いかなごの一夜干しの天ぷらで、瀬戸内海に浮かぶ広島(塩飽《しわく》諸島)の料理です。高見島《たかみじま》、小手島《おてじま》にはいかなご専門の漁師がいて、小手島には釜揚げの工場もありました。釜揚げのいかなごは隣の広島でも時期になると購入してたくさん食べ、贈答品にもされました。 春になると瀬戸内海……
海から遠い県南西部の都城《みやこのじょう》地域では無塩《ぶえん》(塩をしていない鮮魚)は入手が難しく、いわし、あじ、とびうお、川魚(はえ)の干物を天ぷらや煮物にしました。肉を食べるのは正月や節句、祭りの折に飼っていた鶏をつぶす程度で、普段は干物が貴重な動物性たんぱく質源です。自家製の小麦粉や菜種……
県の北西部、江戸川を隔てて東京都と接する市川市の、河口周辺の行徳《ぎょうとく》一帯は、江戸前ののりやあさりが有名ですが、はぜもよく釣れました。自然豊かな三番瀬の干潟や川で、誰でも気軽にはぜ釣りをして、家々の食卓に上ったそうです。 かつては干潟の海に釣り糸を垂れると、入れ食い状態でおもしろいほどに……
鹿児島県との県境にあり、山に囲まれている都城《みやこのじょう》市は山野草に恵まれ、さまざまな種類のたけのこが育ちます。3月下旬の孟宗《もうそう》に始まり、4月のしのめ竹(しのぶ竹)やこさん竹、5月のうさん竹やからたけんこ、6月のでも竹(大名竹)と続き、秋には四角たけんこも出て、煮物や味噌汁、和え……
県北部の、新潟県と福島県との県境にある利根《とね》郡は、冬はスキーができるほど雪が降る地域です。雪解けとともに山々に芽吹く山菜は、山あいに暮らす人々にとって長い冬の終わりを告げる“喜びの食材”として利用されてきました。 春になると家の周りを一回りして、とれたものを天ぷらにします。油で揚げることで……
山地と平野の接する日高市では、里山の利用がさかんです。早春にはふきのとう、こごみ、せり、のびるなどの野草が芽吹き、低い山では、わらびやたけのこがとれ、旬の山野草を食材としてとり入れています。 山菜や野草は、野菜と違ってアクや苦味があるため、戦前は年間を通じて野菜がとれるこの地域では食べる人は少な……
県東部の室戸では、1月から2月に磯に行くと、あざみのようなギザギザした小さい葉を石の間に見つけることができます。小石をよけながら掘ると、白い茎と薄い赤紫色や白っぽい色をした長い根が現れます。これが浜あざみで、揚げるとほのかな苦味とごぼうに似た風味が広がり、シャキシャキとした食感でとてもおいしいで……
明日葉は伊豆諸島に自生している日本原産のセリ科の植物です。新島《にいじま》や式根島《しきねじま》では栽培もされていますが島のいたるところに生えており、庭先でも見かけます。今日、葉を摘んでも明日にはまた葉が生える、といわれるほど生育が早く、島の貴重な青菜として、おひたしやごま和え、天ぷら、佃煮にし……
東京都の約10分の1の面積を占める奥多摩町は、94%弱が山林です。沢には水温12℃前後の豊富な水が湧き、江戸時代から沢沿いに石を組んで、わさび栽培が行なわれてきました。自然がもたらした奥多摩わさびは辛みが強く、キレがよく風味も豊かで、将軍家にも献上されていました。 わさびといえばすりおろして使う……
福島の多くの家庭では、いただきもの(贈答品)をまずは仏壇に供えます。葬式まんじゅうもそのひとつで、供えてから時間がたち、かたくなったまんじゅうをおいしく食べるために揚げたのが、会津でつくられているこの料理のはじまりです。ただ蒸し直すのではなく、ひと手間かけて揚げることで「ごっつぉ」になります。カ……
長崎市は、江戸時代、外国への玄関口として発展してきた港湾都市です。材料を油で揚げる調理法が400年前にポルトガルから伝来し、天ぷらと称されるようになりました。長崎天ぷらは、江戸風、上方風の天ぷらとは違っているため、他国の人がそう名づけたという文献もあり、固有名詞となっています。卓袱《しっぽく》料……