赤と紺のコントラストが鮮やかなすしは、金沢や、金沢より南の加賀地区(白山市、小松市、加賀市など)で祭りなどの行事でつくられてきたものです。加賀地区は農業が盛んで、農家の庭先にはたいがい柿の木があり、柿の葉を使ったすしが一般的でした。金沢市内では木枠に詰める押しずしタイプ(『すし ちらしずし・巻き……
すし飯がぎゅっと詰まった、ご飯をたっぷり食べる押しずしです。紺と赤の鮮やかないろどりは、p61の柿の葉ずしと同じ、「紺のり」と桜えびの取り合わせ。すしの底には酢漬けの魚が隠されています。押しずしタイプは金沢市周辺でよくつくられています。 酢漬けの魚は、かつて春はいわし、秋はシイラといわれましたが……
めぎすは和名をにぎすといい、きすに似た上品な白身の魚です。きすとは別種の魚ですが、目が大きいきすのようなので「めぎす」と呼ばれたり、きすに似ているので「にぎす」と呼ばれるようです。漁獲量は石川県が第1位で、もう30年以上全国の3割近くを占めています。7~8月の底曳《び》き網の休漁期を除き、年間を……
金沢産のれんこんは加賀れんこんと呼ばれ、加賀野菜を代表する食材です。でんぷん質が多く、太く肉厚で粘りが強いのが特徴。8月下旬に収穫される最初のものはシャキシャキ感が強く、新れんこんと呼ばれます。8月から翌年5月まで長期出荷され、ほぼ一年中購入できます。家庭では煮物をはじめ天ぷら、酢の物やちらしず……
日常の食事の中で、具だくさんのおつゆといえばめった汁です。冬になるとよくつくられました。語源としては「滅多に食べないから」とか、「滅多に(やたらに)材料を切るから」など諸説あります。何でもいろいろな材料をめちゃくちゃに取りあわせた汁ものという意味もあるかもしれません。県内全域でつくられていますが……
いわしを塩水でゆでてからさっと煎りつけて、しょうがと酢醤油で食べるシンプルな料理です。ゆでると余分の脂がとれてさっぱりし、何尾も食べられます。 かつて石川県ではいわしがたくさんとれ、金沢市近在の金石《かないわ》港では、漁港周辺の道などにいわしの詰まった木箱が一面に並んだといいます。網から揚がった……
こんかいわし(いわしのぬか漬け)を煮てほぐし、酒粕と混ぜたペーストで野菜を煮た鍋です。強い塩けに、ぬか漬けと酒粕の発酵した香りや酸味が一体となって、深い味わいになります。能登半島のつけ根あたりにあった旧志雄《しお》町(現宝達志水《ほうだつしみず》町)周辺でつくられてきた料理で、よそから嫁いできて……
ひと頃、石川県のいわしの水揚げ量は全国でもトップクラスだったそうです。いわしは普段のおかずの主役でしたが、食べきれない分は各家庭で冬に備えてこんか漬け(ぬか漬け)にされました。こんかいわしはそのまま焼いて食べることも多いですが、能登ではぬかを除いて大根漬けや白菜漬けを小さめに切ったものと鍋にして……
あじを漬けこんだなれずしです。「ひねずし」「くされずし」ともいいます。単に「すす」と呼ぶこともあるのは「すし」の意味かもしれません。熟成した身は濃いベージュ色になり、締まって歯ごたえがあり、旨みが凝縮されてチーズのような風味です。 能登半島の北部、奥能登では夏祭りが盛大に行なわれ、なれずしは祭り……
いもだこは能登地区のどの家でもつくられている、とても一般的な家庭料理です。プルプルとやわらかく煮えたたこと、たこのだしでほっくりと煮えた里芋の取り合わせは誰もが好きな味。夏祭りには必ずつくるごちそうでした。春にはいいだこでつくり、これも卵の甘味ともっちりとした食感が加わりおいしいものです。 たこ……
甘えびは刺身のとろける甘さもいいですが、煮つけのやさしい口ざわり、歯ざわりと濃厚な旨みも、他の煮物にはないおいしさです。頭のみそもおいしいので、しゃぶって食べます。子(卵)持ちならそれも一緒に煮ます。煮汁は旨みが濃いので煮物に使い、こんにゃく、里芋、れんこん、じゃがいもなどがよく合います。 最近……
石川ではずわいがにのメスは「香箱《こうばこ》がに」と呼びます。オスのずわいがにに比べると小さいですが、身だけでなくお腹にかかえた外子《そとこ》(卵)や甲羅の中から出てくる内子《うちこ》(卵巣)やかにみそもおいしく、オスよりも人気があります。食べ方はシンプルで、ゆでて酢醤油をつけていただきます。か……
真だらのオスの白子(精巣)は「だだみ」と呼ばれます。新鮮な白子が手に入ったら、まずは酢の物。ひやりとして甘く、まったく臭みのない濃厚でクリーミーな味は白子好きにはたまりません。白子そのものがおいしいので味つけは最小限でいいのです。天ぷらや鍋もおいしいものです。ときには小さめでまだ張りの十分でない……
石川では真だらの真子(卵巣)を「たらこ」といいます。全国的にはすけとうだらの卵巣の塩漬けを「たらこ」といいますが、それは石川では「もみじこ」と呼びます。 真子は12月上旬から2月上旬が旬で、卵の旨みやもちもちとした食感が楽しめます。この時期を過ぎると粒が大きくなり、ざらざらとした食感になり、味が……
いさざとはシロウオのことで、ハゼ科の魚です。能登半島の中ほど、奥能登の入り口に位置する穴水町など限られた地区でのみとれます。早春に産卵のため川を遡上してくるので「春告魚《はるつげうお》」と呼ばれ、春祭りには欠かせません。 いさざは成長しても4㎝ほどで、細く透き通っています。川岸に沿って群れで泳い……
小麦粉をまぶした肉を麩や野菜と一緒に煮て、とろみがついたあんでうま味をとじこめ、具もだしも余さずいただきます。全体の味をひきしめるのは薬味のわさび。「じぶ椀」と呼ばれる蓋つきの浅い金沢漆器や輪島漆器に盛りつけます。もとは金沢の郷土料理ですが、今では全県に広がりました。 昔は秋冬に北から渡ってくる……
ずっしり、ぎっしりと詰まった食べごたえのある堅《かた》豆腐が主役の煮物です。浄土真宗の祖である親鸞聖人の法要「報恩講《ほうおんこう》」には欠かせない料理で、「殻しょ」とも書き五穀豊穣に感謝するものです。 山深い白山麓《はくさんろく》では焼畑で小麦、大麦、ひえ、粟、豆、芋などを栽培していました。冬……
たっぷりとだしを含んだ麩を卵が包み、散らした青菜の彩りも鮮やかな車麩の卵とじは、簡単につくれるのに豪華な一品となり、金沢市や金沢市近郊の家庭で、昔から四季を問わず日常的に食べられています。子どもからお年寄りまで、誰もが好きな味です。夏場なら冷やして供すると、つるんとした食感がまたおいしく、食欲が……
加賀地域の農村地帯でつくられてきた料理で、夏場に葉ものがないときに、青菜の塩漬けを塩抜きして煮干しを裂いて加えて煮ます。ピリ辛の赤唐辛子が味のアクセントになっています。古くなった漬物をリメイクする生活の知恵でもあります。 「てんば」とは地域の伝統野菜である「ふきたち(吹立菜)」のことです。ふきた……
金時草は金沢が主産地で、15種が認定されている加賀野菜のひとつです。和名は「スイゼンジナ」といい、東南アジアが原産。時代は定かではありませんが、金沢の農家が熊本の水前寺菜を持ち帰り、自家用に栽培したのが始まりで、昭和25年頃からは金沢市場へ出荷されるようになりました。葉の表面は濃い緑色ですが裏面……