手で薄くのばした小麦粉の生地「はっと」を具だくさんの汁に入れた県北の料理で、「つゆはっと」「はっと汁」とも呼ばれます。県北の仙北地域や大崎地域は米どころですが、かつては伊達藩による「買米制度」(年貢米以外の余剰米を安値で強制的に買い上げる制度)により、米農家でも麦飯や小麦粉を使った料理をよく食べ……
南部地方では、野菜、鶏肉、きのこなど具だくさんの汁と一緒に煮こんだすいとんが年中食べられています。「とって投げ」ともいわれ、人寄せのときは必ずつくられます。普通のすいとんは、小麦粉をこねて薄くのばしたものですが、東北町には長芋とかたくり粉を使ったすいとんがあります。 上北郡の中央部に位置する東北……
高梁《たかはし》市などの県中部から北部にかけては、寒冷な気候で昔は米が十分にとれず、小麦もつくられておらず、雑穀類を栽培して主食の補いとしました。たかきび粉のだんごは、小麦粉のだんごよりもつるっとした口ざわりがとてもおいしいものです。 この汁は保存のきく根菜類とたかきび粉で簡単にでき、だんごのピ……
石鎚《いしづち》山系の中山間地域で食べられていたとうきび(在来種とうもろこし)の粉を、具だくさんの汁ものに入れた主食兼おかずの和風ポタージュのような料理です。おつりの「つる」は「まとめる」「とじる」という意味です。 かつては山の斜面を利用した畑作が多く、とうきびは貴重な主食でした。収穫後は軒下で……
大阪では小麦粉料理を「粉もん」と呼び、家庭でも店でも大変親しまれています。お好み焼きはたこ焼きやいか焼きと並んで、粉もんの代表格です。粉をだし汁で溶いたところに野菜などの具材を混ぜて焼きます。大阪では肉といえば牛肉ですが、お好み焼きと焼きそば、粕汁、カツには豚肉です。牛肉よりも脂が出るので、これ……
三平汁は塩漬けやぬか漬けの魚と野菜でつくる塩味の汁で、北海道の伝統的な魚の汁です。江戸後期に各地の民俗や歴史、地理などの記録を残した菅江《すがえ》真澄《ますみ》の日記『蝦夷喧辞辯《えみしのさえき》』にサンペ汁が掲載されており、「北海道」の命名者とされる松浦武四郎の『再航蝦夷《えぞ》日誌』にも記述……
かじかは別名「鍋こわし」、おいしくて鍋をつついて壊してしまうことから、こう呼ばれています。ややグロテスクな姿ですが、よいだしが出て魚の汁の中でも味がとくにおいしいです。新鮮なかじかが手に入るとまずつくるのが味噌汁で、残ったら塩でしめて三平汁にしました。北海道の最北に位置する稚内市は、宗谷海峡を挟……
真だらの頭、エラ、中骨、内臓などの「じゃっぱ」を使い、味噌味や塩味でつくる青森県の冬の郷土料理です。じゃっぱとは津軽弁で「雑把」の意味。以前は各家庭で年取り魚の真だらを一本まるまる購入すると身と白子、たらこをおかずや酒の肴にし、残ったじゃっぱを汁にしていました。頭から尾っぽまで捨てることがない始……
めぎすは和名をにぎすといい、きすに似た上品な白身の魚です。きすとは別種の魚ですが、目が大きいきすのようなので「めぎす」と呼ばれたり、きすに似ているので「にぎす」と呼ばれるようです。漁獲量は石川県が第1位で、もう30年以上全国の3割近くを占めています。7~8月の底曳《び》き網の休漁期を除き、年間を……
山口県ではかわはぎやうまづらはぎのことを「めいぼ」「めんぼ」「めぼう」「はげ」などと呼び、味噌汁や煮つけや鍋物で食べます。身の骨離れがよく、子どもも食べやすい魚です。秋から冬にかけて、めいぼは肝がおいしくなります。肝入りの味噌汁は、子どものときは生臭いと思っていたが、大人になると肝をそのままある……
えそのミンチ(すり身)のだんごが入ったかわいい吸いものです。白いだんごと野菜の緑色との対比もきれいです。骨がなく子どもでも食べやすく、魚のだし汁のおいしさを伝えるのにぴったりの一品です。 えそは白身でおいしい魚ですが、長い小骨が多いので家庭でえそを料理すると、小骨をいちいちとり出しながら食べるこ……
根菜をたっぷり入れたのっぺ汁はのっぺい汁とも呼ばれ、冬になると各地で食べられます。県東部ではとくに赤貝を加えたものが親しまれ、貝と野菜の濃厚な旨みが溶け出た汁は絶品です。島根で赤貝と呼ばれているのはサルボウガイ。すしネタや刺身にするアカガイより小型の貝で、冬の訪れとともに食卓に並びます。身が赤い……
津軽地方を中心に食べられている冬の郷土料理です。大根、にんじん、ごぼうなどの根菜と、春にとって保存しておいたふきやわらび、ぜんまいなどの山菜、大豆、凍《し》み豆腐などがたっぷり入った実だくさんの汁で冬の野菜不足を補い、体をあたためる料理としてつくられています。 津軽では小正月を「女正月《おんなし……
料理名からは汁ものと想像することができませんが、栃木県民にはかんぴょうの入った汁ものとして好まれています。決して煮物ではありません。やわらかく煮えたかんぴょうがフワフワの卵をまとって舌触りがよくコクもあります。 かんぴょうそのものは、味に癖がなく、色も白いので、いろいろな料理に使えます。保存性が……
金沢産のれんこんは加賀れんこんと呼ばれ、加賀野菜を代表する食材です。でんぷん質が多く、太く肉厚で粘りが強いのが特徴。8月下旬に収穫される最初のものはシャキシャキ感が強く、新れんこんと呼ばれます。8月から翌年5月まで長期出荷され、ほぼ一年中購入できます。家庭では煮物をはじめ天ぷら、酢の物やちらしず……
近江八幡や五個荘《ごかしょう》の近江商人宅でよくつくられていた夏の味噌汁です。汁に入れるのは夏にたくさんとれるなすとごまだけで、非常にシンプルです。すったごまで濁った汁が泥のようで、格子に切れ目を入れたなすが亀の甲羅のように見えることからこの名前がつきました。 米どころの東近江では、各家で味噌を……
粕汁は、寒い冬の汁ものとして重宝されてきました。昔は新巻鮭のアラを入れましたが、今は豚肉などでつくります。材料は安価なものばかりですが、濃厚な汁ができ、冷える日の夕食には最適です。小いも(里芋)を入れることもあり、何を使ってもいいのです。そのときある材料と酒のしぼり粕を利用した汁ですが、白さの中……
煮干しのだし汁に地元でとれた野菜やいもを加え、地元でとれた米を原料とする酒粕や白味噌で味をつけた料理です。香川県の酒蔵は1700年代後半から1800年代にかけて、綾川《あやがわ》や財田川《さいたがわ》、金倉川《かなくらがわ》、弘田川《ひろたがわ》の伏流水など酒造りに重要な水があって米がとれる中讃……
焼き物の町、有田で窯場(陶磁器を焼く窯のある作業場)の職人さんたちの冬の夜食につくられたものです。粗くおろした大根が入った味噌汁で、ご飯や漬物とともに食べましたが、ときにはもちや皮くじらが入るとごちそうになりました。窯場は火を焚《た》いている窯の近くは暑いですが、水を使う作業も多くて冷えるので、……
単に「いも汁」ということもあります。いもは「つぐねいも」と呼ぶずんぐりと丸くゴツゴツとしたタイプで、とろろにすると粘りが強くおいしいものです。米の収穫が終わると、喜びと感謝の印に新米を神棚の「おどくう様(火の神、一家の守り神)」に供えます。そして、つぐねいものとろろ汁で新米をたっぷり食べました。……
県西部の安芸《あき》地方では秋になると、五穀豊穣を祝い翌年の豊作を祈る氏神様の祭りが各地域で開催されます。廿日市《はつかいち》市地御前《じごぜん》地区では昔は10月19日に祭りが行なわれました(現在は10月第2土日)。 地御前地区の氏神様は大歳《おおとし》神社で、祭りにはお面をかぶった「ハナ」が……
生の大豆をすり鉢でクリーミーになるまですった呉を味噌汁に入れると、ぶくぶくと泡立ちます。吹きこぼれる寸前のふわっとした状態が食べどきで、ふわふわの舌ざわりに濃厚な大豆のうま味とだしや味噌の風味が合わさり、滋養に満ちた味がします。結婚式、葬式、法事などのごちそうでした。 この呉汁は嶺北《れいほく》……
大豆をすりつぶした呉を、具だくさんの味噌汁の中にだんごのように落としていきます。つなぎは入っていないので、煮えながら徐々に崩れていきますが、食べごたえのある汁になります。県北は黒大豆の名産地で、黒大豆をすりつぶして味噌汁に入れる呉汁は、風味のよい懐かしい味です。 黒大豆は畑で育てますが、田んぼの……
「すったて」の語源はすりたて。すりたての大豆を食べる呉汁で、時間がたつとおいしくなくなります。大豆の香りを楽しむために、すった豆を加熱するときには決して煮やさない(沸騰させない)ことが大事です。 豪雪地帯である合掌造りの里・白川郷の冬に、除雪作業の後などに体を温めるのには欠かせません。とても濃厚……
大豆は「あぜ豆」といい、以前はどこの家でも田んぼの畔《あぜ》に植えている身近な食材でした。栄養も豊富なため、鳥取の食卓では大豆や豆腐などの大豆製品が頻繁に登場します。中でも水で戻した大豆をすった「呉」を入れた呉汁は、豆腐のように大がかりな道具を使わず少量の大豆でできるので、冬、各家庭でよくつくら……
ふやかした大豆をすりつぶし、味噌汁に入れた素朴な味わいの汁です。かつて、年貢の取り立てで米が十分に食べられなかった時代に、空腹を満たす料理としてつくられるようになったともいわれています。県内各地で食べられており、秋から春にかけての日常の食卓に欠かせない料理です。以前は仏事や法事などの行事食として……
納豆汁は、すりつぶした納豆と根菜やきのこ、いもがらなどでつくる具だくさんの味噌汁です。加熱をすると、納豆の強い粘りが適度なとろみに変わり冷めにくく、食べると体が温まります。欠かせないのが里芋の茎を干したいもがらで、シャキッとした食感がおいしさを引き立てます。豆腐やこんにゃく、油揚げと食材も多く、……
松前町などの道南では、くじら汁は年越しと正月に欠かせないごちそうです。「くじらがくると、にしんが岸に寄る」とくじらは漁の神として崇《あが》められ、大漁への願いをこめ、また、大物になるようにと縁起をかついで食べられてきました。 くじら汁にはセリ科の山菜のにお(和名えぞにゅう)、わらび、たけのこ(姫……
地鶏と根菜を使った具だくさんの味噌汁です。島津藩政時代には武士の士気高揚のため薩摩鶏《さつまどり》による闘鶏を奨励しており、闘鶏で負けた鶏をつぶし、汁にしたのが始まりとされています。当時はぶつ切りの薩摩鶏と野菜の鍋を大勢で囲む豪快な男の料理でした。 薩摩鶏は、江戸時代に薩摩藩内で作出された気性の……