<診断・防除>

 雑草防除の基礎知識



(3)雑草害と防除適期


1)雑草害の種類

 作物と雑草は圃場に共存して生育し,相互に直接あるいは間接的にさまざまな資源をめぐって競合している。雑草は作物生産に対する害だけでなく,景観や視界を妨げるなど人間生活の面での害もある。

 雑草害として最も問題になるのは作物の収量や品質に及ぼす影響である。雑草は光や養水分をめぐって直接的に作物と競合し,作物の分げつや分枝の減少,穂数や莢数の減少を引き起こし,減収や品質の低下をもたらす。競合による影響は病虫害に比べるとゆるやかであるため,初期は見逃されることもあるが,最終的な害の程度は見かけより著しい。アサガオ類などつる性雑草は,作物に絡みつき,収穫作業の効率も著しく低下させる。

 品質の面では,ダイズ収穫期に水分を含んだ残草は,コンバイン収穫時にダイズの汚粒発生原因となる。また,クサネムや雑草イネの種子がイネ籾や玄米中に混入すると,米の品質が著しく低下する。収穫時にイチビやカラクサナズナの混入した飼料を乳牛に給餌したため,異臭が牛乳に移行し,タンクごと廃棄せざるをえなくなった例もある。

 以上のような収量と品質への直接的な雑草害の他に,有害な病害虫の宿主になるなど間接的な害も存在する。斑点米の原因となるカメムシ類害虫の防除には,水田内のイヌホタルイや周辺のイネ科雑草の制御が必要である。また,農道に繁茂した雑草は農作業の妨げになり,公園,校庭,道路などの雑草も人間活動にさまざまな影響を及ぼしている。

2)作物や栽培法で変わる雑草害

 作物に及ぼす収量への雑草害の程度は,作物の種類,栽植密度や作期などの栽培法,さらに雑草の種類,出芽時期,密度などによって異なる。

 雑草害を受けやすい作物は,草丈が小さく,初期生育が遅く,葉が細く立ち,地表面の被覆力が低い作物である。ラッカセイ,ジャガイモ,サツマイモ,ニンジンなどのように地下部を収穫する作物は,地下部も雑草害を受ける。雑草の密度が低く地上部への影響は軽微でも,地下部が雑草害を受け,ほとんど収穫できなくなる例もみられる。

 栽植密度についてみると,密植に比べて疎植では雑草が繁茂しやすい。ダイズの畦幅は一般に70~80cmであるが,30cmの狭畦にするとダイズの競合力が高まり,早くにダイズの茎葉が地表を覆うため,除草必要期間を7~10日間短縮できる。また,早期栽培では作物の生育速度が遅くなるので,より長期間の除草が必要となる。

 施肥量や施肥法も作物と雑草の競合関係に影響を及ぼす。多くの雑草で肥料に対する反応が敏感である。全面全層施肥を行なうと,畦間の雑草の生育も旺盛となり,それを放任すると雑草の繁茂を許す。一方,側条施肥は作物に有利ではあるが,畦内に発生した雑草にも利用されるため, この場合には早期に除草する必要がある。

3)雑草の種類や密度で違う減収程度

 雑草の種類によっても収量への雑草害の程度が異なり,大型の雑草ほど影響が大きい。水田ではタイヌビエ,コウキヤガラ,畑作ではシロザ,タデ類などは影響が大きく,広葉雑草が作物より上部に伸長し,作物の上層を覆った場合に雑草害が著しい。

 雑草の密度も雑草害に影響し,密度が高いほど雑草害も著しくなる。どの程度の密度まで許容できるかは,作物と雑草の種類によって異なる。小型の雑草は低密度であれば雑草害はほとんど無視できるが,密生すると養水分の競合により減収を招く。

表3 雑草の発生量と減収率との関係
(千坂,野田,野口の報告から作成)
作 物競争草種収穫期雑草
乾物重(g/m2
減収率(%)
移植水稲タイヌビエ10010
20020
40040
50050
80060
1,00070
陸 稲メヒシバ,タデ類など73070
1300
ダイズメヒシバ,タデ類など41760
1180
ラッカセイメヒシバ,タデ類など72198
23033
トウモロコシメヒシバ,タデ類など3328
413

 さまざまな作物で播種あるいは植付け後,雑草を放任した場合の減収率は以下の程度である。水稲の稚苗移植栽培での雑草害による減収率は一年生雑草のみで20~50%,小型の多年生雑草マツバイやウリカワが発生すると5~25%であった。また,イヌホタルイ,ミズガヤツリ,ヒルムシロでは30~50%,クログワイ,コウキヤガラでは50~70%とされている。イネの直播栽培では雑草との競合期間が長くなるので雑草害は移植栽培より著しく,ヒエ類との競合で80%以上の減収もみられる。畑作物では,ラッカセイがメヒシバなどとの競合で95%以上,陸稲,テンサイ,サツマイモがメヒシバ,シロザなどとの競合で60~80%減収する。ダイズがメヒシバとの競合で50~60%の減収,同じくトウモロコシが20%程度の減収とされている。ムギ類,ジャガイモがスズメノテッポウなどとの競合でそれぞれ40~50%,40%減収する。

 雑草の発生量と収量への雑草害との関係を表3に示す。作物と発生雑草の種類によって雑草害の程度は異なり,トウモロコシのように雑草害を受けにくい作物もある。畑作では収穫期の雑草の乾物重が100g/m2程度以下であれば,雑草害は無視しうるとされている。

4)除草必要期間と許容限界量

 作物の播種あるいは植付け後,ある時期まで除草を続けて雑草がない状態を維持する。その後放任しても雑草の生育は小さく,収量への雑草害が生じなくなる。すなわち,それ以降の除草は雑草害の面では不要である。この一定の期間を除草必要期間という。

 除草必要期間は,作物の種類や作付け時期などによって異なる。ダイズについてみると,除草必要期間は寒地~寒冷地では播種後から45~55日,温暖地で30~35日,暖地の秋ダイズでは20日前後とされる。ダイズの播種後からこの期間中,除草しておけば,以後は作物の茎葉に遮蔽されて雑草の生育は抑えられ,雑草害を回避できる。各作物の除草体系はこの除草必要期間を念頭において組み立てられる。

 作物の生育初期の雑草は,その後の作物の生育や収量にあまり影響しない。作物の収量に影響を及ぼさない程度の雑草量を雑草許容限界量という。雑草許容限界量は作物の生育時期や除草時期によっても異なる。雑草は常に清潔に駆除する必要はなく,害の生じない程度に抑制しておけばよい。雑草防除のための作業は,雑草量を減らし,害の小さい種類に変え,作物の生育を良好にして作物の競争力を高めるために実施する。

 当年の収量への雑草害回避という点では,許容限界量以下の雑草に対する防除は不要と見なせる。しかし,放置した雑草が種子を生産すると,翌年以降の発生源となる。長期的な管理を考えると,翌年以降も雑草の発生量まで減少させるのが望ましい。ほとんどの雑草が,許容限界量以下でも,翌年同じ作物を連作した場合には密度が増加し,雑草害を及ぼす。したがって,長期的な予防策としては,毎年,雑草を低い密度に制御し続ける必要がある。

■執筆 野口勝可(元農研機構 中央農業総合研究センター)
■改訂 浅井元朗・森田弘彦(農研機構 中央農業総合研究センター・秋田県立大学生物資源科学部)