酢を使わず、「灰持酒《あくもちざけ》」をたっぷり使った酒ずしは、鹿児島の料理の中でも豪華で手間がかかり、すし桶も朱の琉球塗と贅を尽くしています。4~5時間おいて酒とご飯がなじんだら食べ頃で、灰持酒の生きた酵素の働きで熟成してうま味の増した素材とご飯を、酒の芳醇な香りとともに味わいます。 元は島津……
寒さが厳しくなる季節に、体を芯から温めてくれる冬の定番料理です。具だくさんで、汁ものでもあり、野菜料理でもあるといえます。今も日常的につくられていますが、ごちそう感もあり、寒い日は粕汁があると「阿呆《あほ》の三杯汁」といわれるのを承知でおかわりをしてしまいます。夕食にたっぷりつくり、次の日の朝食……
米沢市に残る伝統野菜「遠山かぶ」を使った酒粕入りの味噌汁です。遠山は産地の地名で、米沢藩9代藩主上杉鷹山《ようざん》公が財政の立て直しのため、産業振興策の一つとして「大根は東の梓山に、かぶは西山に、秋かぶは遠山に」つくるように推奨したことからさかんに栽培されるようになったといいます。種は上杉家が……
大根の葉を干したものを干葉といい、東京都の北西部にある奥多摩町では、寒い冬には干葉を粕汁に入れて食べます。ひなびた味が懐かしい、体が温まる冬の定番メニューです。 秋はたくあんや切り干し大根、ゆず巻きをつくるので、大量に出る大根葉は、冬場の野菜の足しにと干して保存します。外側のかたいところを除き、……
粕汁は、寒い冬の汁ものとして重宝されてきました。昔は新巻鮭のアラを入れましたが、今は豚肉などでつくります。材料は安価なものばかりですが、濃厚な汁ができ、冷える日の夕食には最適です。小いも(里芋)を入れることもあり、何を使ってもいいのです。そのときある材料と酒のしぼり粕を利用した汁ですが、白さの中……
煮干しのだし汁に地元でとれた野菜やいもを加え、地元でとれた米を原料とする酒粕や白味噌で味をつけた料理です。香川県の酒蔵は1700年代後半から1800年代にかけて、綾川《あやがわ》や財田川《さいたがわ》、金倉川《かなくらがわ》、弘田川《ひろたがわ》の伏流水など酒造りに重要な水があって米がとれる中讃……
こんかいわし(いわしのぬか漬け)を煮てほぐし、酒粕と混ぜたペーストで野菜を煮た鍋です。強い塩けに、ぬか漬けと酒粕の発酵した香りや酸味が一体となって、深い味わいになります。能登半島のつけ根あたりにあった旧志雄《しお》町(現宝達志水《ほうだつしみず》町)周辺でつくられてきた料理で、よそから嫁いできて……
ひと頃、石川県のいわしの水揚げ量は全国でもトップクラスだったそうです。いわしは普段のおかずの主役でしたが、食べきれない分は各家庭で冬に備えてこんか漬け(ぬか漬け)にされました。こんかいわしはそのまま焼いて食べることも多いですが、能登ではぬかを除いて大根漬けや白菜漬けを小さめに切ったものと鍋にして……
たたいたいわしに、ごぼうやにんじん、味噌を加えてつみれにし、醤油味の汁で煮た料理です。昔は県沿岸部で真いわしが大量にとれ、安価で手に入ったため、日常のおかずとしてよくつくられていました。いわしの旨みがごぼうやにんじんにもよくしみこみ、素朴な味わいです。味噌と醤油の加減もちょうどよく、ご飯がたくさ……
塩いかは、海から遠い地方へ送るため、いかをゆでて塩蔵した保存食です。長野県では生のいかが流通する今日でもよく利用され、塩いかの全国消費量の約9割を占めます。なかでも酒粕(練粕)ときゅうりを和えた粕もみは塩いかの代表的な料理で、夏の日常食やお盆のごちそうとして上伊那・下伊那地方で親しまれ、海のない……
水郷の町として知られる柳川市は筑後平野の西南端に位置し、南は有明海です。筑後川や矢部川などが流れこみ、干潮時には広大な干潟が広がる有明海には固有の魚介類が多数生息し、特有の魚介の食文化が育まれてきました。 うみたけの粕漬けもそのひとつです。有明海に生息する二枚貝で、長い水管を食べます。うみたけを……
年を越して酸っぱくなった白菜の古漬けとメヌケ(カサゴ類の魚)のアラを酒粕と味噌で炊いた煮物です。白菜の古漬けは乳酸発酵が進んで酸味が増しており、この酸味とメヌケのアラ、酒粕のうま味が合わさることで複雑な味わいが生まれます。組み合わせに驚く人もいますが、冬に体を温めるのにぴったりな料理で、地元の人……
神奈川県の水がめといわれる津久井地方は山がちで水田は少なく、麦飯やうどん、すいとん、まんじゅうなど日常の食生活は麦が土台でした。酒まんじゅうは夏祭りや盆にはどこの家庭でもつくったものです。種が発酵しやすい暑い時期につくるのがよいとされますが、7月の初めはどういうわけか失敗しがちで、盆の頃になると……
県最東部に位置する上野原市は水に恵まれない土地で、水田は少なく、陸稲、小麦、大麦、いも、こんにゃくがおもな産物でした。おやつには小麦粉を使うことが多く、正月や盆などのハレの日、祭りになると各家庭で、自家製の「まんじゅう酒」でふくらませた酒まんじゅうがつくられました。 まんじゅう酒や生地づくりは気……
日野菜は滋賀県日野町が原産で、三重県でも伊賀から中勢・北勢地区まで広く栽培される漬物専用野菜です。かぶの仲間ですが、水分が少なく多少苦味があって大根やかぶとは違う風味があります。寒くなると小袋入りの日野菜漬けが市販され、樽入りは贈答に使われます。漬けるなら根が色鮮やかになる12月頃が最適です。 ……
芭蕉菜はタカナの仲間で、独特の辛みと風味のあるカラシナの一種です。県南西部、北上川流域の盆地にある北上市や奥州市江刺では昔から栽培され、冬場の漬物に利用されてきました。山形県の青菜《せいさい》(『漬物・佃煮・なめ味噌』p37)と同じ系統で、漬物にするとぱりぱりとした歯ごたえとピリッとした辛みがあ……
県南の山間地域、大和高原などでは、真菜、しゃくし菜、高菜などの漬け菜が多く栽培され、その塩漬けを「おくも」とか「おくもじ」と呼んでいます。地域によっては漬物全般を、あるいは漬け菜の漬物の炒め煮を指す場合もあります。 宇陀市室生西谷《うだしむろうにしたに》では、高菜の漬物をごま油で炒め、味つけした……
金糸うりは加熱すると果肉がほぐれて麺のようになるので、そうめんかぼちゃとも呼ばれます。県の東端で新潟県や長野県に接する朝日町の山崎地区では、昔から白うりの一種のかたうりが広くつくられていましたが、金糸うりをつくっている家もありました。金糸うりはゆでてほぐして酢の物にすることが多かったそうです。 ……
県南部の筑後地域は、筑後平野でつくられる米と筑後川の豊かな水の恵みを受け、酒づくりがさかんな地域です。昔から酒粕は身近な食材で、酒粕を使った漬物が各家庭でつくられてきました。 うりの粕漬けというと奈良漬けが有名ですが、おもに酒蔵でつくられる奈良漬けはいわば古漬けで、二度三度と新しい酒粕に漬け直し……
辛さと甘さのバランスが絶妙な辛子漬けは広く親しまれている食べ方で、なすがある時期には毎食でも食べます。家によって味はさまざまで、市販品も多いので、好みのものを購入することもあります。ツンと鼻に抜ける辛さは大人の味で、酒の肴には最高です。なすは細くて長く、水分が多くてやわらかいものがよく、お盆の頃……
料理名の由来はやたらに何でも漬けこむことから、とも、やたらにおいしいから、ともいわれます。このやたら漬けがつくられてきたのは、三方を1000m級の山々に囲まれた県西部の千種《ちくさ》町(現宍粟《しそう》市)の中でも一番奥まった山間部の西河内《にしごうち》で、すぐ近くはスキー場です。雪深い冬を過ご……