クボガイやオオコシダカガンガラなどの小さな巻貝は、隠岐《おき》地域では「にいな」、東部地域では「にな」と呼ばれています。身は小さいですが、ほどよい塩けと磯の香りや貝の旨みを豊富に含んでおり、さざえにも負けないおいしさです。日本海に浮かぶ隠岐の島の周囲は貝の生育に最適な環境で、さざえやあわび、ひお……
根菜をたっぷり入れたのっぺ汁はのっぺい汁とも呼ばれ、冬になると各地で食べられます。県東部ではとくに赤貝を加えたものが親しまれ、貝と野菜の濃厚な旨みが溶け出た汁は絶品です。島根で赤貝と呼ばれているのはサルボウガイ。すしネタや刺身にするアカガイより小型の貝で、冬の訪れとともに食卓に並びます。身が赤い……
山陰沖は、黒潮と親潮の分流が日本海に流れこみ、ぶつかる場所になっており、温度や水圧の安定した冷水域があるため、栄養に富んだ豊かな漁場となっています。鳥取でとれるかにというと雄のズワイガニ「松葉がに」が有名ですが、高級品として県外に出荷されることが多く、県民にとっては安価で味が濃厚な雌の「親がに」……
森林率全国1位の高知県には清流が多く、うなぎや鮎、ハヤや手長えび、かになどさまざまな川の恵みが生活の中にあります。河口から川の中流域辺りに生息するつがに(モクズガニ)もその一つ。生きたまま石臼で殻ごとつぶし、こしてつくるつがに汁は、手間はかかりますが、かにみそと身のおいしさを一度に味わえる特別な……
山太郎がに(モクズガニ)は県北西部を流れる川内《せんだい》川などに生息する淡水のかにで、上海蟹《しゃんはいがに》として有名なチュウゴクモクズガニの近縁種です。北薩地域では、このかにを味噌汁にしてかにの旨みを味わってきました。 旬は9月から11月です。産卵のために海へ下る時期は内子(卵巣)を持って……
伊勢湾や三河湾に面する県内の海岸地域では魚介類を使った海鮮汁をよく食べますが、冠婚葬祭やかにが旬の時期にはとれたてを使い、かに汁をつくります。愛知県で「かに」といえば、わたりがに(がざみ)を指し、この地域では年間を通してとることができます。とくに梅雨から9月頃までが水揚げ量が多い時期です。 かに……
青森県の南部、八戸《はちのへ》は三陸リアス式海岸に面した漁業がさかんな町です。八戸から岩手県の沿岸にかけてはウニ漁がさかんです。いちご煮は、海女さんたちが自分で収穫してきたウニとアワビを使ってつくります。 ウニ漁の解禁日の初日の「初浜」の日に食べられます。ウニ漁は6月中旬から8月上旬まで、アワビ……
真っ黒な見た目がとても印象的な汁ものです。いか、いか墨、かつおと豚のだしでうま味たっぷりでコクのある味わいです。いか墨汁は昔からサゲグスイ(下げる薬)とも呼ばれ、のぼせや血圧を下げ、体の中の悪いものを出し、滋養強壮によいとされてきました。疲れたときや元気をつけたいときにつくります。また、新鮮ない……
三重県のあおさの生産高は全国の約60%を占め、全国第1位(2017年)です。おもに伊勢湾や志摩の海岸でとれ、養殖もしています。今回聞き書きをした志摩町和具《わぐ》は、北は英虞《あご》湾、南は熊野灘に面し、志摩町の中でも海女の多い地域で、あおさの生産量も多く、水産業がさかんです。 あおさとはヒトエ……
四方を澄んだきれいな海に囲まれた長崎の離島では、あおさは春を知らせる海藻です。温暖化の影響でとれる時期が、3月から4月下旬と早くなっており、また最近は海が荒れているので天然ものは少なくなっています。五島列島、壱岐《いき》、対馬《つしま》、平戸《ひらど》などの島で収穫され、長崎県下で広く食べられて……
「わかめのパー」というユニークな名前のいわれは、「パパっと(簡単に)つくれる」から、あるいは調理の途中で「わかめがパーッと広がる」から、などと伝えられていますが、本当の由来は地元の人にもわからないそうです。 府北部の丹後地方は昔から絹織物がさかんで「丹後ちりめん」の産地でした。奥丹後と呼ばれる海……
りんごの生産量1位の青森県で冬によくつくられているおやつです。明治初期から栽培が始まった弘前市は、夏から秋にかけての冷涼な気候がりんごの生育に適しており、県内でもとくに生産量が多い地域で、秋になると農家でなくても知り合いからもらったり、「産直(直売所)」やスーパーなどで購入して各家庭でたくさんの……
県南西部に位置する日高市、近隣の越生町《おごせまち》、毛呂山町《もろやままち》ではゆずの栽培がさかんで産地として知られています。今は地域でゆずのお菓子なども販売されていますが、昔から日高ではそれぞれの家の庭木としてあり、自家製のゆずを利用していました。11月頃になると収穫し、皮、果肉、果汁などさ……
房総半島南部の南房総市はびわの栽培がさかんで、海からの潮風と段々畑の山にふりそそぐ日を浴びながら育てられています。大きく立派な実にするために半年のあいだ手をかけ、一つ一つ袋かけして大切に育てた実が、収穫のときにかごの隅にコツンとぶつけただけで黒いあざができて売り物にならなくなってしまうほどデリケ……
山梨県は桃の収穫量が日本一で、甲府盆地の多くの地域で栽培されています。峡東地域にあたる山梨市、笛吹《ふえふき》市(旧一宮《いちのみや》町《ちょう》、御坂町《みさかちょう》など)がもっともさかんで良質な桃が出荷されます。内陸性気候で日照時間が長く、昼夜の温度差が大きいため、果樹栽培に向いており、戦……
あんずは千曲市の特産の一つであり江戸時代から栽培されています。千曲市を含む善光寺平は犀川《さいがわ》、裾花川《すそばながわ》などの多数の川が流入しており、河川敷から扇状地にかけての地質は小石まじりで水はけがよい土壌で、果樹栽培に適しています。 あんずの花は桜より一足早く咲き、例年4月10日前後に……
諏訪地方で「かりん」と呼ばれているのは、じつはマルメロという果物です。栽培された当初からこう呼ばれたため、今も「かりん」のままです。諏訪地方は江戸時代から庭や畑にかりんの木が植えられ、生育に適していたため、徐々に栽培が広まり、今はかりんの産地となっています。収穫は10月から11月上旬。黄色く色づ……
昔は庭先や田畑の周りなど、家の近くになっている果物が間食として食べられていましたが、柿は一度にたくさんなるため、干して保存食として活用されました。北風が吹いて寒さを感じるようになる10月下旬から11月上旬にかけてつくります。1本の細縄に8個から10個、それを20本、一度に200個くらいは干しまし……
山で自生している栗に糸を通して干した素朴な味のおやつです。山栗は現在栽培されている栗の原種ともいわれており、小さく皮むきが面倒なうえに歩留まりも悪いのですが、風味の強いみっしりとした実が詰まっています。 昔は秋になると山で栗をとって干し栗や栗ご飯にしました。できた干し栗は、収穫の感謝をこめて干し……
木曽の王滝村ではどんぐりを「ひだみ」と呼びます。どんぐりの中でも王滝村でとれるコナラやミズナラはアクが強いので、生では食べられません。昔は2~3日かけて木灰でアクを抜きました。食べられる状態にするには時間と手間が必要なのです。粉にしたひだみをもち米とつきこんだひだみもちは独特のやわらかさと風味が……
「栗きんとん」といっても、さつまいもと栗の甘露煮でつくるおせち料理ではなく、栗に少量の砂糖を混ぜ合わせ、茶巾しぼりにしたじつに素朴なお菓子です。ごくシンプルな材料でつくるので、栗の風味が損なわれません。できたてがおいしく日持ちはしませんが、生地の状態で冷凍しておけば、好きなときに楽しむことができ……
県南の石岡市はかつては国府が置かれ、常陸国《ひたちのくに》総社宮《そうしゃぐう》とその例大祭(関東三大祭りの一つ・石岡のおまつり)などが行なわれる歴史ある地域です。甘いもの、寄せ物はごちそうで、矢羽のようかんは、正月や祭り、お祝いごとの際にみんなにふるまわれました。 今も、この土地の年配の方は矢……
日光の周辺では、水ようかんは夏の暑いときの食べものというよりも正月の寄せ物の一つとして食べられています。ハレの日でもだんごやおはぎ、柏もちや酒まんじゅうには粒あんですが、正月だけは手間をかけてこしあんで水ようかんをつくりました。温かいこたつの中でツルンと冷たい水ようかんをいただくことが正月料理の……
つぼっことも呼ばれ、塩くじらと山菜でつくるくじら汁と並び、道南・松前町の伝統的な年取り料理のひとつです。野菜、じゃがいも、豆腐、椎茸、たこ、あるいは、ほっけでつくったかまぼこや鮭、ごっこ(ホテイウオ)など地元でとれた山海の材料をすべてさいの目に切りそろえ、大きな鍋で煮て、年取りから三が日まで毎日……
神戸の貿易商の家庭でつくられてきた正月の膳です。瀬戸内海から日本海まで、田畑も山も川もある広い兵庫県の風土によって育まれた山海の幸を盛りこんでいます。 お平は丹波の山の芋などの山の幸と、瀬戸内のさわらを盛り合わせた煮物椀です。お平とは器の呼び名からきています。具材はそれぞれを別々に煮て盛り合わせ……