根菜をたっぷり入れたのっぺ汁はのっぺい汁とも呼ばれ、冬になると各地で食べられます。県東部ではとくに赤貝を加えたものが親しまれ、貝と野菜の濃厚な旨みが溶け出た汁は絶品です。島根で赤貝と呼ばれているのはサルボウガイ。すしネタや刺身にするアカガイより小型の貝で、冬の訪れとともに食卓に並びます。身が赤い……
民話で有名な遠野の西部に位置する綾織町《あやおりちょう》は豊かな田園地帯で、町を東西に流れる猿ケ石川などの河原では、旧暦3月3日に「かまっこ炊き」が行なわれます。近所の女の子たちが集まってかまどをつくり、ひろっこ汁、にら玉、ちらしずしをつくって食べるのです。 ひろっこは、あさつきの若芽のことで、……
金沢産のれんこんは加賀れんこんと呼ばれ、加賀野菜を代表する食材です。でんぷん質が多く、太く肉厚で粘りが強いのが特徴。8月下旬に収穫される最初のものはシャキシャキ感が強く、新れんこんと呼ばれます。8月から翌年5月まで長期出荷され、ほぼ一年中購入できます。家庭では煮物をはじめ天ぷら、酢の物やちらしず……
四方を山に囲まれた久慈市山形町(旧山形村)発祥の料理で、テレビドラマで全国的に知られるようになりました。 山形村は南部領時代には何度も凶作に見舞われた地域で、小麦や雑穀が主食で、まめぶも小麦粉でつくります。名称はまめで達者にとの願いがこめられたとも、「まり麩」がなまったともいわれます。祝儀の際は……
一般的にだごは小麦粉を水で溶き、スプーンで流し入れたりちぎったりしてゆでたものです。だごの入った汁、だご汁は九州全域で食べられていますが、これは小麦粉の代わりにじゃがいもを使っただご汁です。 長崎県はじゃがいも伝来の地であり、現在でも生産量は北海道に次いで第2位です。県内でも、じゃがいもの生産に……
いわき市の南端に位置する小名浜《おなはま》は県最大の港町で、沖合いの親潮と黒潮が交わる「潮目《しおめ》」では、さんまやかつお、さばやいわし、めひかりなど豊富な魚がとれます。なかでも昔はさんまがよくとれ、安く購入できる上に、知り合いの漁師からもらうこともありました。そんなときは一度にたくさん食べら……
えつは小骨が多いので骨切りが必要ですが、油との相性がよく骨ごと食べられるので、から揚げや南蛮漬けにするとおいしい魚です。骨ごとたたいてつくねにして揚げたり、骨も素揚げにして、骨せんべいにしたりします。最近は地元のイベントで、つくねを使ったえつバーガーも売り出されています。 日本では有明海にのみ生……
県南部にある日南市では、盆や正月、冠婚葬祭など何か人が集まることがあれば、今でもいわしや、しいらなどをすった生地を揚げたてんぷらや、野菜に生地を塗りつけて揚げた「ぬすっつけ」をつくります。豆腐と、黒砂糖やザラメをたくさん入れるので、揚げたてはふわふわで冷めてもやわらかく、味つけはかなり甘め。日南……
えびてんは、えびじゃこと呼ばれる小えびを殻ごと使い、よく水をきった豆腐と調味料を加えてすり身にして油で揚げます。昔はすり鉢ですっていましたが、今はフードプロセッサーを使うので簡単で、おいしく栄養豊富な一品です。小えびのほかに、はぜやたちうお、たらなどの魚のすり身を加えることもあります。豆腐が入る……
釧路ではかれいは大変身近な魚で種類も水揚げ量も多く、鮮度のよいものを比較的安く手に入れることができます。種類によっておいしい食べ方があり、たとえば真がれい、ばばがれいは煮つけ、宗八は干物にします。新鮮なまつかわ、おひょう、赤がれいは刺身がおいしく、昔は1尾を丸ごとおろしたらまず刺身にして、残った……
瀬戸内海では底曳《び》き網漁により5㎝サイズの小魚がよく水揚げされます。そのひとつ、ねぶと(テンジクダイ)は夏が近づくと福山市内のスーパーなどでよく見かける魚で、ねぶとのから揚げは地元ではおやつや酒の肴としておなじみです。小さい頃から慣れ親しんでおり、帰省した家族も懐かしいと持ち帰ったりするそう……
ふぐは福に通じる「ふく」と呼んで縁起がよい魚とされています。1989年には県の魚にもなりました。ふぐ食は明治時代に伊藤博文により山口県のみ解禁となった歴史があります。 とくに下関を中心とした関門地域では、ふぐの熟成技術が洗練されています。ふぐの身は生ではかたくて食べられないため、関東や関西では加……
さつま揚げの名称で県内外に知られていますが、この呼び名は最近であり、地元では今も、つけあげ、ちきあげなどと呼ばれています。江戸時代に琉球から渡来した料理チキアーゲに由来するとも、島津斉彬《なりあきら》公が産業発展のために考案させたともいわれています。 地域によって原料や形に特徴があり、土地土地の……
いわき市で水揚げされた水産物は昔から「常磐《じょうばん》もの」として全国の水産関係者の間でも高く評価されていました。深海魚のめひかりもその一つ。冬を代表する魚で、古くから地元で親しまれてきました。県内有数の港町である小名浜港では、めひかりの水揚げの時期になると刺身や天ぷら、フライ、南蛮漬けなどさ……
霞ケ浦でとれた小さな手長えびのかき揚げです。霞ケ浦が汽水湖だった昭和の頃は、今より湖の栄養分が豊かで大きな手長えびがとれましたが、淡水化した今は大きく育たず、釜あげした小さいえびを使います。ただ、今でも霞ケ浦の漁獲量の1位はエビで、全漁獲量の約半分を占めます。 川えびは、わかさぎや鯉と並んで行方……
森林が多い高知県には清流も多く、地元の人たちはうなぎ、つがに、手長えびなどさまざまな川の恵みを利用してきました。手長えびを地元では川えびと呼び、小さなものは素揚げに、殻がかたく大きなものは煮物にと使い分けます。その煮物の定番が、地ばいきゅうりと煮るこの料理。地ばいきゅうりは植えたらそのまま放って……
県北部の、新潟県と福島県との県境にある利根《とね》郡は、冬はスキーができるほど雪が降る地域です。雪解けとともに山々に芽吹く山菜は、山あいに暮らす人々にとって長い冬の終わりを告げる“喜びの食材”として利用されてきました。 春になると家の周りを一回りして、とれたものを天ぷらにします。油で揚げることで……
県内には江戸時代から栽培されているという、太くて短い「どっこきゅうり」があり、大きいものでは約1㎏と一般的なきゅうりの10倍もの重さになることもあります。日持ちするので、明治時代には遠洋漁業の船に積む野菜として重宝されました。 どっこきゅうりの代表的な食べ方が、冬瓜のように煮たりあんかけにするこ……
鳥取市菖蒲《しょうぶ》地区は水田が広がる平野部の農村地帯で、昔からの風習や行事が残っています。12月初めになると、この地区の寺では天台宗のお大師様を供養する大師講が行なわれます。各檀家から1名が出席し、和尚の読経が終わった後に、ふるまい料理のこ煮物やなます、おにぎりなどをいただきます。こ煮物はた……
月山《がっさん》の山麓、羽黒山《はぐろさん》の参道入り口(随神門《ずいしんもん》)からの街道1㎞にわたる地域は手向《とうげ》といい、古くから出羽三山《でわさんざん》の門前町として発展してきました。参拝客にふるまわれる精進料理の中でも欠かすことのできないものがごま豆腐です。出羽三山を開山した蜂子皇……
宮城県との県境にある一関市は北上川流域の豊かな水田地帯で、恵比寿講やお大師様の年越しなどの神々の日や農作業の節目、冠婚葬祭などにはもちをついてきました。もちは一番のごちそうなのです。 もちは、やわらかいつきたてに衣をからめて食べます。かつては自宅で婚礼があると、「もち本膳」といってあんこもち、雑……
バターもちは、もちにバター、卵黄、砂糖などを混ぜてつくったもち菓子で、甘さとバターの風味、口当たりのやわらかさが特徴です。県北部、北秋田市の阿仁前田《あにまえだ》地区を中心に、昭和の中頃から各家庭でつくられ、おやつや携行食として親しまれてきました。 北秋田市阿仁のマタギ地域では、広く北海道まで行……
県南の石岡市やかすみがうら市、土浦市で食べられている、青のりを混ぜた緑色の半円形のもちで、草もちのようですが、焼くと草もちとは違う独特の香りがします。正月や人寄せのとき、普段でも多めにつくり近所にも配って皆で楽しむものでした。今は石岡市内の菓子店で一年中販売され、商店街の店先では店主がたがねもち……
塩味のあんをもちで包んだ甘くない大福で、入手しにくかった砂糖に比べて塩は少量で味がつくので、昔はくず米と小豆で、大きな塩あんびんがつくられていました。塩あんは普通のあんより粘りが少なく、やや淡く白っぽい色です。全体にほどよい塩味で、噛んでいるともちそのものの甘味を感じられます。つきたてはやわらか……
県中央部に位置する山武《さんぶ》地域は豊かな稲作地帯で、ご飯をたっぷり使う太巻きずしづくりも盛んです。しかし江戸時代は米は年貢で、農民の口にはなかなか入りませんでした。そんな時代に「性学」という実践道徳で農村を指導した大原幽学《ゆうがく》が考案したのが、うるち米のくず米からつくる性学もちです。つ……
県西部の遠州地方で江戸時代から食べられている「うるち米」のもちです。名前の由来は、米を粉にすることを地域では「はたく」というから、米の選別(ふるい分け)の際、「はたいた」ときに落ちるくず米を使うから、袋や俵を最後まで「はたき」出して使うからなど、諸説あります。袋井市など大井川と天竜川にはさまれた……
湖西に位置する朽木《くつき》村(現高島市)は標高500~900mの山々に囲まれた地域です。耕地が少なく日照時間も短いため、米や農作物が貴重品で、栃の実が大事な食糧でした。乾かした実は保存がきくので、年中栃もちをついては、焼いたり、ぜんざいやあられ、かきもちにして食べました。 拾った栃の実からもち……
かんもち(寒餅)は寒さが最も厳しい寒中にもちをつき、40~50日間寒風にさらして乾燥させたものです。じっくりあぶって香ばしくふくらませたかんもちは、冬の家族団らんの中に必ずあるおやつとして親しまれてきました。 かつては、農家が保存食や農作業中のおやつとしてつくりました。風が水分を含む海沿いよりも……
丸めたご飯をしゃもじにのせ、とろとろに練ったごまのあんを上からとろりとかけてつくるぼたもちです。こうするとあんがもちの上を流れていい感じになります。もともと対馬《つしま》は米の生産量は多くありませんが、佐護地区は2000年以上の歴史がある稲作地帯で、寒暖の差があるのでおいしい米ができます。昔は、……
県北東部の新庄《しんじょう》市や最上《もがみ》地方では、旧暦の桃の節句になると色とりどりのくじらもちを大皿に盛りつけてひな壇の前にお供えします。くじらもちに使う米の粉は細かいほど仕上がりがなめらかになります。かつては米を3日以上浸水してから乾燥させ、製粉所に持ち込んでいました。仕込みから蒸し上が……