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西尾道徳「環境保全型農業レポート」

◆2005年2月3日号記事一覧

  1. 機能性肥料を利用したチャへの窒素施肥量削減技術
  2. 兵庫県旧市島町(現丹波市)が有機農産物生産に直接支払制度を実施
  3. 家畜排せつ物たい肥の利用に関する意識・意向調査結果


1.機能性肥料を利用したチャへの窒素施肥量削減技術

●問題の背景

 チャへの施肥量が多く,茶園から排出された窒素やリンが周囲の水質を汚染していることが指摘されている。20年近く前に行われた野菜・茶業試験場(当時)の研究(小菅伸郎・石垣幸三・中島田誠・渡部育夫・保科次雄(1987)茶園地における窒素,リンの発生負荷低減について。野菜・茶業試験場研究報告B.1:23-44)でも,次の結果がえられている。

1)農家の慣行施肥量は標準施肥量の2倍以上で,窒素は100kg/10a以上,リン酸は50kg/10a以上施用されている。
2)暗渠排水中の濃度は,無機態窒素(大部分が硝酸性窒素)が10~40mg/L,リン酸が0~2mg/Lで,窒素は主に地下浸透,リン酸は表面流去によって排出されると推定された。
3)茶園地帯の湧水の硝酸性窒素濃度は最高50mg/Lに達していた。
4)茶園から集中豪雨で流れ出た表面流去水中の全窒素濃度は平均10。7mg/L,全リン酸は1。3mg/Lで,流出した窒素の50%,リン酸の90%は土壌粒子に吸着されたものであり,特に茶樹による被覆が少ない土壌侵食の多い茶園で問題であった。

 かつて茶樹への窒素の施肥量は少なく,1960年頃まで徐々に増加して,茶の生産量もそれにともなって増加した。1970年頃からさらに窒素施用量が急激に増加したが,収量は同じであった(野中邦彦(2004)茶園における環境問題と施肥の適正化.圃場と土壌.10・11月号.P.42-47)。この施肥量増加は,窒素多肥でないと旨味成分のテアニンが増えない,との考えによるものであろう。
 窒素多肥を続けた結果,1997年には静岡県で「県内の溜め池において過剰施肥が原因と思われる魚の大量死」との新聞報道がなされるなど,茶園への過剰施肥が問題になった。最近では茶園への窒素施用量の削減が全国的に取り組まれ,JAなどの指導する窒素の標準年間施用量が,全国平均値で1993年には92kg/10aであったものが,1998年に70kg,2002年に60kgに減少し,茶生産農家現場でもそれぞれ78kg/10aから70kgを経て61kgに減少してきた。とはいえ,窒素の投入量と搬出量の差は,2002年において34.1~67.1kg/10aと推定され,他の作物に比べて高く,一層の窒素施用の削減が必要になっている(野中:同上誌)。
 こうした背景から,チャへの窒素肥料施用量をさらに削減する技術について,野菜茶業研究所が取り組んでいる最近の研究を紹介する。

●被覆尿素の利用

 茶樹の窒素吸収特性を踏まえて,つぎのような窒素施肥量の削減シナリオが描かれた(徳田進一(2001)窒素多肥茶園における被覆尿素の利用.季刊肥料.89:70-76)。
 すなわち,茶樹が夏~秋に吸収した窒素の多くは樹体内に蓄積され,翌年の一番茶の新芽に転流する。そして,樹体内蓄積窒素は収量に影響し,品質への寄与はさほど大きくないことが知られている。このことから,夏~秋に土壌中の窒素濃度を低濃度で良いから維持することが必要で,高濃度に維持する必要はない。降雨によって夏~秋に溶脱する窒素量を少なくするために,無機態窒素の放出をコントロールできる被覆尿素を利用すれば,施肥量を大幅に削減して,土壌中の窒素濃度を低く維持することが可能になろう。他方,品質を決定づける新芽の遊離アミノ酸含量を高めるには,一番茶の収穫直前に窒素施肥(春肥)が不可欠であることが知られている。このため,春肥の量を大幅に削減することは無理で,地温の低い時期であるため,速効性の通常の化学肥料を使わざるをえない。そこで,被覆尿素と速効性肥料を組み合わせて,品質を維持しながら,施肥量を削減することが可能になるはずだ。
 しばらく前の慣行の窒素施肥量は年間72kg/10aで,下図のように7回に分けて施していた。

慣行の窒素施用 (野菜茶業研究所:パンフレット「環境に優しい茶生産のための窒素施肥量削減技術」から)

 分施の手間も大変であり,省力化のために,3月初めに窒素を硫安13kg+被覆尿素(30日タイプ10kgと100日タイプ16kg)26kg/10a(計39kg/10a)を一度に施用するなどの試験区を設けて圃場試験を行った。その結果,年間39kg/10aの窒素施肥でも,一番茶の収量やアミノ酸含量などの品質は,慣行区と何ら変わらないという結果が4年間にわたって確認された。ただし,二番茶の収量や品質が2年目以降,慣行区に比べて低く,二番茶収穫直前に速効性肥料の追肥が必要であった(徳田進一・渡部育夫・加藤忠司(1999)被覆尿素の利用による窒素施肥量と施肥回数の削減.平成11年度野菜・茶業試験場研究成果情報)。

●石灰窒素の利用

 茶園では過剰の窒素肥料を長年にわたって畦間に施用してきたために,畦間の土壌pHが極端に低くなっており,そのために,畦間への根張りが悪くなっている。根張りが悪い茶樹に窒素を吸収させるためには,ますます多肥しなければならなくなる・・・という悪循環が起きている。
 石灰窒素(カルシウムシアナミド)は,土壌中で水に溶けてシアナミド(H2CN2)を遊離する。シアナミドは生物に軽い毒作用を持ち,硝化菌,病原菌,雑草などの生育をある程度抑制する。シアナミドは加水分解されて尿素を生じた後,アンモニウムを生成する。このため,硫安などにくらべてアンモニウムを生ずるのが10日ほど遅れ,しかも硝化菌が抑制されているので,アンモニウムが長期存続して,含有されるカルシウムの作用も加わって,酸性土壌のpHを上昇させる効果も持っている。
 そこで,石灰窒素を用いて畦間の土壌pHを上昇させて,根張りを改善したうえで,緩効的に窒素を供給して,窒素の利用率を向上させ,窒素施肥量を削減することが農家の茶園で3年間試みられた(加藤忠司・徳田進一・渡部育夫(1999)石灰窒素利用による茶園の窒素施肥量の削減.平成11年度野菜・茶業試験場研究成果情報)。
 この試験では,3つの試験区を設けられた。

A 慣行多肥区:有機配合肥料で年間112kg/10aの窒素を慣行に従って分施。
B 慣行減肥区:有機配合肥料で年間40kg/10aの窒素を慣行に準拠して分施。
C 石灰窒素加用減肥区(石灰40kg区):春肥と秋肥にそれぞれ8kgと4kg/10aの窒素を石灰窒素で混合した有機配合肥料で,年間の窒素施用量を40kg/10aとして年2回施用。

 その結果,つぎの結果が得られた。

1)一番茶と二番茶(品種:やぶきた)の収量とそれらの全窒素含量は,慣行多肥区に比べ,2つの減肥区でも3年間何ら遜色なかった。
2)慣行多肥区にくらべて,2つの減肥区では畦間に伸びる吸収根が大幅に再生した。

石灰窒素加用減肥区における畦間の吸収根の再生
(野菜茶業研究所:パンフレット「環境に優しい茶生産のための窒素施肥量削減技術」から)

3)石灰窒素加用減肥区では,慣行減肥区にくらべて,土壌中のアンモニウムを主体とする無機態窒素含量が平均10mg/100g程度多く推移した。このことは,石灰窒素の利用により肥料窒素が年間7kg/10a程度多く土壌に残存することに相当する。

土壌中の無機態窒素含量とそれに占めるアンモニア態窒素の割合の推移
(加藤忠司・徳田進一・渡部育夫(1999)平成11年度野菜・茶業試験場研究成果情報より)

 アンモニウムは土壌粒子に保持されて溶脱されにくい。また,強酸性土壌ではアンモニウムが硝化される過程で,アンモニウムのかなりの部分が,強力な温室効果ガスであると同時にオゾン層破壊物質でもある亜酸化窒素として揮散する。石灰窒素を併用することによって,土壌pHが上昇し,かつ硝化が抑制されることは,亜酸化窒素の揮散量が減少していることを予測させる。

●窒素施肥量削減技術のパンフレット

 こうした研究成果を踏まえ,野菜茶業研究所(金谷茶業研究拠点)は,「環境に優しい茶生産のための窒素施肥量削減技術」と題する8頁の普及パンフレットを刊行している(問い合わせ先 E-mail:kikaku-tea@ml.affrc.go.jp)。
 石灰窒素や被覆尿素がよいといっても,有機質肥料無施用とはいかないようである。静岡県大井川農業協同組合の山下唯好氏は,化学肥料だけの連用では次第に生育が落ち,油粕の施用で生育が回復したこと,ボカシ肥の施用で根張りが大きく改善されることを述べている(山下唯好(2004)環境保全型茶業への取り組みとその成果.圃場と土壌.10・11月号.p.67-72)。上記の石灰窒素の試験でも有機配合肥料に石灰窒素を混合している。

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2.兵庫県旧市島町(現丹波市)が有機農産物生産に直接支払制度を実施

 兵庫県の旧市島町(2004年11月1日に近隣の町と丹波市として合併)は,2003年5月に環境保全型農業等推進特区に認定されている。旧市島町のホームページは既に閉鎖され,新丹波市のホームページはまだ整備不十分で,必要な情報を十分には入手できないが,特区の概要を首相官邸・内閣官房の「構造改革特別区域計画」第5回認定書と,NPO法人「いちじま丹波太郎」のホームページの記事を中心に紹介する。

●旧市島町の有機農業への取組の経緯

  旧市島町では,農地の多くが標高40~150mの棚田地帯にあって,稲作中心の第2種兼業農家が主体になっており,近年は農業担い手の減少と高齢化によって遊休農地も増加していた。こうした状況を打破するために,町は下記の経緯を踏まえて,有機農業を農業再生の核にすえて「有機の里づくり」に取り組むこととした。
 町は,1)1975年に34名の生産者で発足した市島町有機農業研究会を支援し,2)家畜ふん尿の公害問題を解決するために,町直営の堆肥センター「市島町地力増進施設有機センター」を1992年に稼働させ,3)1999年に「市島町まちおこし専門員設置条例」を制定して,2名の専門員を配置した。町とは別個に,4)町内の有機農産物等生産者組織11団体で構成する「市島町有機農業推進協議会」が2000年に発足し,5)2001年にはこの組織のメンバーを中心として,農業の活性化を目的とするNPO法人「いちじま丹波太郎」が設立された。このNPO法人は,町内産の有機農産物や特別栽培農産物等を中心とした直売所「まちおこし会館」の運営,学校給食用の野菜の供給,有機農業学校の開校による農作業体験や調理研究等を介した都市との交流活動,町内産農産物の加工研究等を行っている。
 ただし,この間,町が常に有機農業を積極的に推進してきたかというと,そうではなく,市島町有機農業研究会と提携消費者がゴルフ場建設反対運動を行ったことから,町が市島町有機農業研究会に積極的な関与をしなかった一時期があったようである。

●「構造改革特別区域計画」

 町は,新規就農者を受け入れて農業の再生を図ることを計画し,NPO法人「いちじま丹波太郎」に新規就農者の相談や農業技術研修などを委託することを構想した。すなわち,点在する遊休農地を町が直接借り入れて,新規就農希望者に実習・研修用農地等として直接貸与する場合には,次のような問題が起きかねない。
 就農研修希望者が都合により研修を断念した場合,町自らがその農地を管理することができないので,農地を所有者へ返還することになる。しかし,農地所有者は農業を再開できる状況にないため,遊休地化を助長することになりかねない。仮にNPO法人「いちじま丹波太郎」が農地の借入主体になって農地の権利を取得できる特例を導入できれば,借り入れた農地を研修農地として活用し,研修希望者が不在となった場合でも,その農地をNPO法人の技術研究農場として利用し続けることが期待できる。また,その間の土づくりや栽培作物等の履歴が把握されているため,履歴の分かった農地を新たな就農研修希望者に貸し付けることができるため,やがてそこで研修者に就農してもらえば遊休地化を防止できる。
 そこで町は,NPO法人「いちじま丹波太郎」を表舞台に登場させた。NPO法人「いちじま丹波太郎」が農地の借入主体となり,かつ,新規就農希望者への貸付主体になる特例を,農地貸付方式による株式会社等の農業経営への参入の一環として申請したのである。申請は2003年4月の第1回募集に提出し,2003年5月の「構造改革特別区域計画」の第1回認定(第2弾)で,市島町全域を対象に承認された。

●NPO法人「いちじま丹波太郎」の役割

 NPO法人「いちじま丹波太郎」は町との協働事業体とも言うべき役割を果たしており,町から下記の業務を委託されている。すなわち,

1)環境保全型農業の後継者および担い手確保のための新規就農希望者の相談・助言・指導に係る業務
2)安心・安全な農産物の生産を支援する本町独自の制度に基づく作目ごとの栽培基準(いちじま安心・安全ブランド)の作成・栽培指導および認定等の業務
3)加工品(米粉パン,米粉ラーメン等)の開発と,有機・特別栽培農産物の販路開拓(宅配,トラック販売他)業務(2004年度加工所設置予定)
4)未利用有機質資材の堆肥化および栽培実証業務
5)土壌診断に基づく新有機堆肥の投入による土づくり実証業務(2004年度より)

 「いちじま丹波太郎」は,直売所「まちおこし会館」の運営や学校給食用の野菜の供給を行っているが,町からの上記の委託に加え,モデル圃場を設置して,1)栽培履歴や生産者の汗(努力)を伝える,2)土づくりによる農地(土壌)の変化を伝える,3)新たな栽培技術を伝えることによって,食の安心と安全の確保のための取り組みの情報発信を行って,消費者・生産者に対して理解促進をはかっている。また,「いちじま丹波太郎」が事業主体となって,2003年度から国庫補助事業の「持続的農業等実践推進対策事業」(米ぬかペレットによる無農薬,無化学肥料栽培米の実証等)や,2004年度から国庫補助事業の「病害虫防除対策事業」(地域防除プログラムを策定し病害虫のリスク管理体制を整備)を行っている。

NPO法人「いちじま丹波太郎」の直売所
(同法人のホームページから)

●町の農業者支援事業

 町は単独の支援助成制度として次を行っている。

<堆肥センターへの助成>
 堆肥センターの堆肥に補助金(2,000円/1.5トン)を助成。

<安心・安全農産物生産等推進支援事業」に基づく支援助成>
 環境保全型農業に転換した者に2001年度から「安心・安全農産物生産等推進支援事業」に基づき,栽培方法による直接所得補償の考えに基づいた支払,および,直売所「まちおこし会館」での出荷販売に対して助成を行っている。有機認証を受けた生産者に対しては,コメ以外の作物に対して10a当たり5万円,コメ生産調整で有機栽培転作にカウントされる特別調整水稲に対して3千円,地元ブランドの「さつき米」(減農薬無化学肥料栽培)に1千円を助成)し(『全国農業新聞』2002/01/11),2002年度からは特別栽培農産物生産者にも対象を広げている。
 この施策について,栽培基準や支払基準の詳細や,所得補償の論拠を知りたいところだが,まだ入手できていない。また,堆肥等有機物資材の過剰施用を防止する内容となっているかなども気になる。

<新規就農希望者への就農支援と受け入れ農家支援助成>
 町は,農業を目指す町外の人で,相続等で農地を取得する見込みがなく,市島町に住んで町の農業の振興と活性化に協力できる人(概ね45歳以下)に,「新規就農希望者研修費支援事業」と「耕作地確保等就農支援事業」の2つの事業によって支援を行い,就農先の受入農家に対しても負担軽減のために別途支援助成金を交付している。

「新規就農希望者研修費支援事業」(実施期間:2002年度から2018年度まで)
 承認された新規就農希望者は,研修計画を作成し,町長の認定を受けた後,原則として1年間研修を受ける。研修期間中は研修費として月額10万円以内の研修費が助成される。ただし,研修期間中または研修終了後5年以内に農業を中止した場合には,研修費助成金を返還しなければならない。そして,研修終了時に報告書を提出するとともに,就農後は5年間にわたり毎年4月に前年度の就農状況を報告することが義務づけられている。

「耕作地確保等就農支援事業」(実施期間:2002年度から2013年度まで)
 新規就農希望者が町内で就農する際に,農地を賃借する場合と,農業用の機械や施設を賃借する場合に,町が当該賃借料を助成する。
 農地の賃借料は,市島町農業委員会の定めた標準小作料を上限とする範囲内で全額。農業用機械の賃借料は2分の1以内(上限は年額36万円)。農業用施設の賃借料は2分の1以内(上限は年額60万円)。助成期間は就農後5か年以内。助成金を受けた者は就農後5年間にわたり毎年前年度の就農状況を報告することが義務づけられている。
 そのほかにも,エコファーマーの技術導入に対して,担い手農業者等育成助成金として,復田費用,機械及び資材への支援助成を行っている。

●「構造改革特別区域計画」の目標

 2002年度の現状に対して,2008年度の目標として下記を掲げている。

 丹波市となる直前にも,旧市島町は「構造改革特別区域計画」の一部変更申請を行って認められているので,丹波市となっても上記の計画や制度を継続していると考えられる。EUは,国によって額は異なるが,有機農業者に転換当初の5年間に奨励金を支給している。日本では国はもちろん,自治体も有機農業者に対して奨励金を支給していない。そうしたなかで,面積や人数では小規模だが,有機農業者に奨励金を支給する旧市島町の試みは注目される。

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3.家畜排せつ物たい肥の利用に関する意識・意向調査結果

     ~家畜ふん堆肥を利用したいと回答した農業者は多いが…

 農林水産省は2004年11月に「家畜排せつ物たい肥の利用に関する意識・意向調査」を農業者(回答農業者の構成は耕種79%,畜産21%)に対して実施し,その結果を2005年1月19日に公表した(http://www.maff.go.jp/www/chiiki_joho/cont/20050119cyosa.pdf)。
 調査結果は冒頭で,家畜ふん堆肥を「積極的に利用したい」が全体で51%,「ある程度利用したい」が37%となっており,「利用したい」が9割を占めていることを述べている。しかし,調査結果を良く読むと,堆肥を利用したいとの回答は条件付きであることがうかがえる。
1)「積極的に利用したいと」と回答した農業者の割合は,耕種農家の39%に対して,畜産農家は76%で,耕種農家の「積極的に利用したいと」と回答した農業者の割合は畜産農家よりも明らかに低かった。
2)家畜ふん堆肥を「あまり利用したくない」または「まったく利用したくない」と回答した者は,耕種農家で9%,畜産農家で1%あり,全体では少数者だが,耕種農家には「利用したくない」者が畜産農家よりも多く存在した。そして,「利用したくない」農家の割合は施設園芸で最も多く12。6%であった。「利用したくない」とする理由は,「散布に労力がかかる」,「含有する成分量が明確でない」が40%を超え,「雑草の種子の混入がある」,「含有する成分量が安定しない」,「衛生上の問題がある」が20%を超え,「栄養成分が多すぎる」と「作物の収量増加や品質向上が期待できない」が17%に達していた。

3)「今後,どのような家畜排せつ物たい肥の利用が進むと考えるか」に対する全回答者(大部分が「利用したい」とする農家)の回答をみると,耕種農家と畜産農家とで大きな違いはなく,「顆粒やペレットなど散布しやすい堆肥」,「価格が安い堆肥」と「成分量が安定した堆肥」が40%を超え,「成分量が明確な堆肥」,「雑草種子が混入してない堆肥」と「衛生上の問題がない堆肥」が30%を超えていた。裏返すと,「利用したい」とする農家の多くも家畜ふん堆肥について,これらの問題に不安や不満を持っていると推察される。

 今回の調査結果は,農家の多くは,現状の家畜ふん堆肥には不安や不満を持っており,それらの点を解決してくれる家畜ふん堆肥を供給してくれるなら,利用したいとの意向を持っていることを示していよう。

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西尾道徳(にしおみちのり)
東京都出身。昭和44年東北大学大学院農学研究科博士課程修了(土壌微生物学専攻)、同年農水省入省。草地試験場環境部長、農業研究センター企画調整部長、農業環境技術研究所長、筑波大学農林工学系教授を歴任。
 著書に『土壌微生物の基礎知識』『土壌微生物とどうつきあうか』『有機栽培の基礎知識』など。ほかに『自然の中の人間シリーズ:微生物と人間』『土の絵本』『作物の生育と環境』『環境と農業』(いずれも農文協刊)など共著多数。