三方を海に囲まれている渥美半島は、大きな川がなく水源に乏しかったため、稲作にはあまり向かず、栽培するのは水不足に強い作物に限られていました。それが昭和43年に豊川用水が開通してからは、さまざまな作物がつくられるようになり、今は日本有数の生産高を誇る農業地帯となっています。八杯汁は冠婚葬祭や節目の……
納豆汁は、すりつぶした納豆と根菜やきのこ、いもがらなどでつくる具だくさんの味噌汁です。加熱をすると、納豆の強い粘りが適度なとろみに変わり冷めにくく、食べると体が温まります。欠かせないのが里芋の茎を干したいもがらで、シャキッとした食感がおいしさを引き立てます。豆腐やこんにゃく、油揚げと食材も多く、……
松前町などの道南では、くじら汁は年越しと正月に欠かせないごちそうです。「くじらがくると、にしんが岸に寄る」とくじらは漁の神として崇《あが》められ、大漁への願いをこめ、また、大物になるようにと縁起をかついで食べられてきました。 くじら汁にはセリ科の山菜のにお(和名えぞにゅう)、わらび、たけのこ(姫……
宮城県の雑煮は「ひき菜雑煮」とも呼ばれます。ひき菜とは大根、にんじん、ごぼうをせん切りにし、さっとゆで、しぼって水けをきり凍らせたもので、凍らせることでしなやかな食感になります。正月中に何度も雑煮をつくるので、凍ったまま汁に入れればよいひき菜は年末に大量につくりおきしておくそうです。県全域で使わ……
正月料理である雑煮を正月以外に食べる地域は少ないと思われますが、島原地方では比較的通年、この具雑煮が食べられています。島原半島には雲仙岳が、島原市には眉山《まゆやま》がそびえ、有明海に面した地域なので山海の幸が豊富で、具雑煮はその幸をふんだんに炊きこんでつくられています。寛永14年(1637年)……
紀の川中流域の那賀《なか》地方で正月だけにつくられる、黒豆と、高野豆腐や野菜などの含め煮を混ぜ合わせた料理です。黒豆の五目煮とも呼ばれますが、一般的な五目煮とは似て非なるもので、黒豆は黒豆だけで甘く煮て、野菜や高野豆腐はそれぞれ味つけしてから混ぜ合わせます。手間はかかりますが、その分それぞれの素……
落花生の甘い煮豆と、かやくと呼ばれる別に煮た野菜を合わせたじゃじゃ豆は、みかんの産地として有名な県中部、紀伊水道に面し有田《ありだ》川の河口に広がる有田市初島地域の正月料理です。この地域は砂地のため開花期にたくさんの水を必要とする大豆を栽培できず、代わりに乾燥に強い落花生をつくって利用してきまし……
徳島では煮豆というと金時豆が親しまれており、かき混ぜ(五目ずし)やお好み焼きにも入れます。おせち料理の煮豆も黒豆よりは金時豆が多く、正月には甘煮だけを食べるよりも、甘煮と根菜類と一緒に炊いた「れんぶ」が県下全域で食べられてきました。建前《たてまえ》(新築祝い)にも大鍋いっぱいにつくって昼食にふる……
重箱にぎっしり詰められているのは、ぜんまいの一本煮、凍み大根や凍み豆腐、うど、身欠きにしんなど。秋田との県境にある西和賀では、盆や正月、祭りや冠婚葬祭などには乾物や塩蔵の山菜などを大鍋で煮て、必ず煮しめをつくります。 上にのっているのは、ぜんまいです。普段の煮物では食べやすいように切りますが、若……
北播磨地域のほぼ中央、平野部の穀倉地帯である小野市でつくられている正月の煮しめです。自家製の根菜類や里芋、手づくりこんにゃく、高野豆腐も入ります。北播磨北部の山間部では昭和30年代頃まで寒冷な気候を利用して高野豆腐が製造されていたので、この地域ではなじみのある食材です。ちくわ、椎茸など旨みを加味……
瀬戸内海に面する周南《しゅうなん》市の櫛ヶ浜地域に昔から伝わる料理です。法事や人が集まるときには、大鍋でつくっていました。彩りが美しく、甘酸っぱい炒り豆腐のようです。さっぱりとして冷やしてもおいしく、ご飯にかけて食べたりもします。 「つしま」の名は長崎の対馬藩に由来するといわれています。江戸時代……
豆腐の中に季節の菜を入れた豆腐で、1丁が大きくみっちりとして食べごたえがあります。菜豆腐が伝わる椎葉村は九州山地の中央に位置し、四方を山で囲まれた土地です。平地がない村では焼畑による農業が主で、1年目がソバ、2年目はヒエかアワ、3年目が小豆、4年目が大豆といった具合に輪作してきました。しかし収穫……