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「食・加工」通信

◆2004年9月27日号
  1. 今月のトピックス
  2. 食品加工・ちょっとアイデア


1.今月のトピックス

●国産小麦の作付をふやす製粉所の取組み(編集室より)

江別製粉で開発された小麦製粉機のFシップ方式

 地産地消の時代。パンにせよ洋菓子にせよその原料は地場産小麦を使いたいという要望は強い。国産小麦の作付けに農家が意欲をもって取り組めるためには小麦で儲かる条件が必要だ。その条件を広げるために,加工の側ができることは何か。そのヒントともなる取組みが今回の地域資源活用食品加工総覧の追録1号に収録の予定だ。

 ひとつは佐賀県のパン工房「能美の郷」の取組み。 佐賀県鹿島市内の国道 444号線沿いにある能古見農産物加工所「能美の郷」は,平成11(2000)年7月にオープンし,ことしで6年目にはいった。直売所を併設して地元産の小麦を原料に,メロンパン,あんパン,よもぎパンなどの菓子パンを中心に饅頭,麺,クッキーなどを加工販売している。パン類は,腹持ちがよく噛み応えのあると評判だ。農協の空き事務所を利用して加工販売を始めるにあたって,大分県の農家が経営するパン工房「サンパルファクトリー」を視察した。「サンパルファクトリー」は大分の米麦専業農家である渡辺賢一さんが、1988(平成元)年から3年続いた小麦の収穫期の天候不順で大量に出た等外麦を引き取って興したものだ。1Kg120円の小麦が等外になると10円にしかならい状況をみかねての起業だった。自ら製粉機を購入し夜なべ仕事で小麦を挽き、奥さんや近所のお母さんたちがパンを焼くことで等外麦に付加価値をつける。こうした渡辺さんたちの取組みは,視察に出かけた20人の印象に深く残った。

 昔から小麦がつくられてきた佐賀平野では、小麦の製粉を引き受けてくれる小さな製粉所があちこちにあった。ところが今では、そうした小さな製粉所はもちろん、持ち込んだ小麦を粉に挽いてくれるところすら鹿島市内にはない。少し離れたところにある製粉工場では数 t単位でなければ引き受けてくれない。工場との距離があれば,加工する前に粉の酸化が進むかかもしれない。製粉手数料も、小麦1kg当たり100~150円くらいかかり、経費負担も大きい。地元の麦を使って加工するには製粉機が必要なのであった。

 ロール製粉機を導入したのだが,製粉作業は女性集団には並大抵のことではなかった。小麦の微妙な乾燥やしめり具合に気がつかず,粉がつまって機械がとまったり,小麦粉の袋が破れてその切片が混じって動かなくなるなど,何回も機械屋さんに来てもらった。試行錯誤の末にやっと自家製粉によるパン工房がはじまった。製パン技術もさまざま経験を重ねて今日に至っているが,その詳しい経緯は追録そのものをご覧いただきたい。この「能美の郷」で 1年に製粉される小麦はおよそ4.7t。原料となる小麦は自分たちで生産しているが,「能美の郷」は製粉業組合に未加入なので,原料の小麦を直接仕入れ値で購入できない。麦作経営安定資金の適用をうける実需者(製粉業者)として認められている県内の個人製粉業者から鹿島産を指定して購入している状況だ。

 国産小麦の生産振興には,「能美の郷」のように生産者が自家製粉まで取り組むのもひとつの方法だが,産地で小麦生産者である農家と実需者である製粉業,パン・菓子などの製造業者が連携する取組みもある。

 小麦の年間処理量が 25t程度では,中小といわれる製粉業者であっても1日に100t,1バッチ(1回の工程)で最低でも25tの原料がないと歩留りが悪くなる。これ以下の小ロットではなかなか機械効率が上がらず,製粉作業の受託もままならない。こうした状況を踏まえて,北海道江別市にある(株)江別製粉が開発したのが,最低1tの原料があれば大型製粉機並みの製粉グレードを実現できる小麦製粉システム,Fシップ方式である。

 これは,独自に開発した小型の製粉ロールに,プロ用のもっとも小型の選別機,調質機,篩などを組み合わせることで,小ロットの原料麦であっても通常の製粉工場と同じグレードの製粉を可能にしたものである。追録に詳細が紹介されるので,関心のあるかたはぜひご覧いただきたい。

 地産地消を実現するためには,各地で生産される原料麦の生産規模に応じた製粉加工が欠かせない。地産地消を言葉だけでなく,実際に現地で実現するための取組みとして,今回の追録で紹介する佐賀県鹿島市や北海道江別市の動きに注目したい。

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2.食品加工・ちょっとアイデア

●今井誠一のちょっとアイデア・2

■ウメ酢味噌には,無添加・生味噌を

(写真提供:JA紀南)

 話は旧聞に属するが,一昨年6月23日の事である。新潟県の地元紙・新潟日報の朝刊生活欄に,福岡県・八女地方でつくられている「ウメ酢味噌」の紹介記事が載った。

 そのとたん,朝から編集局の担当部署は大変なアンバイになったという。次々と電話が鳴って「使うのは青ウメか,黄色のウメか」「漬けたウメは食べられるのか」「もっと詳しいつくり方を」と質問が殺到した。八女の農協に問い合せて回答マニュアルを用意し,部員全員で対応して切り抜けたそうだ。記事は共同通信の配信というから,他県でも同様の騒ぎが起こったに違いない。

 記事を読んだときには「へえー,なるほど」ぐらいにしか思わなかった。しかし,7月下旬に新聞社のそんな裏話を聞くに及んで,にわかに関心がたかまった。でも,時すでに遅しである。肝心のウメがもう手に入らない。

 それから1年たった昨年6月,念願のウメ酢味噌づくりに初挑戦した。用いたテキストは,「『すっぱい』がうまい」(食生活文化研究所・エリス刊)だ。でき上がったウメ酢味噌は,さわやかな甘酸っぱさが魅力で,たしかに美味しい。けれども,知人がつくったものにくらべると,香りがものたりない。ウメの品種は同じはずなのに,なぜだろうかと首をひねった。

 そこは,発酵学を専攻したおかげである。市販の袋詰め味噌を使ったのがいけなかったと,すぐに見当をつけた。「『すっぱい』がうまい」にも留意事項として「漬ける瓶の大きさは,半分ぐらいの空きができるものを選ぶ。漬けている間にウメ酢味噌が上がってくるので,余裕が必要」と書いてある。酵母による発酵が行なわれてこそ,すっきりした芳香が生じるのだ,と推定した。

 あとは,簡単な実験で確認するだけである。所定のレシピに従い,青ウメ1Kg,米味噌1Kg,グラニュー糖600gを順に入れた。今年はそれを二つ仕込んだ。二つが違うのは味噌である。一つはアルコール無添加の生味噌(無添加・生味噌)を,片方の一つにはアルコールを添加した味噌(アル添味噌)を使った。ちなみに,大半の市販味噌は,酵母が再発酵して袋やカップが膨張するのを防ぐため,アルコール添加で酵母を仮死状態にさせるか,さもなければ加熱殺菌をしている。

 結果は予想どおり,無添加・生味噌を使ったほうが香りも味もはるかに優れていた。仕込んで2週間もすると,発酵してウメ酢味噌が盛り上がってきた。それに反し,アル添味噌のほうは,そうした気配がないまま,20日余りの仕込み期間を終えた。

 使う味噌に酵母が生存しているかどうか,キーポイントはそこにあったのである。ウメが味噌に漬かって,水分をはじめ各種の成分が浸出されてくる。味噌が柔らかくなると,徐々に砂糖とも馴染んでくる。そのころから,酵母がゆるやかに発酵を開始する。発酵の兆候が見えたときは,思わず快哉を叫んだものだ。

 最後に,実験を通じて気づいた点を述べておく。今年はもう間に合わないが,来年の参考にしていただきたい。

 (1)仕込み容器(瓶)に入れる材料の順番を間違わないこと。また,材料全部を仕込みのときに混ぜてしまわないこと。発酵学の観点からいっても,これが最大のミソである。

 (2)必ず無添加・生味噌を使うこと。それも色のつき過ぎた,古い味噌は避けること。

 (3)「『すっぱい』がうまい」には,仕込み期間は半月がちょうどよい,と記されている。しかし,それは気温によりけりである。摂氏25度以上の気温が続けば半月でよいであろうが,東日本や北日本では20~25日は必要と思われる。いずれにしても,ウメ酢味噌がさらさらになってしまう前に,ウメを取り出すことが大切である。

 (4)発酵・熟成が終わった後に,ウメを取り出すことが煩雑なので,大量生産には不向きである。地域の加工所で,季節限定品として売り出すのがよいだろう。量産を想定して,梅肉エキスを使って少々試作してみたが,本来の風味に遠く及ばなかった。

(元新潟県食品研究所長)

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  1. 素材編 ウメ
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