(1)高品質生産を実現するための,徹底して現場にこだわった,その場でできる土壌診断,作物診断技術の最新情報。リアルタイム作物栄養診断,簡易CEC検定法,RQフレックス徹底使いこなし。
(2)病害対策としてのケイ酸資材の追跡。捨てれば産業廃棄物になる籾がらも生き返る!
(3)植物は有機物を吸収できるのか? 有機物利用の新地平を拓く研究成果収録!
(4)環境保全型農業に取り組む地域事例5つを追加し,さらに充実!
(5)改正JAS法による「有機」認証にかかる経費は? 全登録認定機関へのアンケート結果。
野菜に含まれる硝酸やシュウ酸,ビタミン含量などが,品質を評価する指標として注目されている。消費者団体のなかには自前の分析センターで検査し,農産物を評価するところも現われてきており,見た目だけではない中身勝負の農産物をいかに生産するかが重要になっている。そんなときに役立つのが,その場で迅速に土壌や作物を診断する技術である。今回の追録では,現場でできる診断法と対策を充実させた。
●民間指導者の独自な手法
第4巻に収録したのが,現場でできることを重視した「デジタル型Dr.ソイルとCEC簡易検定キットによる診断と処方」である(ジャパンバイオファーム・小祝政明氏)。小祝氏は民間の指導者で,現場で土壌と作物を診断し,施肥改善などの指導にあたっている。その小祝氏が利用しているのが,土壌養分や作物養分を分析する「デジタル型Dr.ソイル」と,CECをその場で分析する「CEC簡易検定キット」である。
これまで比色によって診断していた「Dr.ソイル」をデジタル化し,夜でもできるし,曇天など光状態が悪くてもできるようにしたのがミソ(土壌養分検定器「Dr.ソイル」は,第4巻「調査・分析の手法」にすでに収録)。土壌CEC分析も,生土を少し加工するだけでその場でできる。従来,土壌のCEC値は分析に時間がかかるため,地域の平均値を使うことが多かった。しかし,有機物施用や土壌改良などによって,今の一枚一枚の圃場はかつてとは大違い。平均値を基礎にしたのでは,実態とのずれが問題だと小祝氏は指摘する。処方も独自である。診断値をもとに,石灰であれ苦土であれ,それぞれの肥料や資材の特徴をおさえた独自な処方は農家の間で評判を呼んでいる。
糖度計診断などの民間指導者の診断と対策についてはすでに収録されている。併せてご利用ください。
記事タイトル | 執筆者 | 収録巻と頁 |
●簡易測定器具による現場での診断技術 |
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●中身をアピールする栄養面からの品質アップ |
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●病害虫抵抗性を高めるケイ酸活用 |
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●循環型農業の要―有機物施用と有機吸収の可能性 |
有原丈二 |
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●簡易だが精度の高い新分析手法
オーソドックスな診断法でも新しい手法が生み出されている。一つは「簡易CEC測定法」(栃木県農試・亀和田國彦氏)である。乾土を使うのは従来のセミミクロ・ショーレンベルガー法と同様だが,特殊な分析器具を必要とせず,しかも時間が大幅に短縮できる。精度の面でもまったく問題ない。現場指導者の方々にはぜひ取り組んでいただきたい方法である。
RQフレックスは現場で広く利用されている分析器だが,今では硝酸含量の診断だけでなく,アンモニア,リン酸,カリウム,カルシウム,鉄,ホウ素,作物体汁液中のビタミンC,シュウ酸,グルタミン酸などの分析が可能になっている。最新情報を紹介した(静岡県農試・鈴木則夫氏)。
作物体の汁液による迅速診断だが,今追録で北海道の主要作物であるジャガイモの汁液診断法と,窒素とリンについての基準値を収録した(北海道農業研究センター・建部雅子氏)。硝酸とデンプン価の関係をおさえた,安定収量と品質を実現するための指標としてほしい。
●診断値を生かして品質向上するために
最近,品質をめぐって話題にぼっているのが,野菜などに含まれている硝酸やシュウ酸,ビタミンなどの含量である。多収を目指すのはもちろんだが,同時に硝酸やシュウ酸含量を減らし,ビタミン類などの機能性物質の含量を高めることが求められている。こうしたテーマについての情報を網羅したのが第2巻「作物の品質と栄養生理」のコーナーである。土壌,施肥,光環境,温度などの諸条件と,ビタミン含量やCa含量,食味などとの関連を追求した諸研究。また,アスコルビン酸,シュウ酸,硝酸などの作物体内の成分の関連と,複雑な代謝を綿密に追った研究(米山忠克氏,建部雅子氏),植物調整剤(5-ALAなど)によるホウレンソウの硝酸・シュウ酸含量の軽減(葭田隆治氏)など,品質向上にむけての基本的な研究と実際の手法にわたる研究が収録されている。診断法と併せて,ぜひご一読いただきたい。
最近,ケイ酸が野菜などの植物体内の抗菌性物質の生成を促進して,生理的抵抗性を向上させることが明らかになり注目されている。これを「全身獲得抵抗性誘導(SAR)」という。ケイ酸を含む無機元素のこうした生理的働きが話題になっているのである。
●全身獲得抵抗性誘導
ケイ酸の新しい役割について触れたのが,追録11号で第2巻に収録した「無機元素による全身獲得抵抗性誘導」である(兵庫県中央農技センター・渡辺和彦氏ら)。古くは,錬金術師が活躍した14~15世紀に,トクサの水抽出液を作物の立枯病やうどんこ病のような病気に散布する農法があったという。ご存じのように,トクサという植物は15%(乾物)以上もケイ素を含む。現代の科学で同じものを分析してみると,ケイ酸ナトリウムが含まれているという。
ヨーロッパでは施設栽培の培養液に水溶性ケイ素を加えて,キュウリやバラに利用し,うどんこ病その他の抵抗性の増加,収量も増加するという報告がある。渡辺氏は,ケイ酸カリを用いたイチゴ栽培(水耕:ケイ酸濃度25~100ppm)でうどんこ病抵抗性が高まり,育苗培土を用いたイネの苗箱施用でもケイ酸カリ1箱6gで苗イモチの発病が抑制されたと報告している。
ケイ酸で注目したいのが,稲わらや籾がらの利用である。その点にも言及したのが今回の追録に収録した「ケイ酸の動態と肥効」(第6-(1)巻,東北農業研究センター・加藤直人氏)である。
●稲わら,籾がらのケイ酸活用
加藤氏は「灌漑水中のケイ酸濃度が,40年前に比べると1/2~1/3に減少している」と指摘している(表参照)。また,田畑輪換による土壌中のケイ酸供給能の変化についても,畑作を組み込むとその後作にケイ酸供給能が高まるという。ケイ酸の効果に気づき始めた肥料業界も,近年,イネ中心であるが,新しいタイプのケイ酸質肥料や資材を発売してきている(軽量気泡コンクリート粉末肥料,シリカゲル肥料など)。
自給資材にも注目しておきたい。加藤氏は,自給のケイ酸補給資材として,稲わらと籾がらにも言及している。水田に稲わらを連用することによって,初年度のイネの利用は6%程度にすぎないが,連用することによって可給態ケイ酸量は増加していくとしている。また,籾がらにはケイ酸が20%程度含まれており,水田に施すとイネのケイ酸吸収量が増加するという。外国では,籾がら灰をイネの苗床に施用すると,苗のケイ酸含有率が増加し,アルミニウムやマンガンの過剰吸収が抑制されて,乾物重が増加したという報告がある。注目しておきたい。
ケイ酸といえば,今回追録した「もみがら成型マットによるイネの育苗」(第6-(1)巻,青森県農試・高城哲男氏,全農・會田重道氏)も参考になる。これは,カントリーなどで大量にでる籾がらを原料にしたイネの育苗マット(商品名「もみがら成型マット」)とその活用技術を詳述した記事だが,図のような成果が報告されている。「もみがら成型マット」を使った場合にケイ酸吸収量が増えていることがわかる。籾がらのリサイクル利用と育苗培地の軽量化を目指して開発された製品だが,多くのヒントが隠されていそうだ。
有機質肥料や堆肥で栽培した農産物と,化学肥料だけで栽培した農産物の品質の違いがしばしば話題に上がる。ところで,作物は本当に有機物を吸収するのか? アミノ酸吸収については,第2巻に「植物による有機成分の吸収」(東京大学・森敏氏)が収録されているが,より高分子の有機物の吸収については不明であった。今回,そのブラックボックスに挑戦した研究を収録した。
その一つが「土と作物間で起こるさまざまな養分吸収システム」(第2巻,農環研・阿江教治氏・杉山恵氏,島根県農試・松本慎吾氏)である。全国の有機物施用に関連した研究成績書をつぶさに調べ,どうしても無機化した窒素だけが吸収されているとは思えない成績を糸口に,タンパク様窒素吸収の可能性を追求していく。その結果,分子量が約8,000のタンパク様窒素の吸収にたどり着く。「冬ニンジンには堆肥が効く」という言い習わしもある。推理小説にも似た展開は実におもしろい。
もう一つは,炭素と窒素に二重標識した有機物を使って,その複雑な無機化,再有機化,揮散,作物吸収の動きを追い続けた労作「重窒素を利用した有機物窒素動態の追跡法」(第4巻,九州大学・山室成一氏)。二重標識した有機物堆肥の作成法,実験の組み方についても詳しく書かれており,必見である。また同氏による「堆肥由来の炭素と窒素の動態」も注目(第6-(1)巻)。
●話題の民間農法,民間資材
価格低迷が続く農産物だが,そんななか個性的な民間農法や微生物資材が話題を呼んでいる。たとえば今回収録した「愛華農法」(第7-(2)巻,元佐賀農試・川崎重治氏)だが,九州地域のイチゴ栽培を中心に,高品質と超多収を同時に実現する農法として,農家だけでなく研究者も巻き込んで展開し,高知県や広島県,茨城県などに広がりつつある。玄米や雑穀,果実,野菜などを発酵させたエキスと土着菌を組み合わせて,天酵源,エポック,地楽園,超人力といった資材を使い,イチゴでは反収10t以上という収量を実現している。植物から抽出したホルモン様物質が作物の活力を高め,多収はもとより減農薬・無農薬も可能にするという。このほかにも,甘味料として知られるステビアの葉を利用したステビア農業資材「ファームA」も収録した。
微生物資材としては,いわゆる納豆菌の仲間の代謝産物を主成分とした「バチルス・カメリア」と,乳酸菌・酵母菌・麹を主体とした「カルスNC-R(サルパーS)」をとり上げた。
●微生物資材の新評価法
微生物資材だが,生きた菌を売り物にしたもの,代謝産物をアピールするものなど,その中身はいろいろである。今回の追録で,その新しい評価方法を収録した(第7-(1)巻)。一つは,生きた菌数と種類を分析する「堆肥化促進微生物資材の動向と評価―蛍光染色法などによる評価」(佐賀大学・染谷孝氏)。EB/CFDA二重蛍光染色法によって,モニターに生きた菌と死んだ菌がくっきりと浮かび上がる。その数を数えることによって資材に含まれている菌数を計測し,その実力を判定するというもの。もう一つは,土壌改良効果をみるための「微生物資材の土壌団粒形成能の評価手法」(神奈川県環境農政部・山田裕氏)。ビン培養による簡易手法だが,農家への的確な情報を提供するうえで注目しておきたい。
改正されたJAS法の施行(平成12年6月10日)から,間もなく2年が過ぎようとしている。一般消費向けのすべての飲食料品に品質表示が義務づけられ,スーパーなどでも生鮮食料品には「原産地表示」の札が立ち並ぶようになった。農家にとって一番大きな問題は,これまで使ってきた「有機」表示に規制がかけられたということであろう。「有機」表示するには,圃場条件,種苗や栽培法,調製法,使用資材など,事細かな規定が定められ,その諸条件をクリヤーしていると農水省の登録認定団体に認証された農産物だけしか「有機」表示できなくなった。
気になるのが「有機認証」を受けるための条件であり,認証を受けるためにかかる費用であろう。今回の追録で,改正されたJAS法の特徴および法律の中身,そして,各登録認定団体にお願いして,認証を受けるためにかかる費用や,2年目以降の費用などを答えていただき,一覧表形式で収録した(第7-(2)巻)。各登録団体でホームページを立ち上げているところについては分かる限りそのURLを掲載した。「有機」認証を考えておられる方や団体にとって,認証費用の一覧は役立つはずだ。
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環境保全型農業の流れはますます強まっている。今追録でも,鹿児島県知覧の堆肥センターなど,5地区の地域的取組みを収録した。地域活性化にも結びついたそれぞれの特色ある取組みは参考になるに違いない。
事例 | 市町村 | 地域条件 | 特徴 |
JA常盤村 | 青森県常磐村 | 水田単作+転作ニンニク+リンゴ | 平成6年に村議会で「有機の里・ときわ村」宣言。JA独自の堆肥とボカシ肥を製造し,有機農産物,減農薬農産物生産 |
國分農場 | 福島県二本松市 | 水田+果樹+転作野菜(キュウリほか) | 畜産農家の國分農場が中心となり,旅館組合の食品残渣を堆肥化し,有機農業研究会と組んで有機物地域循環 |
アイガモのたにぐち | 兵庫県浜坂町 | 水田中心 | 個人によるアイガモ水稲同時作と,鴨飼育による糞を農地還元。消費者交流を通じた産直 |
JA土佐あき芸西支部 | 高知県芸西村 | 水田での施設野菜 | ナスとピーマンの大園芸地帯で,野菜くず,家庭用生ごみ,し尿などを堆肥化し,園芸研究会をあげて減農薬の野菜づくりへ 【有機物利用】村営の堆肥センターで,村内のあらゆる有機物を堆肥化 |
JA熊本うき | 熊本県松橋町 | 水田+果樹+園芸複合地帯 | 平成12年,JAが「環境新世紀プロジェクト」を立ち上げ,地元スーパーや魚市場,畜産農家,耕種農家をつないだ良質堆肥製造 |
★第7-②巻「地域ブランド堆肥・有機質肥料の製造と活用」に収録した「クリーンベースちらん堆肥センター」は,地域の畜産農家,林業家,茶農家が手をつないで,茶に適したCa/Mg比5に調製したオリジナル堆肥を製造し,独自の深層吹込み工法による施用で,産地の名声を一気に高めた事例です