炒り大豆の割り豆といりこを炊きこんだ、やさしい醤油味のご飯です。いりこのだしが出て、香ばしい炒り豆の風味とホクホクした食感がアクセントになった、上品なおいしさです。県西部の姫路市周辺で祭りや行事の際につくられてきたもので、とくに女の子が生まれたときのお祝いにつくり、親戚や隣近所に配ったそうです。……
炒り大豆を入れた少し塩をきかせたご飯をふきの葉で包んだもので、俵のような形をしているのでこう呼ばれているようです。これは、新鮮でやわらかいふきの葉が手に入る初夏の時期にしか食べられません。 山添村は県の北東部、三重県境に位置します。田植えの際にふき俵をお供えとしてつくる習慣が残っており、近隣の府……
呉汁というと大豆でつくるのが一般的ですが、日向《ひゅうが》灘《なだ》寄りの都農《つの》町や川南《かわみなみ》町の一部、北西部の椎葉村《しいばそん》では落花生を使います。稲のとり入れは落花生の収穫時期と重なります。椎葉村では寒い時期の稲刈りの「かてーり(結・共同作業)」のねぎらいに、とれたばかりの……
根菜と豆腐でつくるけんちん汁は各地で食べられますが、もともとは鎌倉市にある建長寺《けんちょうじ》の開山大覚禅師《かいさんだいかくぜんじ》が鎌倉時代に中国から伝えたとされ、食材を無駄なくいただく精進料理の原点を象徴する汁ものです。これが修行を終えた僧たちによって全国に広まりました。 現在も建長寺で……
三方を海に囲まれている渥美半島は、大きな川がなく水源に乏しかったため、稲作にはあまり向かず、栽培するのは水不足に強い作物に限られていました。それが昭和43年に豊川用水が開通してからは、さまざまな作物がつくられるようになり、今は日本有数の生産高を誇る農業地帯となっています。八杯汁は冠婚葬祭や節目の……
おおじるは、葬儀や法事などの不祝儀につくる白味噌の汁です。だしは干し椎茸と煮干しでとり、この組み合わせは不祝儀以外ではつくりません。具は、豆腐に油揚げとねぎの家庭もあれば、揚げを入れない家庭や、においのするねぎは使わずにゆでたほうれん草を入れる家庭もあります。 県東南部の内陸部にある府中市は、奈……
ゆし豆腐とは、島豆腐(沖縄豆腐)を型に入れて固める前の、汁けが多い状態の豆腐です。他県で寄せ豆腐、おぼろ豆腐などと呼ばれるものと似ていますが、島豆腐は他県の一般的な豆腐よりかたく、塩分を含んでいるものが多いため、ゆし豆腐も豆腐のおいしさが濃厚で、ほんのり塩味がついた独特のものになっています。口当……
納豆汁は秋田県の郷土料理ですが、とくに納豆発祥の地といわれる県南でよく食べられています。冬の野菜のとれない時期に、塩蔵したきのこやわらびを塩出しして豆腐、里芋、油揚げ、せり、ねぎなど具だくさんにして熱々をいただきます。それぞれ家によって入れる具も少々異なり、ふきを入れることもあるようです。 納豆……
納豆汁は、すりつぶした納豆と根菜やきのこ、いもがらなどでつくる具だくさんの味噌汁です。加熱をすると、納豆の強い粘りが適度なとろみに変わり冷めにくく、食べると体が温まります。欠かせないのが里芋の茎を干したいもがらで、シャキッとした食感がおいしさを引き立てます。豆腐やこんにゃく、油揚げと食材も多く、……
豆腐の中に季節の菜を入れた豆腐で、1丁が大きくみっちりとして食べごたえがあります。菜豆腐が伝わる椎葉村は九州山地の中央に位置し、四方を山で囲まれた土地です。平地がない村では焼畑による農業が主で、1年目がソバ、2年目はヒエかアワ、3年目が小豆、4年目が大豆といった具合に輪作してきました。しかし収穫……
麦麹と米麹を使い、2年ねかせて3年目から食べる味噌で、独特のうま味と甘味があります。つくっている富士山麓の山中湖村は水はけがよい土地で、標高が高く寒冷で稲作に向いていませんが、味噌にはおもに米麹が使われていました。その昔はとうもろこしの麹でもつくったといいます。今は甘味を増やすために麦麹を加えて……
香川県で味噌といえば白味噌。あんもち雑煮やぬた、てっぱい、白和えなど、県の代表的な料理には白味噌が多く使われています。秋に米を収穫後、蒸した大豆に多めの米麹とひかえめの塩を加えて仕込み、1~2カ月の短期間熟成させ、冬場の調味料として使いました。昔は、夏まで持たせると発酵が進んで酸っぱくなるので、……
鹿児島では、麦麹を使った麦味噌が広く使われています。麹歩合《こうじぶあい》(大豆に対する麹の割合)が高く熟成期間が短いので、甘口で淡色です。霧島・姶良《あいら》地域では現在も共同で、親戚や近所におすそ分けする分も含めて麹から手づくりする家庭が多く、他県から入った人はその様子に驚くそうです。地域の……
庄内地方には、江戸時代中期から続く「大黒様のお歳夜」という行事が12月9日にあります。大黒様(大黒天)は、作物や財福を司《つかさど》る神様です。庄内民俗学会の春山進氏によると、昔は神仏も一年ずつ歳をとると考えられていたことから大黒天の年取りの祭り、つまり誕生日がお歳夜となります。また、大黒天が嫁……
郡上《ぐじょう》市の明宝《めいほう》地区で、行事やもてなしの際につくられる、砂糖が入った甘さのある料理を2種、紹介します。砂糖が貴重だった時代に、甘い汁は特別なごちそうでした。 菓子椀は、報恩講や法事をはじめ、節句のお祝いなどさまざまな行事でつくられます。具材を一つずつ味つけし、甘い汁をかけます……
薄い醤油味の汁に甘く煮た小豆が入ります。デザートではなく、料理の一品として冷まして供されます。萩市とその周辺の地域の郷土料理で、祝いごとや法事など冠婚葬祭の膳についていました。日本海に面する萩は毛利三十六万石の城下町なので小豆は切腹してはいけないといわれ、小豆の皮を破らないよう煮上げるのが特徴で……
県北東部の盆地にある府中市上下町《じょうげちょう》矢野地区では、祭りには大豆が主役の大豆ご飯を炊いて、神棚にお供えします。「豆を食べてまめになる」ということわざがあるように、大豆ご飯は無病息災を願った炊きこみご飯です。大豆は地元産で、現在は畑で栽培していますが、昔は田んぼのあぜに植えられていまし……