伝え継ぐ日本の家庭料理

魚のおかず地魚・貝・川魚など
本書では、比較的限定された地域で親しまれてきた〝地魚〟とでもいうべき魚を集めました(*)。漁場は真水と海水が混ざる河口、干潟や岩場、海底や深海など多様で、それぞれの環境に適応した魚や貝が棲んでいます。地元では当たり前でも、他県では聞いたこともないものがたくさんあるでしょう。 鮭とたらは北・東日本では重要な魚で、捨てるところなく食べ尽くす料理が伝えられています。かれいのように一般的な魚も、とりわけ好む地域があり、ご当地自慢の料理として登場します。水田稲作と結びつき、古くから利用されてきた鯉やふなや川えびなど淡水魚類の料理も収めました。日本の水産物利用の豊かさがわかります。ただ、田んぼや川、湖の環境が変わり、なかなか手に入らない魚も多くなっています。海でも記録的な不漁が続いたり、原発事故の影響で使いにくくなっているものもあります。ここに記録した料理が、100年後もつくられ食べられていることを願ってやみません。

鮭・たら
秋になると生まれ故郷の川に産卵に帰ってくる鮭と、冬になると大きな白子や卵を抱えて大量に水揚げされるたら。どちらも地域の大切な食材であると同時に、干したり塩漬けにして、海から離れた内陸部や遠く九州までも伝わりました。
石狩鍋
北海道
鮭とたけのこのすし
青森県
紅葉漬け
福島県
鮭の粕煮
群馬県
塩引き鮭
新潟県
子皮煮
新潟県
たらこ和え
北海道
棒だらの煮つけ
北海道
白子の酢の物
石川県
真子煮
石川県
真だらの子づけ
富山県
たら煮しめ
佐賀県

河口や干潟、磯でとれる魚
海岸付近は川からの栄養分が豊富で、光がよく届く浅い海では海草・海藻もよく育ち、多様な環境に暮らす多彩な魚がとれます。釣りや小規模な網漁など古くからの漁場で、いわゆる磯臭さのある魚も季節や調理法を選んでおいしく食べてきました。
いさざの卵とじ
石川県
ぼらの洗い
茨城県
いなまんじゅう
愛知県
はぜの天ぷら
千葉県
むつごろうの煮物
佐賀県
いがみの煮つけ
和歌山県
しばずし
広島県
あぶってかも
福岡県
クレイオの高菜巻き
鹿児島県
エーグヮーのマース煮
沖縄県

沿岸部でとれる魚
海岸からやや離れ、小型船で行なうような沿岸漁業では、海底近くの砂泥域や岩礁に棲むひらめやかれい、あなごやはも、えい、鯛やふぐなどなじみ深い白身魚が多くとれます。いわしやかつおなどの赤身魚が広い範囲を泳ぎ回るのとは対照的です。
どんこののぼり焼き
岩手県
はたはたの一匹ずし
秋田県
はたはたのしょっつる鍋
秋田県
かれいのつみれ汁
北海道
かれいの煮つけ
福井県
赤がれいの煮つけ
鳥取県
げたの煮つけ
岡山県
でべらの干物
愛媛県
でべら入りなます
広島県
煮あなご
東京都
めじろの干物
愛知県
えその味噌漬け焼き
奈良県
えいの煮こごり
奈良県
はもの焼き物
奈良県
はもの皮ときゅうりの酢の物
大阪府
ごより豆
大阪府
ねぶとのから揚げ
広島県
ふくとの煮つけ
宮崎県
ふぐのから揚げ
山口県
あまだいのごま醤油
佐賀県
さつま揚げ
鹿児島県

沖合でとれる魚
陸地が見えなくなる、水深数百メートルを超える海域では、きんきやあんこう、のどぐろやめひかりといった脂ののった魚がとれます。沿岸から沖合を遊泳するさめも、加工品の原料や内陸部まで運べる鮮魚として重要なものです。
きんきの塩焼き
秋田県
めひかりのから揚げ
福島県
あんこうのとも酢和え
茨城県
さがんぼの煮つけ
栃木県
おでん
東京都
さめのにこごり
新潟県
さめのたれ
三重県
わにの刺身
広島県
めぎすの塩いり
福井県
焼きぎすと大根の煮物
兵庫県
まんぼうの酢味噌和え
三重県
のどぐろの煮つけ
島根県
へか鍋
島根県

貝・うに・ほや
潮が引いた岩場でとれるさまざまな貝は「磯もん」と呼ばれ親しまれてきました。夜のさざえとりは楽しい遊びでもありました。春が旬の貝が多く、わけぎやふのりと合わせると季節感が増します。あわびやうに、ほやも地元ならではの食べ方が伝えられています。
としるの貝焼き
岩手県
ばい貝の含め煮
富山県
ながらみの塩ゆで
静岡県
磯もんの酢味噌和え
和歌山県
さざえのつぼ焼き
島根県
磯もんのぬた
徳島県
ぐじまとふのりの和え物
高知県
うみたけの粕漬け
福岡県
まて貝の酢味噌かけ
佐賀県
みな味噌
熊本県
うにの山吹煮
岩手県
蒸しほや
宮城県

川魚・川えび
鯉やふな、鮎などの淡水魚は昔から身近な食材でした。辛子酢味噌をつけたり、豆味噌で煮たり、濃い甘辛の味つけなどで食べます。川えびも、特有の風味で煮物や揚げ物に重宝されました。琵琶湖周辺からはたくさんの“湖魚”を食べる料理が紹介されています。