行事や祭り、結婚式、棟上げなどのおめでたい席の料理としてつくられる、岡山を代表するすしです。その誕生は江戸時代に遡り、宴席の食事を一汁一菜と制限した藩主の倹約令に対して、豪華な食事を楽しみたい町民がすし飯の下に具を隠して混ぜて食べたとか、すし飯の上にたくさんの具をのせても「一菜」だといってつくっ……
季節の素材でつくった炊き込みご飯に合わせ酢を混ぜるすしで、甘すぎずさっぱりとした味わいです。瀬戸内海から吉井川を少しさかのぼった瀬戸内市長船町福岡は、鎌倉時代から市がたってにぎわい、長く政治経済の中心地として栄えました。どどめせは川の渡し場で働く人々のまかないから生まれたと伝えられ、まだ酢がなか……
えびそぼろや焼き穴子がたっぷりのばらずしは、安芸《あき》(県西部)の瀬戸内沿岸のもの。人が集まるとき、お客をもてなすときは、地元の海の幸と旬の野菜をふんだんに入れてつくります。3月の節句には必ず母親が娘のためにつくり、雛飾りの前で近所の女の子と集まって食べたり、重箱に詰めて家族で野に出て食べまし……
エソや穴子のうま味を移したすし酢を使う、瀬戸内ならではのすしです。エソは小骨が多いのでそのまま食べるのには向きません。すり身にして酢につけ、そのうま味を効果的に利用するのです。旧北条市(現松山市)は、高縄《たかなわ》半島の西側に位置し、瀬戸内海に面しており、古くは漁港として栄えた地域で、海の魚を……
香川県では春や秋の祭り、冠婚葬祭など「なんぞごと(特別なとき)」の度にばらずしを食べます。このばらずしは、県中部の宇多津町のすしですが、甘いのが特徴。砂糖が貴重だった頃のごちそうでした。すしが甘い理由はこの地域の歴史にあります。宇多津は昭和30年代までは全国屈指の製塩の町でした。塩づくりは体力を……
豊前《ぶぜん》海に面する港町、宇佐市長洲地区の「かちえび」を使ったちらしずしです。かちえびは、遠浅の豊前海でたくさんとれる赤えびをゆでて乾燥させたもの。殻を取り除くときに木の棒でたたくと「カチカチ」と音がすることからこの名前がつきました。かちえびの甘みとうまみがギュッとしみこんだ甘めのすし飯は絶……
ちらしずしといえば、すし種(生の魚)を酢飯にのせたものもありますが、ここで紹介したのは酢飯に調味した具を混ぜ、錦糸卵や彩りの野菜などを盛りつけたもので、「五目ずし」とも呼ばれます。 都内全域でつくられており、具は地域で多少違いがありますが、混ぜる具にはにんじんや干し椎茸、油揚げ、かんぴょう、飾る……
「かて飯」というと、米を節約するために雑穀や大根、いもなどで増量したご飯を指すことが多いのですが、津久井地域や他の県北西地域では、人寄せのときや物日《ものび》(祝いごとや祭り)につくるごちそうのことです。 東京や山梨に接する津久井は、山に近く水田が少ない畑作地域です。家でとれた野菜やきのこなど、……
旧大山町は富山市の中でも山側の南東部に位置し、長野県や岐阜県と接しています。山間部の小佐波《おざなみ》地区をはじめとしておいしいみょうががとれるところです。どこの家庭でも庭先には、みょうがが植えられ、味噌汁の実や薬味にしたり、塩漬けにして保存したりしていました。また、一帯を流れる熊野川にはかつて……
志摩半島南側にある志摩町《しまちょう》和具《わぐ》は、北は英虞《あご》湾、南は熊野灘に面し南北に港をもち、志摩町の中でも水産業が盛んです。海女が多いことでも知られ、海を離れたら生計は立たないといわれるほど。春から秋にかけては一本釣りやひき縄によるカツオ漁が行なわれます。 ここ和具で400年以上の……
甘い鯖のおぼろ(そぼろ)をたっぷりのせたばらずしは、日本海に面する丹後地方の家庭の味。節句や祭り、祝いごと、田植え、さらには仏事やふだんの来客時など人の集まる場では必ず食卓を飾ります。 かつて鯖がよくとれた頃に、ご飯の増量材として鯖のおぼろを混ぜこんだのがもともとの形だそうです。戦前は焼き鯖をほ……
徳島県のばらずしは、かき混ぜと呼ばれ、具だくさんで、金時豆の甘煮が入り、すし飯に木酢《きず》を使うのが特徴です。木酢とは、ゆずやすだち、ゆこうなどのカンキツ類の果汁のことで、カンキツが豊富な徳島県ではよく利用されます。産地では冬になると1年分の木酢をしぼって一升瓶に保存し、いつでも使えるようにし……
ぶえんとは、塩をきかせなくても生で食べられるほど新鮮、という意味です。周囲を海に囲まれている天草では、魚が豊富にとれるので、いつでも新鮮な魚が手に入ります。中でもこのしろの漁獲量が多く、刺身やこのしろの姿ずし(『すし ちらしずし・巻きずし・押しずしなど』p116)、ぶえんずしなどさまざまな食べ方……
宮崎で、家庭でつくるすしといえば「ばらずし」のこと。ハレ食の中では気軽につくれるもので、材料もたけのこ、わらび、ふき、ぜんまいといった季節のものやてんぷら(魚のすり身を揚げたもの)などあり合わせのものです。ここに、お祝いには紅いかまぼこを入れたり、大人用には甘酢につけた生のしょうがを入れたりとそ……
祝いごとや来客時など特別な日につくる鹿児島の代表的な料理です。「すもじ」とは「ちらしずし」のこと。京の都ことばが伝わったといわれています。さつますもじの名のとおり、県内のどこでもつくります。家庭により具は違いますが、具も飯も甘くするのが特徴です。 具をすし飯に混ぜるときは、袖をまくし上げ、両手を……
ちくわや、大ぶりに切ったにんじんやごぼうを巻いたダイナミックな巻きずしは県中部、渋川市でつくられているもの。桃の節句には、蔵から代々のひな人形を出して飾り、巻きずしを供えて祝います。春一番のにぎやかな行事で、母親たちは朝から巻きずしを大量につくり知人に配りました。 基本の具はにんじん、ごぼう、椎……
千葉の太巻きずしの魅力は、切った時の断面の鮮やかさです。県の北東部に位置する山武《さんぶ》地域は北総台地が広がり米づくりがさかんで、太巻きが行事食としてよくつくられてきました。のりや卵焼きで巻き、大皿にきれいに盛りつけてふるまいます。現在でも、地域の公民館などに集まってつくることも多く、若いお母……
房総半島の南部、南房総市の富山《とみやま》地区(旧富山町)では、農家のお昼ごはんにも手軽にのり巻きをつくって食べることがよくありました。のりは安価な「はねだし」を使ったり、近くの岩井海岸の岩場でとってきた青のりや、はばのりを俵の上に四角にして干して使ったそうです。せりの細巻きは2~4月頃、早春か……
のりではなく卵でご飯を巻く太巻きずしは、県中央部の、稲作が盛んな伊勢原では氏神様の祭りに欠かせません。大きな卵焼きを破いたり焦がしたりしないように、つるっときれいに焼くのは難しいのですが、おばあちゃんが上手だったので、見よう見まねで覚えたそうです。 祭りともなると、米3升で30本ほどつくります。……
昭和初期の新潟市(旧市内)は、日本海と信濃川にはさまれた「新潟島」が商業・政治・文化などの中心でした。税関もおかれた新潟港があり、県外や海外との交流も盛んでした。昔は信濃川の川べりや町の中を走る堀に沿ってクルミの木が自生していたそうですが、1964年の国体にあたり堀は埋められて道路になり、クルミ……
巻いた昆布がやわらかく、うま味がきいた甘すぎない品のいい味のすしです。奈良県でつくるのは下北山村周辺だけですが、同様のすしは和歌山県、三重県にもあります。下北山村は県の東南端、四方を山に囲まれ、和歌山県や三重県に接していることから、両県の食文化の影響を色濃く受けています。 正月の祝い料理として、……
かたくて大きな南関あげをのりの代わりに使った巻きずしは、昔から県北部の南関町で正月や祭り、祝いごとになるとつくられてきたごちそうです。 南関あげの由来は諸説ありますが、1637年から38年にかけて起こった島原の乱の後、四国の伊予松山地方から島原半島へと移住させられた人々が、通り道となった南関でそ……
津軽地方は、昔から米が豊富にとれる穀倉地帯。運動会や祝いごとには、もち米と砂糖を使ったいなりずしをつくります。甘くもちもちとした口当たりのいなりずしは食事ではなく、おやつです。たくさんつくって食卓にのせておき、めいめいが食べたいときに食べます。紅しょうがでピンク色に染まったご飯は見た目も華やかで……
クルミ入りのいなりずしは、県中部の笠間市のすしです。クルミが特産品で、市内にある笠間稲荷神社は胡桃下稲荷《くるみがしたいなり》とも呼ばれ、地元でも親しまれています。神社の参道の店で、さまざまな油揚げの料理やお土産が売られたのが始まりで、「そばいなりずし」も生まれました。いろいろないなりずしが各家……
栃木県のおいなりさんは、かんぴょうでぐるりと帯を巻かれた姿が特徴的です。米俵をイメージして、豊作を願ったようです。春の花見や秋の運動会、盆や彼岸には、どの家もやわらかく煮たかんぴょうで巻いたおいなりさんと、かんぴょう入りの太巻きずしでずっしりと重い重箱を用意しました。 日本でつくられるかんぴょう……
宮崎県のいなりずしは三角形、中には具だくさんのばらずし(『すし ちらしずし・巻きずし・押しずしなど』p24)が入っています。行事や人寄りには何かというと季節の野菜やてんぷら(さつま揚げ)、こんにゃくなどを入れたばらずしをつくり、いなりずしにもこのばらずしを使うのです。ばらずしをにぎり、あっさりと……
房総半島の南部でつくられてきたおぼろ(でんぶ)は、かなり甘めの味つけで、この甘さがごちそうです。食べるとシャリシャリするほど砂糖が多く焦げやすいので、つくるときは加熱しすぎないように注意します。 おぼろずしは、8月20日の夏祭りによくつくられました。大皿には椎茸とたけのこの煮しめをのせたすしや、……
新島や式根島などの東京諸島(伊豆諸島)ですしといえば、この島ずしです。とれたての魚をごく短時間、醤油だれにつけた「漬《づ》け」をのせたにぎりずしで、練り辛子を添えます。島には湧き水がなく気温も高いのでわさびは育ちません。代わりに練り辛子を添えたのが今も受け継がれています。さっぱりと食べられて意外……