県南西部の佐野市を含む、群馬県にまたがる両毛《りょうもう》地区では小麦の生産がさかんで、夕方には毎日のようにうどんを打って夕食にしました。そんな土地柄で、そばは主に来客やお祝いの席に出されましたが、「かてそば」といわれる大根そばは日常食として食べました。大根が混ざってボリュームが増えたそばは、さ……
さっと火を通した大根の長めのせん切りと一緒に食べるそばで、シャキシャキと食感がよいものです。そばのカサ増し料理といえますが、野菜をゆでることで野菜のカサが減るので大量の野菜をとることができ、そばの食べ過ぎを防ぎます。食物繊維やカリウム、ビタミンCなども摂取できる、現代の食生活の改善にもつながるお……
丹沢山地のふもとにある秦野《はだの》市はかつてタバコ栽培がさかんで、裏作でソバや小麦が作付けされてきました。そばを上手に打つには手間と技術が必要なので、手打ちがもてなしでした。人が集まるとそばをふるまい、とくに冠婚葬祭のあとはしめにふるまわれることが多かったそうです。 暮れから正月にかけてもよく……
自家製のそば粉でそばを打ち、自家用畑の野菜をたっぷり使い、ちくわでごちそう感を出したそばです。来客時や大晦日には、飼っていた鶏をつぶして入れました。とくに寒い季節には打ちたてのそばとけんちん汁の組み合わせは格別です。里芋があれば、ぜひ入れたいもの。ボリュームが出てとろみもつき、体が温まります。 ……
耳うどんの珍しいかわいらしい形は耳に似せたもので、正月に食べると、一年中悪いことが聞こえずに済むといわれています。また、耳は鬼の耳を意味しており、食べてしまえば家の話を聞かれないから一年中悪いことが起こらないともいわれます。形が雛人形に似ているので「姫うどん」と呼ぶこともあります。正月にはゆでた……
いわゆる釜揚げうどんで、うどんに火が通り食べ頃になったら鍋から直接お椀にとり出し、ねぎやかつお節、ゆずなどの薬味を入れ、醤油をかけて食べます。山間部の奥多摩町では稲作ができず、麦やそば、あわ、きびなどの雑穀が多くつくられていました。小麦は製粉所で粉にしてもらいます。寒い冬には、炭焼きなどの山仕事……
県南部の東毛地域や西毛・中毛の平坦地は冬期の日照時間が長く乾燥しているため、米と麦の二毛作が行なわれます。かつては1日1食はうどん、おきりこみ(おっきりこみ)、すいとんなどの小麦粉を使った料理で、うどんが打てないと嫁に行けないともいわれました。 根菜類を入れた汁に生の麺を入れて煮たおきりこみが、……
上州(群馬県)の養蚕《ようさん》農家では、夕食はおおよそ「おっきりこみ」と決まっていました。県内でも西部と北部は麦づくりと養蚕がさかんな土地柄で、当時、蚕《かいこ》の世話をしながら男衆と共に野良に出て働く養蚕農家の女衆が、手早く大量につくれる料理として始めたのが発祥と伝えられています。 囲炉裏に……
地元でとれた小麦粉(地粉)を使ったうどんは、日常食としてもハレの日の食事としても供され、全県で広く食べられています。うどんを打つということは、炊事の中でとくに必須の技能とされて、昔は「うどんを打てないとお嫁に行けない」とまでいわれたそうです。 夏はとれたてのきゅうりや青じそ、ごまを使った冷や汁で……
日高市を含めた入間《いるま》台地は、耕地が火山灰土のため、水田がつくれず、小麦、大麦などの栽培がさかんな麦食文化の地域です。大麦は米に混ぜて節米に努め、小麦は粉にひいて麺をつくる習慣がありました。 うどんよりも生地を幅広く切るひもかわは、この地域では日常の食卓によく出される麺料理です。麺の幅や厚……
県北西部にある津久井地域では、煮こみうどんのことを古くから「にごみ」と呼びます。この地域は水田が少なく、米よりも小麦や大麦が多くつくられ、ご飯の足りない分にうどんやすいとんなどが食べられました。とくに夕飯にはうどんの日が多くありました。 生のうどんを直に煮こむので、塩辛くならないように塩を少量に……
山がちで平地が少ないため水田が少ない峡南地域では、米の代用として、地元の小麦を粉にした地粉のうどんを一年中日常的に食べていました。粉はひきたてがおいしく、最近は異常気象で夏が暑く秋になるとおいしくなくなってしまうので、自家用に小麦を栽培して製粉する家では粉を冷凍保存します。昭和40年代まで冷蔵庫……
季節の野菜を煮こんだ具だくさんの汁を、ゆでたうどんにかけたものです。汁に大根や里芋、にんじん、ねぎなどの野菜の甘味や旨み、油揚げの味が出て、寒い季節にとてもおいしく、これだけで食事にもなり、めったに使わない鶏肉が入るとごちそうだったそうです。昔は大晦日をはじめとする年中行事、また冠婚葬祭にはうど……
小麦粉をこねて包丁で切り、太めのうどん状にのばし、たっぷりの煮汁で煮こんだ料理です。包丁と呼ばれる麺は太さも長さも不ぞろいですが、細いところはつるつる、太いところはしこしこと、均一でないのが味わい深いのです。手でのばすのでエッジは立っていませんが、ところどころのねじれた部分に適度に角があり、おも……
うどんが入ったたらいを囲み、みんなで食べるたらいうどんは、阿波市土成町《どなりちょう》では、日常でもハレの日でも親しまれている料理です。 山がちで雨が少なく、稲作に向かない地域だったため、昔からよく小麦をつくっては水車小屋で粉にひき、うどんにして食べていました。山仕事に従事する人が多くいましたが……
大分市の戸次《へつぎ》地域でつくられている料理で、2~3mもの長さにのばした麺をつゆにつけながら食べます。戦国時代に大分を治めていた大友宗麟《おおともそうりん》に、好物のアワビの腸《ちょう》に見立ててこの料理を出したところ大層喜ばれたそうで、このことから「鮑腸《ほうちょう》」と呼ばれるようになっ……
小麦粉生地を薄くのばしてゆで上げたものを、はっとと呼びます。かにばっとは、モクズガニという淡水に生息する食用がにを殻ごとつぶしてだし汁をつくり、はっとを入れる料理で、かにの濃厚な味と香りがおいしい一品です。かにが産卵を迎える夏から晩秋にかけて、一関市川崎町周辺の北上川で捕獲されます。30~40年……
岩手県南は米どころですが、かつては小麦の栽培もみられ、小麦粉生地を薄くのばしたはっとが食べられてきました。名前の由来は、おいしくて農民が小麦づくりに精を出し、米づくりがおろそかになると案じた領主が禁じた(法度した)からといわれたり、ほうとうが転じたとの説もあります。 一関市周辺の県南部でははっと……
法度汁とはすいとんのことです。県内全域で食べられ、地域により「はっとう汁」「だんご汁」「とっちゃなぎもち」などとよばれます。「とっちゃなぎもち」は、生地を手でつまんで落とす(とっては投げる)ことからの呼び方です。「法度」はおいしくて食べすぎるので「ご法度」になったという説もあります。 かつては米……
いわゆるすいとんで、醤油味の汁を煮立て、こねた小麦粉を小さくちぎって入れます。つみっこ(片品《かたしな》)、つめりっこ(邑楽《おうら》)、おつゆだんご(吾妻《あがつま》)、ねじっこ(赤城山《あかぎやま》南麓)、だんご汁(沼田)といろいろな名前で呼ばれており、手早くつくれて野菜がたっぷりとれるので……
大分との県境にある豊前《ぶぜん》地域では、夏から秋のかぼちゃがとれる時期になると、かぼちゃのだんご汁をつくります。基本の材料はかぼちゃ、いりこ、小麦粉の3つですが、塩味だったり味噌味だったり、かぼちゃの切り方や煮くずし加減、加える材料など、各家庭の母の味があります。山国川《やまくにがわ》をはさみ……
小麦粉を使った日常食で、米の代用としてご飯が足りないときにつくります。「つん切りだご汁」ともいいます。煮干しでだしをとり、皮くじらと醤油で味をつけ、その中に小麦粉を水でこねたものを適当に手でつん切り(ちぎり)ながら、季節の野菜と煮て食べます。 旧山内町(現武雄《たけお》市)は県西南部の山間の農山……
熊本県では小麦粉や米粉を水と練って加熱したものをだごと呼びます。だご汁は野菜を入れた汁に小麦粉の生地のだごを落とし入れたもので、県内全域で広く愛されている料理です。普段はいりこだしで、特別なときは鶏肉を入れてつくりました。 米が貴重だった時代はご飯代わりに毎日食べていましたが、味噌や醤油で味を変……
南部地方では、野菜、鶏肉、きのこなど具だくさんの汁と一緒に煮こんだすいとんが年中食べられています。「とって投げ」ともいわれ、人寄せのときは必ずつくられます。普通のすいとんは、小麦粉をこねて薄くのばしたものですが、東北町には長芋とかたくり粉を使ったすいとんがあります。 上北郡の中央部に位置する東北……