農業技術大系「果樹編」2025年版を収録しました。
今回は,4つの特集コーナーを用意しました。
1つめは,「人工受粉に使う花粉をめぐる課題」にフォーカス。
良質な花粉の確保には多くの労力と経費がかかります。そのため,「買ったほうが安いしラク」という現場の声も少なくありません。ただ,花粉の購入にはリスクを伴い,キウイフルーツでは,かつて世界的にかいよう病(Psa3)が流行して,輸入花粉の供給が一時ストップしたことがありました。一方で,高齢化と人手不足が進む中,受粉作業そのものの負担軽減も大きな課題となっています。
そこで今号では,花粉の購入割合が高いナシ,キウイを中心に,花粉(花蕾)を効率的に採取できる雄木の仕立て方(写真①)や,花蕾の採取作業を大幅に短縮する専用器の開発など,花粉の安定確保と省力化の両立に向けた工夫を紹介しました。
また,省力的なナシの混植自然受粉栽培法,低温下でも花粉発芽のよいナシ品種の選抜とその特性評価,さらにカキでは受粉昆虫の活用事例も取り上げました。

左:平棚栽培(慣行・成木),右:Tバー仕立て(定植3年目)
2つめの特集は,今回で3回目となる「温暖化対策」です。今回は,対策のカギとして期待される気象情報の活用について取り上げました。
近年は、各種の気象情報もかなり高度化しており、それらを活用して被害の有無や発生時期、果実品質などを高精度に予測することで、各種対策の費用対効果を高めるとともに、既存技術のスマート化を進めることが可能となってます。今号では、気象情報をもとにした活用が期待される「果樹生育モデル」の開発状況と,パインアップルにおける事例を取り上げました。
また,S-ABA(天然型アブシジン酸)液剤を用いたブドウ(巨峰,ピオーネ)の着色促進効果(写真②)や,モモの凍害と台木品種との関係性についても紹介しました。

着色始期にABA1,000ppmを散布処理し,散布処理から収穫まで温度を昼夜とも26℃に管理した自然光型人工気象室で栽培した果房
3つめは,温暖化の進行や国内での需要増への期待から注目される熱帯果樹2品目,パインアップルとバナナの栽培技術と,生産者事例を収録しました。
最後は,労力・コストをかけずに生産力回復をはかる各種技術に注目しました。
1つは,作業性に優れた「列植」型の樹形・整枝についてで,温州ミカンの双幹形(写真③),ウメの片側一文字・V字トレリス仕立て,イチジクのオーバーラップ整枝栽培を取り上げました。これらの樹形や仕立てのキーワードは作業動線の直線(単純)化で,将来の機械収穫などを見据えた樹形選択のヒントにもなりそうです。

左:4年生,右:10年生
もう1つは栽培管理に関する4本。リンゴとナシでの施肥量削減の試み、カキ‘太秋’における陰芽由来結果母枝による雌花確保,ブドウ短梢剪定栽培における副梢管理を専用機で効率化する工夫を紹介しました。
さらに,有機JAS栽培に挑む生産者の事例も2本収録。
青森県五戸町・北上俊博さんは,植物エキスの定期的な散布と雑草草生をベースに‘ふじ’など20品種のリンゴを栽培。中・小玉サイズでも市場の需要はあるとして,それに見合った結果枝配置を積極的に行ない,経営を成り立たせています。香川県高松市・末澤克彦さんは,「皮と香り」をコンセプトとした品種のラインナップで,レモンやベルガモットオレンジ,コブミカン,ラングプアライムを独自の仕立てで栽培し,実需家に直接販売しています。どちらも新しい販売の方向を切り開き,有機農業として実践する取り組みが注目されます。
このほかにウメの品種紹介(17種)なども収録しました。
2025/10/14