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「食・加工」通信

◆2004年12月8日号
  1. 今月のトピックス
  2. 元気な農村起業から・こだわりの食品企業から
  3. 食品加工・ちょっとアイデア


1.今月のトピックス

●追録1号―『地産地消の時代にはやはり国産小麦パン』といえるこれだけの理由

 『地域資源活用食品加工総覧』の追録第1号が発刊された。

 全巻完結後はじめてとなる追録には,今をときめくクエン酸飲料甕仕込み「黒麹もろみ酢」製造の草分け,沖縄の石川酒造場社長石川信夫さんや,どぶろく特区認可で注目された,新潟県松代町『貸民家みらい』の若井明夫さんに執筆いただいた記事がある。排水規制が本格化するなかでのチーズホエーの活用法をまとめた記事もある。

 いちばんページを割いたのは米粉パンと国産小麦パンである。ここでは国産小麦のもつ魅力について,群馬県の食品技術士,青木義篤さんの記事から紹介したい(引用はすべて追録第1号のパンからのもの)。

 青木さんの基本的なスタンスはこうだ。「そもそも国産小麦がパンに向かないという評価が定着したのは,量産工場での機械生産に耐えられる,つまりタンパク含有量の多い北米大陸産の粉が基準におかれるようになったからである。パンの評価も,高タンパクの原料を前提としているといってよい。だが,消費者の健康志向に目を向ければ,これからはヨーロッパ風穀物系のパンも視野に入れたほうがよい。『高タンパク』という評価の土俵からいったん離れてみることも,国産小麦と取り組むうえで大切なことである。」

 青木さんによれば,ヨーロッパでは大型の石臼が各地で稼働し,それぞれの地域で地産の小麦やライ麦を原料に,おいしい個性のある自分たちのパンを創り出す文化が育まれている。日本でも地産地消の声が高まるなか,国産小麦の需要拡大に役立てたいとの思いで,青木さんは次のような製パン試験を実施した。

 「製粉法は石臼挽きとして内麦の特徴を引き出すことにし,タンパク含量が少ないという特性に対しては,湯捏ね法(マッシュ法)などの製パン方法も採り入れて比較することにした。『国産小麦に適したパンの種類と製法の組み合わせを見きわめること』が目的である。原料コムギの品種は,全国的にも一般的で,群馬県産小麦の75%を占める農林61号を選定した」

 試験で使用した石臼製粉機は,石臼の直径が50㎝,挽砕能力60kg/時の生産機兼実験機で,下臼が回転する方式のもの。挽砕時の発熱をより低く抑えられる2回挽きも行なってみた。歩留まり目標をいずれも70%に設定し,1回挽きのBと2回挽きのA,それにロール挽き製粉の3者について物性や成分を比較したのが以下の3つの図だ。

 石臼挽きだと澱粉損傷の度合いが小さいこと,遊離アミノ酸も多く「グルタミン酸やアラニンなどの呈味性,甘味性のものが他のものより特に豊富である。MV(澱粉損傷の指標となるマルトース価のことで低いほど損傷が少ない)の低さや工程の安定性と共に,パンの味を良くする効果が期待される。ちなみに遊離アミノ酸については,下図のようにパン専用粉とされているカナダの1CWよりも農林61号のほうが多量に含まれており,従来から国産小麦は『粉自体の味がよい』といわれてきたことを裏付けている。これは国産小麦の長所・特徴としてもっと強く訴えてよいことである。」

 書店店頭にはパンづくりの本がにぎやかに並んでいる。地産地消の時代に国産小麦の風を大いに吹かせたいものだ。

 なお,青木さんは国産小麦のタンパク含量が少ないといっているが,この点についてもここ数年来各地の試験研究機関でコムギ品種の改良がおこなわれており,外国産におとらぬタンパク含量をもつ品種も生み出されている。この点を含め新品種の動向については今回の追録で北海道農業研究センターの桑原達雄先生にまとめていただいた。また国産小麦の全粒粉パンについては食品総合研究所穀類利用研究室の最新の成果を収録しているので,ぜひご覧いただきたい。

■第4巻「パン」今回の追録(末尾は掲載ページ)
 ▼素材選択と製品開発
  健康志向に応えるパンの素材選択(小沼祐毅)P.438-2
  パン用国産小麦の主要品種とその特徴(桑原達雄)P.438-12
  グルテニンサブユニット5+10添加による国産小麦粉の改質(青木義篤)P.438-16
  グリアジン添加による製パン性の向上(柴田朋子)P.438-24
 ▼加工方法と施設・資材
  加工方法(内田迪夫)P.439
  包装方法(石川豊)P.443
  表示その他(内田迪夫)P.444
 ▼特徴的な加工品と加工方法
  国産小麦を生かす湯ごね法・オートリーズ法(青木義篤)P.446-2
  国産小麦を生かす低温製粉全粒粉パン(川原修司・山田純代・堀金彰・引地良行)P.446-8
  ホシノ天然酵母(星野益男)P.446-14
  白神こだま酵母(高橋慶太郎・遠山広)P.446-22
  パネトーネ種(大石勉)P.446-36
  楽健寺酵母(山内宥厳)P.446-40
  石窯を使ったパンづくり(須藤章)P.446-46
 ▼事例
  地粉を自家製粉ふすまも生かしてフランスパンも/佐賀・能古見農産加工所「能美の郷」(田中久子)P.478-2



2.元気な農村起業から・こだわりの食品企業から

●酒米産地の元気な取組み―酒米山田錦米粉パンで酒米生産に活気を呼び込む

 酒米でつくる米粉パンの店は、毎日行列ができて大賑わい。これは開店直後の店内である。

 兵庫県南部,神戸市の北西に位置する小野市には集客年間100万人を数えるという『ひまわりの丘公園』がある。その一角にあるJA兵庫みらい農産物直売所『パティオおの』に隣接して設けられた『山田錦米パン工房』がお客さんたちの目指す店だ。JA直売所にはこの公園来訪者の1/4にあたる年間25万人の来客があるという。

 12月は忘年会の季節だ。お酒を飲む機会も多くなる師走だが,焼酎ブームのあおりで日本酒の消費が落ちている。日本酒の生産が減ると当然ながら酒米産地にも影響が出る。小野市もそうした酒米産地のひとつで289haの水田に作付けされる酒米『山田錦』の生産は年間1200tにのぼる。ところが日本酒の消費減に応じて年々酒米の生産量も減っている。そこで地元では酒米山田錦を酒以外に生かそうと加工品開発をすすめてきた。その結果昨年暮れに酒米を使ったパンの製造に着手したという。

 日本で初めての酒米による米粉パンづくりは,2002(平成14)年7月に,米粉パン製造技術の第一人者である大阪豊中市の福盛幸一氏から製造方法,米の製粉,どのような種類のパンが焼けるかなど研修を受けた。ただ,当初のコメ粉は新潟で技術が開発された「超微細粉」を使用していたため,近県に製粉所がなく,地元の山田錦を新潟県まで送って製粉してもらわなくてはならず,輸送コストがばかにならなかった。

 そんな時,福盛幸一氏が通常の米粉である上新粉でもパンが焼ける技術を開発したとの連絡が入った。通常の上新粉でパンが焼けるなら,近県の製粉業者に製粉を依頼することができる。こうして近県の製粉業者に製粉を依頼することになり,コストの問題も解消して前へ進めるようになった。

 原料は,もちろん小野市で栽培され栽培履歴の記帳がされた山田錦。山田錦はうるち米に比べ,でんぷん質が多いためか,ふくらみやすいという。最高のパンを焼くのに肝心なのは,米粉の粒子とそのバランスのとれたメッシュ分布だという。また米粉の粒子の大小により水分の吸水量が変化する。季節に応じてミキシング時の水温にも注意が必要なこともわかった。

 販売は毎日50種類,その数およそ1200個~1600個。食パン・コッペパンなど定番となるパン以外に,直売所の新鮮な野菜や果物を生かした季節限定商品などの企画品も打ち出し,他店にはないオンリーワン商品の開発に熱心だ。添加するグルテンについても,食の安全・安心を考え,小野市産小麦から抽出したものにしていく計画で,栽培研究を行なっている。将来的には全て小野市産の材料で作った米粉パンにも取り組む計画だという。

 酒米の生産を酒以外の加工品で盛り返していこうと取組みに熱い視線が集まっている。

 * JA兵庫みらい山田錦米パン工房の取組みの詳しい内容は,『食品加工総覧』追録1号に掲載されています。



3.食品加工・ちょっとアイデア

●今井誠一のちょっとアイデア・4

■農村加工の独自性―味噌玉味噌の復活を…

味噌玉を干す(『日本の食生活全集・愛知の食事』より)

 甘味はあるが,旨みやコクがものたりない―市販味噌にこんな不満を抱いている人たちが,50歳代以上にけっこう多いようだ。食嗜好のマイルド化・ソフト化をうけて,全体に麹の配合量を高め,甘口にした事が原因であろう。農村加工の味噌も例外でなく,「麹たっぷり」,「甘めの10割麹」などを謳っているものがある。

 ご他聞にもれず,味噌でも安全・安心がいまや最大のセールスポイントである。そのため業界では,工程の衛生管理を厳しくする一方で,高価格帯製品には国産ないし地場産原料の使用が増えてきた。地場産原料の使用といえば,元来,農村加工の一枚看板であった。しかし,味噌業界も国産原料にシフトしつつある昨今,農村加工が業界と同じことをやり,同じような味噌をつくっていたのでは,じり貧が明らかである。

 農業者サイドでつくる味噌は,いかにして一般市販品と差別化を図ったらよいのだろうか。そのヒントが冒頭に紹介した消費者の隠れた声にあると思う。具体的には味噌玉味噌の復活だ。味噌玉味噌は,昭和40年代はじめまで,東日本一帯の農村のみならず,西日本でも所々でつくられていた。都会への移住者にも送られていたので,その消費量はかなりのものであったに違いない。

 ここで,味噌玉味噌について,昔ながらのつくり方をごく簡単に述べてみよう。1)蒸煮した大豆をつぶす,2)それを直径10~15cmの玉に成型する,3)その玉を数個,連(れん)にして縄で結わえる,4)結わえた玉を部屋の梁などに1~2か月かけておく,5)その間に,玉の表面や割れ目にカビが生えてくる(味噌玉),6)味噌玉を下ろして,切りきざむ,7)一方で,大豆に対して3,4割程度の米で麹をつくっておく,8)切りきざんだ味噌玉に米麹,食塩,種水を混合して仕込む,9)2年間ほど発酵・熟成させる,といったプロセスをたどる。

 発酵・熟成の間,味噌玉に生えたカビの酵素で,大豆のタンパク質がゆっくり分解して旨み成分に変化する。生酸菌が作用して乳酸や酪酸などを生成する。同時に耐塩性キャンディダ酵母などが複雑な香気成分をつくる。それらの成分が一体となって,出来上がった味噌に重厚な旨みとコクを与えてくれるのである。

 こうした個性豊な味噌玉味噌が何故,農村で廃れてしまったのか。原因は三つあると思う。すなわち,1)通常の味噌づくりにくらべて手間がかかる,2)住宅に剥き出しの梁が少なくなった,3)味噌玉に生える野生のカビが非衛生的だとして,生活改善の指導で指摘された,以上の要因が味噌玉味噌の激減をもたらしたのであろう。

 では,もはや味噌玉味噌を蘇らせる手段はないのか。それがあるのだ。優良な麹菌の胞子(種麹)を味噌玉に植えつけ,温湿度をコントロールした麹室(こうじむろ)で味噌玉味噌を数日の間につくる方法がある。味噌玉を切りきざむ作業も,チョッパーですませることが可能だ。やや宣伝めくが,詳しくは農文協発行で拙著の食品加工シリーズ・6『味噌』を参照いただきたい。味噌づくりの基礎と応用はもちろん,販売の仕方までくまなく記述してある。

 研鑽を十分積んだうえで,少量でもよいから,味噌玉味噌を思いきってつくってみたらどうか。都会居住者には,郷愁に訴えるようなキャッチコピーをつけて届けたらよいだろう。残念ながら農村加工の事例ではないが,一種の訪問販売によって,味噌玉味噌を4 kgを6000円台で売っているケースがある。これは注目すべきことだと思われる。

(元新潟県食品研究所長)

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■信州の味噌玉味噌

 『地域資源活用 食品加工総覧』第12巻「味噌玉こうじ菌」には味噌玉味噌について次のような記述があります。

 信州(長野県)では,かつては味噌玉を用いた味噌づくりが広く行なわれていたが,約40年前頃からほとんど姿を消し,現在ではわずかに松本市周辺に次のような伝統的な 味噌玉味噌 (米味噌)がみられる。
 この地方の特に高冷で湿度も低い4月から5月上旬の約1か月の期間に,蒸煮ダイズを35℃まで冷却後,10×10cmの立方体または円柱を基本とした味噌玉をつくり,約20日間室温に放置する。味噌玉にはこうじ菌は接種しないので,酵素(プロテアーゼ,アミラーゼなど)の生成はほとんどないが,蒸煮ダイズに増殖しやすい雑菌( Bacillus subtilis )が抑制され,通性嫌気性の乳酸菌が優勢に増殖して,乳酸を多くつくる。味噌玉に米こうじ,食塩を加えて仕込み,6か月~1年間熟成させたものが 味噌玉味噌 で,独特の風味がある。