豊前《ぶぜん》海に面する港町、宇佐市長洲地区の「かちえび」を使ったちらしずしです。かちえびは、遠浅の豊前海でたくさんとれる赤えびをゆでて乾燥させたもの。殻を取り除くときに木の棒でたたくと「カチカチ」と音がすることからこの名前がつきました。かちえびの甘みとうまみがギュッとしみこんだ甘めのすし飯は絶……
ちくわや、大ぶりに切ったにんじんやごぼうを巻いたダイナミックな巻きずしは県中部、渋川市でつくられているもの。桃の節句には、蔵から代々のひな人形を出して飾り、巻きずしを供えて祝います。春一番のにぎやかな行事で、母親たちは朝から巻きずしを大量につくり知人に配りました。 基本の具はにんじん、ごぼう、椎……
のりではなく卵でご飯を巻く太巻きずしは、県中央部の、稲作が盛んな伊勢原では氏神様の祭りに欠かせません。大きな卵焼きを破いたり焦がしたりしないように、つるっときれいに焼くのは難しいのですが、おばあちゃんが上手だったので、見よう見まねで覚えたそうです。 祭りともなると、米3升で30本ほどつくります。……
かたくて大きな南関あげをのりの代わりに使った巻きずしは、昔から県北部の南関町で正月や祭り、祝いごとになるとつくられてきたごちそうです。 南関あげの由来は諸説ありますが、1637年から38年にかけて起こった島原の乱の後、四国の伊予松山地方から島原半島へと移住させられた人々が、通り道となった南関でそ……
上野原市周辺では、七五三、結婚式、還暦の祝いなど、祝いごとの膳の最後に必ずといっていいほど、このお祝いうどんが出ます。上野原市は県の最東部で、かつては養蚕がさかんで「甲斐絹」で有名な織物業により栄えた地域です。河岸段丘の地形と水利に恵まれないことから、水田は少なく、おもに陸稲、小麦、大麦、雑穀、……
県西部の下仁田《しもにた》町を含む甘楽《かんら》・富岡地域でつくられる下仁田ねぎを使った、体の温まる冬のごちそうです。下仁田ねぎは根深ねぎ(長ねぎ)の一種で、白根が太く短く肉質はやわらか。煮こむととろけるような食感と特有の甘みがあり、徳川幕府への献上品とされたことから「殿様ねぎ」とも呼ばれます。……
ひやしる(冷や汁)は、県南部の米沢市を含む置賜《おきたま》地方において、来客時やハレの日の膳につくることの多い最も代表的な郷土料理です。手間ひまかけて丁寧につくるおひたしで、干し貝柱と干し椎茸、凍みこん(凍みこんにゃく)で浸し汁をつくり、ゆでた野菜を和えます。かつてはほっき干し(ほっき貝の乾物)……
瀬戸内海に面し、すぐ後ろに山が控える尾道市では、正月には海のものと山のものを合わせて食べる習慣があります。瀬戸内でとれた地物のアナゴはほうれん草と合わせます。焼きアナゴとほうれん草の和え物は、賀節《がせつ》、賀日《がじつ》和えといわれ、正月や祝いごとなどに広くつくられてきました。尾道市や福山市で……
豆腐とすりごまでつくった和え衣と、畑でとれた季節の野菜や手づくりのこんにゃくでつくる白和えは、群馬の家庭に伝え継がれてきた料理です。白い和え衣に色とりどりの野菜が映え、結婚式や年中行事、人寄せの際によくつくられ、口当たりがよいのでお年寄りがいる家庭では日常食としても好まれました。 甘味がある白和……
味噌仕立ての汁にもちとかつお節のみの大変シンプルな雑煮です。もちも直径7~8㎝と一般的なものよりひとまわり大きいのが福井、とくに県北部の嶺北《れいほく》の雑煮の特徴です。この雑煮を毎年食べているので、たくさんの具材がのった雑煮には違和感があるという人も多いです。「味噌ともちのみで、それぞれのおい……
県北の雑煮はするめを入れるのが特徴です。だしも出るし、少し歯ごたえのあるするめとやわらかく煮えたもちの食感が楽しめます。もちは注意しないと「花が咲いたように」やわらかくなりすぎるので、火を通すときにはみんなが集まってから湯を沸かし、もちを入れたら弱火または火を止めて、加減をみながらよそうのが恒例……
県内の多くの地域では4月3日は学校が休みで、近くの山に花見に行きました。子どもたちは赤と緑のようかんが入った弁当と、シナモンの香りがするカラフルなニッキ水を持って出かけます。聞き書きをした広島市南区の家庭では毎年、家族で近くの黄金山《おうごんざん》に登りました。黄金山近辺は江戸時代に、広島湾に浮……
おからこは、上伊那のおもに中北部地域に伝わる十五夜のお供えで、浸水させたもち米とうるち米をすってまとめただけの簡単な即席もちです。一説に、十五夜の頃は収穫で忙しく、もちをついている暇がなかったことから生まれた風習といわれています。翌日、汁に入れて食べますが、ほかでは味わえない独特の歯触り、食感で……
郡上《ぐじょう》市の明宝《めいほう》地区で、行事やもてなしの際につくられる、砂糖が入った甘さのある料理を2種、紹介します。砂糖が貴重だった時代に、甘い汁は特別なごちそうでした。 菓子椀は、報恩講や法事をはじめ、節句のお祝いなどさまざまな行事でつくられます。具材を一つずつ味つけし、甘い汁をかけます……
昔から冠婚葬祭のときによく出された料理で、長門市や萩市、山口市に伝わる伝統食です。「柏椀」と書いて「かしわん」と読む呼び名の由来は、地元で聞いてもわかりませんが、江戸時代の京阪では大型の汁椀のことを菓子椀と呼び、魚や鶏肉、野菜など具だくさんの汁ものを入れていたので、それに由来するのではないかと思……
フカはサメのことです。独特の魚臭(アンモニア臭)のため、煮物や焼き物には適さず、多くはかまぼこの原料となっていますが、この料理は湯引きにしてにおいを緩和し、フカのおいしさを巧みに引き出しています。フカの骨はすべて軟骨で、やわらかい肉に、真皮、尾びれ、背びれ、骨などのコリコリとした食感が加わります……