No.163 固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造

●背景

 日本では,伝統的にワラやオガクズなどの敷料に尿を吸収させながら,敷料とふんを家畜に踏み込ませた混合物を定期的に畜舎から搬出して堆肥化してきた。しかし,ワラやオガクズなどの敷料が入手難となって,価格が高騰した。このため,敷料の代わりに,できあがった家畜ふん堆肥を吸水材(戻し堆肥)としてくり返し利用するケースが増えてきている。これによって堆肥の塩類濃度が上昇してきている。
 
 さらに,「家畜排泄物処理法」によって畜産経営体は雨水を遮断した不浸透性堆肥盤で家畜ふん尿を堆肥化することが義務づけられた。従来は雨水を遮断して一次堆肥化を行なった後,屋外に野積みして二次堆肥化を行なっていた。これにともなって,雨水によってかなりの塩類が溶脱されていた。しかし現在では,畜産経営体では野積みが禁止されたため,雨水による塩類の溶脱がなくなり,家畜ふん尿の塩類濃度が上昇している。

 雨水を遮断した施設栽培や,プラスチックマルチを全面に張った露地野菜畑では,従来からの化学肥料の不適切な施用によって,土壌の塩類濃度が上昇している。そうした土壌では,塩類濃度の高い堆肥の施用によって,土壌水の浸透圧がさらに上昇し,作物に濃度障害などが起きやすくなるので,家畜ふん堆肥は耕種農家から敬遠されている(環境保全型農業レポート「No.58 高塩類・高ECの家畜ふん堆肥への疑問」)。畜産経営体でなければ,野積みは許されており,野積によって除塩した完熟堆肥をPRしている肥料会社もある。こうした背景の下では,畜産経営体自体が,野積みでなく,家畜ふん堆肥の塩類濃度を下げられる技術が望まれる。それによって,耕種農家への家畜ふん堆肥の販売を拡大できると期待できる。

 他方,畜産経営体,特に酪農経営体は規模拡大を進め,1頭ずつ繋がずに,群として飼養するフリーストール方式(多数の搾乳牛を自由に行動させながら群として管理する飼養方式)の牛舎が増えてきている。欧米のように広い飼料生産圃場を持っているなら,ふん尿混合物を肥料として直接土壌に注入することもできる。しかし,日本の畜産経営体は十分な飼料生産圃場を持っていないケースが多いので,ふん尿を堆肥化して,耕種農家に使ってもらうことが必要である。コストのかかる敷料を使わずに,水分含有率は家畜ふん尿のなかでも特に高い乳牛(ホルシュタイン)のふん尿から,塩類濃度の低い堆肥を製造するには,貯留槽にいったん集めたふん尿を機械で固液分離して,塩類を多く含む液状分を除いた固形分を堆肥化するのが効果的な方法の一つである。

 乳牛ふん尿の固液分離装置にはいろいろな方式のものがあるが,最近,スクリュープレス型の高精度で故障の少ない装置が開発された。

●スクリュープレス型高精度固液分離装置

 (独)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)の畜産工学研究部は,含水率90%程度の乳牛ふん尿を含水率75%以下に固液分離する装置を民間企業と共同開発した(道宗直昭・原田泰弘・皆川啓子・山名伸樹・根津昌樹・福森功・(株)クボタ・平成機工(株) (2005) 高精度固液分離装置.農研機構 平成16年度共通基盤研究成果情報: 生研センター農業機械等緊急開発事業(緊プロ事業)開発機の紹介 平成16年度 高精度固液分離装置)。

 装置の概要を図1に示す。原料の乳牛ふん尿は全長1.8 mの装置に投入される。スクリーン内で,乳牛ふん尿は電動機によって1分間に22.5〜36.5回転する直径25 cmのスクリューによって移送されながら圧搾されて固形分と液状分とに分離される。固形分排出口にはバネ調節式の抵抗体によって圧力がかけられている。そして,スクリューの外周部には切り欠き部分が作ってあり,ふん尿に混入した異物(小石,釘など)の噛み込みによるスクリーンの破損を防止できるようにしてある。分離された液状分は下部の液状分排出口から排出される。

 スクリーンは,くさび型の断面をしたワイヤーによる金網で,その表面はできるだけ平滑になるように目幅1.0 mmで平行に組み合わせた金網(ウェッジワイヤースクリーン)で作った円筒である。2種類の金網を使い,前半は網目が平行したもの,後半は傾斜したものを組み合わせている。外に向かって幅が広がるウェッジワイヤーなので目詰まりも起きにくく,金網の表面が平滑なので,固形分はスムーズに排出口に向かって移送される。

 固形分は含水率75%以下(69.1〜74.3%)(従来機75〜80%),固形分の回収率も65%以上(64.8〜89.3%)(従来機35〜65%)と高く,毎時3〜5 m3程度(搾乳牛50頭分)を処理できる。含水率75%以下の家畜ふんであれば,副資材を混和しなくとも,適宜の切り返しを行うだけで迅速に堆肥化される。

 本機械は,クボタ環境サービス(株)と(株)ビック・エコの共同取り扱いで市販されている。

 固液分離すれば,塩類のかなりの部分が液状分に移るので,固液分離していないふん尿の堆肥よりも,堆肥の塩類濃度を下げることができる。ただし,生研センターは,堆肥の塩類濃度の低下の確認までは調査しなかった。

●固液分離装置を用いた塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥の製造

 神奈川県畜産技術センターは,生研センターの開発したスクリュー型固液分離装置に一部改良を加えて,塩類濃度の低い乳牛ふん堆肥を効率的に製造することに成功した(田邊眞・川村英輔・竹本稔・加藤直人(中央農研)(2010) スクリュー型固液分離装置で乳牛ふんを圧搾し固形分の塩類濃度を低下させる.平成21年度「関東東海北陸農業」研究成果情報: 田邊 眞 (2009) 家畜ふん堆肥の塩類濃度と塩類濃度の低い堆肥の製造.神奈川県畜産技術センター研究情報)。

 神奈川県畜産技術センターと(株)ビック・エコは,神奈川県の酪農家の飼養規模は30頭台が多いことから,機械のスケールが少し小さく,径15 cmのスクリューを使用し,電動機の規格を下げた機種を採用した。また,生研センターの装置は含水率90%程度の乳牛ふん尿混合物を対象とした装置だが,神奈川県の酪農家では畜舎でのふん尿分離が一般的なので、畜舎で分離したふんを対象として改良を行なった。すなわち,神奈川県の酪農家の多くでは,原料となる乳牛ふんの含水率が85%かそれよりも低いケースが多く,90%程度のものに比べて固液分離しにくい。このため,スクリーンの網目を2 mmとし,圧搾圧を調整できるように,固形分排出部に長さの違う筒状アダプター(10〜50mm)を取り付けた。アダプターは中空の円筒で,図1の固形分排出口を覆う形で取り付けられ,その外縁部は開口していて,固形分の排出口となっている。アダプターを装着することによって,スクリーンが長くなり,元々のバネによる抵抗に加えて,スクリーンに充満しながら搬送される固形分の厚みが増して,その分の抵抗が加わって,圧搾圧が高まることになる。

 改良試作機のアダプターが長いほど圧搾圧が高くなるが,フリーストール牛舎から排出された水分含有率85%程度の乳牛ふんの固液分離では,固形分の水分が10 mmアダプターでは78.1%だが,50 mmアダプターでは67.2%に低下した。また,固形分のEC(電気伝導度)値(水抽出,1:10)も低下し,50mmアダプターでは乳牛ふんのEC値11.2 dS/m (mS/cm)が固形分で4.6 dS/mとなり,EC減少率が58%となった(表1)。

 1994年12月の農林水産省農蚕園芸局長通達「たい肥等特殊肥料に係る品質保全推進基準について」で,家畜ふん堆肥のECの基準値が5 dS/m以下とされている。しかし,堆肥のEC値は品質表示しなくともよい項目とされ,「肥料取締法」による堆肥の品質表示基準には含まれていない。施設栽培土壌や集約的な露地野菜畑などでは,土壌のEC値がかなり高くなってしまったケースが多く,そうした神奈川県の耕種農家は,ECが5 dS/cmよりもさらに低く,2 dS/cm程度の堆肥を望んでいるケースが多いとのことである。

 乳牛ふんの水分が83%以下では粘性が高くなり,改良試作機での固液分離操作が困難となった。83〜85%の水分の乳牛ふんでも,適正に固液分離されない場合があり,乳牛ふんに加水した方が,スムースに固液分離できることが多い。そこで,水分85%程度の乳牛ふんに,ふんの重量の2〜4倍の水を直接加えて固液分離すると(1回圧搾),固形分のEC値が2.9 dS/m以下に低下した。ただし,多量の搾汁液が生じた。搾汁液は曝気して有機物を分解して,液肥として飼料作物に利用することなどになるが,液量が少ないほうが良い。そこで,表1のように,水を加えずに乳牛ふん尿を一度固液分離した固形分に,固形分と等重量の水を加えて再度圧搾すると(2回圧搾),50mmアダプターでは固形分のEC値を84%低減することができ,かつ搾汁液は材料の乳牛ふんの重量とほぼ同程度まで減らすことができた(表2)したがって,水を加えずに固液分離した固形分に同量の水を加えて2回目の圧搾を行なうことによって,搾汁液量をあまり増やさずに,EC値が2 dS/m程度(EC減少率は80%程度)の低い塩類濃度の固形分を製造することができた。

 固液分離した固形分は,オガクズなどの水分調整資材を用いなくても,そのまま堆積するだけで60℃を超える発熱をともなって,良好な堆肥化過程を確保できた。そして,改良試作機の処理量は,水分が90%を超える乳牛ふんなら200 kg/hを超えたが,85%の乳牛ふんで平均89 kg/hであった。

●岐阜県の乳牛ふん堆肥の減塩化の試み

 岐阜県畜産研究所養豚研究部は,特に施設栽培土壌で顕著なカリ過剰を抑制するために,2005年頃から,固液分離せずに,従来からの一般的方法で既に製造済みの乳牛ふんのカリなどの減塩化を試みた。すなわち,水分が少なくなった乳牛ふん堆肥に水を加えて,70%程度に加水した堆肥を,多板式固液分離機(穴の開いた多数のろ過板を揺動させて目詰まりを少なくした固液分離機)に投入して,固形物(減塩堆肥)と液体を分離した。脱水後の堆肥水分はほぼ60%程度で,ほこりの発生もない良い性状を示した。この減塩処理によってカリは16〜18%減少し,1時間あたり堆肥を約500 kg処理でき,その製造コストは2,700円/トン程度と試算された(岐阜県平成21年版環境白書.p.164 )。しかし, この方式では減塩効果が低く,実用化は難しかった。

●おわりに

 畜産経営体の製造した家畜ふん堆肥を耕種農家により広く販売できるようにするには,既に従来からの方法で製造した堆肥の塩類濃度を,野積みによらずに下げるための,簡便,かつ低コストで,環境を汚染しない技術も必要である。神奈川県畜産技術センターの技術を,製造された家畜ふん堆肥の減塩にも応用する試みも望まれる。