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「食・加工」通信

◆2005年3月31日号

 こんな着眼・こんな取り組み
  1. 米粉の話と黒米ぼたもち
  2. 野菜,干しいもなど乾燥装置に新しい手法


1.米粉の話と黒米ぼたもち

■何でも新しければいいか―米粉利用に和菓子屋の立場から一言

『製菓・製パン』2003年6月号より

 食品加工総覧追録1号では,「米粉パン」を新設項目として第4巻に収録し,このコーナーでもその内容紹介をかねて取り上げてきた。各地の米粉をめぐる取組みを背景にして,農水省では各農政局ごとに普及推進の組織がつくられている。それらを母体にしてこの2月には全国米粉食品普及推進会議が発足。会員には全パン連やパン工業会,穀類工業協同組合,全日本菓子協会,日本栄養士会,全国学校栄養士協議会,全国学校給食会などが名前を連ねる。会長には農村女性の社会参画などの分野で活動実績をもつ弁護士の高木賢氏,副会長には全パン連会長の小此木博氏と日本フードサービス協会会長の横川竟氏が選出され,全パン連が事務局となった。農水省では現在の6000t前後の米粉流通を7万tまで増やす計画だという。富山県や福井県でも自家製粉による米粉クッキーなど米粉利用の動きが起きている。古米の有効利用と米粉利用の広がりに期待したいところだ。
 ところで米粉パンの原料については古米やくず米などを使うことに批判的な向きもあるようだ。米として売れるものは粒で販売すればよいし,くず米や余っている古米は米粉として活用すればよい。これは米粉利用の当初から目指されていたもので,米粉パンの研究も米の品種,生産年を問わずに加工利用できることも課題にしてのスタートだった。ところがどうしたわけが,新米や粒で流通できる米を米粉に使うべきだと考える人々もいるらしい。
 春のお彼岸の時期。ぼたもちの季節に和菓子屋さんに聞いてみた。
 「和菓子の業界では,新米を粉にすると吸水がよくないし,早く硬くなるとされてるよ。先代のころは古米・くず米を米粉として利用するのが常識だった」という。加工適性からみても古米がいいということだ。
 輸入米粉もたくさん流通するなかで,国産米粉にこだわる先述の和菓子屋さん,愛知県常滑市の山庄製菓舗ご主人の間宮正光さんに彼岸時期の一品,「黒米ぼたもち」のつくり方を執筆いただいたので以下に紹介したい。

■黒米ぼたもちのつくり方

『製菓・製パン』2003年6月号より

原材料(35個取り):

  種1(玄米黒米150g,水125~185ml,砂糖30g)
  種2(糯米300g,熱湯165ml,砂糖90g,塩6g)
  このほかに,黒すりごま,潰しあん

1) 玄米の黒米150gを発芽器に入れ,発芽させる。糯米300gを洗米し水に漬ける。
 △カンドコロ:玄米を発芽させると軟らかくなり,扱いやすい。

2) 発芽した黒米玄米を軽く水洗いして,125ml(125~185ml)の水と一緒に炊飯器に入れ炊き上げる。
 △カンドコロ:125~180mlとしたのは,好みで食べる人の食感に合わせることができるようにするためである。

3) 炊き上がった黒米に砂糖30gを加えなじませる。これを種1とする。

4) 蒸しあがった糯米に,熱湯165mlに砂糖90gを加えた蜜と塩6gを混ぜ合わせなじませる。これを種2とする。
 △カンドコロ:糯米を熱湯を使って練るのは糯米の粘りを出すためである。水を使って捏ね始めると早く硬くなる。熱湯を使うと抱え込む水分量も多くなり軟らかくできる。砂糖を使うのは,種1,種2ともに保湿,防腐防カビ,調味のためである。

5) 種1,種2ともに流動性があるうちに混ぜあわせる。一晩冷蔵庫でなじませておく。これを種3とする。

6) 種3を15分間蒸し,荒熱が抜けたら,1個分30gで種きりする。この種で潰しあん20gを包あんし,黒すりごまを下半分にまぶしつける。
 △カンドコロ:上半分はなにもつけず地肌を見せることで,玄米を使っていることを強調する。

ここでは黒米玄米を使用したが,応用として赤米玄米に白ごまや,糯米玄米にきな粉(桑きな粉,抹茶きな粉などもよいかもしれない)など,いろいろと組み合わせを変えることで,バリエーションを増やせる。なお発芽器はドーマーの「発芽美人」を使った。

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2.野菜,干しいもなど乾燥装置に新しい手法

■施設費はこれまでの10分の1―注目の「低温調湿乾燥装置」は干しいもの加工研究が生みの親

 まずは東南アジアの話から。タイでは,これまでマンゴーやパパイヤなどの熱帯果樹の乾燥加工は,砂糖漬けして保存性をたかめた乾燥フルーツが主流であった。ただ日本などへの輸出を前提にすれば,生活習慣病の予防がいわれるなかで糖の過剰な摂取は敬遠される傾向にあり,糖を使わずに保存のきく果実乾燥法がもとめられている。もちろん経費をかければ真空凍結乾燥法など,品質を落とさずに乾燥果実を製造することはできる。1t処理の温風乾燥装置を現地に持ち込むと、日本円で2000万円を超える乾燥施設となってしまうため、同じ品質を維持できる安い施設費の乾燥法と施設が求められている。
 この課題に応え,乾燥装置資材はすべて現地調達し、しかも太陽熱などを活用した棚式の乾燥装置を製作した。製作費は日本円でわずか20万円。この装置を使ってのバナナの乾燥実験は成功した。対象となったバナナは,褐変することなくすべて保存のきくしかも均一な水分含量の品質に仕上がった。この施設は全長11mあまり。熱源となる太陽の熱をとりこむガラスの板と薄いアルミ板,空気を還流させるファン,乾燥用の棚などからなる簡単な乾燥施設である。今後はバナナからマンゴーやパパイヤの乾燥実験に移るという。
 この装置なら施設費がこれまでの数%で済むというから,熱帯果樹加工を産業振興策として位置づけるタイが,国家プロジェクトで取り組むというのもうなずける。この乾燥装置は、すでにエジプトのカイロなどでも干し芋の製造で実績を積んでいる。エジプトでは世界のハーブの3分の1を生産していることから,今後はハーブ乾燥施設としての利用も考えられているという。また、エジプトの社会事業省は、農業省食品科学工業研究所と連携して栄養摂取向上のための事業を進めているが、その一環である学校給食のパン用資材の1つに甘藷粒状乾燥品が利用研究されている。この甘藷粒状乾燥品の製造にも,この乾燥手法を取り入れた八角ドラム乾燥が採用されるなど,この乾燥装置はエジプトでの食料確保でも新たな展開を見せている。
 棚式と八角ドラム式の2つの形式をもつこの乾燥装置,低温調湿乾燥装置だが,実は日本の干しいも生産の研究からうまれたものである。静岡県の干し芋製造農家の秘伝技術として伝承されてきた乾燥技術がもとである。
 澱粉および糖質を多く含む蒸し甘藷の乾燥に光をあて,科学的に解明したのが,静岡県静岡工業技術センターの前波清隆氏である。その成果は『食品加工総覧』第5巻の「干しいもの低温調湿乾燥法」としてまとめられている。
 農家の秘伝技術を解明するには農家が胸襟を開いてくれる関係が必要であり,この関係を築くのに6年かかったと前波氏はいう。国内でも試作段階から,実用化への段階を迎えており,野菜の乾燥でもキャベツなどは青味がそのまま残り,水に放した時のもどりもいい。糖分の多いものは15時間くらいはかかるが,糖のすくない素材になれば乾燥に要する時間も短くなる。これまでの凍結乾燥法の装置にくらべると各段に安い。熱風乾燥やドラム乾燥にくらべれば品質がよい。青,赤,緑など素材の色をそのまま残して乾燥させることができる。干しいも,ドライフルーツなど形状を残して乾燥させたいものは棚式,粉体にして乾燥させるおからやマッシュポテトなどは八角ドラム式の施設を利用することになる。
 現在特許申請もしており,廉価で品質のよい乾燥方法として注目されつつある。野菜の産地での乾燥加工には大いに威力を発揮しそうである。さらに水産物の乾燥にもこの乾燥施設が応用される見通しという。
 「(サツマイモは)蒸しで生成した糖質(マルトース)と澱粉粒の糊化した成分が水分とともに細胞内に存在するため,限界含水率が高くなり乾燥しにくくなっている。このため,水分を減少させるには急速な乾燥は適さず,天日乾燥による緩慢な条件での乾燥がよいとされている。…低温調湿乾燥装置は,海岸付近の良好な天日乾燥条件を再現したもので,湿度が極端に低くならない昼間の『乾燥』と低湿度から高湿度に変化する夜間の『乾燥』ができる気象条件を,人工的に再現させ短時間に繰り返すことで,表面硬化膜の生成を最小にしながら,低温で原料の乾燥状態に応じて湿度が自動調整できる乾燥装置である」
 その概略図は下のとおり。

 両側の空気均一分配板が交互(15分ごと)に吹き出し口になったり排出口になったりする。風の流れが15分ごとに右から左へ,左から右へと切り替わる。タイマー制御ON-OFFダンパーにより分配板が開閉される。
 特徴は天日乾燥に近い条件を人工的に設計した装置で,乾燥空気吹込み口付近では,高含水率のうちに高温低湿の空気にさらし,一方,排出口付近では,低温多湿の空気にさらす操作を15分ごとの短時間で繰り返して行なう仕組みになっている。吹込み空気は,乾燥の開始と終了では温度と湿度が同一ではなく,被乾燥物の水分に応じて変化させる方式とし,乾燥初期には低温低湿の外気を取り入れ,高温低湿の空気に調整して吹き込む。また,乾燥が進行するにしたがって湿度の高い循環空気を取り込み,温度を下げ湿度を上げた空気とし,設定の温湿度に近づくように変化させるようにした。乾燥棚は水平にして送風する平行気流方式になっている。
 この低温調湿乾燥法を天日乾燥,熱風乾燥と比較したのが下の表である。


低温調湿乾燥法とその装置について詳しくは『食品加工総覧』第5巻「干しいもの低温調湿乾燥法」をご覧ください。

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