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「食・加工」通信

◆2005年2月3日号
  1. 今月のトピックス
  2. 食品加工・ちょっとアイデア


1.今月のトピックス

●カキモチの割れ―「天候異変温暖化も原因だけど搗き時間もあるよね」

 年末年始は餅の消費が伸びる時期。各地で餅を加工販売する人たちは恒例とはいいながら,猫の手も借りたい忙しさのなかで新年を迎えたのだろう。

 もちのなかでも,年が明けて小寒から節分までの時期に搗いて,薄く切り乾燥させたものが寒餅,かきもち(おかき)とよばれている。もともとお正月の鏡餅を手や槌で欠いてつくったため「かきもち」の名があるという。

 石川県野々市町の林農産(食品加工総覧第4巻に収録)の林浩陽さんは,米の生産・直売に加えて餅の加工販売も手がけ,カキモチづくりも19年になる。その林さんは昨年の秋口から年末にかけて販売したカキモチが割れてしまい,年明け早々その引取りに走り回ったという。

 以下は林さんに聞いた「かきもち」のお話。

 1月4日が小寒、寒入りと言いまして、一年で一番寒い季節に入ります。昔から、この寒の時の水は特別で、防腐作用がある事が知られています。この水を使い、寒中につくのが、『林さんちのかきもち』(商品名)です。『林さんちのかきもち』は、昔ながらの製法でつくるので、いわゆる「膨らまし粉」とよばれる副素材、 例えば砂糖、山芋、豆粉などは一切使用していません。 おかげで、昔懐かしい歯ごたえのあるかきもちが出来あがります。

■かきもちの厚さ

 これを、ノギスで計りながら4.2mmに切り、ヒモで編んで、作業場の天井に吊って、春まで干します。これが、4.2mm未満だと、割れたり反ったりします。4.2mmを超こえると、焼いても芯が残ります。

 乾燥させる際には,1本のヒモに25枚のカンモチを編みますが、これは、私の身長165cmに合わせてあります。 これ以上長いと吊りにくいのです。 もう少し背が高いと、長く編めるのですが,自称180㎝のわたしとしてはとても残念です。こうしてできた新かきもちの発売は毎年3月初旬から始まります。

■カキモチが割れた

 昨年暮れは,カキモチが売り切れとなりお客様に迷惑をおかけしました。秋に、お歳暮商品としてまとまった量出荷する契約をしていたかきもちが,出荷段階で割れてしまい,数が足りないことが判明。出荷の契約は契約ですから、お歳暮商品用として別途取り分けて準備しておいたものを充てて,なんとか指定数を確保することになったからでした。そのため、年末に販売する分が無くなってしまったのです。今年の作業に備えてカキモチが割れた理由を検討しました。

■乾燥時期の気温と搗き時間

 カキモチが割れてしまったのは,去年の2月前半の気温が21℃まで上がった異常気象がおもな原因だった(餅の含有水分が揮発した)のですが,それを助長したのが、餅つきの搗き時間を短くしたことでした。

 『林さんちのかきもち』の餅つき機は、カキモチ以外の普通のもちの場合、2分50秒~3分で搗きあがります(10分間搗くというところもあるようです)。しかし、『林さんちのかきもち』は、3分20秒が標準でした。かきもちの搗き時間を普通のもちの場合より長くしたのは,割れ対策の一つで、つけばつくほど、餅は高分子化して割れにくくなるからです。だた味は少しずつ落ちていきます。

 そこで、毎年いろいろと工夫をする中で、昨年は搗き時間を、一気に20秒縮めて3分としたのです。なるほど3分でついた餅は、美味しいのですが、カキモチの種類によっては、搗き時間が短いためにそれが原因で、大部分が割れることになりました。特に、黒砂糖、色物(赤・黄・緑など)、ゴマを使用したカキモチは割れが多い結果となりました。

 2005年の今年は、標準つき時間を、去年より10秒伸ばして3分10秒にし、黒砂糖と色物を使った場合は30秒伸ばして3分30秒としました。またゴマは、油分が染みて割れるので、入れる量を少し減らしました。

 餅屋を始めて、何が難しいといって、カキモチほど難しい商品はありませんでした。カキモチの製造販売を始めてかれこれ19年、ずいぶん上手になったと思っていましたが、地球温暖化の進行に伴ってさらに、ハードルが高くなった気がします。

林農産ホームページ http://www.hayashisanchi.co.jp/index.html

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2.食品加工・ちょっとアイデア

●今井誠一のちょっとアイデア・5


■味噌汁がもつ癒し効果の検証を

写真提供:みそ健康づくり委員会

 癒し系の香りというと,すぐにハーブを想像するが,味噌汁の香りにも癒し作用が大いにあると思う。そうは思うが,自分だけが力み返っても仕方ないので,著名文士による歌やエッセイの一節を紹介する。

 まず,石川啄木の歌を掲げる。

  ある朝の かなしき夢の さめぎはに 鼻に入り来し 味噌を煮る香よ

 悲しい夢で消沈した心も,味噌汁を炊く香りですっかり癒された,といったところがこの歌の大意だろう。挫折の連続であった啄木が,文学史上に残る歌人になったのは,ひとえに味噌汁の賜物といったら,彼は草葉の陰で苦笑するだろうか。

 齋藤茂吉にも一首がある。

  いにしえは 酒を聖と 歌ひけん われは味噌をし ひじりと言う可し

 万葉集におさめられた一首のなかで,酒が聖(ひじり)と読まれて以来,聖という言葉は酒の異称にもなったという。酒の効用といえば,それは心に癒しを与えることである。したがって,この歌は,味噌汁の癒し作用に対する最大級の賛辞と解釈される。

 また,『鬼平犯科帳』や『剣客商売』などの作家・池波正太郎は,エッセイ集『日曜日の万年筆』の中でこんなことをいっている。

 人間という生きものは,苦悩・悲嘆・絶望の最中にあっても,そこへ,熱い味噌汁が出てきて一口すすりこみ,(あ,うまい)と感じるとき,われ知らず微笑が浮かび,生き甲斐をおぼえるようにできている。大事なのは,人間の体にそなわった,その感覚を存続させていくことだと,私は思う。

 人生の達人でもあった池波は,味噌汁を取り上げて,その癒し効果を述べている。しかし一方では,いかに悲嘆のどん底にあろうとも,癒し作用に反応するだけの余裕,つまり受け手の側の精神的な柔らかさも必要なことを説いている。

 味噌の業界は長年にわたり,医学者や栄養学者などに研究を委託し,味噌のもつ生理機能性を追及してきた。そして得られたその成果にもとづき,味噌の摂取が健康の維持・増進に役立つことを,メディアや消費者に発信している。この際,身体に与える機能性のほかにも,精神に及ぼす機能性の研究をすすめては,と提案したい。味噌汁によるアロマセラピーを確立せよ,などといっているのではない。とりあえずは,前頭葉から出る脳波の測定くらいでよいはずだ。味噌汁の香りでストレスが解消され,同時に免疫力が高まることが分かれば,味噌に対する評価はさらに向上するであろう。そのためにも我々は,香り高き味噌の製造を,いっそうこころがける必要がある。

(元新潟県食品研究所長)