<診断・防除>
雑草は,作物の栽培にともなうさまざまな耕種操作がたえず行なわれる立地で繁殖できる特性をもっている。雑草に特有の性質を理解することは防除対策をたてるうえで重要である。
雑草はその生育時期や繁殖特性によって,図2のように大きく一年生雑草と多年生雑草とに分けられる。
一年生雑草は,種子によって繁殖し,一年以内にその生活環を全うする。一年生雑草の多くは,作物の収穫期以前にその種子を生産するため,生活環の短いものが多い。代表的な畑地雑草であるスベリヒユ,イヌビユは,夏期には出芽してから1ヶ月前後で種子生産を開始し,作物の収穫期までに多量の種子を圃場に散布する。
図2 雑草の生活環 |
一年生雑草はその生育時期によって,夏雑草と冬雑草とに分けられる。代表的な一年生夏雑草であるヒエ類,メヒシバ,タマガヤツリ,カヤツリグサ,コナギ,スベリヒユなどは春先から夏にかけて出芽し,晩秋までに成熟,枯死する。一方,スズメノテッポウ,コハコベ,ナズナ,ヤエムグラなどは秋に出芽,越冬し,翌春に開花結実し,夏期には成熟,枯死する一年生冬雑草である(越年草ということもある)。コハコベ,スズメノカタビラ,スカシタゴボウなど一年生冬雑草の多くは,北日本ではしばしば夏雑草と同様の生活環となる。
一年生雑草の種子は概して非常に小さいため,土壌中からの出芽深度は浅いものが大部分である。種子サイズの小さな一年生雑草は土壌処理用除草剤によって比較的容易に防除できる。しかし,天候によって出芽パターンは異なり,同じ年でも圃場での出芽が斉一でなく,長期に及ぶ。出芽の不斉一性は,湛水条件が維持される水田よりも,耕起による露光や,降雨による吸水が発芽を助長する畑地において,より大きい。このことが除草剤の効果が変動する一因となっている。
種子で繁殖する一年生雑草の防除の基本は,種子の生産を抑え,増殖を防ぐこと,そのためには作物の栽培期間中に雑草を繁茂させないことである。水田に発生する雑草と畑地に発生する雑草は種類が異なるので,田畑輪換はそれぞれに発生する雑草に対して有効な増殖防止技術である。野菜作と普通作を組み合わせた作付け体系も,両者の生育期間・管理時期が異なるので,特定の雑草が優占しにくい。土壌管理において,深耕を行なって雑草種子を多く含む表面の土層を下層に入れ,以後不耕起栽培とすれば寿命の短い雑草種子の減少に有効である。
しかし,種子の寿命の長い雑草は,こうした方法でも根絶は難しい。田畑輪換を含む耕種的方法により,長期的に雑草の増殖を抑制することが重要である。
多年生雑草多年生雑草は冬の低温時期や夏の高温時期に地上部が枯れた場合でも,地下部の栄養繁殖器官が生存し,その後の好適な条件で萌芽,再生する。多年生雑草は繁殖特性から単立型,地表ほふく型,地下拡大型に分けられる(図3)。
単立型は地ぎわから分げつするか,根出葉(地中や地ぎわの茎基部から直接葉がでて,地面にはりついたように展開する)を出して株をつくる。代表的な草種は水田ではイヌホタルイ,ヘラオモダカなど,畑地ではタンポポ類,ギシギシ類,オオバコなどがある。単立型の草種は概して種子の生産量が多く,水田でのイヌホタルイやヘラオモダカは大量に生産する種子でおもに繁殖する一年生雑草としての生育特性を示す。
地表ほふく型は,ほふく茎が地表や地中の浅いところを這い,節から芽や根を出して繁殖する。水田ではキシュウスズメノヒエ,セリなど,畑地ではカタバミ,イワニガナなどが代表的草種である。
地下拡大型は,生育期間中に地下部の栄養繁殖器官を伸長させ,その先端や途中の節から地上茎を萌芽して繁茂する。水田ではウリカワ,ミズガヤツリ,コウキヤガラ,クログワイなど,畑地ではワルナスビ,コヒルガオ,ハマスゲ,スギナ,キレハイヌガラシなどが代表的である。これらは根茎や塊茎,クリーピングルートを形成し,おもな繁殖源となる。地下拡大型の多年生雑草は繁殖力が旺盛で,土中20~30cmの深さからも地上茎を萌芽する。また,ロータリ耕などで地下茎が細断されても,断片から萌芽・再生し,一度圃場に侵入・定着すると防除が困難である。
これら多年生雑草の繁殖のしくみの違いは防除対策をたてるうえで重要である。
単立型は株が大きく,その基部が肥大する場合もあるが,株から離れた分株や塊茎を形成しないので比較的防除しやすい。移行性のある茎葉処理用除草剤を全面あるいはスポット処理すれば防除できる。また,株ごと引き抜けば,地中の栄養繁殖器官ごと掘り出しやすい。
地表ほふく型は地上のほふく茎で繁殖するため,移行性の茎葉処理用除草剤を散布し,地上部分を枯殺すれば地下部分まで防除できる。カタバミのように細い茎が地面に密着して繁茂し,ちぎれやすい草種もあるので,全体を手で引き抜くことは困難である。
図3 多年生雑草の繁殖特性(草薙,1977を基に作成) |
地下拡大型は最も防除しにくい。移行性のある除草剤を茎葉処理しても地下部の繁殖体まで十分枯殺できず,再生することが多い。クログワイ,ハマスゲ,スギナなどが繁茂してしまった場合は,1作を休耕し,非選択性で移行型の茎葉処理用除草剤を散布することを含めて,長期的な防除が必要である。これら草種はいわゆる難防除雑草であり,各雑草の解説で具体的に防除法を記載したので参考にしてほしい。
多年生雑草の根茎や塊茎,親株の基部など栄養繁殖器官には,種子より萌芽や出芽に必要な養分が多く含まれる。そのため,種子由来の一年生草種に比べ,出芽後の初期生育が速やかで,大きな苗(または幼植物)を形成する。出芽深度も深いため,土壌処理用除草剤の効果も期待できない。したがって,生育初期からの雑草害も著しい。
しかし,多年生雑草の根茎や塊茎などの栄養繁殖器官は一年生雑草の種子よりも寿命が比較的短い。たとえばオモダカの塊茎の土壌中の寿命は1年とされる。そのため,発生してもその後1~2年間徹底的に防除すれば根絶できる。田畑輪換をすると水田多年生雑草と畑地多年生雑草が交互に死滅し,効果的防除が可能となる。
なお,一年生雑草と多年生雑草の見分け方を図4に示した。
図4 一年生雑草と多年生雑草の見分け方 |
植物は水分条件への適応性から乾生植物,中生植物,湿生植物,水生植物に分けられる。雑草に関しては荒井ら(1955)による水生,湿生,乾生の区別が用いられる(表1)。
水生雑草はミゾハコベ,コナギ,タマガヤツリ,アゼナ,キカシグサなどで,水田雑草の大部分がこれに属する。水生雑草はいずれも湛水条件で発芽し,生育することができる。
湿生雑草は,トキンソウ,ノミノフスマ,タネツケバナ,イボクサ,コイヌガラシ,サギゴケ,スカシタゴボウ,スズメノテッポウ,タイヌビエなどで,湿潤な土壌条件に生育する。これらの雑草の中には,水田と畑の両方で生育できる田畑共通種が多い。タイヌビエ,タネツケバナ,イボクサのように浅い湛水条件でも発芽できる種もあるが,多くは飽水条件での発芽がすぐれる。
乾生雑草は,メヒシバ,エノコログサ,スベリヒユ,イヌタデ,シロザなどで,乾燥した畑状態に生育し,湛水条件では発芽しない。畑地雑草は乾生雑草が大部分である。
以上のように雑草によって土壌水分に対する適応性が異なるので,水田と畑地では田畑共通種を除いて発生する雑草の種類が異なる。前述した田畑輪換は水生雑草,乾生雑草の防除にも有効である。一方,湿生雑草は田畑輪換を継続するとしだいに優占する。
表1 耕地雑草の土壌水分適応性による区別 (荒井ら,1955) |
水生雑草 | タマガヤツリ,マツバイ,アゼナ,アブノメ,ホシクサ,ミゾハコベ,コナギ,キカシグサなど |
湿生雑草 | タイヌビエ,スズメノテッポウ,スズメノカタビラ,カヤツリグサ,コゴメガヤツリ,ヒデリコ,トキンソウ,ノミノフスマ,タネツケバナ,コイヌガラシ,スカシタゴボウなど |
乾生雑草 | メヒシバ,エノコログサ,オヒシバ,ナズナ,コハコベ,ザクロソウ,イヌビユ,スベリヒユ,シロザなど |
雑草防除の観点から除草剤を選択するうえでは,防除対象が,植物の系統分類の中でイネ科雑草なのか,カヤツリグサ科雑草なのか,これら以外の科に属し幅の広い葉をもつ群である広葉雑草なのかを見分けることが重要である。笠原(1968)がリストアップした前述の日本の雑草450種についてみると,イネ科雑草66種,カヤツリグサ科雑草43種,広葉雑草341種であり,広葉雑草の中ではキク科が37種,タデ科が26種を占めている。効果的な雑草防除を組み立てるためには,防除対象の圃場に発生する雑草の所属する科や群を知り,それに対応した除草剤を選択する必要がある。
除草剤はそれぞれ多様な作用特性をもつが,トリフルラリン,アラクロール,セトキシジムのようにイネ科雑草に効果の高いもの,ベンタゾン,アイオキシニル,リニュロンのように広葉雑草に卓効を示すものがある。雑草は種類が多く,判別はそれほど容易ではない。しかし,個々の種名はわからなくとも,図5のように大まかにイネ科雑草か広葉雑草か,あるいはカヤツリグサ科雑草か,さらに一年生雑草か多年生雑草かがわかれば,雑草管理の方針が立てやすい。
水稲用除草剤ではイネ科,広葉,カヤツリグサ科の各雑草に幅広い効果を得るために,それぞれに有効な成分を含む混合剤の利用が一般的である。一方,畑地除草剤は単一成分の剤も多いため,除草剤の選定にはより注意を要する。
図5 簡単な雑草の見分け方 |
日本は南北に長く,亜寒帯から亜熱帯まであり,雑草の分布にも地域性がみられる。水稲用除草剤では気象と稲作技術の地域性とそれに伴う雑草の発生の仕方を考慮した適用地帯を,北海道(寒地) , 東北(寒冷地北部) , 北陸(寒冷地南部) , 関東・東山・東海(温暖地東部) , 近畿・中国・四国(温暖地西部),九州・沖縄(暖地)に区分する。
表2 おもな雑草の発芽温度 (伊藤,草薙,宮原,野口ほかの報告から作成) |
区 分 | 雑草名 | 発芽最低温度(℃) | 発芽適温(℃) |
水田雑草 | タイヌビエ | 10~15 | 30~35 | イヌホタルイ | 15 | 約30 | スズメノテッポウ | 5 | 約20 | マツバイ* | 約5 | 30~35 | ウリカワ* | 10 | 25~30 | ミズガヤツリ* | 約10 | 30~35 |
畑地雑草 | メヒシバ | 約13 | 30~35 | オヒシバ | 15~20 | 30~35 | カヤツリグサ | 約13 | 30~35 | シロザ | 約7 | 約25 | スベリヒユ | 約13 | 約30 | ノボロギク | 約7 | 約25 | ツユクサ | 約5 | 15~20 | ヤエムグラ | 約0 | 約10 | ハマスゲ* | 約15 | 30~35 |
*:根茎または塊茎からの萌芽
水田雑草で全国に分布するのはタイヌビエ,イヌビエ,コナギ,タマガヤツリ,キカシグサ,イヌホタルイ,オモダカ,マツバイなどである。北日本にはヘラオモダカ,エゾノサヤヌカグサ,ヒルムシロ,シズイ,ミズアオイなどが多い。関東地方以西にはヒメタイヌビエ,コゴメガヤツリ,アゼガヤ,キシュウスズメノヒエ,ウリカワ,ミズガヤツリ,クログワイなどが多い。
畑地雑草ではメヒシバ,イヌビエ,イヌタデ,ハルタデ,ナズナなどが全国に分布する。北日本にはアキメヒシバ,シバムギ,コハコベ,シロザ,ナギナタコウジュ,スカシタゴボウ,スギナ,ツユクサなどが多い。また,関東地方以西にはオヒシバ,エノコログサ,チガヤ,スズメノテッポウ,カヤツリグサ,ハマスゲ,スベリヒユ,ムラサキカタバミなどが多い。北海道では多くの作物の播種期が5月で,この時期は気温が低い。そのため,低温発芽性のシロザやタデ類など広葉雑草の出芽が多く,イネ科雑草の出芽は少し遅れる。これに対して関東地方以西では,比較的気温の上昇した時期の播種となるので,メヒシバなどイネ科雑草が多くなり,広葉雑草で高温発芽性のヒユ類やスベリヒユなども多い。
草種別に見ると,キシュウスズメノヒエ,ムラサキカタバミ,ハマスゲなどの分布は関東地方以西に限られ,おもに西日本~沖縄で発生が多い。オヒシバは九州地方の畑地の強害雑草であるが,出芽時期が遅いため,関東地方の畑地では耕地内に侵入できず,畦畔や路傍,一部樹園地の雑草となっている。また,北海道の畑地雑草であるナギナタコウジュやタニソバは九州地方まで分布するが,東北地方以南では農耕地への侵入はみられない。また,同じ地域内でも作物の播種期や作付け時期によって,発生する雑草は異なる。早春の低温の時期に植付けるジャガイモ畑と,6月中旬に播種するムギ作後のダイズ畑では草種が大きく異なる。なお,おもな雑草の発芽温度を表2に示した。
海外から大量に輸入される飼料穀類などに種子などが混入したとみられる外来雑草が飼料畑や一部の普通畑,水田,河川敷などに蔓延し,問題となっている。一年生雑草のイチビ,オオオナモミ,ハリビユ,アレチウリ,アサガオ類,ヒロハフウリンホオズキ,オオブタクサなど,多年生雑草のショクヨウガヤツリ(キハマスゲ),ワルナスビなどである。今まで見たことのない雑草が発生していたら,これら外来雑草を疑う必要がある。外来雑草の中には,一度蔓延すると根絶の困難な種類もある。疑いがあったら,近くの指導機関などに問い合わせ,必要な場合は蔓延前の早期徹底駆除を行なう。
除草剤成分に対する抵抗性雑草が出現して1970年代以降に問題となっている。海外でのその最初の報告は,アメリカ合衆国ワシントン州の果樹園に生育するノボロギクに対するアトラジン(ゲザプリム)抵抗性(1970)である。10年間アトラジンを連用した圃場のノボロギクには通常の10倍の薬量でも除草効果がなかった。その後,多くの除草剤成分に対する抵抗性の発現が認められ,2013年時点で,延べで400種以上の雑草に抵抗性が報告されている。
日本における抵抗性雑草の発見はパラコート抵抗性ハルジオン(1982)が最初である。埼玉県の荒川河川敷の桑園では,10年間,年に2~3回もパラコートを散布していた。その後,パラコート抵抗性ヒメムカシヨモギ,オオアレチノギクやシマジン抵抗性スズメノカタビラなどが出現している。
水稲栽培では一発処理除草剤の使用が一般的であるが,その成分にスルホニルウレア系成分(SU剤)を含むものが多い。SU剤に抵抗性のミズアオイが北海道で1996年に発見され,以後,アゼナ,ミゾハコベ,イヌホタルイ,コナギ,オモダカなどにも抵抗性が発現している。
ムギ作ではチフェンスルフロンメチルに抵抗性のスズメノテッポウ,トリフルラリンに抵抗性のスズメノテッポウ,カズノコグサが確認されている。
また,2013年にはグリホサートを連用した静岡県の水田畦畔から抵抗性のネズミムギが確認された。グリホサート抵抗性の雑草は,1997年のマレーシアの樹園地におけるオヒシバでの報告が初の例であり,その後,除草剤抵抗性遺伝子組換え作物の世界的な普及とともに,ヒメムカシヨモギやシロザなどでグリホサート抵抗性集団が増加しつつある。
除草剤抵抗性雑草の出現には,同一除草剤の連用に原因がある。連用をさけ,作用性の異なる除草剤をローテーション使用するとともに,除草剤だけに頼らない, 輪作などを含む総合防除を行なうことが必要である。