鳥取市菖蒲《しょうぶ》地区は水田が広がる平野部の農村地帯で、昔からの風習や行事が残っています。12月初めになると、この地区の寺では天台宗のお大師様を供養する大師講が行なわれます。各檀家から1名が出席し、和尚の読経が終わった後に、ふるまい料理のこ煮物やなます、おにぎりなどをいただきます。こ煮物はた……
現在でもよくつくられる日常的な郷土料理です。大根と豆腐が基本の材料で、鶏肉、油揚げ、里芋、こんにゃく、にんじん、ごぼう、干し椎茸を入れたりします。味つけもいろいろで、醤油だけで仕上げるものもあれば、塩味が主で醤油は隠し味程度という場合もあります。 冬のみずみずしい大根でつくること、最初に油で「け……
舟形山系に位置する色麻町《しかまちょう》では、豆腐の白和えに鬼ぐるみを入れます。具は、にんじんと糸こんにゃくが定番。弾力のある糸こんにゃくと歯ごたえのあるにんじんに、ぽったりとコクのある和え衣がよく合います。甘めの味つけで、子どもからお年寄りまで好きな料理です。油が浮いてくるまでくるみをするのは……
くるみ豆腐はごま豆腐と同様に中国から伝わった精進料理です。なめらかな舌ざわりで濃厚でもくどくない、滋養に満ちたごちそうです。十分に練り上げることで食感のよい仕上がりになります。 くるみには鬼ぐるみと姫ぐるみがあり、鬼ぐるみは大きい割に中の実が少ないので、和え物に散らして用いました。姫ぐるみは比較……
四国山地の中腹に位置する山間部、祖谷《いや》地方で食べられている味噌田楽です。祖谷では昭和30年代まで夏でも囲炉裏《いろり》を使っており、でこまわしも囲炉裏で焼きました。串の上からじゃがいもが頭、豆腐が胴体、こんにゃくがスカートのようで、回しながら焼く様子が人形浄瑠璃の木偶《でく》人形(でこ)を……
県西部に位置する日田市大山《おおやま》町では、「いも」といえば里芋を指すくらい、生活に密着した食材です。以前は晩秋に収穫した里芋は、崖の斜面などを利用して掘った「いもがま」にもみ殻を敷いて保存しておき、田楽や煮物、だんご汁など、翌年の春までさまざまな料理に使っていました。 日頃は農作業などで忙し……
阿蘇地域南西部に位置する西原《にしはら》村では、山から吹き出す東からの強風を「まつぼり風」と呼びます。「まつぼる」とは根こそぎ持っていくという意味です。この強風のため、落花生やさつまいも、里芋、にんじんなど、土の中で育つ作物が農業の中心でした。そんな西原村でつくられてきた料理の一つが落花生豆腐で……
瀬戸内海に面している県南部に伝わる家庭料理で、海藻のいぎすを水から加熱して煮溶かし、こした液を固めたものです。生大豆粉や野菜、えびなどを加えるつくり方もあり、県内41カ所の調査では、愛媛県との間にある芸予《げいよ》諸島の大崎上島《おおさきかみじま》町をはじめ尾道市因島《いんのしま》、福山市、三原……
夏にとれる海藻のいぎすを、生大豆粉とだし汁で煮溶かし、寒天のように固めたものです。生大豆粉を使うのが、愛媛のいぎす豆腐の特徴です。いぎすは県北東部の今治《いまばり》市周辺の島しょ部の海岸の岩場に自生しています。褐色のいぎすは、日に干し、乾いたら水にさらすを3~4回繰り返すと白くなります。このさら……
豆腐とすりごまでつくった和え衣と、畑でとれた季節の野菜や手づくりのこんにゃくでつくる白和えは、群馬の家庭に伝え継がれてきた料理です。白い和え衣に色とりどりの野菜が映え、結婚式や年中行事、人寄せの際によくつくられ、口当たりがよいのでお年寄りがいる家庭では日常食としても好まれました。 甘味がある白和……
日光市の北部、福島県に接する旧栗山村に伝わる、うるち米をついたもちです。きめ細かくやわらかで、もっちり感はありますが、粘りすぎずに噛みきりやすいです。「ばんだい」は板台のことで、昔は板の上でついたのでこう呼ぶといわれます。 栗山村は山間地で、沢水が冷たすぎて田では水稲が育たず、陸稲《おかぼ》が少……
縄文時代の集落とされる赤野井湾遺跡などが見つかり、数千年前から米がつくられていた県南西の野洲《やす》・守山に伝わるだんごの料理です。だんごが白和えなどの衣にくるまれて、おやつや法事のときの小昼、おかずにもされます。 だんごには米粉(うるち米粉)だけのもの、米粉ともち粉を半々混ぜたもの、もちやいも……
県東部(呉東)で富山湾沿岸の滑川《なめりかわ》、魚津《うおづ》、黒部あたりでは、うまづらはぎや鯛、ぶりなどを焼いてむしった「むしり魚」と、野菜やなるとも入った具だくさんの雑煮がつくられます。紹介するレシピは滑川の商家で食べられてきたものです。魚の頭も捨てずに一匹丸ごとを利用します。昭和30年にこ……
白味噌仕立ての汁に丸いあんもち、小ぶりの大根と、初日の出をイメージして紅の金時にんじんの輪切りが入った全国的に珍しい雑煮です。正月にはおせち料理とともに一年の平安無事を祈り、家族で食べます。もちは神様に供える神聖な食物で、年神様に雑煮を供え、「お下がり」をいただくという日本独特の食文化が秘められ……
大皿に盛られた煮物は、これが1人分です。大晦日の年取りから正月三日まで味わいます。長岡市内の豪雪地帯、山古志《やまこし》地区で長年つくられてきて、「正月のごっつお(ごちそう)」ともいいます。 くずれやすい豆腐だけは別鍋で煮含め、それ以外の食材は一緒に煮て味を調えて、1人分ずつ盛りつけます。具の数……
つぼっことも呼ばれ、塩くじらと山菜でつくるくじら汁と並び、道南・松前町の伝統的な年取り料理のひとつです。野菜、じゃがいも、豆腐、椎茸、たこ、あるいは、ほっけでつくったかまぼこや鮭、ごっこ(ホテイウオ)など地元でとれた山海の材料をすべてさいの目に切りそろえ、大きな鍋で煮て、年取りから三が日まで毎日……
県最東部の上野原市では、年取りにけんちん汁を食べる習慣があります。正月に何もしなくていいようにつくりおきし、温め直したものを正月にも食べます。味つけは味噌と醤油、醤油仕立て、味噌仕立てと、家庭によって違います。大晦日にはけんちん汁とともにそばも食べました。商家では大晦日の食事に、元旦に並べる正月……
県北西部に位置する諸塚村《もろつかそん》の料理です。村の94%は山林で、かつては林業、椎茸、茶、肉牛の複合経営が行なわれていました。 おひらと呼ばれる正月の煮しめは、春に収穫し保存しておいたぜんまい、たけのこ、自宅で栽培した椎茸、里芋、手づくりの豆腐の厚揚げ、こんにゃくが材料です。これにいわしの……
平野部で水田が広がる伊勢原市小稲葉《こいなば》では、11月20日はえびす講です。1月から働きに出ていた恵比寿様と大黒様が家に戻られる日なので、2人分の料理やお酒を床の間に用意し、この一年に感謝し、来年の豊穣と繁栄を願います。 お供えするのは赤飯とけんちん汁、尾頭つきの魚、なます、煮しめ、煮豆、み……
土佐の宴会(おきゃく)料理は、山、海、野、川の幸を39㎝くらいの大皿に盛り合わせた皿鉢料理です。明治中頃まで全国各地に神様に感謝して食べる「盛り鉢料理」があり、土佐では皿鉢料理として発達しました。皿鉢料理の基本は、「生《なま》(刺身)」と「組み物」です。刺身は、まぐろや旬の魚を平づくりにします。……
里芋、にんじんなどの根菜類と椎茸、長く切った豆腐を入れ、水溶き片栗粉でとろみをつけた汁ものです。瀬戸内海に面した呉市で、冠婚葬祭のときの料理や家庭料理として古くから食べられてきました。弔事やお寺の寄り合いでは椎茸などの精進だしを使用し、いりこ、かつお節は使いませんでした。 豆腐は比較的手に入りや……
宮崎平野の北部にある川南町で、葬式や法事、祝いごとなど人が集まるときにつくられてきた料理です。現在は自宅で冠婚葬祭を行なうことはありませんが、地区の人寄せのときにつくるなど、今も引き継がれています。 落花生は、炒っていない乾燥しただけの生落花生でつくることもあれば、炒った落花生を使うこともありま……
うち豆腐は乾燥大豆を粉にしたもので、一般には生大豆粉と呼ばれるものです。栄養があり保存できるので常備しておき、だし汁や水で練ってだんごにして、味噌汁や鍋物に入れて食べます。豆腐より簡単に家でつくることができるので、橋本市では「うち豆腐」と呼ばれ、たんぱく質源として日常的に利用されてきました。 正……
大分県はきれいな湧水が豊富なことから、昔から豆腐づくりがさかんに行なわれています。宇佐市院内町《いんないまち》は町から離れていたため、よそで食材を買ってくるということは滅多になく、年取りや正月、祭りや結婚式などの人寄せのときでも身近にあるものを使ってごちそうをつくりました。つと豆腐もその一つ。手……
ジー(地)、マーミ(豆)は落花生のこと。落花生の産地としては、沖縄本島の北部、本部《もとぶ》半島の沖合に浮かぶ伊江《いえ》島が有名です。ジーマーミ豆腐は落花生をすりつぶして芋くず(ンムクジ=甘藷《かんしょ》でんぷん)を加えてかためたもので、落花生の風味とぷるんとした舌ざわりで好まれています。おか……
沖縄本島北部の本部《もとぶ》半島に位置する本部町は、起伏の多い地域で、八重岳《やえだけ》などの山岳部がある一方、かつお漁で有名な漁港などもあります。モーイとは和名をいばらのりという海藻で、加熱すると寒天のように固まるため、かまぼこやツナ缶など好みの具材を入れて、寄せものとして利用されています。同……
中国の精進料理である普茶《ふちゃ》料理の中の麻腐《まふ》とは、ごま豆腐のことで、長崎精進料理の主要な一品です。中国から渡来した隠元禅師とその一行が伝えたとされます。精進料理の味は淡泊ですが、素材を十分活かし、植物油やごまなどを補い、くずなどを使い、食べる人の心が和むような調理の工夫がなされていま……