防除のアイデア

今月のテーマ 微生物農薬を使いこなす

 この防除情報コーナー7月号の「防除ニュース」で紹介したように、生物農薬が「野菜類(施設栽培)」などに一挙に適用拡大された(「天敵はどんな野菜でも使えるようになったの?」)
 この記事のなかで、アリスタライフサイエンス(株)の和田哲夫氏が述べられているように、確かに朗報だが、それらを各作物でこれらの資材を使いこなしていくためには、かなりの経験と知識が必要だ。

■続々と登場する微生物農薬

 ここ数年、次々と登場してきた「微生物農薬の一覧表」をまとめたのでご覧いただきたい。現在「農薬」として登録され、販売されているものをまとめてある。この間、あっという間に害虫対象、病気対象などで20種ちかくまでになっている。これらは全て有機認証制度で利用できる資材だ。この『ルーラル電子図書館』に収録されている、各資材の関連記事も紹介した。ぜひ読み込んで、使いこなしていただきたい。

■ボトキラーをめぐって

 微生物農薬で最近目立っているのは病害対象のもので、もっとも広がっているのが、灰色かび病に高い効果のあるボトキラー水和剤。各地で様々な使い方が工夫されており、月刊誌『現代農業』で紹介されている。
(1)「ボトキラー水和剤をマルハナバチに運ばせて灰色カビ病を防除!生物農薬を使いこなす」(2000年12月号)
(2)「暖房機ダクトを使ったボトキラー水和剤散布で、キュウリの病気を防ぐ」(2001年6月号)



 この2つの記事は、岐阜県の専門技術員である田口義広先生が開発されたもの。
 販売しているメーカーも黙っていない。次は販売会社の出光興産(株)の記事。
(3)「『バイオトラスト効かない!』の声に応える 広がる「菌で菌を防除する」菌体防除編 イチゴの炭そ・ウドンコ両方抑える微生物農薬」(2002年6月号)
 「ボトキラー水和剤最大のメリットは、ほとんどの化学農薬と混用できる点にある。すなわち予防薬として活用すれば散布のタイミングを選ばない薬剤なのである」と、次の表のような化学合成農薬とのローテーション方を提案。

2月14日 バイオトラスト1000倍(親株に30ml/株、潜在感染の広がりを抑える)
3月18日 バイオトラスト1000倍(同上)
4月1日 親株定植(イオウ病対策にトップジンM500倍またはゲッターに浸漬)
12日 バイオトラスト1000倍
25日 ベルクート1000倍
5月1日 アミスター20フロアブル2000倍
13日 バイオトラスト1000倍
23日 デランフロアブル1000倍(梅雨前から炭そ病予防をしっかり実施)
6月1日 ベルクート1000倍
7日 アントラコール500倍
14日 バイオトラスト1000倍
22日 アミスター20フロアブル2000倍
7月1日 採苗(イオウ病対策にトップジンM500倍浸漬)
9日 バイコラール2500倍
16日 バイオトラスト1000倍
24日 ベルクート1000倍
30日 ゲッター1000倍
8月3日 バイオトラスト1000倍
8日 ゲッター1000倍
12日 ベルクート1000倍
19日 アミスター20フロアブル2000倍
25日 バイコラール2500倍
9月1日 バイオトラスト1000倍
7日 アミスター20フロアブル2000倍
14日 定植(イオウ病対策にトップジンM500倍浸漬)
25日 イオウ病対策にベンレート500倍3l/m2かん注または300l/反
30日 バイオトラスト1000倍
10月6日 ボトキラー1000倍
13日 トリフミン5000倍
18日 バイオトラスト1000倍

■すすむ「菌体防除」

 菌で菌をやっつける「菌体防除」。これはどうやら『現代農業』誌上で、福島県の元農業改良普及員の薄上秀男さんが開発した言葉のよう。
 「わが家畑の防除作戦―もう少し見栄えよく、もう少し減農薬で―発酵肥料、米のとぎ汁、米ぬかでつくる菌体防除液で病害虫を防ぐ 菌体防除法のすすめ」(1998年6月号)で、なぜ効果があるのか、次のように言っている。
 「米ぬかを散布し、それが雨や朝露でぬれると、そこに乳酸菌や納豆菌(枯草菌)類が繁殖します。寒いときには乳酸菌が優勢菌として繁殖しますので、pHは4.5以下の酸性になります。暑いときには納豆菌が働き、pH8前後のアルカリ性になります。
 病気を起こす悪玉菌はそのほとんどが土壌中に生息しています。雨(かん水)が降ると目を覚まし、雨によるはね返り(しぶき)の泥といっしょに作物の葉に付着し、そこから作物の体内に侵入、繁殖していきます。
 ところが地表面に米ぬかが散布されており、先ほどの善玉菌により地表面が強い酸性かアルカリ性であると悪玉菌は目を覚ますことができない。もし目を覚ましたとしても繁殖できないのです。運悪く地表に米ぬかがなく、はね返りによって悪玉菌が作物に付着しても、作物に米ぬかが付着していればそこで増殖をストップさせることができます。」
 ついで最近注目なのは、トリコデルマ菌の利用。
 『現代農業』2003年9月号「トリコデルマ菌ボカシで灰カビ激減、キュウリ10a3t増収!」 →記事全文
で紹介されているのは、千葉県木更津市のキュウリ農家の宗政辰彦さん。宗政さんは、「トリコデルマ菌ボカシは、購入したトリコデルマ菌(ハルジン-L)を、米ヌカとモミガラと木酢液を混ぜて自分でふやしている」という。
 先の微生物農薬の一覧でも、「トリコデルマ生菌」とう商品名で登場している。これは、日本で初めて農薬として登録された微生物資材である。この菌は自然界のどこにでもいる菌で、いろんな系統があるようだ。その中から選抜されたものが「植物生育促進剤」としても各種の資材が販売されている。
 自分のハウスで,圃場で、このトリコデルマ菌を増殖させる人も登場。2002年6月号「米ヌカ防除 菌で防除する時代が始まった 病原菌を食うトリコデルマ菌をハウスに殖やす」の記事で登場する、石川県穴水町の西出隆一さんだ。
 西出さんは、「トリコデルマ菌は酸性が好きだから、これを増殖させるためには、米ヌカに木酢500倍液を混合したものを、ハウスの通路に散布するといい。トリコデルマ菌は直射日光に当たると死滅するので、上にワラなどを置き、さらにその上からも木酢液200倍液を散布しておくのがいい。ワラなどのセルロースは、トリコデルマ菌のエサにもなる。こうしておけば、土着のトリコデルマが増殖して、土の中だけでなく、空気中や葉上にも多くなり、灰色カビ病、菌核病、エキ病、立枯病などが抑えられる」と。
 「菌体防除」で『ルーラル電子図書館』を検索してみてください。これ以外にもたくさんの事例が紹介されています。