県のほぼ中央部に位置する東金《とうがね》市で、農村地帯である源《みなもと》地区ではほとんどの家で黒ごまをつくっており、落花生の畑の片隅、作物の芽が出なかったところなど、空いた畑があればすみずみまでごまを育てました。このあたりでは、ごまといえば黒ごまです。 ごま汁は、たっぷりとすられた黒ごまが香り……
熊野灘に面する東紀州は、11月から5月頃のぶりの定置網にまんぼうがかかります。まんぼうは畳1畳分ぐらいの大きさですが、皮がかたくて厚く、食用となる身、肝、腸の部分は多くはありません。そのため船上で解体し、大半を海に捨てて食用部分だけを水揚げし、肝和えや酢味噌和えなどにして食べてきました。 まんぼ……
県南部の海岸沿いではいろいろな魚や貝をぬた(酢味噌和え)にして食べます。海陽《かいよう》町から牟岐《むぎ》町の沿岸地域では、春先にとれる、つべた貝(ツメタガイ)、ばい貝(バイ)などの巻き貝を使います。磯でとれる巻き貝は「磯もん」と呼ばれるので、南部沿岸地域では磯もんのぬたの名称で親しまれてきまし……
県南西部に位置する土佐清水市の突端、足摺《あしずり》岬周辺の岩場には、ぐじま(ヒザラガイ)、トコブシ、あなご(イボアナゴ)、にな(バテイラ)などさまざまな貝が生息しており、地域の人たちは昔から日常的にとって食べてきました。 ぐじまはやわらかくなるまでゆでてから殻をはずし、身をきれいにして食べます……
奈良市や大和郡山市では、春先、庭や土手、田んぼや畑の脇に生えてくるよもぎで、甘味としてのだんごもつくりましたが、天ぷらやおひたしなどにもしました。家族の弁当をつくっていて、青みがないなぁと思ったときは庭のよもぎを摘み、さっとゆでて使っていたそうです。ほうれん草の和え物のようなものです。おひたしは……
ごんぱちはタデ科の植物いたどりの方言で、県南部を中心に広く使われている呼び名です。一説では、ごんぱち(権八)は居候《いそうろう》を意味し、山野や道端、川原などいたるところにならず者のようにはびこるので、じゃま者視するところから名づけられたとされています。和歌山県では、わらび、ぜんまいと並ぶ代表的……
くさぎ菜は「くさぎ(臭木)」の若葉で、その名前は葉や枝の臭気からついたといわれています。独特の臭みと苦味があり、臭みはゆでると少なくなります。ほろ苦さがおいしく、県内の郷土料理の本によると、油炒めは椎葉村《しいばそん》、西米良村《にしめらそん》、旧北方町、日南市などで食べられ、乾燥くさぎ菜は各地……
広島県はわけぎ生産量が全国一で、尾道市と三原市の沿岸部と島しょ部を中心に栽培されています。瀬戸内海のやや東部寄りに位置するこの地域は、温暖な気候に恵まれ、冬でも葉先が枯れないやわらかいわけぎが収穫できます。栽培の歴史は古く、明治末期には京阪神方面へ出荷されていたそうです。株分かれによりたくさんの……
阿武隈《あぶくま》山系を中心に、浜通りや中通りなどで、毎年青じそが食べ頃になるとつくられる料理です。 飯舘《いいたて》村の農家では、自家製味噌に漬けた青唐辛子をおかずとして食べており、残った味噌床でしそ巻きをつくっていました。唐辛子を長く漬けていた味噌床は、うま味は落ちていますが、ほどよい辛みが……
ちしゃは香川県の伝統的な野菜です。1900年頃には周年栽培されていたという文献があるそうで、昔は多くの場所で栽培されていましたが、現在は入手が難しい貴重な野菜になっています。キク科の植物で、ちぢれが強く、非結球型の葉レタスに分類されています。特有の苦味があり、アクも強いため、サラダのような食べ方……
なすの和え物はお盆の料理としてつくられることが多く、山椒和えも奈良市では盂蘭盆会《うらぼんえ》の2日目にお供えする料理の一つです。仏壇の位牌の数のご先祖様に一皿一皿盛りつけてお供えし、そのお下がりをいただきます。季節の野菜を山椒の実やごまで和えた、食欲をそそる香りが印象的な夏の料理です。調味料は……
夏、献立にもう一品欲しいときによくつくる、大洲《おおず》の料理です。新鮮な魚介類がなくても、入手しやすい油揚げやちりめんじゃこが旨みになり、油揚げが酸味をマイルドにします。はすいもは里芋の葉柄《ようへい》・ずいきの一種で、7月から9月が旬。暑い夏でも食べやすいさっぱりした食味が特徴です。はすいも……
ここでいう「はす」は里芋の近縁種はすいものこと。葉柄の切り口にれんこんのようにたくさん穴が空いていることからこう呼ばれます。使うのは芋ではなく葉柄のみ。スポンジのような細かな穴があるので、食べるとシャキシャキとした食感です。 7月から9月のはすの収穫期になると県南部では味噌汁や刺身のつま、サラダ……
ゆでた野菜を刻んでごま味噌で和えたものを「よごし」といい、手軽に野菜を食べるには最適の料理です。ごまが入ってコクのある甘辛の味噌に唐辛子がピリッとしたアクセントを加えています。冬には大根葉が、夏にはなすがよく使われます。 砺波《となみ》市は県西部に位置し、田園風景の中にカイニョと呼ばれる屋敷林に……
三重県の北勢から中勢は、伊勢平野で栽培された良質の大根を、鈴鹿おろしや伊吹おろしと呼ばれる寒風にさらしてつくる伊勢たくあん、養老たくあんの産地です。かつてはどの家でも自家栽培した大根を大樽で漬けて年中食べていました。このたくあんも新漬けのできる翌年の夏を越す頃になれば味や匂いが悪くなります。あほ……
煮味噌は常備菜として、県内のどの地域でもつくられていますが、南伊勢町、紀北町、尾鷲市など海に面する地域の場合は多くの漁獲に恵まれるため、魚介類の活用方法として、魚介を炊きこんだ煮味噌がつくられています。量的に少ない魚や名前が十分に広まっていない魚はあまり流通しませんが、これらの魚の、地元での利用……
県東部でも富士市や富士宮市周辺だけに伝わる、甘く味のついたがんもどきです。昔から葬儀や法事の席には欠かせず、地元の人は子どもの頃から親しんできました。今では日常的に、豆腐屋やスーパーで買って子どもの弁当に入れたり、おやつにしたりもします。外側はカラメル色で香ばしく、中はしっとりなめらか、揚げたて……
県南の山間地域、大和高原などでは、真菜、しゃくし菜、高菜などの漬け菜が多く栽培され、その塩漬けを「おくも」とか「おくもじ」と呼んでいます。地域によっては漬物全般を、あるいは漬け菜の漬物の炒め煮を指す場合もあります。 宇陀市室生西谷《うだしむろうにしたに》では、高菜の漬物をごま油で炒め、味つけした……
ばっけとは、東北や北海道の言葉でふきのとうを指します。県北部に位置する登米《とめ》市では3月に入り雪が溶けてきた頃にようやくばっけが芽を出し始めます。花が咲く手前でとらないと、苦味も強くまずくなってしまうため、暖かくなり一気に花が咲き始める前に田んぼの畔や野山に出て摘みとります。ほろ苦く、香り豊……
県東部で隣接する匝瑳《そうさ》市八日市場地区と旭市干潟地区という限られた地域で、お盆の行事食としてつくられてきた料理です。材料はありふれたものですが、7種類の色とりどりの野菜を、すべてていねいにせん切りにすることで、手間をかけたごちそうとなります。 野菜それぞれの歯ごたえや色を残すように順番に煮……