鳥取との県境あたりの県北部は中国山地に囲まれていて、海の魚は山陰から来た行商から買っていました。いわしやさば、しいらの塩ものや、にしん、するめなどの乾物が主でした。いわしは安かったのでトロ箱でまとめ買いし、簡単にできる加工品としてぬか漬けの「へしこ」にして保存しました。こうすると半年から1年ほど……
かどとは生のにしんのことです。新鮮な魚を腑《ふ》(内臓)入りのまま大きく切って麹に漬けこんだ雪国独特の保存食で、昔から正月など冬場のハレの日に、家族や親類縁者で卓を囲んで食べます。 県中西部で秋田との県境に位置する西和賀町沢内《さわうち》は、冬季は2m以上の積雪となる豪雪地域です。岩手より秋田と……
瀬戸内海にある尾道市因島《いんのしま》の中庄《なかのしょう》町や田熊《たくま》町には、秋祭りのごちそうとして「しばずし」をつくる習慣があります。瀬戸内では珍しい発酵ずしで、前もって塩漬けしておいた魚と季節の野菜を、ご飯に麹、たでなどを混ぜ合わせたものと漬けこみ、1週間から半月ほど発酵させます。昔……
はたはたは秋田の県魚で「秋田名物 八森《はちもり》はたはた 男鹿《おが》で男鹿ぶりこ」と秋田音頭にも唄われています。はたはたずしは塩漬けしたはたはたを酢、麹、飯、にんじんなどと漬ける飯ずしで、きりたんぽと並ぶ代表的な郷土料理です。その歴史は古く秋田藩主・佐竹公が移封《いほう》される以前にさかのぼ……
雪深い飛騨地域では、自家製の味噌づくりがさかんでした。寒い日は枯れ朴葉に味噌や漬物をのせて、あるいは前の日の残り物の冷たくなったおかずをのせて、囲炉裏で焼いて食べていました。朴葉味噌の具材は、昔は味噌に飛騨ねぎとかつお節だけ。それだけでも朴葉のあぶった香り、ほどよく煮えた味噌ととろっと甘いねぎの……
甘酒は県内各地で、その年の五穀豊穣を感謝する祭りにふるまわれてきました。鹿児島県との県境の霧島山麓に位置する都城《みやこのじょう》市では11月3日を豊穣《ほぜ》の日として、手づくりの熱い甘酒とその熱さをやわらげるこんにゃくを一緒に神仏に供え、家人も直会《なおらい》としていただく慣習がありました。……
神奈川県の水がめといわれる津久井地方は山がちで水田は少なく、麦飯やうどん、すいとん、まんじゅうなど日常の食生活は麦が土台でした。酒まんじゅうは夏祭りや盆にはどこの家庭でもつくったものです。種が発酵しやすい暑い時期につくるのがよいとされますが、7月の初めはどういうわけか失敗しがちで、盆の頃になると……
県最東部に位置する上野原市は水に恵まれない土地で、水田は少なく、陸稲、小麦、大麦、いも、こんにゃくがおもな産物でした。おやつには小麦粉を使うことが多く、正月や盆などのハレの日、祭りになると各家庭で、自家製の「まんじゅう酒」でふくらませた酒まんじゅうがつくられました。 まんじゅう酒や生地づくりは気……
福島の家庭では、初夏になると蒸した米と米麹の漬け床で、きゅうりやなす、にんじんなどの野菜を漬けた三五八漬けが頻繁に食卓に並びます。名前の由来は、漬け床に使う塩と麹、米の容量が3:5:8になっていることから。野菜を漬けると、翌朝にはできあがります。とれたての夏野菜に塩けとご飯、麹の甘味がしみこみ、……
大根、にんじん、キャベツなどの野菜と身欠きにしんに麹を加えて低温下で発酵させた、北海道定番の漬物です。にしんのうま味と麹の甘味、ほどよい酸味はクセになる味で、正月にはざく切り野菜と黒いにしんを入れたどんぶりが、他の料理とともに食卓に並びます。 北海道は初冬から春まで雪におおわれます。昔は長い冬を……