内陸県の岐阜では、海の魚は行商人が運んでくる塩魚が貴重なものでした。さんまご飯は今は生さんまを使いますが、かつては貴重な塩さんまが1~2尾でも家族で楽しむことができるご飯として親しまれてきました。飛騨地域の下呂市萩原町では時季の終わりかけの大きい鮎(落ち鮎)で同様に「鮎ご飯」をつくります。 さん……
京都府に隣接した内陸部の丹波で、田植えのときに食べるごちそうです。焼きさばの香ばしさとうま味と、たけのこやふき、木の芽など季節の香りが合わさり、さわやかに食べることができます。田植えの頃には親戚や子どもたちも帰省してくるので、地域で五穀豊穣や家内安全を願う祭りが行なわれます。野菜や魚がたっぷり入……
志賀島は博多湾にある、砂州で陸続きになっている島で、北側は玄界灘に面しています。歴史のある古い漁師町で、豊かな海ではぶりや鯛をはじめ、いさきやあじがとれ、また、さざえやあわびをとる海士漁も行なわれており、年間を通して漁業がさかんです。市場には生きた魚を出荷し、自分たちは市場に出せない落ち魚(活け……
食用のたけのこの種類には数種ありますが、主なものは孟宗竹です。京都の産地は、京都市西部の洛西一帯と、府南部の丘陵地帯である山城地域です。これらの地域は粘土質の酸性土壌でたけのこの生育にむいていますが、そうした条件を生かす高い栽培技術で親になる竹の選定と仕立て、毎年行なう土入れ(客土)、夏・冬・収……
県東部の山間部、八頭地域でつくられている混ぜご飯です。具は、豆腐や鶏肉、ちくわ、こんにゃく、油揚げなどいつでもあるものに加え、春は木の芽やたけのこ、ふき、初夏はそら豆と、季節の食材を入れて四季の味を楽しみました。脂ののった焼きさばが入ると、特有の旨みが加わり、ぐっとおいしくなります。 日常的にも……
県北に位置する宇佐市と中津市でつくられているご飯です。北部に広がる宇佐平野は、県内最大の穀倉地帯となっていますが、以前はここでも米は貴重品で、祭りやお祝いのときなど、大人数が集まるハレの日には、大切なご飯をいかに公平に分けるかが重要でした。そこで利用したのがご飯を盛りつける抜き型の物相です。ここ……
たたいたいわしに、ごぼうやにんじん、味噌を加えてつみれにし、醤油味の汁で煮た料理です。昔は県沿岸部で真いわしが大量にとれ、安価で手に入ったため、日常のおかずとしてよくつくられていました。いわしの旨みがごぼうやにんじんにもよくしみこみ、素朴な味わいです。味噌と醤油の加減もちょうどよく、ご飯がたくさ……
あじを漬けこんだなれずしです。「ひねずし」「くされずし」ともいいます。単に「すす」と呼ぶこともあるのは「すし」の意味かもしれません。熟成した身は濃いベージュ色になり、締まって歯ごたえがあり、旨みが凝縮されてチーズのような風味です。 能登半島の北部、奥能登では夏祭りが盛大に行なわれ、なれずしは祭り……
石狩鍋とは鮭を使った味噌味の鍋のことです。かつて石狩川河口は、秋になると産卵のために川に戻る鮭が押し寄せ、明治時代には地曳《び》き網漁で100万匹以上の鮭が捕獲されていました。漁夫のまかない食でもあった塩味のアラ汁(三平汁)がやがて醤油味や味噌味の台鍋《だいなべ》として親しまれるようになり、昭和……
瀬戸内海にある尾道市因島《いんのしま》の中庄《なかのしょう》町や田熊《たくま》町には、秋祭りのごちそうとして「しばずし」をつくる習慣があります。瀬戸内では珍しい発酵ずしで、前もって塩漬けしておいた魚と季節の野菜を、ご飯に麹、たでなどを混ぜ合わせたものと漬けこみ、1週間から半月ほど発酵させます。昔……
かつては暮らしの中でよく竹を利用したので、集落に1軒は竹林をもつ家がありました。今も4月になるといっせいにたけのこが出てくるので、手入れのされていない竹林があれば、声をかけてもらっていきます。豊作の年にはあちこちの知り合いがたけのこをくれます。 新鮮なたけのこは煮物やたけのこご飯にします。食べき……
「京のたけのこ」の産地は京都市西部の洛西一帯と、府南部の山城地域が有名です。たけのこ掘りは3月半ばから始まり、4月中旬から5月中旬にかけて最盛期を迎えます。やわらかいたけのこの穂先を木の芽味噌で和えると香りが高く、やさしい若草色をまとった一品となります。姫皮も和え物にし、穂先は吸いものにも使い、……
県西部の焼き物の町・有田は、面積の約7割が森や山で占められています。竹林も多く、毎年4~5月は親戚や家族、知人が集まり、自生している孟宗竹《もうそうちく》のたけのこ掘りを宝探しのように楽しみました。 収穫したたけのこは外皮を除き、縦半分に切りその日のうちにゆでます。大きなかまどに米のとぎ汁または……
熊本県は全国有数のたけのこの産地で、孟宗竹《もうそうちく》をはじめ、淡竹《はちく》や苦竹《にがたけ》(真竹《まだけ》)などさまざまな種類のたけのこが食べられています。山間部に暮らす人の家のそばにはたいてい竹やぶがあり、普段から下草を刈ったり、間伐をしたりと手入れをしていました。春になると竹やぶで……
静岡市内では、昔はふき(山ぶき)が自生していて、八百屋でも売られ、春になるとふきの料理をよく食べました。ふきは、透明感のある緑色と、摘みたてのすがすがしい香り、ほろ苦さが残るように、淡めの味つけでさっと煮つけます。砂糖や醤油で伽羅《きゃら》色(濃い茶色)になるまで煮しめたきゃらぶきもなじみ深い、……
県北部の、新潟県と福島県との県境にある利根《とね》郡は、冬はスキーができるほど雪が降る地域です。雪解けとともに山々に芽吹く山菜は、山あいに暮らす人々にとって長い冬の終わりを告げる“喜びの食材”として利用されてきました。 春になると家の周りを一回りして、とれたものを天ぷらにします。油で揚げることで……
昔からわけぎは春の野菜として栽培されています。秋のお彼岸の頃に植えると、秋祭りの頃に芽を出します。冬を越し、ひな祭りの頃になると緑色が増します。これを和え物にして旬の味を楽しみます。現在では、1年のうち2回収穫しているところもあるようです。 わけぎは緑の部分と白い部分では火の通りが違うので、白い……
四国山地の中腹に位置する山間部、祖谷《いや》地方で食べられている味噌田楽です。祖谷では昭和30年代まで夏でも囲炉裏《いろり》を使っており、でこまわしも囲炉裏で焼きました。串の上からじゃがいもが頭、豆腐が胴体、こんにゃくがスカートのようで、回しながら焼く様子が人形浄瑠璃の木偶《でく》人形(でこ)を……
四国山地に囲まれた、久万《くま》高原町の冬から春先にかけての日常食です。稲作より畑作がさかんで、地域固有のじゃがいも、地いもがとれます。冷涼な気候のため、いもは芽が出にくく保存がききます。名前の由来は、いもを調味料とからめて煮つめている際、皮と中身がほぐれてしわができ、「ヒューヒュー」という音が……
いも串は、秋祭りや収穫祭でよくつくられます。里芋をゆでたり蒸しただけの「ゆでいも(ひょっこりいも)」もおいしいですが、蒸して串に刺し、あぶって味噌だれをつけると、甘いいもに香ばしさが加わり、ぬめりもなく食べやすいごちそうになります。手間をかけ、手前味噌と季節の香味で工夫した家々の味がありました。……
あんろくは広げると幅1mほどにもなる大きな布のような海藻で、広い布《め》で「ひろめ」とも呼ばれます。温暖な太平洋側沿岸の限られた地域にしか分布しておらず、県内では南部の牟岐《むぎ》町以南に生息しています。そのため県南部の一部の地域でしか食べません。収穫時期は2月中旬から約2カ月と短く、昔は素潜り……