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・着色促進,日焼けほか温暖化対策
・ジョイントV字樹形,カキ主幹仕立てなど,省力・低樹高な栽培法
・ブドウ「長期保温法」「静電風圧式受粉機」ほか省力・省エネの新技術情報
温暖化の進行で懸念されているのが日焼け果の発生です。リンゴ,ブドウでも問題となっていますが,今号ではカンキツの日焼けについて,発生のメカニズムと対策を取り上げました。
カンキツの場合,7〜9月の高温期に,果実が栄養生長から成熟へ転換するタイミングで,強日射による高温と水分供給不足による果皮温度が上昇すると細胞がえ死して日焼け症状が発生します(写真1)。極早生,早生のほか,近年では‘せとか’‘麗紅’といった中晩カンでも増えており,品種の見直しや,果実袋やテープの貼付,摘果処理,灌水や炭酸カルシウム剤散布といった対策も含め,高糖度生産に伴う水分管理の仕方なども今一度要検討とのこと。
カンキツではまた,イソプロチオラン乳剤の収穫前1回散布が,比較的安価で,導入しやすい着色促進技術として知られています。劇的な改善が狙えるものではないものの,収穫初めの分割採取などに役立てられそうです。
着色促進では,ブドウ(リンゴでも可)でユニークな収穫後果実の着色改善技術について取り上げました。青色LED光の照射と,一定の温度処理をすることで,収穫してからの果実(収穫果)に色を来させるもので,そのメカニズムと新たに開発された「果実発色促進装置」の利用可能性を紹介して頂きました。
温暖化対策ではもう1本,クリの株ゆるめ処理による凍害軽減も収録。株ゆるめとは,油圧ショベルなどでクリの樹体(2,3年生樹)を持ち上げ,根域に多くの亀裂をつくることで細根に軽度の物理的損傷を与えて根からの吸水を阻害し,耐凍性を向上させるというもので,今回は以前取り上げた技術のバージョンアップ版として,樹高が比較的高い樹や,油圧ショベルの進入が困難な園地での取り回しが可能なものとなっています。
このテーマでは今号も4本を収録。
「木と木をつなげる」発想のジョイント技術を適用し,合わせてJM7を台木に樹高を低く,側枝をV字方向に誘引して作業動線のよさと早期成園化を同時実現するリンゴのジョイントV字樹形栽培(写真2)。カキでは,新開発のわい性台‘静カ台2号’台を使ったやはり低樹高な主幹仕立てづくり,クリは徒長枝の利用と密植並木植えを組み合わせた茨城県で開発の超低樹高密植並木植え栽培,さらに,地上部からの主枝の立ち上げを省略して早期に側枝を確保し,早期開花と,最需要期である夏の多収穫を実現するパッションフルーツの「鉢吊り下げ式養液土耕栽培」をそれぞれ詳しく紹介しました。
関連してイチジクでは大きな課題だった株枯病に抵抗性を有するイヌビワとの種間交雑種を元に育成の台木‘励広台1号’も合わせて取り上げました。
今号はカンキツの基礎的な生理,品種情報についても多くのページを割いて紹介しています。
「果実の生育と養水分の動き」は,果実の生育とともに変わるカンキツ樹体内の養水分の動きを,そもそもの果実の成り立ちや,細胞レベルにまで戻って理解し直すことで,先に述べた温暖化などで不安定化する栽培環境のなか,継続して高品質生産をしていくための適期・適量な養水分管理の基本的知見を得ることができます。
品種の情報としては,温州ミカンの品種の分化,系統関係を,系譜図を示しながら解説した「温州ミカンの系統と特性分類」のほか,今後普及が期待される各県で開発の新品種情報,また広島県で育成の中晩カン新品種‘瑞季’や,‘ネーブル’‘青島温州’‘大津四号’といったオールドネームながら今後も一定程度継続して生産されるであろう中軸品種の今なりの栽培,例えば隔年交互結実や後期摘果や下垂着果管理などを含めたつくりこなしのポイントを整理して頂きました。
省エネ管理についてもカンキツで1本を収録しています。「果実成長の環境応答に基づく省エネルギー栽培体系」では,ハウスミカンの場合,生理落果期以降は当年の光合成が果実生産に及ぼす影響が大きいため,高生産と省エネの両立を図るには,満開後90日までは温度の最適化による果実の成長促進を,その後は温度と水管理の最適化による果実成熟促進を図ることがポイントとのこと。具体的な温度管理として,90日までは昼25℃・夜20℃を,それ以降は昼25℃・夜16〜18℃(着色の下限温度)を維持するのがよく,これにより慣行の温度管理体系に比べ約2割のエネルギーカットが可能になるそうです。
ブドウでは,やはり加温栽培の‘デラウェア’でこれまで隔日変温管理や日没前昇温といった省エネ技術が開発,実用化されていますが,これらと組み合わせることでさらに燃料削減が期待されるのが「長期保温法」です。これは加温に替えて,内張り(二重被覆)の設置と側面フィルムの締め切りによる保温のみで発芽までもっていく管理法で,厳冬期の1月中の燃油消費量がほぼ不要になり,大幅な省エネ,コスト削減につながるとのこと。芽揃いも従来の早期加温栽培より早いそうです。前2者同様,島根農技セの開発です。
省力・軽労化技術では,「静電風圧式受粉機」による人工受粉を取り上げました。これは,花粉粒子にマイナスイオンを帯電して付着率を向上させる(写真3)というもので,効率受粉により作業を省力化しつつ,花粉使用量も削減できます。試作機段階ながら実証試験でも好成績を示しており,近い将来,市販化も予定とのこと。キウイフルーツやナシなど多くの果樹生産現場での普及が期待されます。
このほかでは,特別な着色管理を必要としないことで近年人気の黄色リンゴ‘ぐんま名月’のつくりこなし技術や,カキ‘西条’の「個包装冷蔵脱渋」による出荷期延長の技術,また「デジタルカメラを利用したカンキツ樹の総葉面積(TLA)の計測」といった技術情報も紹介しています。樹勢の正確な把握とそれに応じた結果管理は連年結果の前提ですが,TLAとその計測はこの樹勢診断の重要な指標になりそうです。
また,カンキツとパッションフルーツのトップ農家事例を5本,2016年青森県で大発生し甚大な被害を及ぼしたリンゴ黒星病の発生生態と耐性菌を考慮した新たな防除体系の解説,モモで問題となっているせん孔細菌病や,これも温暖化など気象変動が絡む課題といえる「果肉障害の発生要因と対策」,それに対する安定生産技術の一つ「部分マルチ敷設による生理障害対策」なども収録しました。
今号も盛り沢山の技術・新品種情報を納めました。それぞれお読み頂き,お役立て頂けたら幸いです。