北上高地北部にある葛巻《くずまき》町をはじめ県北部は、冷涼で米が育ちにくかったこともあり、ソバを栽培してさまざまに利用してきました。 客のもてなし料理には手間のかかるそば切りで、今でもハレ食(冠婚葬祭)の最後はそばでしめたりします。今回紹介するそばかっけは、こねて薄くのばして三角形(かっけ)に切……
北茨城市、常陸《ひたち》太田《おおた》市、常陸大宮市、大子《だいご》町などの県北では、寒い冬の夜、また年越しにけんちん汁をかけたそばを食べます。昼夜の寒暖差があり、水はけのよい斜面が多くソバの栽培に適した地域だったことから、米の不足を補う意味もあり、江戸時代からソバ栽培がさかんで、現在は全国4位……
自家製のそば粉でそばを打ち、自家用畑の野菜をたっぷり使い、ちくわでごちそう感を出したそばです。来客時や大晦日には、飼っていた鶏をつぶして入れました。とくに寒い季節には打ちたてのそばとけんちん汁の組み合わせは格別です。里芋があれば、ぜひ入れたいもの。ボリュームが出てとろみもつき、体が温まります。 ……
うどんの幅より太く短い麺を野菜と一緒に煮こんだものです。かつて田んぼの代かきをする際、牛馬にひかせていた「馬鍬《まぐわ》」に麺の形が似ていることからこの名前がついたといわれています。まんがこが食べられている阿武隈《あぶくま》山系は、かつては冷害に見舞われることが多く、米の収量が少ない地域でした。……
さんまの水揚げ量が本州一の大船渡市で塩焼きと並ぶ定番料理が、すり身汁です。おかわりをして一人2杯は食べ、家族が少なくても多めにこの分量でつくり、温め直しながら食べます。 そのつくり方には産地ならではの特徴が見られ、まずさばく際には頭をちぎるようにして同時に皮をはぎとり、それから三枚におろします。……
三陸沿岸で親しまれている冬の汁ものです。定置網で水揚げされたどんこは舌がふくらんで出ており、その見た目から「ベロ出しどんこ」と呼ばれます。 一般的に魚を汁に入れるときは刻んだ身やアラを使うことが多いですが、どんこは骨が細かく、身がやわらかく崩れやすいため、小さめのものは内臓をとったら丸ごと入れま……
厳冬期の庄内地方における自慢の一品が、寒だらの味噌仕立ての汁ものです。日本海に面する庄内地方は大寒の時期になると地吹雪《じふぶき》(地上に降り積もった雪が、強い風に吹き上げられ乱れ飛ぶこと)が激しく、道の先も見えなくなることがしばしばです。 この時期に産卵のために庄内浜に回遊してくる真だらが寒だ……
山口県ではかわはぎやうまづらはぎのことを「めいぼ」「めんぼ」「めぼう」「はげ」などと呼び、味噌汁や煮つけや鍋物で食べます。身の骨離れがよく、子どもも食べやすい魚です。秋から冬にかけて、めいぼは肝がおいしくなります。肝入りの味噌汁は、子どものときは生臭いと思っていたが、大人になると肝をそのままある……
酒で酔わせたどじょうが骨までやわらかい、トロミのある味噌仕立ての汁です。農家は土用になると稲の根張りをよくするため、水田の水を干し上げます。このとき、用水路も干し上げてどじょうをとりました。そのどじょうとうどん、自家製の野菜をたっぷり使った夏バテ予防のスタミナ料理として、農家の多い地域に伝わって……
郡山市西部に位置する湖南町《こなんまち》で食べられている地竹《じだけ》と鯖の缶詰、じゃがいもを入れた味噌汁です。地竹とは、根曲がり竹のこと。湖南町は高冷地で地竹がたくさん収穫できたため、たけのこというと地竹です。5月末から6月中旬頃、暖かくなり地竹がとれるようになると、じゃがいもと合わせてたけの……
奥信濃は豪雪地帯ながら、四季折々の農作物や自然の豊富な食材に恵まれています。ここで「たけのこ」というと、細長い根曲がり竹(チシマザサ)のことです。根曲がり竹がとれる5月下旬から7月上旬は、さばの水煮缶との味噌汁がよく食卓にのぼります。身欠きにしんでつくる家庭もありますが、さば缶は切ったり戻したり……
山形県では秋に新しい里芋ができると、隣近所や学校、職場の仲間たちと親睦を深めるため河原でいも煮会を行ないます。内陸地方のいも煮は牛肉を使った醤油味。牛バラ肉の脂身が旨みとなり、砂糖を入れることでコクが出ます。八百屋やスーパーではいも洗い機で皮をむいたいもが売られていますが、みんな自分でむく方がお……
呉汁というと大豆でつくるのが一般的ですが、日向《ひゅうが》灘《なだ》寄りの都農《つの》町や川南《かわみなみ》町の一部、北西部の椎葉村《しいばそん》では落花生を使います。稲のとり入れは落花生の収穫時期と重なります。椎葉村では寒い時期の稲刈りの「かてーり(結・共同作業)」のねぎらいに、とれたばかりの……
根菜と豆腐でつくるけんちん汁は各地で食べられますが、もともとは鎌倉市にある建長寺《けんちょうじ》の開山大覚禅師《かいさんだいかくぜんじ》が鎌倉時代に中国から伝えたとされ、食材を無駄なくいただく精進料理の原点を象徴する汁ものです。これが修行を終えた僧たちによって全国に広まりました。 現在も建長寺で……
おおじるは、葬儀や法事などの不祝儀につくる白味噌の汁です。だしは干し椎茸と煮干しでとり、この組み合わせは不祝儀以外ではつくりません。具は、豆腐に油揚げとねぎの家庭もあれば、揚げを入れない家庭や、においのするねぎは使わずにゆでたほうれん草を入れる家庭もあります。 県東南部の内陸部にある府中市は、奈……
打ち豆は、大豆を吸水させてから蒸し、それを木づちで打ったものです。冬場、雪に閉ざされる湖北地方では、大豆は貴重なたんぱく質源。各家庭で打ち豆をつくり、汁に入れていました。たたいて平たくした豆は、だしが出やすく火が通りやすくなるので、煮る時間や薪の節約にもなりました。大根、里芋、かぶやかぼちゃなど……
納豆汁は秋田県の郷土料理ですが、とくに納豆発祥の地といわれる県南でよく食べられています。冬の野菜のとれない時期に、塩蔵したきのこやわらびを塩出しして豆腐、里芋、油揚げ、せり、ねぎなど具だくさんにして熱々をいただきます。それぞれ家によって入れる具も少々異なり、ふきを入れることもあるようです。 納豆……
四方を山に囲まれた久慈市山形町(旧山形村)発祥の料理で、テレビドラマで全国的に知られるようになりました。 山形村は南部領時代には何度も凶作に見舞われた地域で、小麦や雑穀が主食で、まめぶも小麦粉でつくります。名称はまめで達者にとの願いがこめられたとも、「まり麩」がなまったともいわれます。祝儀の際は……
さばの煮ぐいは、いわゆるすき焼きのような甘辛い味つけの鍋です。秋から冬の脂がのったさばでつくるととくにおいしく、寒い冬には体を温めてくれます。暖かい対馬暖流と深海の冷たく栄養に富んだ海水とが混ざり合う島根県沖は、魚の餌となるプランクトンが多い豊かな漁場で、浜田市をはじめとする西部地域では昔から漁……
「じゃう」とは鍋料理のことです。さばやかつおを甘辛い味で煮た魚のすき焼きで、肉類が高価だった頃の漁業地域の春の料理です。語源は地元の人でもよくわからず、炊くときの音からきているのかもしれません。 日本海に面した有数の漁港の一つである香住《かすみ》漁港は年中、豊富な魚介類が水揚げされます。さばは刺……
県南部にある日南市では、盆や正月、冠婚葬祭など何か人が集まることがあれば、今でもいわしや、しいらなどをすった生地を揚げたてんぷらや、野菜に生地を塗りつけて揚げた「ぬすっつけ」をつくります。豆腐と、黒砂糖やザラメをたくさん入れるので、揚げたてはふわふわで冷めてもやわらかく、味つけはかなり甘め。日南……
桜えびを豆腐や葉ねぎと一緒に、すき焼きのような味つけで甘辛に煮る料理で、桜えびの漁師たちが沖から上がって食べるので、沖あがりと名づけられました。明治27年、桜えびが発見されたときの記録にもこの食べ方が記されており、桜えび漁発祥の地である由比《ゆい》伝統の味です。 桜えび漁は夜間に行なわれます。日……
えびてんは、えびじゃこと呼ばれる小えびを殻ごと使い、よく水をきった豆腐と調味料を加えてすり身にして油で揚げます。昔はすり鉢ですっていましたが、今はフードプロセッサーを使うので簡単で、おいしく栄養豊富な一品です。小えびのほかに、はぜやたちうお、たらなどの魚のすり身を加えることもあります。豆腐が入る……
石狩鍋とは鮭を使った味噌味の鍋のことです。かつて石狩川河口は、秋になると産卵のために川に戻る鮭が押し寄せ、明治時代には地曳《び》き網漁で100万匹以上の鮭が捕獲されていました。漁夫のまかない食でもあった塩味のアラ汁(三平汁)がやがて醤油味や味噌味の台鍋《だいなべ》として親しまれるようになり、昭和……
しょっつるは魚を塩で漬けこんで熟成させた秋田県独特の魚醤油で、今でこそ、はたはたを原料にしたものが有名ですが、もともとはいわしやあじなどの小魚の塩漬けが起源と考えられています。しょっつる鍋は材料を切ってしょっつるで煮る簡単な料理で、しょっつるの強いうま味はさまざまな食材との相性もよく、“隠しきれ……
さつま揚げの名称で県内外に知られていますが、この呼び名は最近であり、地元では今も、つけあげ、ちきあげなどと呼ばれています。江戸時代に琉球から渡来した料理チキアーゲに由来するとも、島津斉彬《なりあきら》公が産業発展のために考案させたともいわれています。 地域によって原料や形に特徴があり、土地土地の……
西部地域では、白身魚やくじら、いのしし肉を使った鍋料理を「へか」といいます。へか焼き、へか鍋、へか汁とも呼ばれ、くじらやいのしし肉のへかは東部地域の山間部でもつくられます。田を耕すときに牛に引かせていた「犂《すき》」についている鉄板が「へか(へら)」で、これを鍋代わりにしたことで名づけられたそう……
なまずの頭や骨、皮などをたたいて揚げたもので、県の最東部にある板倉町で昔から親しまれてきた料理です。南北に利根川と渡良瀬川が流れるこの一帯は県内で最も標高が低く、大小の沼も多く水害の多い土地でしたが、川魚が豊富にとれます。なまずは、笯筌《どうけ》漁といって、竹を円筒状に編んだ筌《うけ》を川に仕掛……
鳥取では、じゃぶじゃぶと汁けを多めにしてつくる煮物のことを「じゃぶ」といいます。魚や肉などの動物性たんぱく質の食材に野菜や豆腐を加えて煮て、お椀に盛って汁を吸いながら食べます。 県東部の山間部に位置する八頭《やず》地域では、近くを流れる八東川《はっとうがわ》でとってきたうぐいを使ってじゃぶをつく……
鍋の中の具に火が通っていい香りが漂い、食べ頃になると、待ちかねた家族が競って箸をのばして肉をひこずり(ひきずり)ながら食べたので、「ひこずり」と呼ばれるようになりました。かつては家々で鶏を飼っており、来客時や家族の祝いごとのときなどに鶏をつぶしてつくったごちそうです。調理法としてはすき焼きの一種……