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●不況を克服―14人の産地,トップ生産者の技術と経営に学ぶ
カンキツ,リンゴ,ブドウ,ナシ,モモ,オウトウ,ビワ,クリ,プルーンの各樹種で14人の生産者・組織を一挙収録。紹介した生産者は,トップ産地だけでなく,不利な地域でもそれを克服して経営を確立している方々で,それぞれ的確な管理法と経営によって支えられていることがよくわかる。
●果実の品質を高めて販売期間を延ばす新貯蔵法を特集
温州ミカンは冷風貯蔵とカワラヨモギ抽出物を利用した果実の腐敗対策。ブドウは小果柄を付けて果粒を一粒ずつ切り離して行なう長期貯蔵法。負イオンとオゾン混合ガスを併用した貯蔵法など,品質を高めて長期に販売できる各種の方法。
●新品目・新品種情報
ナシは栃木県育成の晩生の品種‘にっこり’。オウトウは急速に導入がすすむ‘紅秀峰’のつくりこなし方。ブラジル原産で赤い果実が魅力のピタンガ(スリナムチェリー)。インドでは薬用としても利用され,リンゴのような食感のインドナツメを収録。
●新研究・新技術
マメコバチの活用など結実安定対策,高齢者や女性でも取り組めるナシの改良むかで整枝(低樹高一本主枝),より緻密で安定した技術が開発されたビワのハウス栽培,生産者が自分でできるブルーベリーの挿し木による増殖法などを収録。
今追録では14人の生産者・組織を紹介(表1)。不況が続くなかでも揺るがない経営と技術を確立している人たちである。
表1 今追録25号で紹介した生産者
カンキツ | 和歌山県有田郡 | 的場 清 | 露地栽培・剪定と摘蕾・摘果,マルチ,石灰散布で高品質生産,販売の工夫 |
静岡県富士市 | 佐野宏一郎 | 露地栽培・黒ボク土壌でのマルチ栽培で高品質・多収益,多品種のカンキツとカキで販売期間を拡大 | |
愛知県蒲郡市 | 尾崎恭啓 | ハウスミカン加温栽培・3重被覆とヒートポンプで省エネを実現 | |
熊本県熊本市 | 上村英哉 | ヒリュウ台を利用した低樹高栽培 | |
リンゴ | 青森県弘前市 | 齋藤彌志則 | 普通栽培・無袋・ダイヤモンド方式による大樹仕立て・葉とらずリンゴ生産 |
岩手県奥州市 | 高野卓郎 | わい化栽培・無袋・JM系台木を利用した低樹高仕立て。台木と苗木の自家育成でコスト削減,確実な受粉で高品質生産 | |
岩手県紫波町 | 岩手中央農業協同組合りんご部会 | 全地域で特別栽培リンゴに挑戦,全生産者が栽培日誌を記帳,量販店との連携を構築 | |
ブドウ | 香川県高松市 | 川田克己 | ハウス栽培・短梢剪定・加温:X字型自由整枝,無加温:ダブルH字型平行整枝 |
ナ シ | 埼玉県南埼玉郡 | 長谷川茂 | 露地無袋栽培・新梢管理で樹勢を維持して安定多収 |
ビ ワ | 長崎県長崎市 | 森 常幸 | 露地・ハウス栽培・改植による若返りと品種更新,樹高抑制,腐敗果・障害果対策 |
オウトウ | 山形県寒河江市 | 軽部賢一 | 雨よけ栽培・コルト台の利用で省力化と品質・収量を実現,上部を抑え下部を強くする整枝・剪定 |
ク リ | 岐阜県中津川市 | 塚本 實 | 超低樹高栽培・樹高2.5m,長結果母枝の利用 |
モ モ | 香川県丸亀市 | 山本富廣 | 開心自然形,2本主枝,年間を通じた枝管理と摘蕾・摘果の工夫・加温ハウスと露地による長期出荷 |
プルーン | 長野県南佐久郡 | 高見澤良平 | 不織布ポットを利用した低樹高栽培 |
まず,『現代農業』誌で何度もナシの新梢管理で紹介されている長谷川茂さんは,次のように述べている。
「ナシ栽培では冬期剪定,人工交配,摘果の3つの管理さえうまくいけば,ナシ経営ができる時代が長く続いた。とくに冬期剪定に占める重要度は高く,果実生産の良し悪しを大きく左右するほどであった。しかし,冬場に,いざ剪定しようとすると,理想的な側枝や長果枝が数少ない状況となる」という。そこで長谷川さんが取り組んできたのが新梢管理。
「冬期剪定時にある枝を,その場で理想の枝とすることはできないが,できあがるまでの途中の段階で手を加えれば,理想の枝をつくることができるという考えをもとに行なっている」という。
そして,予備枝や側枝の摘心など,連年3.5tの収量を実現する緻密な管理をまとめていただいた。
リンゴは岩手県奥州市の高野卓郎さん。果樹研究所が育成したJM系台木を活用した低樹高仕立てに成功している代表的な生産者。特筆すべきは,90aの圃場で台木と苗木を自家生産していること。この苗木は地域内の他の生産者にも提供している。
また高野さんは,わい性樹の寿命は25年前後と考えていて,常に経営面積の10%程度の更新を行ない樹の若返りと品種更新に対応している。受粉に活用するマメコバチの飼養管理では,4年目の入替え時にスムーズに新しい巣箱に移す方法を開発して,天敵の被害を回避し,毎年安定的に種蜂を4倍程度増殖することができている。このマメコバチによる受粉と混植,機械による人工授粉によって安定生産と品質の高さを維持している。
次いで,青森県の齋藤彌志則さんは,味を重視したリンゴ生産「葉とらずリンゴ」栽培に取り組む。葉とらずでも品質を維持するために大樹仕立てを考案し,農林水産省の「農業技術の匠」にも選定(2009年)されている。
カンキツは和歌山県の的場清さん。京都の「鳥羽伊三」など老舗の果物店などでも,濃厚なミカンの味の「的兵みかん」の名で名高い。10kgでの流通が多いなかで,家庭で消費しやすくするため5kgで出荷するなど,商品管理にさまざまな工夫をこらしている。
的場さんのミカンが品質の高さを維持できているのは,1)園地に秩父古生層の南向きの斜面を選定,2)すべて2年生苗から育成・管理して,十分な結果年齢までしっかりと基本骨格を整えて細かく新梢を発生させ,樹に蓄えをもたせる,3)樹形は主枝を2~3本誘引し,垂直に出させたあとに亜主枝を水平方向に誘引して,基本の樹形に整える,4)老木化してきたら育成した苗木に更新,5)毎年充実した春芽を多く出させ,枝の分岐角度が鋭角にならないような枝の出し方を1樹ずつ行なう剪定,6)隔年結果をさせないための摘蕾・摘果,といった一連の管理が徹底して行なわれているからである。
クリは岐阜県中津川市の塚本實さん。当年発生した発育枝を翌年の結果母枝とする長結果母枝剪定によって,樹高2.5mの低樹高化を実現。しかも大果で多収になるという。80歳でも現役で働く塚本さんは,この技術によって,やはり2008年に「農業技術の匠」に選定されている。
プルーンは長野県佐久郡佐久穂町の高見澤良平さん。佐久地域はプルーン栽培が始まって31年になる産地で,成木は4mにもなって,作業効率が低下して生産性も低下してきた。そこで,それを解決するため,果樹大苗育苗用に開発された不織布ポット(グンゼ・Jマスター)を活用した根域制限によって低樹高化に成功している(写真1)。収穫作業も省力化でき,早期成園化もできるというメリットもあるそうだ。
この6人の方以外も,優れた方たちばかり。是非ご一読いただきたい。
果実の鮮度を保つだけではなく,さらに積極的に,品質を高めたり,販売期間を延ばすことができる方法が次々と開発されている。
まずブドウでは,カットフルーツにも利用できる,低コストで簡易な貯蔵法。ブドウの房を小分けして,密閉容器に入れて3℃で貯蔵するのだが,写真2のように小果柄をつけておけば,1か月後でも品質が良好で,2か月も鮮度保持できることがわかった。短期では常温でも十分だという(「鮮度保持と出荷技術 ブドウ」)。
その他,「品質向上をねらったクリ生果実の低コスト貯蔵法」や,温州ミカンの「冷風貯蔵」と「カワラヨモギ抽出物(シトラスキープSK-202)を利用した温州ミカンの腐敗対策」,負イオンとオゾン混合ガスを併用する「冷温高湿貯蔵」などを収録。是非ご一読いただきたい。