<診断・防除>

 雑草防除の基礎知識



(1)雑草とは何か


 雑草とかかわる人の立場によって雑草の定義は異なる。作物生産という観点からは,作物以外に“勝手に”生えてくる植物はみな雑草とされる。道ばたに生える植物の花を目にしたとき,散歩で通りがかった市民にとっては“野草”であろうが,路面を管理する事業者にとっては雑草である。

 雑草とみなされる植物は,耕起や刈取りなど,常に何らかの人為的操作が加えられる立地で生育できる特性をいくつかそなえている。山林原野を開墾して農耕地にした場合,最初に出現する植物は原植生の雑灌木や多年生草本が多い。その後,土壌改良を施し,耕起や施肥を繰り返すことで熟畑化が進む。そうするとしだいに原野の植物は姿を消し,一年生草本が主体の群落に推移する。この一年生草本が雑草である。

図1 日本における山野草,人里植物,耕地雑草および作物の生育地と種類数(笠原,1971を一部改変)

 人間による影響との関係から,草本植物を図1のように,山野草,人里植物,耕地雑草,作物に区分できる。山地や原野など,人為の及ばない場所で自生する植物群が山野草である。作物(栽培植物)は人間がその生活を維持するために選抜してきた植物群であり,人間の保護がなければ生育できない。この山野草と作物の中間に人里植物と耕地雑草が位置する。人里植物は街路,堤防,農道など,踏圧や草刈りといった人間による攪乱の加わる立地に生育する植物群である。野草,とよばれることも多い。耕地雑草は耕起,施肥,除草剤処理,中耕などのような耕種操作が頻繁に加えられる場に生育する植物群である。人里と耕地とでは人為的攪乱の種類や頻度が異なり,種組成も異なるが,人里植物と耕地雑草をあわせて雑草と呼ばれている。笠原(1968)は,日本におけるこれら植物の種数は山野草4,000種,人里植物500種,耕地雑草450種,作物500種としている。その後,多くの外来(帰化)雑草が人里や耕地に侵入・定着しているため,現在では雑草の種数はさらに多いだろう。

■執筆 野口勝可(元農研機構 中央農業総合研究センター)
■改訂 浅井元朗・森田弘彦(農研機構 中央農業総合研究センター・秋田県立大学生物資源科学部)