三重県の北勢から中勢は、伊勢平野で栽培された良質の大根を、鈴鹿おろしや伊吹おろしと呼ばれる寒風にさらしてつくる伊勢たくあん、養老たくあんの産地です。かつてはどの家でも自家栽培した大根を大樽で漬けて年中食べていました。このたくあんも新漬けのできる翌年の夏を越す頃になれば味や匂いが悪くなります。あほ……
いりこから出ただしがよくしみた、ちょっと甘めの煮物です。よく干して長期保存用に漬けたたくあんでつくると、しっかりとした歯ごたえとたくあん自体の旨みがあり、食が進みます。 今は一年中購入できるたくあんですが、昭和の初め頃まではどの家庭でも1年分のたくあんを、晩秋から暮れにかけて漬けました。干した大……
四国山地の中腹に位置する山間部、祖谷《いや》地方で食べられている味噌田楽です。祖谷では昭和30年代まで夏でも囲炉裏《いろり》を使っており、でこまわしも囲炉裏で焼きました。串の上からじゃがいもが頭、豆腐が胴体、こんにゃくがスカートのようで、回しながら焼く様子が人形浄瑠璃の木偶《でく》人形(でこ)を……
油で揚げた大豆をピリ辛の調味液に漬けこんだ常備菜で、大豆に酸味と辛みがしみこみ、やや歯ごたえのある大豆は噛みしめるほどに旨みが感じられます。十勝地方は大豆の生産量が多く、本別《ほんべつ》町や音更《おとふけ》町などでは収穫した豆を自然乾燥させる「豆ニオ」の光景が今も見られます。大豆はさまざまな料理……
炒った大豆をするめとともに調味液に漬けたもので、大豆は香ばしく食べごたえのある、ちょうどいいかたさになっています。するめのだしを最初に感じ、噛んでいるうちに大豆の風味がじわじわと出てきます。県北部で教わった料理で、大豆は体によいので、毎日5~8粒ぐらいずつ食べなさいといわれて食べた懐かしい味だそ……
香川県の代表的な郷土料理で、家庭や飲食店で年中食べられています。温暖な気候の香川県はそら豆の生育に最適な土地柄で、かつては農家で米の裏作として、家庭で一年中食べられる量を栽培し、乾燥させて保存していました。醤油豆は、酒の肴や農繁期の常備菜にしたりとどこの家でもつくられていたものです。砂糖は貴重だ……
近江八幡市で食べられている赤こんにゃくの煮物です。きれいな赤色は縁起がよいので正月料理に欠かせない一品で、昔は年末になるとこんにゃく玉を五つほど縄でくくったものが売られていたり、リヤカーで売りにくる人もいたそうです。祭りや法事などの「なんぞごと」でも赤こんにゃくを炊きました。 独特の赤い色は三二……
県北に位置する登米《とめ》市は、広大な平野部に田んぼが広がる一大稲作地帯で、伊豆沼や長沼など沼が点在する水郷でもあります。豊かな土地を背景に、ここでは昔から何かあればもちをついて食べてきました。正月はもちろん、お盆にはおみやげもちを供え、彼岸にもおはぎではなくもちをつきます。法事でも、以前は四十……
奥羽山脈の山々に囲まれ、冬季は2m以上の積雪になる西和賀では、野菜の長期保存にさまざまな漬物がつくられます。なかでも自慢の品が、大根を丸ごと塩と水だけで漬けこむ一本漬けです。新鮮な風味と歯ざわりはとれたての生大根のようで、少し酸味が出たものも「さわっとしておいしい」といいます。 大根は新鮮なみず……
佐渡でつくられている漬物で、柿をつぶして漬け床にし、生の大根を漬けたものです。塩がきいていますが、柿の自然な甘味が加わり、大根はパリパリとした食感でおいしいものです。別名を「水け大根」「即席漬け大根」ともいい、たくあんよりも早い10月頃からつくり、たくあんより早めに食べる漬物です。少し長く食べた……
大根の一夜漬けです。大阪市内の家庭では、大根がある季節には夕飯の仕舞いごと(片づけ)の後に、翌朝用に千突きで手早く準備していました。夏はぬか漬け、冬は大阪漬けを毎朝食べたものです。 江戸時代後期の風俗事典『守貞謾稿《もりさだまんこう》』に、大根の根と葉を細かく刻んで塩漬けにした刻茎《きざみぐき》……
県北西部、濃尾《のうび》平野の中心にある稲沢市は、冬になると北西方向からの乾燥した冷たい季節風「伊吹おろし」が吹きます。昔からこの風を利用した割り干し、切り干し、花切りなどの干し大根づくりがさかんに行なわれてきました。 新鮮な大根は包丁を入れると割れやすいので、多少しなびたものを使います。晴天が……
めのはとはわかめのひらひら部分のこと。根元の部分はめかぶです。天然わかめが豊富な隠岐地域では、わかめを料理にもおやつにも使います。わかめを入れたはりはり漬けはさっぱりとして歯ごたえもよく、昔から季節を問わず常備菜として活躍してきました。 わかめは、干してうま味を凝縮させたしぼりわかめ(干しわかめ……
干した大根を水またはだし汁で戻して刻み、二杯酢または三杯酢で漬けたものです。食べる音がハリハリと聞こえることから、その名がついたといわれます。大根を干して増える甘味と和え酢の酸味とで、味が引きしまり、はりはりした食感が食欲を増します。 はりはり漬けは東予《とうよ》・中予《ちゅうよ》でよく食べられ……
津田かぶは勾玉《まがたま》のような形をした外皮が赤紫色のかぶで、東部の出雲地域に伝わる伝統野菜です。正月頃にちょうど漬かり、カリッとした食感で風味がよく色も鮮やかなため、東部自慢の漬物として年始の来客のお茶うけやお土産にされてきました。もとより島根県はお茶飲み文化がさかんな土地柄で、漬物や煮物な……
芭蕉菜はタカナの仲間で、独特の辛みと風味のあるカラシナの一種です。県南西部、北上川流域の盆地にある北上市や奥州市江刺では昔から栽培され、冬場の漬物に利用されてきました。山形県の青菜《せいさい》(『漬物・佃煮・なめ味噌』p37)と同じ系統で、漬物にするとぱりぱりとした歯ごたえとピリッとした辛みがあ……
秩父地方は周囲に山岳丘陵をながめる盆地で、森林が多く水田は少ない畑作地帯です。しゃくし菜は秩父地方で昔から栽培されており、体菜《たいさい》の仲間で「雪白体菜《せっぱくたいさい》」といいます。その姿が「しゃもじ(しゃくし)」に似ていることからこう呼ばれるようになりました。 しゃくし菜の漬け方は白菜……
戦前までの長野県は越冬のための保存食の工夫が重要で、各家で冬に備えて大量の漬物をつくっていました。とくに漬け菜は多種類あり、地域伝来のものが各地で栽培されてきました。野沢菜漬けは、野沢温泉村や飯山市など北信の代表的な漬物でしたが、今は県下で広く漬けられています。「野沢菜」はスキー客がつけた愛称で……
県南の山間地域、大和高原などでは、真菜、しゃくし菜、高菜などの漬け菜が多く栽培され、その塩漬けを「おくも」とか「おくもじ」と呼んでいます。地域によっては漬物全般を、あるいは漬け菜の漬物の炒め煮を指す場合もあります。 宇陀市室生西谷《うだしむろうにしたに》では、高菜の漬物をごま油で炒め、味つけした……
鮮やかな緑色の浅漬けで食べることが多い広島菜漬けは、野沢菜漬け、高菜漬けと並ぶ日本三大菜漬けのひとつで、アブラナ科特有のピリッとした風味とあっさり上品な味わいがあります。京都から譲り受けた種から育成されたので「京菜」、茎が平たいので「平茎《ひらぐき》」と呼ばれたりもします。 太田川デルタにある広……
島根との県境にある庄原市高野町《たかのちょう》は、中国山地の山々に囲まれた冷涼な高原で、りんごが特産です。県内でも有数の豪雪地帯で、、冬の保存食として野菜や山菜を各家庭で漬けてきました。 近年は住居の気密性が高まり、漬物を漬ける場所や保存場所が少なく、漬物特有のにおいも敬遠されますが、昔の農家の……
春に漬けた高菜は梅雨を越してから食べ始め、次の高菜がとれるまで毎日食卓に登場します。高菜独特のピリッとした辛みが残る若漬けは、乳酸発酵が進むにつれて香りや酸味が増し古漬け独特の風味となり、ご飯をおいしく食べるための脇役として欠かせません。保存のため塩分が高めではありますが香りと辛みがやみつきにな……
青はぐらうりを筒状にし、中に青じそを巻いたなんばんを入れ、塩漬けと味噌漬けの2段階の加工をした漬物です。中に入っている青じそとなんばんのピリッとした風味が特徴。できあがりを切った断面は美しく、また味噌床を入れ替えることで、長期保存もできます。はぐらうりの「はぐら」は肉質がやわらかいため、歯がぐら……
県の南部は約4カ月も雪に埋もれる長い冬を乗り切るために、食品の貯蔵技術にも優れ、漬物の種類も豊富です。また、野菜の漬物のことを「がっこ」といい、どこの家庭でも競っておいしい漬物をつくり、お互いに持ち寄ってお茶を飲みながら漬物をいただく「がっこ茶」を楽しんでいます。 そのなかでも、なすの花ずしは、……
特産の薄皮丸なすの一夜漬けで、米沢市を中心とする置賜《おきたま》地方の夏の食卓に欠かせない漬物です。ひと口サイズの巾着形のなすは皮が薄く、漬物にするとパリッとした歯ごたえがあり、果肉は弾力があります。置賜地方は盆地のため夏は蒸し暑く、暑くて食欲がわかないときでも、氷で冷やしたしょっぱいなす漬けさ……
ぬか漬けはぬか味噌漬け、どぶ漬けなどとも呼ばれます。昭和の時代には、どこの家庭にもぬか床があり、毎日、明日の分の野菜を加えてはかき混ぜて何代にもわたって受け継いできました。長く漬かった古漬けになったら、さっと洗って、おろししょうがと醤油をかけて食べるのもおいしいものです。 八尾市などの中河内《な……
米ぬかに塩、水を混ぜて発酵させたものを漬け床として、野菜を短期間漬けたものがぬか漬けで、独特の香りが特徴です。 聞き書きの調査地である加須市、埼玉県東部低地は利根川の中流域に位置し、年間を通じて野菜が多くとれるため、保存食の必要がない地域でした。昔から物資の流通もさかんだったので、冬季に保存を目……
料理名の由来はやたらに何でも漬けこむことから、とも、やたらにおいしいから、ともいわれます。このやたら漬けがつくられてきたのは、三方を1000m級の山々に囲まれた県西部の千種《ちくさ》町(現宍粟《しそう》市)の中でも一番奥まった山間部の西河内《にしごうち》で、すぐ近くはスキー場です。雪深い冬を過ご……
福岡の夏の料理で、とくに人が集まるお盆の時期につくられ、仏様にお供えしたりお盆参り客にふるまわれます。甘味と酸味、野菜の旨みと味のバランスがよいピクルス風の料理で、名前はポルトガル語で漬物を意味する「アチャール」に由来するとも、「あちら(外国)」がなまったともいわれます。 材料は歯ごたえのある夏……
大根、にんじん、キャベツなどの野菜と身欠きにしんに麹を加えて低温下で発酵させた、北海道定番の漬物です。にしんのうま味と麹の甘味、ほどよい酸味はクセになる味で、正月にはざく切り野菜と黒いにしんを入れたどんぶりが、他の料理とともに食卓に並びます。 北海道は初冬から春まで雪におおわれます。昔は長い冬を……