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「食・加工」通信

◆2004年11月5日号
  1. 今月のトピックス
  2. 元気な農村起業から・こだわりの食品企業から
  3. 食品加工・ちょっとアイデア


1.今月のトピックス

●失敗しない 教室での豆腐づくり ― 生しぼり製法のカンドコロを公開(編集室より)

さあ,豆乳ににがりを打ってみよう

「小学5年生の子どもたちに豆腐をつくらせたいのだが,豆乳がうまくしぼれなくてこまっているんですよ。さらしで生の呉をしぼろうと思うんですが,全然だめなんです。力をいれるほど呉がぬるっと逃げてしまう。地元のJAさんからダイズをたくさん提供いただいているのになさけないくらいの量の豆腐しかできない。何かいい方法はないでしょうか」

 黒ダイズの加工業を営む兵庫県加古郡播磨町の松井昭雄さん(松井食品社長)のところに小学校の先生からそんな生しぼり豆腐つくりの相談がもちこまれた。その先生に,松井さんは即座にこう答えた。

「しぼる前にお風呂のお湯くらいの温度まで生呉をあたためてみて下さい」

 先生は松井さんの忠告に従いやってみた。

 なんと,いとも簡単にすっきりと豆乳がしぼれる。いままでの生呉をしぼる苦労がうそのようだ。この先生には,まさに目から鱗が落ちる経験だったようである。ついでに松井さんは水加減,牛乳パックでつくった型枠を使うことなどもアドバイスした。

 松井さんが学校の先生の相談に即座にしかも的確に応じられたのは,自身がこの間に取り組んできた蓄積があるからだ。松井さんは息子が通っていた蓮池小学校で学校給食栄養士を勤める高見和子先生(この学校で勤続20年,懸命に地場産の食材を生かす給食を推進してきたアイデアマンでがんばり屋。こうした先生がいるからいわゆる「母校」への親しみも醸される)から頼まれて,学校の栄養士や先生方の研修会で豆腐づくりを教えたことがある。1999年8月のことで,それ以来,「豆腐づくりの先生」として地元加古郡内ではよく知られた「学外講師」となった。これまでにも学校給食の栄養士さんや小学5,6年生担当の先生方,家庭科の先生方などの依頼に応えて豆腐づくりを教えてきた。いまでいえば地域の中で「食育」に携わる先駆者なのである。

 学校での豆腐づくりを想定して松井さんは「マツイ式生しぼり手造り黒豆豆腐」と題したチラシを,イラスト入りA4判で1枚にまとめた。「学外講師」松井さんのノウハウの結晶である。その詳細は今回の「食品加工総覧の追録第1号」に譲るが,ポイントは生呉を風呂の湯加減(40~42℃)に温めてからしぼること(先の先生が苦労したところだ),加水は豆100gに対して浸漬の時の300ml,ミキサーで砕くときの300ml,ミキサーの洗い水300mlとあわせて900mlを使うことだ。300が3回繰り返されるから覚えやすい。しかも濃度を薄く仕立てた豆乳を半量(450~500ml)になるまでじっくり煮込んでいる。このつくり方で普通にできれば250gの木綿豆腐ができる。うまくできれば350gの木綿豆腐も可能である。にがりを打ってから約50~70分くらい十分に熟成するのが歩留りをよくするコツだ。10~30分ではどうしても歩留りが悪い。ただ学校ではそこまで時間をとれないので50gからのやや小さめの豆腐になる。牛乳パックにさらしを敷き盛り込む時によく崩すと硬く小さな豆腐ができる。ここまで技術をまとめるにはさまざま試行錯誤を重ねた。小学生にもつくりやすく,しかも美味しい豆腐をめざしての取り組みだったが,結果的には本業での豆腐づくりを見直す契機にもなったという。

★ここで紹介したのと同じような「生しぼりの豆乳」による豆腐製造法は,『食品加工総覧』<第5巻 豆腐・豆腐加工品>の中にある「白山の堅豆腐」でも古典的な製法として紹介されています(ID・パスワードが必要です)。

  ★この他に豆腐に関連した『食品加工総覧』の記事を検索するにはこちら(「特徴的な加工品と加工方法」の中の記事を検索) →


2.元気な農村起業から・こだわりの食品企業から

●十分に発酵したジャガイモ澱粉サイレージを提供 神野正博(北海道更別村 神野でんぷん工場)

製品は500kgのフレコンバック入り
夏は1カ月,冬は3カ月発酵させる

 当社は,創業以来60年となる澱粉工場である。従来製法でつぶつぶのジャガイモ澱粉を製造している。昔ながらの自然沈殿・長時間乾燥によって製造される澱粉は,料理に使うと保水性が高くから揚げなどは下味の水分をよく保持して油のささりがよくカラッと上がる。その良さがわかってもらえるらしく,このところ「つぶつぶでんぷん」のファンは増えている。生産が増えるのに伴って出てくるのが「澱粉かす」である。「かす」といえば捨て置かれるものといったイメージ。「澱粉かす」もこうした例にもれず,これまでタダでも引き取り手を捜すのに苦労した。同じ「かす」でも酒粕は甘酒として,またビールかすは飼料として有効利用されているのに。

 当社工場がある東部北海道の農業の主要な作物はビート,小麦,ジャガイモである。ビートの場合は,製糖の工程で出るビート粕は,飼料のビートパルプペレットとして,小麦も製粉後のかすはフスマとして,それぞれ飼料に利用され,今では無くてはならないものになっている。唯一ジャガイモ,つまり澱粉粕だけが再利用の道がなかった。なかったといってもここ30年くらいのことで,歴史を振り返れば,昭和40年頃まで澱粉かすは,夏に天日乾燥して焼酎の原料として使われていたのである。また,昔の農家はどの家も豚を数頭ずつ飼っており,そのエサとして澱粉かすを引き取りに来てくれた。かすの処理には困らない時代があったのも確かだ。近年の澱粉かすの状況は,わたしたち澱粉製造者の怠慢といわれてもしかたないような状況である。

 そこで一念発起。平成15年度から本腰を入れて,この「澱粉かす」の飼料化に取り組んだわけである。最初の年は澱粉かすだけをそのまま,天日乾燥して飼料にすることを試みた。出来上がった乾燥飼料でフィールドテストを行なったところ,搾乳牛の乳量が増えるとか育成牛の増体率がよくなるなどの変化こそなかったものの,十分な発酵(その後は夏に1か月,冬3か月の発酵期間をとるようにした)により発生した有機酸の効果で,嗜好性の点は良好だった。しかもカビが生えないなど保存性に優れていることもわかった。これなら従来の配合飼料の代替として使える。ただ,澱粉かすだけの天日乾燥では,乾燥時に粘土状の塊が発生し,乾燥時間と粉砕に要するコストが非常に大きくなってしまう。カロリーは充分だが,タンパク・繊維質などの点で劣る。初年度の取り組みの結論としては,澱粉かす単体だけでも飼料とはなるが,価格・栄養面で劣るため,澱粉かすのみでは,農家への販売はむずかしいことがわかった。

発酵したジャガイモ澱粉かす

 そこで,原材料には,澱粉粕・ふすま・豆乳粕・微粒子澱粉など栄養価のある乾燥飼料を混合して,発酵しやすいところまで水分含量を調整し,サイレージ(発酵飼料)の状態にする。これを500kgのフレコンバックに詰めて販売することにした(税込み15750円送料別)。主食となる飼料ではなく,これにより配合飼料を減らし牧草を増やすことを狙うことにしたのである。

 この飼料の特徴は次のような点にある。ビール粕サイレージと比較して,水分が少ないので冬期間の凍結が無い。また乳酸・アルコール・酢酸及びクエン酸発酵等によりpH4以下となり,殺菌効果があるため,夏期を経ても変敗しない。したがって賞味期限も長い。畜産農家がつくるコーンサイレージは気候に左右されて,出来不出来があるが,このサイレージは年間を通して成分に変動がないことなどである。目標としている飼料の水準は,コーンサイレージとビール粕サイレージである。

 この夏から3軒の中規模搾乳牛農家に使ってもらっている。乳量・乳質ともに好評である。

神野でんぷんのホームページ http://www.netbeet.ne.jp/~jinno

▼『食品加工総覧』の関連記事をご覧になれます(ID・パスワードが必要です)。

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3.食品加工・ちょっとアイデア

●今井誠一のちょっとアイデア・3

■クエン酸のさわやかな酸味をもつ麹漬 ― 焼酎用麹菌を生かす

(『食品加工総覧』第12巻 泡盛菌より)

 麹の漬床(麹床)でつくった浅漬を,一般には麹漬という。米麹と食塩だけの床に漬け込む方法もあるが,そこに蒸米を加えた床を使うことが多い。その代表格は,福島県が発祥の地という三五八漬であろう。

 そうした麹床が,いまやスーパーストアなどで一年を通して売られている。製造者の大半は,味噌メーカーのようだ。原材料の配合は,重量比で食塩1:蒸米3:米麹3ぐらいが標準ではなかろうか。麹と蒸米を糖化し,ペースト状にしたものもある。これを糖化床と称する。

 麹床に野菜を2,3回も漬けると,汁がかなり出てくる。そのつど,汁をすくい取り麹床を足して漬け続けると,徐々に乳酸発酵が起こって,麹漬に酸味がつくようになる。麹漬ファンが大勢いるのは,そうした味の変化を楽しめるのも,理由の一つだろう。ただし,糖化床では甘く漬け上がるものの,乳酸発酵はまず期待できない。

 酸味のある麹漬を味わいながら,フト思ったことがある。乳酸の押しのある酸味も結構だ。しかし一方では,さわやかな酸味をもつ麹漬があってもよいのではないか。爽快な酸味といえば,それはクエン酸である。添加物のクエン酸を麹床に混ぜるのは簡単だが,ここはぜひ天然ものでありたい。

 幸なるかな,クエン酸を生成する麹菌が,この世に存在している。焼酎の麹づくりに利用する麹菌であって,味噌用の麹菌とは菌種が異なる。その中にも外見が黒っぽいものと,白ないし黄土色のものがあるが,漬床用の麹をつくる場合には,色調からいって後者の方がよいのは当然だ。

 ここでの主旨は,焼酎麹を配合した漬床はいかがか,という提案である。これなら,糖化床でも漬物に酸味が付与できる。けれども,焼酎用の麹菌を使った麹づくり,すなわち焼酎麹の製造は,かなり高度のテクニックを要する。とりわけクエン酸を安定的に生成させるには,品温管理を厳密にしなければならない。味噌麹の経験者といえども,専門家の実地に即したアドバイスが不可欠であろう。

 以上いろいろ御託を並べてきたが,じつはこのアイデアを具体化し,すでに商品に育て上げた企業がある。予想にたがわず,新鮮な野菜の漬物に,クエン酸の酸味がぴったりと合った製品に仕上がっている。数年前にブームとなり,現在も根強い人気のある「もろみ酢」は,焼酎用の麹菌を活用したクエン酸酢である。人気の背景には,クエン酸がもつ効用の膾炙があるのだろう。その「もろみ酢」にあやかって「クエン酸麹床」も大きく飛躍してほしいと願ってやまない。

(元新潟県食品研究所長)

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ちょっと唸る 農家のひと工夫

(『現代農業』の「あっちの話こっちの話」で掲載された農家の工夫です)

■ダイズあんこもおいしいよ …北海道長沼町より 蜂屋基樹

 長沼町は,ダイズの作付け面積が日本一の町。地産地消の取り組みの一環として,同町の加工グループ「ビッグビーンズ」のメンバーは,ダイズあん作りに挑戦しました。町の試食会でもおいしいと人気だったこのダイズあんの作り方を,グループの代表・谷口嘉〈よし〉さんから教わりました。

 手順はこしあんを作るのと同じですが,まず,一晩うるかしたダイズを,ふきこぼれない程度の火加減で柔らかくなるまで煮ます。最低5時間以上煮ますが,その間に1~2回水を替えてやると,仕上がりの色がきれいで,ダイズ特有の味噌臭いにおいも取れるそうです。

 次に,柔らかく煮た豆を裏ごしします。谷口さんたちは網目の細かいザルでこしますが,網目にダイズが詰まらないように,上からチョロチョロ水を流しながらこすので,ボウルの上で作業するとよいでしょう。

 ボウルに溜まったダイズと水の混合物を,30秒ほどミキサーにかけると,滑らかなペースト状になります。これをこし布で搾ってから,再び火にかけ,約60%の重さの砂糖を加えて練り上げます。とろ火で練ってねっとり感が出てきたら出来上がり。

 白あんとも,もちろん小豆あんともひと味違ってダイズあんもなかなかのお味だそうですよ。

(2003年11月号より)