価する手法を研究した。その概要を紹介する。

Clara Rosalía Álvarez-Chávez, Sally Edwards, Rafael Moure-Eraso, Kenneth Geiser (2012) Sustainability of bio-based plastics: general comparative analysis and recommendations for improvement. Journal of Cleaner Production 23: 47 – 56

●持続可能なバイオベースのプラスチックとは

バイオベースのプラスチックとは,USDA(アメリカ農務省)のバイオベースの製品の定義( USDA, 2004 )を踏まえれば,「その全てまたはかなりの部分が,野生の生物または栽培・飼育された農産物や林産物の素材によって構成されているプラスチック」と定義できる。そして,著者らは,「持続可能に製造されたバイオベースの素材とは,遺伝子組換え生物,危険な農薬を用いずに栽培し,土壌および生態系にとって持続可能と認証され,堆肥化できて,食用作物に健全で安全な養分を供給するもの」と定義した。つまり,持続可能な要素として,資源の持続可能性だけでなく,健康や環境に対して悪影響ができるだけ少ないことが要求される。

例え話をすれば,地球温暖化防止の観点だけからいえば,原子力発電は温室効果ガス発生量の削減効果が高いので,その範囲で持続可能な発電と評価されることも多かった。しかし,事故が起きて放射能が空中に揮散して環境や人間の健康に悪影響を与えたことを踏まえて,温室効果ガスの削減と同時に,環境や人間の健康に悪影響を与えないものでないと,持続可能な発電といえないというのと同じことを提起しているのである。

●代表的バイオベースのプラスチックの健康影響

1.ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs:polyhydroxyalkanoates)

蔗糖,植物性の油や脂肪酸のような再生可能原料の発酵によって生産される脂肪族ポリエステルで,最近ではエタノール生産で残された廃棄物のトウモロコシ茎葉からの生産も実験的に試みられている。

ポリヒドロキシアルカノエートの物理的抽出には,クロロフォルム,塩化メチレン,1,2-ディクロロエタンを含むハロゲン化した溶剤が使用される。これらの化学物質は強力な発ガン物質と見なされている。この他にも,ピリジン,メタノール,ヘキサン,ディエチルエーテルが使用されている。

ピリジンは可燃性で,目を刺激し,頭痛,不安感,めまい,不眠,吐き気,食欲不振,皮膚炎,肝臓や腎臓のダメージを引き起こす。メタノールは可燃性で,目,皮膚,上部呼吸器系を刺激し,頭痛,眠気,めまい,吐き気,嘔吐,視覚かく乱,視神経ダメージ(失明),皮膚炎を引き起こす。

ヘキサンは可燃性で,目や鼻の刺激,吐き気,頭痛,末梢神経障害(手足のしびれ,筋肉のおとろえ),皮膚炎,めまい,化学肺炎(嚥下液)を引き起こす。

ディエチルエーテルは可燃性で,貯蔵状態下で酸素と接触すると爆発性の過酸化物を生成することがあり,目,皮膚,上部呼吸器系を刺激し,めまい,眠気,頭痛,昏睡,吐き気,嘔吐を引き起こす。高濃度のディエチルエーテルの吸入は人事不省や昏睡状態を引き起こす。

ポリヒドロキシアルカノエートの化学的消化では,次亜塩素酸ナトリウム,メタノール,ディエチルエーテル使用される。次亜塩素酸ナトリウムは激しい刺激作用をもち,皮膚や目に激烈なやけどを引き起こす。発生する有毒な塩素ガスは呼吸器の通路を腐食し,口,鼻,喉を刺激する。次亜塩素酸ナトリウムを吸い込むと,やけど,腹部のけいれん,吐き気,嘔吐,低血圧,下痢,ショック症状,昏睡,死亡を引き起こす。

化学的消化でなく,酵素による加水分解方法なら,有毒化学物質を使用せず,作業者にとって最も安全な方法である。

2.ポリ乳酸樹脂(PLA:polylactic acid,polylactide)と純粋熱可塑性でん粉プラスチック(TPS:pure thermoplastic starch)

ポリ乳酸樹脂は,コーンスターチや蔗糖を微生物発酵して得られた乳酸を重合させて得られる,熱可塑性脂肪族ポリエステルである。純粋熱可塑性でん粉は,トウモロコシ,ジャガイモ,コメ,タピオカやコムギのでん粉から発酵せずに押出成形かブレンドするか,または化学処理して生成する。

ポリ乳酸樹脂やでん粉の製造での健康ハザードは,収量やでん粉特性改良のために遺伝子組換え生物(GMO)が使用されることへの不安である。2008年にアメリカの栽培面積の85%は遺伝子組換えトウモロコシとなっている。でん粉からのプラスチック製造に使用されている遺伝子組換え微生物は,GMOの悪影響が十分には理解されていないために懸念を抱かれている。GMOにかかわる人間の健康へのハザードとして,アレルギー反応,異常遺伝子とその生産物の毒性,代謝経路の変化などがありうる。ポリ乳酸樹脂はグルコースの発酵過程でGMOを使用することもありうる。

でん粉の微粉末は大気に浮遊し,爆発を起こしうるので,作業者は安全面での危険性を有している。ポリ乳酸樹脂製造では発酵培養液から乳酸を回収する過程で硫酸を,重合化触媒システムで有機スズを使用する。腐食性の強い硫酸や有機スズを含む触媒は,作業者の健康や安全性の問題になっている。有機スズ化合物は動物に神経毒,人間や動物に細胞毒性を示し,性分化に影響して,雌の雄性化や雌の水生動物に不妊を起こす。

グリセロールや尿素も可塑剤として純粋熱可塑性でん粉プラスチックに使用されている。グリセロールの危険性は低いと考えられている。尿素曝露によって,皮膚や目の赤色化や刺激,頭痛,吐き気,嘔吐,方向感覚の喪失や一時的錯乱が生じる。

3.バイオウレタン(Bio-urethanes:BURs),セルロース系プラスチック,リグニン系プラスチックおよびポリトリメチレンテレフタレート(Polytrimethylene terephthalate:PTT)

スポンジ,充填剤,防音材,塗料などに広範囲に使用されているポリウレタンは,ポリオールとイソシアネートを混合・反応させて製造するが,バイオウレタンは,ヒマシ油,ダイズ油,ヒマワリ油,アマニ油のような植物油の二価アルコール基や多価アルコールと,イソシアネートを反応させて製造する。セルロース系プラスチックやリグニン系プラスチックは,ワタの短い繊維から得られる天然セルロースやリグニンを化学的に修正して製造する。補強のためにプラスチックに天然繊維が添加されている。PTTは,1,1プロパンジオールと,テトラフタレン酸やジメチルテレフタレートのようなジカルボン酸とを反応させて生産した,芳香環を持った直鎖型のポリエステルである。1,1プロパンジオールは,トウモロコシでん粉由来のグルコースから微生物発酵で得ることができる。テトラフタレン酸やジメチルテレフタレートは,石油ベースの原料である。

これらのプラスチックにはいろいろなタイプがあって,その生産プロセスの危険性を全て記載することは難しいが,その製造プロセスで危険な化学物質を使用している。

バイオウレタンの製造には,労働基準法で疾病化学物質に指定されているのを始め,多くの法律で危険な物質として指定されているイソシアネートを使用する。その1つのトルエンジイソシアネートは揮発性の非常に高い液体で,目や呼吸器管の粘膜を強く刺激し,急性毒性として,陶酔感,運動失調,精神異常を起こす。トルエンジイソシアネート曝露後にごくわずかに吸引するだけで,作業者にぜんそくが生ずる。多量に吸引すると,胸が締め付けられ,咳き込み,無呼吸,つばが溜まって気管支炎,非心臓性の肺水腫が生ずる。トルエンジイソシアネートは,人体に発ガン性の可能性があると分類されている。このため,トルエンジイソシアネートの代わりにメチレンヂフェニールイソシアネートが使われることが多い。この化合物も皮膚,目や呼吸器管を刺激し,長期被曝すると,皮膚や呼吸器管が敏感になって,ぜんそくが生ずる。様々な多価アルコールやイソシアネートとの反応には,通常スズ誘導体を触媒として使用する(スズの危険性はポリ乳酸樹脂の節に述べた)。

木材のクラフトパルプからセルロースを生産する通常の方法では,高温,高圧で,硫化ナトリウムや水酸化ナトリウムを用いて過激な化学処理を行なっている。このプロセスの副産物としてリグニンが生ずる。硫化ナトリウムや水酸化ナトリウムは腐食性の強い物質である。反応によって,悪臭で可燃性の強い,硫化水素やメチルメルカプタン,2硫化ジメチル,その他の揮発性イオウ化合物が大気に排出され,作業者に危険である。

酢酸セルロースは,セルロースを酢酸と反応させて製造する。酢酸酪酸セルロースは,繊維状のセルロースを硫酸の存在下で,酪酸,無水酪酸,酢酸と無水酪酸で処理して製造する。酢酸プロピオン酸セルロースは,硫酸の存在下で,プロピオン酸,酢酸とこれらの無水物で処理して製造する。硝酸セルロースは繊維状セルロース素材を硝酸と硫酸の混合物で処理して製造する。これらの化学物質は全て,皮膚,目や呼吸器官に軽度ないし重度の損傷を与える。天然繊維から製造されたこれらのバイオプラスチックは生分解性である。

ポリトリメチレンテレフタレートの重合化反応に使用するテトラフタレン酸は,人体に軽い健康リスクを及ぼす。テトラフタレン酸の代替物として,ジメチルテレフタレートも使用される。これは少し揮発性のため,作業場で軽度の危険性を有している。しかし,皮膚が偶然接触して,溶融した液体(融点141℃)によってやけどをする可能性が問題になっている。

4.トウモロコシやダイズ由来の蛋白質系プラスチック

蛋白質はアミノ酸で構成された天然ポリマーだが,蛋白質を可塑剤や他の高分子と作用させて,押出成形プロセスによってプラスチックに変換する。この製造プロセスで使用する化合物は,次の健康リスクを有している。ホルムアルデヒドは発ガン性。グルタールアルデヒドは慢性曝露によって皮膚炎,目,鼻や喘息などの敏感皮膚を生ずる。なお,グリセロールは危険性の低い化学物質で,蛋白質の可塑剤として使用できる。

5.ナノバイオ混合素材

ナノバイオ混合素材とは,バイオベースの高分子と,添加物としてセルロースやリグニンのような天然繊維のナノ粒子を少量含む混合素材である。

ナノ粒子の製造過程における安定性に関する知見は乏しく,かつ,使用過程での分解や移動にともなって潜在的毒性が懸念されている。毒物学者は,ナノ粒子は呼吸器系から脳や他の器官に移動し,生物の通常の防御システムではナノ粒子を検出できず,その小さなサイズが蛋白質の構造を変化させうると仮定している。

また,セルロースやリグニンの繊維はクラフトパルプ方法で製造し,その性質補強のためにイソシアネートやアルカリで処理している(これらの危険性は「3」に述べた)。

●代表的バイオベースのプラスチックの環境影響

バイオベースのプラスチックに共通している問題は,バイオベースの原料の作物が一般に集約的に栽培されるため,かなりの量の農薬や化学肥料が使用され,それによって水や土壌が汚染され,野生生物の生息地にインパクトを与えるのではないかと懸念されることである。また,作物生産ではGMOの使用が増えており,また,作物成分から高分子素材への変換を行なわせる微生物や酵素に,GMOを使用することもある。GMOの環境懸念としては,BT毒素(鱗翅目昆虫などの神経毒)生成遺伝子や除草剤耐性遺伝子を導入した作物を栽培する際に生ずるBT毒素耐性害虫の増加や,雑草の雑草剤抵抗性の発達,遺伝的多様性の減少などが指摘されている。

ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)は,原料から酵素方法を用いて分離・純化すれば,危険な化学物質なしで製造できる。PHA製造に必要な化石エネルギー量は,PHA製造業者によれば,慣行プラスチックの3.5%のみとしている。生分解性が高い。

PLA(ポリ乳酸樹脂)の製造では,乳酸の高分子化過程で有機スズと1-オクタノールを使用する。PLA製品中には微小な有機スズ残留物が存在するが,これは脂質親和性で,水生生物や植物に取り込まれうるし,人体組織からも検出されている。1-オクタノールは水生生物に若干有毒である。2003年のライフサイクルアセスメントによると,石油ベースのプラスチックに比べて,PLA製造に使用する化石エネルギーが30〜50%少なく,二酸化炭素の排出量が50〜70%少なくなるとの結果もある。最近の研究では,2003年のデータよりも,二酸化炭素排出量は85%少なく,化石燃料の使用量は50%少ないことが示されている。

PLA,熱可塑性でん粉プラスチック,PHA,ゼイン(トウモロコシ蛋白質)系やダイズ蛋白質系のプラスチックは,生分解性で堆肥化できる。なお,バイオウレタンの堆肥化可能性についてのデータはなかった。熱可塑性でん粉プラスチックは,石油ベースの当該プラスチックに比べて化石エネルギー使用量が68%少ない。

ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)製造には,石油ベースの該当物(ナイロン6とナイロン66)よりも,エネルギー使用量が26〜50%少なく,温室効果ガスの発生量が44%少なく,化学添加物はなく,再生可能な天然素材を37%(重量で)必要とし,危険性のない廃棄物と分類され,通常埋め立てや焼却されている。また,石油由来のポリエチレンテトラフタレート廃棄物をリサイクルして回収されるテトラフタール酸やジメチルテトラフタレートを原料として使用することもある。

セルロースやリグニンのナノ粒子とバイオポリマーとで作ったナノバイオ混合物は,ナノ繊維がクラフト方法で作られ,機能を高めるために,危険な化学物質が使用されている。完全に生分解性であるが,燃焼,堆肥化やリサイクリングの過程におけるナノ粒子の潜在的毒性問題についての知見が不足している。

●結論

生分解性プラスチックは,化石燃料使用量の節減に加え,環境や健康への悪影響を減らし,非分解性プラスチック廃棄物の大量発生を避けられる可能性をもっている。しかし,生分解性プラスチックは,そのライフサイクルのなかで環境および労働衛生上の問題も有しており,これらの問題を軽減する研究が必要である。また,エタノールのような工業製品用の作物を栽培するために農地を使用することは,世界の食料供給を圧迫する。このため,農業副産物(トウモロコシ茎葉,草)や木材のような,食料生産と競合しない非食用資源から第2世代のバイオベースのプラスチックを開発する研究が緊要である。

環境にやさしく安全なプラスチックを製造し,バイオベースのプラスチック工業の持続可能性を取り巻く一連の問題に対処するのに必要なインフラや新しい政策を創出するには,より多くの研究が必要である。

こうした問題を踏まえて,著者らはバイオベースのプラスチックの持続可能性のランクづけを行なって,特に製造時の労働安全性と環境影響の2つの面について,表1のまとめを行なった。