県最南部の南部町は降水量が多く寒暖差が少ない温暖な気候で、しょうがの栽培に適しており、町の特産品になっています。とくに富沢地区は一年中雨が多くしょうががよくとれ、店では1㎏単位で売っているほどです。佃煮や天ぷらは秋に大量にとれるしょうがを薬味ではなく野菜として利用する、産地ならではの料理です。佃……
静岡市などの県中部では、新嘗祭《にいなめさい》(11月23日に五穀豊穣に感謝する祭り)や正月、人の集まるときには、おひらという野菜の煮物を用意します。野菜は形を生かすように大きめに切り、かつおだしと砂糖、醤油でやや甘めの味つけで丁寧に煮て、一人ひとりの器に1種類ずつ、皿にいっぱいになるように盛り……
うちごとは生大豆粉のことで、生大豆粉でつくっただんごと刻み昆布を入れた煮物です。境港市は砂地で稲作に適さないため、さつまいもを補食とし、干したさつまいもを保存しておく文化があり、同様に大豆も粉にして保存食として利用されてきました。昔はこの煮物がお盆の頃によくつくられ、だんごをお供えする風習があり……
清明祭は、中国から伝来した祖先供養の行事といわれ、旧暦の3月上旬、二十四節気の一つ清明の頃盛大に行なわれます。墓前に親族や一族が集まり、重箱料理や果物などをお供えし共食します。聞き書きした那覇市の家庭では、本家が重箱料理をつくり、1970年代にはいとこやその子どもまで30名ほどが集まったそうです……
魚の刺身を昆布ではさんだもので、水分を昆布が吸って魚はねっとりとしてきます。魚自体のうま味(イノシン酸)と昆布のうま味(グルタミン酸)の相乗効果でさらに味わい深くなっています。 富山県の食文化には昆布が深く根づいており、どの家庭にもいろいろな昆布が常備されています。結納や結婚式の引き出物には箱入……
志賀島は博多湾にある、砂州で陸続きになっている島で、北側は玄界灘に面しています。歴史のある古い漁師町で、豊かな海ではぶりや鯛をはじめ、いさきやあじがとれ、また、さざえやあわびをとる海士漁も行なわれており、年間を通して漁業がさかんです。市場には生きた魚を出荷し、自分たちは市場に出せない落ち魚(活け……
2~3月にとれる薄くてやわらかい真昆布の若芽、若生昆布を使ったおにぎりです。若生まんまとも呼ばれ、津軽半島の沿岸部、陸奥湾や津軽海峡に面した地域で昔からつくられてきました。おにぎりは若生昆布とご飯だけとシンプルですが、若生昆布ならではの磯の香りと昆布についた塩けがご飯と合わさり、絶妙な味です。ご……
「かて飯」というと、米を節約するために雑穀や大根、いもなどで増量したご飯を指すことが多いのですが、津久井地域や他の県北西地域では、人寄せのときや物日《ものび》(祝いごとや祭り)につくるごちそうのことです。 東京や山梨に接する津久井は、山に近く水田が少ない畑作地域です。家でとれた野菜やきのこなど、……
巻いた昆布がやわらかく、うま味がきいた甘すぎない品のいい味のすしです。奈良県でつくるのは下北山村周辺だけですが、同様のすしは和歌山県、三重県にもあります。下北山村は県の東南端、四方を山に囲まれ、和歌山県や三重県に接していることから、両県の食文化の影響を色濃く受けています。 正月の祝い料理として、……
すし飯がぎゅっと詰まった、ご飯をたっぷり食べる押しずしです。紺と赤の鮮やかないろどりは、p61の柿の葉ずしと同じ、「紺のり」と桜えびの取り合わせ。すしの底には酢漬けの魚が隠されています。押しずしタイプは金沢市周辺でよくつくられています。 酢漬けの魚は、かつて春はいわし、秋はシイラといわれましたが……
「バッテラ」はポルトガル語でボートや小舟のこと。起源は諸説ありますが、明治20年代に大阪で生まれました。きずし(しめ鯖)に白板昆布が加わった、うま味の深いすしです。白板昆布は酢漬けの昆布を薄く削ったおぼろ昆布の最後にできるもので、関西では正月の鏡餅の飾り昆布としても使われます。大阪は“天下の台所……
県中部で昔からなじみのおでん種といえば、黒はんぺん、すじ、ちくわです。黒はんぺんは静岡特産の練り製品で、さばやいわしを骨ごとすりつぶしてゆでたもの。すじは、かまぼこ製造の際に出た白身魚の皮や中落ちを材料とした練り製品で、緻密でしっとりとした食感と深い旨みがあります。これらいろいろな練り製品を、特……
魚のすり身を昆布で茶巾のように包んで煮たものを半分に切ると、人がほおかぶりをしている形に見えるおもしろい昆布巻きです。「ほおかむり」とも呼びます。茶巾のように包むのは、すり身が煮くずれないための工夫だと思われます。下関市の日本海側、海に面する小串《こぐし》周辺で食べられてきました。春になるといわ……
青森ではナラタケのことを「さもだし」「かっくい」などと呼びます。特有の味と香りが好まれており、加熱をするとつるりとした喉ごしになります。南部地方や津軽地方では、秋になると近くの山に行ってとったり、家族や知人からもらったりします。そうすると必ずつくるのがさもだしの塩辛です。 「塩辛」と呼ばれるのは……